話の流れ 電波の利用と正規直交基底 1. 内積の一次式表現(復習) 2. コーシー・シュワルツの不等式(復習) 3. ベクトルの正射影(直交座標の作り方) 4. 座標分解(各座標軸への正射影) <内積とフーリエ級数とテレビ放送・携帯電話> くらしと数理(第7回目) 平成20年5月28日(水)3限 新潟大学 大学院自然科学研究科 情報理工学専攻 田中 環 (TANAKA, Tamaki) E-mail:[email protected] 2008/5/28 2 1 内積の一次式表現の復習 コーシー・シュワルツの不等式 y n次元ユークリッド空間を R nと書いて表し,R n の要素をベクトルと呼び,ベクト ルを2つ選んで, x , y と書くことにする。それぞれのベクトルは適切な座標を 選べば平面の座標と同じように, n 個の実数の組(成分)で表すことができる。 T 今,それぞれ x = ( x1 , K , x n ) Tと y = ( y1 , K , y n ) というように成分表示された 2つのベクトル x と y に対して,次のような量を考える。これを通常, x と y (Cauchy-)Schwarzの不等式 の双線形形式(または内積)と呼ぶ。 ⎛ a ⎞, ⎛ x ⎞ = ax + by ⎜b⎟ ⎜ y⎟ ⎝ ⎠⎝ ⎠ 射影する (垂線の足 をHとする) O 掛けたら内積の値となる。 H ∥∥ はベクトルのノルム(大きさ)を表し,内積 表現を使うと,自分自身との内積の正の平方根 に等しい。 同じ垂線の足のところへ射影さ れる点は,この点線で表される 直線上にあるはず。したがって 内積が一定となる点(x,y)が描 く図形は点Hを通ってベクトル (a,b)に垂直な直線となる。 ※2次元の例 0 ベクトル x と y が一次従属のとき, またそのときに限りどちらかの等号が成立する。 内積を表す山カッコ 〈 と 〉 は書きましょう。 n ⎛ x1 ⎞ ⎛ y1 ⎞ x, y := ⎜ M ⎟, ⎜ M ⎟ = ∑ x i y i = x1 y1 + x 2 y 2 + L + x n y n ⎜x ⎟ ⎜y ⎟ i =1 ⎛ x ⎞ ⎝ n⎠ ⎝ n⎠ ⎜ y⎟ ⎝ ⎠ y − x y ≤ x, y ≤ x y x = 絶対値を使って書けば, x1 y1 + x 2 y 2 ≤ x12 + x 22 y12 + y 22 両辺を2乗すると, (x1 y1 + x 2 y 2 )2 ≤ x12 + x22 y12 + y 22 ( )( x, x = n ∑x i =1 コーシー・シュワルツ の不等式で2次元のと きは, − x12 + x 22 y12 + y 22 ≤ x1 y1 + x 2 y 2 ≤ x12 + x 22 y12 + y 22 ⎛a⎞ ⎜b⎟ ⎝ ⎠ x x 2 i 2次元のときは, x x x = ⎛⎜ 1 ⎞⎟, ⎛⎜ 1 ⎞⎟ = x12 + x 22 ⎝ x2 ⎠ ⎝ x 2 ⎠ この証明は,高等学校で次のように学習する。 ) ( )( ) 右辺 − 左辺 = x12 + x 22 y12 + y 22 − ( x1 y1 + x 2 y 2 ) = x 22 y12 − 2 x1 y1 x 2 y 2 + x12 y 22 2 = (x 2 y1 − x1 y 2 ) ≥ 0, x 2 y1 − x1 y 2 = 0 のとき等号成立 2 3 コーシー・シュワルツの不等式 Cauchy-Schwarz コーシー・シュワルツの不等式 ベクトルx と y が一次従属の時, またそのときに限りどちらかの 等号が成立する。 − x y ≤ x, y ≤ x y 絶対値を使って表すと, ⎛ x1 ⎞ ⎛ y1 ⎞ x = ⎜⎜ M ⎟⎟, y = ⎜⎜ M ⎟⎟ の時,成分で表すと, x ⎝ n⎠ ⎝ yn ⎠ ∑x k =1 両辺を二乗すると, k yk ≤ 2 n k =1 2 k k =1 2 k ⎛ n ⎞ ⎛ n ⎞⎛ n ⎞ ⎜ ∑ xk yk ⎟ ≤ ⎜ ∑ xk2 ⎟⎜ ∑ yk2 ⎟ ⎝ k =1 ⎠ ⎝ k =1 ⎠⎝ k =1 ⎠ x := ⎛ x1 ⎞ ⎛ x1 ⎞ ⎜ M ⎟, ⎜ M ⎟ = ⎜x ⎟ ⎜x ⎟ ⎝ n⎠ ⎝ n⎠ 0 ベクトル x と y が一次従属のとき, またそのときに限りどちらかの等号が成立する。 円の半径= y x x x, y ≤ x y n ∑x ∑y y − x y ≤ x, y ≤ x y x1 y1 + L + xn yn ≤ x12 + L + xn2 y12 + L + yn2 n y (Cauchy-)Schwarzの不等式 n ⎛ x1 ⎞ ⎛ y1 ⎞ x , y = ⎜ M ⎟, ⎜ M ⎟ = ∑ x k y k ⎜x ⎟ ⎜y ⎟ k =1 ⎝ n⎠ ⎝ n⎠ x, y ≤ x y 4 ベクトル x と y の内積は、 ベクトル の大きさとベクトル の座標との掛け算 n ∑ xk2 k =1 ノルム ∥x ∥と ∥y ∥の積は、 線分 と線分 の長さの掛け算 (自分自身との内積の正の平方根) (x1 y1 + L + xn yn )2 ≤ (x12 + L + xn2 )(y12 + L + yn2 ) n=2 の時,高等学校でも不等式の証明の (ax + by )2 ≤ (a 2 + b 2 )(x 2 + y 2 ) 単元で学習している。 ベクトル x と y が一次従属のとき, またそのときに限りどちらかの等号 が成立する。 5 ベクトル x と y が一直線上にある場合。 y y x x = αy (α はスカラー) 6 1 ベクトルの正射影(直交座標の作り方) x x − 〈 x, v〉 v v v 1 〈 x, v〉 0 グラム・シュミットの正規直交化法 x 一次独立なベクトルが次元の個数分(n個)あったとき, 大きさが1で,互いに直交するベクトル (これを座標とすることが多い) を作り出すことができる。 〈 x, v 〉 v (2) それを a1 として、大きさを1に縮める。 つまり,ノルム(大きさ)で割って、単位ベクトル e1 最初に,大きさが1になって いるv というベクトルを数直 線(座標軸)にとったときの x の座標を求めるために内積を 計算する。次に, v を垂線の 足まで延長して直交成分を計 算する。 a (5) ベクトル a 2 からベクトル a 2 , e1 e1 を引くと,垂直方向 のベクトル a 2 − a 2 , e1 e1 が得られる。 正規直交化アルゴリズム b2 b2 x M e3 = b3 b3 〈 x, v 2 〉 v 2 b e4 = 4 b4 M b en = n bn k =1 n −1 bn = a n − ∑ a n , ek ek , k =1 a1 0 にする。 a 2 , e1 e1 8 最初から大きさ1の直交するベクトル がいくつか与えられている場合 b3 = a3 − a3 , e1 e1 − a3 , e2 e2 , b4 = a 4 − ∑ a 4 , ek ek , e2 e2 座標分解(各座標軸への正射影) a e1 = 1 a1 3 a1 a1 a1 にする。 (6) 最後に,そのベクトルの大きさで割って、単位ベクトル e2 = e1 = (3) もうひとつのベクトルとして a 2 を選ぶ。 e1 と a 2 の内積を考えると,a 2 を e1 へ射影した垂線の足まで の符号付の長さとなる。 a 2 − a 2 , e1 e1 (4) e1 と a 2 の内積 a 2 , e1 の分だけ,単位ベクトル e1 を伸 2 ばすと,ベクトル a 2 , e1 e1 となり,垂線の足を表す ベクトルとなる。 7 b2 = a 2 − a 2 , e1 e1 , 0 (1) n個のベクトル a1 , K , a n から1つベクトルを選ぶ。 0 ベクトルを互いに直交するいくつかのベク トルに分解して表現する原理を内積の考え 方から観察してみよう。 最初は,お互いに定数倍では表せない2つ のベクトルを使って,直交する2つの単位 ベクトル(大きさが1のベクトル)を作る ことを考える。 a2 Gram-Schmidtの正規直交化法 v2 0 v1 関数をベクトルとするような関数空 間では,内積は積分の形になり,テ レビ放送,ラジオ放送,携帯電話な どに代表される信号処理技術,病院 の診療で利用されるコンピューター 断層撮影(CTスキャン)などにお いても座標分解してそれぞれの内積 〈 x, v1 〉 v1 の値を求めるために測定を行い,後 でそれを元に戻す操作を行っている。 x = 〈 x, v1 〉 v1 + 〈 x, v 2 〉 v 2 結局,互いに直交し大きさが1の ベクトルの組 {e1 , K, en }が得られた。 〈 x, v1 〉 M 〈 x , vn 〉 これらの数値だけ を電波に乗せて, テレビ,ラジオ, 携帯電話で復元し ている。 9 送信の仕組み TV送信機 マイクロホン 音声増幅 回 路 撮像管 色回路 映像増幅 回 路 水平垂直 偏向回路 同期回路 受信の仕組み 受信アンテナ チューナー 回路 検波 指標と座標 送信アンテナ 音声送信機 指数 変調回路 混合 変動する数値の大小関係を比率の 形にして表したもの。特に経済分 析のための指数を経済指数と呼ぶ こともある。経済指数の代表的な ものとしては物価指数と数量指数 とがある。 映像送信機 調) る( 変 乗せ に 波 搬送 音声検波 回 路 中間周波 増幅回路 10 スピーカ 受像管 (復調) 同期回路 水平垂直 偏向回路 •企業物価指数(日本銀行) •消費者物価指数(総務省) •家計消費指数(総務省) •鉱工業指数(経済産業省) •第3次産業活動指数(経済産業省) •景気動向指数(内閣府) •雇用指数(厚生労働省) 座標 音声出力 回 路 色回路 映像増幅 回 路 主な政府統計指数 11 座標とは,点の位置を明確にする ために与えられる数の組のことで ある。座標と座標系が与えられれ ば,点は一つに定まる。座標の表 現方法は一意ではなく,原点と座 標軸の取り方により,何通りでも 表現が可能である。 x 〈 x, v 2 〉 v 2 v2 0 v1 〈 x, v1 〉 v1 12 2
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