新生ストラテジーノート 第 198 号 2015 年 10 月 1 日 調査部長 江川 由紀雄 [email protected] (03) 6880-6035 欧州委員会が証券化を奨励する規制改革案を公表 証券化商品優遇策が具体化 欧州委員会(European Commission)は、9 月 30 日付で資本市場同盟に関するアクションプ ランと関連する 2 つの法令改正案を公表した 1。法令改正案のうちひとつ 2は、証券化商品につい て規制上優遇する対象となる “STS” (simple, transparent and standardised) 要件を定める もので、もうひとつ 3は、銀行の自己資本比率規制上、STS 要件を満たす証券化エクスポージャー の扱いにつき、リスクウェイトを軽減する方向で改めるものである。 これ自体は、欧州連合(EU)における法令改正の動きであり、日本は EU に加盟していない以上、 日本の市場関係者がこれに直接の影響を受ける訳ではない。しかし、バーゼル銀行監督委員会 と証券監督者国際機構(IOSCO)が、これと連動した検討を行っていることに留意するべきである。 バーゼル委と IOSCO は、2015 年 7 月 23 日付で “Criteria for identifying simple, transparent and comparable securitisations” (「シンプルで透明で比較可能な証券化商品 を特定するための要件」) 4(”STC” 要件)を公表している。バーゼル委と IOSCO による「STC 要件」 に比べ、今般、欧州委員会が公表した規制案における「STS 要件」は、項目数も定義する文言の 量も大幅に多いが、基本的な考え方は共通である。すなわち、シンプル(S, simple)である、透明 性(T, transparent)が高い、容易に比較できる(C, comparable)または標準化されている(S, satandardised)といった、証券化商品の特性を文言で定め、それら全てを充足する証券化商品 につき、別途、規制上、優遇しようとするものである。バーゼル委による検討が進むことで、EU と 同様または類似する扱いが、少なくとも銀行の自己資本比率規制上の扱いとしては、EU 域外にも 広まることになる可能性が高い。 1 European Commission のウェブサイト http://ec.europa.eu/finance/securities/securitisation/index_en.htm#150930 2 Securitisation Regulation http://ec.europa.eu/finance/securities/docs/securitisation/com-2015-472_en.pdf 3 A proposal to amend the Capital Requirement Regulation http://ec.europa.eu/finance/securities/docs/securitisation/com-2015-473_en.pdf 4 BCBS and IOSCO, Criteria for identifying simple, transparent and comparable securitisations, 23 July 2015 http://www.bis.org/bcbs/publ/d332.htm 1 新生ストラテジーノート 新生証券株式会社 調査部 欧州における証券化を巡る規制環境の変化と日本の対応 バーゼル銀行監督委員会の構成国数(正しくは、構成する当局の母国等)は、現在 27 である (ドイツやフランスといった EU 加盟国と同列で EU も構成者となっている 5)ところ、そのうち 11 が EU と EU 加盟国によって占められている。バーゼル委における検討において、EU および EU 加盟 各国の当局者の意見が相応に重みを持つであろうことが容易に想像できる状況となっている。こ うした状況を踏まえると、バーゼル委のような国際的な議論の場では、欧州諸国における既成事 実や欧州諸国の都合で様々な検討が進む可能性が否定できない。 ただ、日本が置かれている状況は、欧州諸国とは相応に異なる。たとえば、証券化商品につい ては、ECB 等の欧州諸国の中央銀行が金融政策の一環として買い入れている一方で、日本銀行 は買い入れることを現在は行っておらず、欧州諸国の中央銀行と違い、日銀は、オペ適格・担保 適格となる証券化商品のデータの標準化要件を定めていない。欧州の現状を踏まえて欧州諸国 が考案した規制ルールをそのまま日本に当てはめると、不都合が生じる部分が多々あろう。バー ゼル委における合意は、そのほとんどがそのまま国内導入されてきたという経緯もあり、今後の バーゼル委における検討状況から目を離せない。 2 (調査部長 江川 由紀雄) 5 Basel Committee on Banking Supervision, membership http://www.bis.org/bcbs/membership.htm 2 新生ストラテジーノート 新生証券株式会社 調査部 3 名称 :新生証券株式会社(Shinsei Securities Co., Ltd.) 金融商品取引業者 関東財務局長(金商)第95号 所在地 :〒103-0022 東京都中央区日本橋室町二丁目4番3号 日本橋室町野村ビル Tel : 03-6880-6000(代表) 加入協会 :日本証券業協会 一般社団法人金融先物取引業協会 一般社団法人日本投資顧問業協会 一般社団法人第二種金融商品取引業協会 資本金 :87.5 億円 主な事業 :金融商品取引業 本書に含まれる情報は、新生証券株式会社(以下、弊社)が信頼できると考える情報源より取得されたものですが、弊社 はその正確さについて意見を表明し、または保証するものではありません。情報は不完全または省略されたものである ことがあります。本書は、有価証券の購入、売却その他の取引を推奨し、または勧誘するものではありません。本書は、 特定の商品やサービスの勧誘・提供を行う目的で作成されたものではありません。本書で言及されている投資手法や取 引については、所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。また、これらの投資手法や取引について は、金融市場や経済環境の変化もしくは価格の変動等により、損失が生じるおそれがあります。本書に含まれる予想及 び意見は、本書作成時における弊社の判断に基づくものであり、予告なしに変更されることがあります。弊社またはその 関連会社は、本書で取り扱われている有価証券またはその派生証券を自己勘定で保有し、または自己勘定で取引する ことがあります。弊社は、法律で許容される範囲において、本書の発表前に、そこに含まれる情報に基づいて取引を行う ことがあります。弊社は本書の内容に依拠して読者が取った行動の結果に対し責任を負うものではありません。本書は 限られた読者のために提供されたものであり、弊社の書面による了解なしに複製することはできません。 信用格付に関連する注意 本書は、金融商品取引契約の締結の勧誘を目的としたものではありません。本書で言及ま たは参照する信用格付には、金融商品取引法第 66 条の 27 の登録を受けていない者による無登録格付が含まれる場 合があります。 3 著作権表示 © 2015 Shinsei Securities Co., Ltd. All rights reserved.
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