膵癌早期診断のための医療連携

◎膵癌早期診断のための医療連携
膵癌を早期診断するための医療連携につ
いてご教示ください。
︵大阪府・内科︶
回答
JA広島厚生連
尾道総合病院
診療部長・消化器内科
花田敬士
年から中核病院、地域連携施設の協働で、
〝尾
道市医師会膵癌早期診断プロジェクト〟を設立
し、現在に至っています。
その実際は、
・中核病院の膵臓を専門とする医師から連携施
設の先生方に、膵癌診療ガイドラインに記載
されている〝危険因子〟
︵表①︶を啓発すること
・該当症例に連携施設で積極的に腹部超音波
ります。化学療法などの集学的治療法の進歩に
男女計年間約3万人を超え、なお増加傾向にあ
目的の紹介を行うこと
無症状であっても一度は中核病院へ膵精査
・軽微な膵管拡張、膵嚢胞性病変を発見した際、
︵US︶を施行すること
より、予後は改善傾向にありますが、早期診断
以上の取り組みを粘り強く行いました。
外来でも施行可能でかつ安全で侵襲の少ない超
精査に関しては、従来の腹部CT に加えて、
会の膵癌登録の成績によれば、腫瘍径1㎝ 以下
ています。
当院が所属する尾道市医師会では、2007
果経過観察となった場合は、原則としてUSの
さらに精査をすすめる体制としました。その結
RCP︶を積極的に導入し、異常所見に応じて
音波内視鏡︵EUS︶
、MR胆管膵管造影︵M
一方、2012年に発表された日本膵臓学
は依然として困難とされています。
膵癌は予後不良であり、国内の死亡者数は
2)
の症例では5年生存率が約 %であり、予後の
改善には早期診断が必須であることが報告され
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1)
①膵癌の危険因子
CQ1-1 膵癌のリスクファクターとは何か?
1.家族歴:膵癌、遺伝子膵癌症候群
2.嗜好:喫煙、大量飲酒
3.合併疾患:糖尿病、肥満、慢性膵炎、遺伝性膵炎、膵管内乳頭粘液性腫瘍
(IPMN)、膵嚢胞
【推奨】
1.家族歴、合併疾患、嗜好などの危険因子を複数有する場合は、膵癌の高リス
ク群として検査を行うことが勧められる(グレード B)。
2.膵 IPMN と膵嚢胞は膵癌の前癌病変として慎重な経過観察が勧められる(グ
レード B)。
(文献2より)
施行およびCEA、CA
9などの腫瘍マー
Stage を
0 例、
13
Stageを 例診断することが可能でした。厳
密な予後追跡調査の結果からも、当院診断症例
し、うち早期診断に該当する
介︶
、精査の結果、338例を膵癌と確定診断
例受診︵うち2、
950例は連携施設からの紹
6月までの期間、膵癌疑いの患者が4、
969
その結果、2007 年1月から2013 年
期的に経過観察を行う体制としました︵図②︶
。
3)
EUS、MRCPなどを中核病院で分担し、定
カーを含む採血を地域連携施設で、腹部CT、
19
−
し、開始後の2007年症例では ・2%、2
の2006年症例では7・4%であったのに対
の3年生存率が、早期診断プロジェクト導入前
28
008年症例では ・5%と大幅に改善を認め
23
地域でも始まっており、今後、地域医師会を中
尾道地区と同様の連携システムは国内の他
たすことが証明されています。
ており、早期診断が予後改善に大きな貢献を果
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Ⅰ
②膵癌早期診断プロジェクトの実際
ERCP:内視鏡的逆行性膵胆管造影、ENPD:内視鏡的経鼻膵管ドレナ−ジ、EUS-FNA:
(文献3より)
EUS ガイド下穿刺吸引細胞診
心とした膵癌早期診断の取り組みが全国に拡大
することが期待されます。
文献
Egawa S, et al : Japan Pancreatic Cancer Registry ; 30th
Year Anniversary. Pancreas, 41, 985-992 (2012)
日本膵臓学会膵癌診療ガイドライン改訂委員会編
科学的根拠に基づく膵癌診療ガイドライン2013
年版、金原出版、東京︵2013︶
花田敬士、飯星知博 膵がん早期診断の新たな展開、
日本消化器病学会雑誌、110、2051∼205
9︵2013︶
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