第1節 ベクトル ベクトルの和、差、定数倍 2つの n 次元ベクトル x = x1 y1 y x2 , y = 2 に対し、和、差、定数倍を次で定 .. .. . . xn yn 義する(ただし、λ は定数とする)。 x1 + y1 x1 − y1 λx1 x2 + y2 x2 − y2 λx2 x+y = , x − y = , λx = .. .. .. . . . xn + yn xn − yn λxn ベクトルの和と差と定数倍は、次のように図示できる。 x+y y y x 0 x−y 2x x 0 x 0 注 ベクトルを矢印で表すとき,矢印の根元を始点,矢印の先端を終点と呼ぶ。 注 ベクトル=力と解釈できる。このとき,矢印の方向=力の向き,矢印の長さ=力の大 きさである。 1 1 2 例 x = 2 , y = −1 のとき、 3 0 1+2 x+y = 2−1 3+0 3 = 1 , 3 1−2 x−y = 2+1 3−0 −1 = 3 , 3 3 3x = 6 9 線形結合 ベクトル a1 , a2 , · · · , aℓ と定数 k1 , k2 , · · · , kℓ に対し, k1 a1 + k2 a2 + · · · + kℓ aℓ をベクトル a1 , a2 , · · · , aℓ の線形結合という。 列ベクトルと行ベクトル 成分が縦に並んだベクトルを列ベクトルと呼び、成分が横に並んだベクトルを行ベク トルと呼ぶ。列ベクトルを行ベクトルに、または、行ベクトルを列ベクトルに変形す ることを転置と呼び、ベクトルの左肩に t を付けて表す。 3 2 t t 例 x = 4 , y = (2, −5, 1) を転置すると x = (3, 4, −2), y = −5 となる。 −2 1 2 内積と長さ 2つの n 次元ベクトル x = x1 , y = x2 .. . xn y1 y2 .. . に対し、内積を次で定義する。 yn t x · y = (x1 , x2 , · · · , xn ) · y1 y2 .. . = x1 y1 + x2 y2 + · · · + xn yn yn ここで、t x · y = t y · x であることに注意する。また、ベクトル x の長さを次で定義 する。 ∥ x ∥= √ tx ·x= √ x21 + x22 + · · · + x2n −2 1 例 x = 1 , y = 2 のとき、 3 4 t x · y = −2 + 2 + 12 = 12, ∥ x ∥= √ √ 4 + 1 + 9 = 14, ∥ y ∥= 例 √ √ 1 + 4 + 16 = 21 n 種類の財があり、第 i 財 (i = 1, 2, . . . , n) の単価は pi であり、これを qi 個購入する。 p q 1 1 p2 q2 p= .. :単価ベクトル、q = .. :購入量ベクトルとおく。 . . pn qn このとき、購入代金の総額はこの2つのベクトルの内積 t p · q = p1 q1 + p2 q2 + · · · + pn qn として表される。 3 ゼロベクトルと単位ベクトル n 次元ベクトルで、すべての成分が 0 であるベクトルをゼロベクトルとよび 0 と表す。 また、長さ 1 のベクトルを単位ベクトルとよぶ。単位ベクトルのうち,第 i 成分が 1 で,他の成分が 0 のベクトルを ei (i = 1, 2, · · · , n) と表す なお、任意のベクトルは単位ベクトル e1 , e2 , · · · , en の線形結合(1次式)として表 せる。 例 3 次元の場合、ゼロベクトルと単位ベクトルは 0 1 0 0 = 0 , e1 = 0 , e2 = 1 , 0 0 0 0 e3 = 0 1 3 である。また、ベクトル x = −5 を次のように単位ベクトルの線形結合で表せる。 2 3 1 0 x = −5 = 3 0 − 5 1 2 0 0 0 + 2 0 = 3e1 − 5e2 + 2e3 1 内積の双線形性 x, y, z を n 次元ベクトル、a, b を定数とする。このとき以下が成り立つ。 (1) t (ax + by) · z = at x · z + bt y · z (2) t x · (ay + bz) = at x · y + bt x · z 4 三角比 xy 平面において、x 軸の右半分の半直線を原点を中心にして反時計回りに θ 度回転さ せた半直線と単位円 ( x2 + y 2 = 1 ) との交点の座標を (cos θ, sin θ) と表す。 特に、 (cos θ, sin θ) | cos θ| ≦ 1. θ 0◦ ≦ θ ≦ 180◦ のとき、cos θ = 0 ⇐⇒ θ = 90◦ . ベクトルの直交 2つのベクトル x と y のなす角を θ (0◦ ≦ θ ≦ 180◦ ) とするとき、次の関係式が成り 立つ。 t x · y =∥ x ∥∥ y ∥ cos θ y 特に、x と y が直交 (θ = 90◦ ) することと、 θ 0 t x x·y =0 は同値である。このとき、x ⊥ y と表す。 証明 ∥ x ∥2 = t x · x, t x · y = t y · x であることを用いて、余弦定理より、 } 1{ ∥ x ∥2 + ∥ y ∥2 − ∥ x − y ∥2 2 } 1 {t x · x + t y · y − t (x − y) · (x − y) = 2 } 1 {t = x · x + t y · y − t x · x − t y · y + 2t x · y 2 ∥ x ∥∥ y ∥ cos θ = = tx · y □ 例 a= 1 と直交する長さ 1 のベクトル x を求めよ。 2 5 解 x= x y とおく。a ⊥ x より a · x = x + 2y = 0 (1) ∥ x ∥2 = x2 + y 2 = 1 (2) t x の長さが 1 であるから、 (1) と (2) を連立して解くと 2 1 , x= √ 5 −1 −2 1 . √ 5 1 □ 1次独立と1次従属 ベクトル a1 , a2 , · · · , aℓ のうち,少なくとも1つのベクトルが残りのベクトルの線形結 合で表せるとき,ベクトル a1 , a2 , · · · , aℓ は1次従属であるという。また,1次従属で ないとき,1次独立であるという。 例 a1 = 1 , a2 = 0 , a3 = 0 1 トル a1 , a2 , a3 は1次従属である。 1 のとき,a3 = a1 + 2a2 と表せるから,ベク 2 1 0 0 例 a1 = 0 , a2 = 1 , a3 = 1 のとき,どのベクトルも他のベクトルの線 0 0 1 形結合で表せないから,ベクトル a1 , a2 , a3 は1次独立である。 1 −1 a1 = 2 , a2 = 1 , a3 = −2 3 ベクトル a1 , a2 , a3 は1次従属である。 例 直線のベクトルによる表現 −1 7 のとき,a3 = 2a1 + 3a2 と表せるから, 0 直線 ℓ が与えられている。ベクトル a は(始点を原点 O と したときに終点が)直線 ℓ にあるとする。ベクトル b は直線 ℓ と平行とする。 6 6 b 1 ℓ a - O このとき,直線 ℓ 上の任意の点は a + tb (t は定数) と表すことができる。よって,直線 ℓ を ℓ = {a + tb | t ∈ R} と表現できる。ただし,R は実数全体である。 例 直線 ℓ : y = 2x + 3 をベクトルで表す。a = 1 5 b= 1 (の終点)は直線 ℓ 上にある。 は直線 ℓ と平行である。よって,直線 ℓ は 2 1 1+t 1 +t ℓ = {a + tb | t ∈ R} = t ∈ R = t ∈ R 5 + 2t 5 2 x=1+t と表せる。実際, y = 5 + 2t で t を消去すると,y = 2x + 3 になる。 例 a= 1 2 , b = 3 のとき, 4 ℓ = {a + tb ; t ∈ R} 7 はどのような直線であるか,軌跡の問題として考えてみよう。 x 1 + 3t = a + tb = y 2 + 4t 4 2 x + を得る。 3 3 とおく。ここで t を消去して,y = 平面のベクトルによる表現 平面 Π が与えられている。ベクトル a は(始点を原点 O と したときに終点が)直線 Π にあるとする。ベクトル b と c は平面 Π と平行とする。また, b と c は1次独立とする。このとき,平面 Π 上の任意の点は a + sb + tc (s と t は定数) と表すことができる。よって,平面 Π を Π = {a + sb + tc | s, t ∈ R} と表現できる。 例 (正射影ベクトル) ベクトル y の終点からベクトル x の延長線上への垂線の足を終点とするベクトルを z と おく。このとき、z を x と y を用いて表せ。 (なお、z を y の x 方向への正射影ベクトルと 呼ぶ。) y x 0 z = λx z = λx とおく。x ⊥ (λx − y) より、t x · (λx − y) = λ ∥ x ∥2 −t x · y = 0. よって、 t x·y . 従って、 λ= ∥ x ∥2 t x·y z = λx = x. ∥ x ∥2 解 □ コーシー・シュワルツの不等式 n 次元ベクトル x と y に対して、次の不等式が成り立つ。 |t x · y| ≦∥ x ∥∥ y ∥ 8 証明 x と y のなす角を θ とおくと、 |t x · y| =∥ x ∥∥ y ∥ | cos θ| ≦∥ x ∥∥ y ∥ □ 別証 0 ≦∥ tx + y ∥2 = t (tx + y) · (tx + y) = t2 ∥ x ∥2 +2tt x · y+ ∥ y ∥2 すなわち、t の 2 次関数のグラフが t 軸の下を通過することがない。よって、判別式より D/4 = (t x · y)2 − ∥ x ∥2 ∥ y ∥2 ≦ 0 □ 例 a を正の定数とする。x と y が x2 + y 2 = a2 を満たすとき、x + y の最大値と最小値を 求めよ。 解 x= x , y = y 1 とおく。コーシー・シュワルツの不等式より 1 |x + y| = |t x · y| ≦∥ x ∥∥ y ∥= √ 2a よって、 √ √ − 2a ≦ x + y ≦ 2a (√ ( √ √ ) √ ) 2a 2a 2a 2a 一方で、(x, y) = , , − ,− のとき x2 + y 2 = a2 を満たし、 2 2 2 2 √ √ かつ x + y の値がそれぞれ 2a と − 2a になる。 √ √ 以上のことから、x + y の最大値は 2a であり、最小値は − 2a である。 (√ √ ) √ 2a 2a 注 (x, y) = , の座標を求めるには、x2 + y 2 = a2 と x + y = 2a を連立 2 2 ( √ √ ) 2a 2a ,− の座標を求めるには、x2 + y 2 = a2 と すればよい。同様に、(x, y) = − 2 2 √ x + y = − 2a を連立すればよい。 最適消費問題への応用 x = t (x1 , x2 , . . . , xn ) を財の量、p = t (p1 , p2 , . . . , pn ) を価格ベクトル、M を予算とす る。予算制約式 t p · x = M は n 次元空間内の超平面 Π (予算平面)を表す。 9 このとき、Π と価格ベクトル p は直交する。実際、Π 上の2点 x = t (x1 , x2 , . . . , xn ) と y = t (y1 , y2 , . . . , yn ) に対し、t p · (x − y) = t p · x − t p · y = M − M = 0 となり、Π 上の すべてのベクトルと p が直交していることがわかる。 最適消費問題を幾何学的に考える。まず、最適消費問題はベクトルの記号を使うと、 maximize u(x) subject to t p·x=M と表せる。ただし、u(x) は効用関数である。さて、無差別曲線 (indifference curve) u(x) = c は、c を大きくする(満足度が大きくなる)と、原点から遠ざかる(より大きな消費を必 要とする)。そして、c (c > 0) をうまくとると、無差別曲線と予算平面 Π : t p · x = M が 一点 x∗ で交わるようにできる。この x∗ が最適消費である。 例 maximize subject to の最適消費 x∗ = u(x) = min{2x, y} 3x + 4y = 11 x を求める。まず、与えられた効用の無差別曲線は、 y } { } } { c c (x, y)| min{2x, y} = c = t (x, y)|x = , y ≧ c ∪ t (x, y)|x ≧ , y = c 2 2 ( ∗ ) c ∗ であるから、最適効用を c∗ とおくと最適消費は x∗ = t , c と表すことができる。こ 2 れを予算制約式に代入して、c∗ = 2 , x∗ = t (1, 2) を得る。 {t 10
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