肥満と疾患 肥満と膝関節疾患 変形性膝関節症の病態、および肥満との関連 そしてその治療法について 一英 はじめに 肥満と関連のある代表的膝関節疾患として、ま ず変形性膝関節症があげられる。わが国では人口 の高齢化につれて、加齢に伴う変性疾患が著しく 増加しているが、そのなかでも変形性膝関節症は 秀幸 田本 本稿では、変形性膝関節症の病態、肥満との関 最も頻度が高いものである。 松岩 連、およびその治療法について概説する。 変形性膝関節症とは? 変形性膝関節症は関節軟骨の変性を基盤とする 膝関節疾患で、外傷や感染症などの後遺症、ある いは全身性疾患の一部分症として発症する二次性 のものと、とくに前病変のない一次性のものがあ るが、一次性のものが多い。症状としては、膝関 節の痙痛、それも歩き始めや立ち上がり時の痛み で、そのような場合は特発性骨壊死や腫瘍などの を訴えることが多い。夜間痛を訴えるものはまれ 疾患を考慮にいれるべきである。その他、膝関節 CLINICIAN,98No.46938 特集・肥満の臨床 レントゲン撮影にては 、 関 節 裂 隙 の 狭 小 化 、 骨 の腫脹や可動域制限などの症状を呈する。 膝関節症との相関はなかったが、女性においては 疫学調査によると、男性においては体重と変形性 上の男性136名、女性435名について行った 歳時の体重、現在の体重、および40歳からの体 棘、骨嚢胞の形成、および骨硬化などの変化が現 れる。 重変化が、多重ロジスティックモデルにて有意な 変形性膝関節症の疫学調査︵肥満との関連︶ ー・07で、体重がー㎏増加するごとにー・07 の体重が最も有意な危険因子であり、オッズ比は 症状は 、 未 治 療 で は 緩 徐 に 進 行 す る 。 古くから、変形性膝関 節 症 と 肥 満 の 関 連 を 検 討 倍リスクが上昇することが示された︵もく 危険因子としてあげられた。そのなかでも、現在 した疫学調査は数多くなされており、肥満は変形 症の発症以前に存在し、肥満が変形性膝関節症の ある。追跡調査において も 、 肥 満 は 変 形 性 膝 関 節 満は股関節、および手の変形性関節症にも関連が 連については結論の一致をみていない。また、肥 ものであり、膝蓋大腿関節の関節症と肥満との関 なお、これらの報告は大腿脛骨関節についての O●OOO一︶。 結果ではないと報告され て い る 。 1 9 6 3 年 の 英 あると報告されている。 性膝関節症と関連があるとした報告がほとんどで 98名に対する調査では、女性の変形性膝関節症 国 一 鋤 毛﹃98らによる 男 性 1 0 9 8 名 、 女 性 1 1 と報告している。 のものが 多 い も の の 、 こ れ ほ ど の 差 で は な か っ た しているかについては、大きく分けて二つの考え 肥満がどのように変形性膝関節症の発症に関与 変形性膝関節症の病因としての肥満 の 症 例 の40%は肥満で あ り 、 男 性 に つ い て は 肥 満 九州大学整形外科学教室が福岡県S村の40歳以 (253) 39 CI、INICIAN,98No.469 40 関節軟骨の変性を進行させるという機械的原因説 り、体重が増えることによる力学的な過剰負担が、 ∼7倍の負荷が膝関節にかかることが知られてお 方がある 。 ま ず 、 日 常 生 活 に お い て は 、 体 重 の 4 た変形性膝関節症の症状に対する減量の効果は疑 といわれている。しかし、すでに進行してしまっ 形性膝関節症の症状を軽減し、進行を予防させる 性膝関節症の病因であることと同時に、減量も変 指導する。また、日本人では、内側の関節軟骨に 問視されている。また、長時間の歩行や、重いも 変性が生じる内側型の変形性膝関節症が多く、内 である。 ること、また、女性において、とくに強い相関が 側への負荷を軽減する足底板の使用も有効である。 のを持たないようにする、正座や、しゃがみこみ あることから生まれた考え方であるが、現在のと 肥満と並んで、筋力低下も変形性膝関節症の病因 また、ホルモンの異常など、代謝異常が肥満に ころ、血清コレステロール値、尿酸値、糖尿病、 など膝の深い屈曲位を要する姿勢は、関節にかか 体内の脂肪分布、血圧などに変形性膝関節症との となるので、大腿四頭筋の筋力強化訓練も合わせ 関与しているという説もある。これは肥満が、荷 間に明らかな相関は認められておらず、肥満と変 て行えば効果的である。 る負荷が増大するので、できるだけ避けるように 形性膝関節症との関連を代謝異常から説明できる ヒアルロン酸の関節内注入は関節軟骨を保護し、 重関節ではない手の変形性関節症にも関与してい メディエイターはわかっていない。 関節内の潤滑をよくするといわれ、変形性膝関節 関節内注入も、その抗炎症作用から膝関節の疹痛 症の有用な治療法のひとつである。ステロイドの 変形性膝関節症の初期においては、 生活指導を および腫脹の軽減が得られるが、高頻度に用いれ 変形性膝関節症の治療 はじめとした保存的療法が行われる。 肥満が変形 CLINICIAN,98No.46940 (254) 以上のような保存的療法を行っても、膝関節の ば、かえって骨破壊を惹起する危険性がある。 といわれ、その適応には慎重でなければならない。 びゆるみなどの合併症があり、耐用年数は約15年 高位脛骨骨切り術の適応となる。これは、脛骨の の大腿脛 骨 関 節 に 限 ら れ 、 可 動 域 も 良 好 な 場 合 は は、手術的療法の適応となる。まず、変性が内側 もある。現在までの研究で、肥満は明らかな変形 疾患であり、進行すると手術的加療が必要なこと 変形性膝関節症は、高齢者には高率に合併する おわりに 著しい痙痛があり、日常生活に支障が生ずる場合 上端を懊型に骨を切り、 い わ ゆ る 0 脚 を X 脚 に 変 性膝関節症の危険因子であり、体重をコントロー 患者に対しては十分な情報を与え、病態をよく理 える手術で、変性をきたした内側にかかる加重を、 すなわち内外側ともに病変がある場合、または内 解していただいたうえで、減量も含めた治療を進 ルすることで、発病および進行の予防ができるこ 側のみでも膝の不安定性 が 強 い 場 合 、 ま た 可 動 域 めていくことが肝要である。 とが示されている。肥満を伴う変形性膝関節症の が不良の場合には、人工膝関節置換術の適応とな ︵九州大学 整形外科学︶ 果がある 。 6 0 歳 以 上 で 、 さ ら に 変 形 が 進 ん だ 場 合 、 る。これは膝関節の表面を金属で置換するもので、 *︵九州大学 教授 整形外科学︶ (255) 41CLINICIAN,98No.469 健常な外側へ移すことにより疹痛を軽減させる効 金属と金属の間には高分子のポリエチレンを挿入 文献 >日R一8コ>8α①日図o暁○同岳oも器&oo o二おΦ○冨二〇逡 OωけΦ○巽けぼ三〇9ωo巳Rω。勾○ωΦヨo導︶目”qω> ” ⊆99Φさ 国ω●Qpα Oo一ασR堕 <]≦こ Φ98お u 堂、1992年 小林 晶ら︵編著︶編”変形性膝関節症、東京、南江 する。除痛効果も著しく、術後のリハビリテーシ ョンも早いという利点はあるが、術後の関節可動 域は100度程度で、高位脛骨骨切り術より劣っ ており、正座はできない。また、感染、摩耗、およ D の囚
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