数学2B 補足プリント2 「ガンマ関数」

数学 2B 補足プリント 2 「ガンマ関数」
2015 年 6 月 10 日
1
解析接続による定義
階乗関数 n! = 1 · 2 · · · · (n − 1) · n を複素平面全域に解析接続したい。
まず、正の実軸上 (x > 0) で定義される関数
∫
Γ(x) =
∞
e−t tx−1 dt
(1)
0
を考える。この積分は x > 0 で収束する。一方、x ≤ 0 では t = 0 近傍からの積分の寄与が発散して
しまう。ここで、
∫
∞
Γ(x + 1) =
−t x
e t dt =
∫
0
∞
Γ(1) =
[−e−t tx ]∞
0
∫
∞
+
e−t xtx−1 dt = xΓ(x)
0
e−t dt = [−e−t ]∞
0 =1
0
より、
Γ(n + 1) = n · Γ(n) = n(n − 1) · · · 2 · 1 · Γ(1) = n!
となるので、Γ(x) は階乗関数の正の実軸上への拡張になっている。
次に x → z ∈ C と書き換えて
∫
∞
Γ(z) =
e−t tz−1 dt
(2)
0
と定義する。ここで、
|tz | = |e(ln t)z | = |e(ln t)x ||ei(ln t)y | = |e(ln t)x | = tx
∫ ∞
∫ ∞
−t z−1 e
t
dt
e−t tx−1 dt = Γ(Re z)
≤
0
0
より、(2) 式の積分は Re z > 0 で収束し Γ(z) は正則となる。つまり、(2) 式で定義される Γ(z) は (1)
式の Γ(x) の Re z > 0 への解析接続となっている。
さらに、Γ(z) を複素平面の左半平面に接続することを考える。(2) 式より、Re z > 0 に対して
Γ(z + 1) = zΓ(z)
Γ(z) =
Γ(z + 1)
z
(3)
が成り立つ。ここで (3) 式について詳しく考えてみよう。左辺は (2) 式で与えられる Re z > 0 で定義さ
れる関数である。一方、右辺の Γ(z + 1) も (2) 式で定義されたものなので、右辺は Re z > −1, z ̸= 0
で定義される関数である。Re z > 0 では両辺は一致している。そこで、−1 < Re z ≤ 0, z ̸= 0 に対
しては (3) 式の右辺により Γ(z) を定義することにしよう。Re z > 0 では (2) 式と (3) 式の右辺が一
1
致しているので、(3) 式の右辺により Γ(z) を定義すれば、これは (2) 式の 1 < Re z ≤ 0, z ̸= 0 への
Γ(z) の解析接続である。
同様にして、
Γ(z + n + 1) = (z + n)(z + n − 1) · · · (z + 1)zΓ(z)
より、
Γ(z) =
Γ(z + n + 1)
(z + n)(z + n − 1) · · · (z + 1)z
としてこの右辺により Γ(z) を定義すれば、Re z > −(n + 1), z ̸= −n, −n + 1, · · · , −1, 0 への解析接
続となる。n → ∞ とすれば複素平面全域 [ただし z = −k (k = 0, 1, 2, · · · ) に一位の極] へと接続で
きる。
2
無限乗積表示
Γ(z) には様々な表式があるので、次にそれをみてみよう。まず、e の定義式より、
(
)n
1
e = lim 1 +
n→∞
n
(
)−nt
)n′
(
1
t
−t
e = lim 1 +
= lim
1− ′
n→∞
n′ →∞
n
n
これと (2) 式より、
∫
F (z, n) =
0
n
)n
(
t
tz−1 dt
1−
n
とおくと、Γ(z) = F (z, ∞). そこで、u = t/n として、
∫
1
(1 − u)n uz−1 du
F (z, n) = nz
0
[
]
∫
z 1
F (z, n)
n 1
nu
= (1 − u)
+
(1 − u)n−1 uz du
nz
z 0 z 0
∫
n(n − 1) 1
=
(1 − u)n−2 uz+1 du
z(z + 1) 0
∫ 1
n(n − 1) · · · 1
uz+n−1 du
=
z(z + 1) · · · (z + n − 1) 0
n!
=
z(z + 1) · · · (z + n)
nz n!
∴ F (z, n) =
z(z + 1) · · · (z + n)
nz n!
Γ(z) = lim
n→∞ z(z + 1) · · · (z + n)
(4)
(4) 式を、ガウスの公式という。(3) 式の下の議論と同様のことを考えると、Re z > 0 で (2) 式の Γ(z)
は (4) 式の右辺と一致するが、(4) 式の右辺は z = −k (k = 0, 1, 2 · · · ) を除いた複素平面全域で定義
2
される関数となっているため、(4) 式の右辺により Γ(z) を定義すると、(2) 式の Γ(z) の複素平面全
域 (特異点を除く) への解析接続となる。つまり、ガウスの公式は Re z ≤ 0 の領域まで含めた Γ(z)
の定義と言える。一致の定理より、これは前節の最後に定義した Γ(z) と一致する。
次に、ガウスの公式の右辺の中で、
n (
∏
n!
1
z )−1
=
=
1+
(z + 1) · · · (z + n)
(1 + z/1)(1 + z/2) · · · (1 + z/n)
k
k=1
(
)z (
)z (
)z
(
)z n−1
)z
∏(
2 3
n
1
1
1
1
z
n =
· ···
= 1+
1+
··· 1 +
=
1+
1 2
n−1
1
2
n
k
k=1
と変形すると、
)z
n−1 (
n
1
1 ∏(
z )−1 ∏
1+
1+ ′
n→∞ z
k
k
k=1
k′ =1
(
)
∞
z
1
1 ∏(
z )−1
1+
=
1+
z n=1
n
n
Γ(z) = lim
と書ける。これをオイラーの公式という。
オイラーの公式の逆数をとって、
(
)−z
∞ (
∏
1
1
z)
=z
1+
1+
Γ(z)
n
n
n=1
)
]−z
∞
∞ [(
∏(
z ) −z/n ∏
1
−1/n
=z
1+
e
e
1+
n
n
n=1
n=1
= zeγz
∞ (
∏
n=1
1+
z ) −z/n
e
n
(5)
という形にしたものをワイエルシュトラスの標準形という。ここで、γ は
(
)
1
1
γ ≡ lim 1 + + · · · + − log n
n→∞
2
n
で定義されるオイラー定数とよばれる定数であり、
)
∞ (
∏
1
1+
e−1/n = e−γ
n
n=1
を満たす。(5) 式より、1/Γ(z) は複素平面全域で正則であることがわかる。すなわち、Γ(z) はゼロ点
を持たない。
3
積分表示
(2) 式で積分路を図 1 のように拡張した積分
∫
e−ζ ζ z−1 dζ
F (z) =
C
3
(6)
ζ
Cε
C1
C2
図 1: (6) 式の積分路。C = C1 + Cϵ + C2 . 負でない実軸以外では被積分関数は正則なので、これを
横切らない限り経路をずらしても積分値は変わらない。
を考える。(2) 式の t 積分では、Re z ≤ 0 のとき t = 0 からの寄与が発散の原因となっていた。それ
に対し、図 1 の経路 C では ζ = 0 の点を避けているため、(6) 式は Re z ≤ 0 でも収束する。
そこで、まず Re z > 0 として (6) 式の F (z) と (2) 式の Γ(z) の関係を調べよう。(6) 式のの被積分
関数は ζ z−1 の部分が多価関数になっており、講義の Sec. 7.4 でやったように、arg ζ が 0 から 2π ま
で変化しても被積分関数の値はもとに戻らない。そのため経路 C1 、C2 に沿った積分がキャンセルし
ない。具体的に、C1 , Cϵ , C2 に沿った積分を実行すると、
∫
∫ 0
C1 : ζ = rei0 ,
e−ζ ζ z−1 dζ =
e−r rz−1 dr = −Γ(z)
C1
∫
Cϵ : ζ = ϵeiθ ,
e−ζ ζ z−1 dζ =
Cϵ
∫
∞
2π
0
dθe−ϵ(cos θ+i sin θ) ϵz−1 ei(z−1)θ iϵeiθ
∫
2π
= iϵz
dθe−ϵ(cos θ+i sin θ)+izθ
0
→ 0 (ϵ → 0)
(∵ Re z > 0)
∫ ∞
e−ζ ζ z−1 dζ =
e−r rz−1 ei2π(z−1) dr = ei2πz Γ(z)
∫
C2 : ζ = rei2π ,
C2
となるので、
∫
F (z) =
∫
+
C1
∫
= (−1 + ei2πz )Γ(z) = 2ieiπz
+
Cϵ
0
C2
よって、Re z > 0 で Γ(z) は
Γ(z) =
e−iπz
2i sin πz
∫
eiπz − e−iπz
Γ(z) = 2ieiπz sin πzΓ(z)
2i
e−ζ ζ z−1 dζ
(7)
C
と書ける。(7) 式の右辺は Re z ≤ 0 でも定義されており、また Re z > 0 では (2) 式の定義と一致す
るため、(7) 式により Re z ≤ 0 での Γ 関数を定義すれば (2) 式の Γ(z) の複素平面全域 (極を除く) へ
の解析接続となる。つまり、(7) 式が (極を除く) 任意の z で使える Γ 関数の積分表示である。(7) 式
をハンケルの積分表示と呼ぶ。
参考文献
1. 詳解物理応用数学演, 後藤憲一・山本邦・神吉健 共編, 共立出版
2. 基礎物理数学第 4 版 Vol.2 関数論と微分方程式, G. B. Arfken & H. J. Weber 著, 権平健一郎 訳
講談社
4