物理の言葉: 数学が話せるように

物理学
■ 空間中での物体の運動を考える。
空間をどう理解するか。
• ユークリッド幾何学。(原論: ストイケイア)
論証による図形の理解: 三角形の合同定理、相似定理、比例の理論
(量の測定) など。
• デカルトの解析幾何。
空間に座標を導入。図形を方程式にして考える。
直線の方程式。円の方程式。· · ·
∗ 利点: 難しい問題が簡単に解けるようになった。 ∗ 欠点: 何をしているのか考えなくても、計算で問題が解けてし
まう。
運動をどう理解するか。
• ニュートンの力学。 (原理:プリンキピア)
ユークリッド幾何学を使った論証によって運動を考えた。
ニュートンは微積分を知っていたが(発見者)、わざわざ、幾何学の
論証を使って、運動を論じた。
アポロニウスの円錐曲線理論を使って、万有引力の法則を理解した。
微積分を使わなくても、言葉による論証で同じことができる。
• オイラーの解析力学。
空間に座標を導入。運動を座標の時間微分式になおして考える。
∗ 利点: 難しい問題が計算で解けるようになった。
オイラーの解いた難しい問題は剛体(拘束された質点系)の運動。
∗ 欠点: 何をしているのか考えなくても、計算で答えが出てしまう。
微分とは接線である
y
y
y=f(x)
∆y
dy
y0
dx
∆x
x0
接線の傾き
f ′(x0) = lim
f (x0 + h) − f (x0)
h→0
接線の式 微分 x0
x1 x
(x0 + h) − x0
y − y0 = f ′(x0)(x − x0)
df = f ′(x)dx
x
微分係数
積分とは面積である。
■ 定積分の定義
y
y=f(x)
a =x 0
∫
f (x)dx = lim
n→∞
i=n
∑
i=1
xi-1xi
b =x n
f (xi−1)(xi − xi−1)
x
■ 積分の定義にしたがった長方形の面積
y
y=1
a =x 0
∫ b
dx = lim
a
不定積分
i=n
∑
n→∞
∫
xi-1xi
(xi − xi−1) = b − a
i=1
dF = F + 定数
b =x n
x
■ 微分と積分の関係
接線の式
dF = f (x)dx
が見つかったなら
∫ b
∫ F (b)
f (x)dx =
dF = F (b) − F (a)
a
F (a)
■ 積分の計算例
∫
x3dx を計算するには
∫
x3dx =
x3dx
∫
dF となる F を探せばよい。
= dF なら
dF
dx
= x3 .
こうなる F を微分公式から探す。
F = 41 x4 なら
∫
したがって
d( 41 x4)
dx
x3dx
= x3
∫
=
1 4
1 4
d( x ) = x .
4
4
4 + 定数 でも構わない。
x
注意: F = 1
4
微分公式 —- 丸暗記せよ
f (x)
f ′(x)
=
df
dx
定数
0
xα
αxα−1
loge x
1
ex
x
ex
sin(x)
cos(x)
cos(x)
− sin(x)
注意
α ̸= 0
d loge x =
dx
x
ベクトル
■ 重ねあわせ原理が成り立つものをベクトルという。
• ⃗
a + ⃗b が計算できる。
合成、分解ができる。
• k⃗
a が計算できる。
「ベクトル」はラテン語の「運ぶ」からハミルトンが造語した言葉であ
る。現在では、もとの意味を離れて、完全に抽象化されている。
■ ベクトルの例
⃗ .
• 変位。 A から B へ移動する: 有向線分 AB
∗ 変位の足し算: A から B へ、ついで、B から C へ。結果は A から
B への変位
∗ 変位の数値倍: A から B への変位を k 倍する。
• 空間のベクトル。
∗ アフィン性を持つ:
⃗ , A⃗′B′, · · · は一つのベク
同じ大きさ、同じ方向の有向線分 AB
トル ⃗
a を表す。
「アフィン」は類似性、関連性という意味を持つ言葉で、今から 200 年ほど前
に、オイラーがラテン語から造った語。何を同じと思うかは、数学の分野によっ
てまちまちである。
∗ 大きさと角度が定義されている。
内積 ⃗
a · ⃗b = |⃗
a| |⃗b| cos θ が定義されている。
∗ 3 次元性
空間のベクトルは 3 つの互いに直交する大きさ1のベクトル ⃗
e1,
⃗
e2, ⃗
e3 に分解できる。
⃗
a = ax⃗
e1 + ay ⃗
e2 + az ⃗
e3.
· ベクトルの成分: ベクトル ⃗
a を代表する原点 O を始点とする有
⃗ とする。
向線分を OA
点 A の座標 (ax, ay , az ) をベクトル ⃗
a の成分と言う。
⃗ の長さ。
· ベクトル ⃗
a の大きさ |⃗
a| は 有向線分を OA
√
三平方の定理から |⃗
a| = a21 + a22 + a23
· 余弦定理:△ABC で ∠BAC = θ とすると
BC2 = AB2 + AC2 − 2AB · AC cos θ
⃗ が⃗
AB
a を代表し、成分は (a1, a2, a3)
⃗ が⃗b を代表し、成分は (b1, b2, b3) とする。
AC
⃗ は ⃗b − ⃗
BC
a を代表し、成分は (b1 − a1, b2 − a2, b3 − a3).
余弦定理に入れて
(b1 − a1, b2 − a2, b3 − a3) · (b1 − a1, b2 − a2, b3 − a3)
= (a1, a2, a3) · (a1, a2, a3) + (b1, b2, b3) · (b1, b2, b3)
−2⃗
a · ⃗b
したがって
⃗
a · ⃗b = a1b1 + a2b2 + a3b3
∗ 左右、裏表
外積 ⃗
c=⃗
a × ⃗b が定義されている。
面の方向は面内の 2 つのベクトル ⃗
a, ⃗b を使っても、
面に垂直なベクトル ⃗
c を使っても表せる。
• 外積 a × b = c
2 つのベクトル a, b に 1 つのベクトル c を対応させる計算。
定義
∗ a ⊥ c, b ⊥ c.
∗ |c| = S . S は a, b が作る平行四辺形の面積。
∗ 右手系なら (a, b, c) は右手系、左手系なら (a, b, c) は左手系を
なす。
a x b
S
b
S
a
右手系での外積
• 外積の計算
a = (ax, ay , az ), b = (bx, by , bz ) とすると
i
j k a × b = ax ay az bx by bz )
(
ay az az ax ax ay ,
,
= by bz
bz bx bx by = (ay bz − az by , az bx − axbz , axby − ay bx).
∗ ⃗
a⊥⃗
a × ⃗b を確かめよ。 (内積を計算すればよい)
∗ ⃗b ⊥ ⃗
a × ⃗b を確かめよ。 ∗ S = |⃗
a| |⃗b| | sin θ| = |⃗
a × ⃗b| を確かめよ。
■ 双対ベクトル
• 一次写像: 重ねあわせ原理を保つ写像。
∗ f (⃗
x+y
⃗ ) = f (⃗
x) + f (⃗
y)
∗ f (c⃗
x) = cf (⃗
x)
• 数値への一次写像の集まり
∗ f (⃗
x) + g(⃗
x)
∗ cf (⃗
x)
が計算できて、結果は数値への一次写像になっている。
これを元のベクトル ⃗
x の集まり (ベクトル空間) に対する双対ベクト
ル空間という。
• 力のベクトルは空間のベクトルに対する双対ベクトルである。
• 反変性、共変性。
∗ 基底ベクトルの変換によって、ベクトルの成分は変わる。
物理量の値が同じでも、単位を変えると、物理量の数値は変わるの
と同様である。
∗ 位置ベクトルの成分と同じように変化するベクトルは共変ベクト
ルと呼ばれる。
双対空間のベクトルの成分と同じように変化するベクトルは反変
ベクトルと呼ばれる。
∗ 内積は共変ベクトルと反変ベクトルの間でとられ、基底を変えて
も、内積はかわらない。
∗ 力は反変ベクトルである。
∗ これらの線形代数の知識をアインシュタインにさずけたのはマルセ
ル・グロスマンである。アインシュタインはこの知識をつかって、
一般相対性理論を作った。
■ 4 元数
ベクトルを ⃗
a = axi + ay j + az k
と書くのは、最初、ハミルトンがベクトルを考えだした時、ベクトルを
複素数の拡張と考えたからである。
i2 = j 2 = k2 = ijk = −1、
とすると
ij = −ji = k, jk = −kj = i, ki = −ki = j が言え、
⃗
a⃗b = −(axbx + ay by + az bz )
+ (ay bz − bz ay )i + (az bx − bxaz )j + +(axby − by ax)k
みごとに内積と外積が現れている。
• 現在では
⃗
a = a1⃗
e1 + a2⃗
e2 + a3⃗
e3
と書くほうが、ベクトルの本質を理解しやすい。
• 四元数の話をしたのは、教科書のベクトル表記が四元数の伝統に従っ
ているからである。
四元数は大切な数であるが、四元数のことは、表記法も含めて、一
度、完全に忘れたほうがよいと思う。
かつて、狂信的な四元数信者の運動があったためである。
• 微分積分学を作れる数は、実数、複素数、四元数のみである。
∗ 実数がなければ、古典力学は出来なかった。
物理量の測定値を記述するために、実数は必要不可欠である。
∗ 複素数がなければ、量子力学は出来なかった。
波と粒子の双対性を記述するために、複素数は必要不可欠である。
∗ 四元数がなければ記述出来ない物理理論は見つかっていない。
回転運動の制御法を記述するために、広く四元数は使われている
が、便利だからにすぎない。
■ アフィン性
⃗ がベク
空間中に原点 O を取ると、空間中の任意の点 P に対して、OP
トルとなることをアフィンという。
⃗ を位置ベクトルという。
• ベクトル OP
• 空間中の異なる点 O, A, B, C を取ると、任意の点 P は
⃗ = aOA
⃗ + bOB
⃗ + cOC
⃗
OP
と書ける。
⃗ + bOB
⃗ + cOC
⃗ = a′OA
⃗ + b′OB
⃗ + c′OC
⃗
aOA
が成り立つ条件は a = a′, b = b′, c = c′.
• アフィン性を持ち、かつ、内積の定義されている空間をユークリッド
空間という。