国語1 平成27 平成27年度宮崎 27年度宮崎医療福祉専門学校 年度宮崎医療福祉専門学校 入学試験(国語) 【1 】 次の文章を読んで、後 次の文章を読んで、後の問いに答えよ。 まず「もの」があり、ただ名前がついていないだけなので、人間がこちらのつごうで、あとか 注1 らいろいろと名前をつけること、それがことばの働きである、というのが『 創 世記』に語られて いる言語観です。これをソシュールは「名称目録的言語観」と名づけました。 この「名称目録」つまり①「カタログ」としての言語観は、私たちにものの名前は人間が勝手 につけたものであって、ものとその名は別に②□ □然性があって結びついているわけではないとい うことを教えてくれます。 日本語では「犬」と呼ぶものを、英語では dog、フランス語では chien、ドイツ語では Hund と呼ぶというふうに、ものの呼び方は「言語共同体ごとにご自由に」ということになっていて、 どの名がいちばん「正しい」のか、というようなことは問題にしても仕方がありません。「もの の名前は人間が勝手につけた」というのが「カタログ言語観」の基本にある考えです。これは誰 にでも納得できるでしょう。 しかし、この言語観は、いささか問題のある前提に立っています。それは、「名づけられる前 からすでにものはあった」という前提です。 たしかに私たちはふつうにはそう考えます。「丸くてもこもこした動物が来たので、アダムは 勝手にそれを『羊』と名づけた」というふうに。 しかし、本当にそうなのでしょうか。「まだ名前を持たない」で、アダムに名前をつけられる のを待っている「もの」は、実在していると言えるのでしょうか。 名づけられることによって、はじめてものはその意味を確定するのであって、命名される前の 「名前を持たないもの」は実在しない、ソシュールはそう考えました。 「羊」はフランス語では「ムートン」と言います。英語にはフランス語の「ムートン」に対応 する名詞が二つあります。一つは「シープ」です。これは白くてもこもこした生き物で、もう一 つの「マトン」は食卓に供される羊肉のことです。英語では生きた羊と食べる羊は別の「もの」 ですが、フランス語では同一の語がこの二つの「もの」を含んでいます。ですからⓐゲンミツに 言えば、フランス語の「ムートン」に相当するⓑホウカツ的な名称は英語には存在せず、逆に、 「動物としての羊」や「食肉としての羊」だけを意味する語はフランス語には存在しない、とい うことになります。 日本語と英語の場合でも同じことが起こります。 英語の devilfish「悪魔の魚」は「エイ」と「タコ」の両方を含む概念です。英語には「エイ」 を指す manta という単語がありますし、 「タコ」は octopus という名前があります。ですから英 語話者はこの二つを形態的にはちゃんと区別しているのですが、同時にこの二種の動物を「ⓒ忌 まわしい生物」という意味で同一の概念の内にまとめてもいるのです。このようなホウカツ的な 名称は日本にはありませんから、「悪魔の魚」なる生物は英語話者の意識の中にだけ存在してい て、日本人が日本語で思考する限り、概念化することのできないⓓキカイな生物だということに なります。 語義の一部がⓔチョウフクしているので、「同義語」といえば「同義語」と言えなくもないの ですが、含まれている意味の厚みや奥行きが違うせいで誤解を産むということが外国語を訳すと きによく起こります。 例えば英語の several というのはなんとなく「五、六」くらいと思われていますので、several years はよく「数年」と訳されますが、実際には、several は「二つ」のときもあれば「十以上」 のときもあります。 このような「語に含まれている意味の厚みや奥行き」のことをソシュールは「価値」valeur と 呼びました。 several と「五、六」は「 A 」としてはだいたい重なっていますが、「 B 」を微妙に異 にしています。 「ムートン」と「シープ」も同じです。ある語が持つ「 C 」、つまり「意味の 幅」は、その言語システムの中で、あることばと隣接する他のことばとの「 D 」によって規 定されます。もし、あることばが含む意味の幅の中にぴたりと一致するものを「もの」とよぶと するならば、 「ことば」と「もの」は同時に誕生するということができます。 「デヴィルフィッシュ」という「もの」は、そのようなことばを持つ言語システムで世界を眺 国語2 めている人々の意識の中にのみ存在しており、その語を持たない言語共同体には存在しません。 それは③星座の見方を知らない人間には満天の星が「星」にしか見えず、天文に詳しい人には、 空いっぱいに「熊」や「獅子」や「白鳥」や「さそり」が見えるという事態と似ています。黒い 空を背景にして散乱する無数の星の間のどこに切れ目を入れて、どの星とどの星を結ぶか、それ は見る人の自由です。そして、ある切れ目を入れて星を繋いだ人は、そこにはっきり「もののか たち」を見出すことができます。でも、二人並んで星座を見ているときに、よく経験するように、 見える人にはありありと見える星座が、そのように切れ目を入れない人にはまったく見えないの です。 ソシュールは言語活動とはちょうど星座を見るように、もともとは切れ目の入っていない世界 に人為的に切れ目を入れて、まとまりをつけることだというふうに考えました。 言語活動とは、「すでに分節されたもの」に名を与えるのではなく、満天の星を星座に分かつ ように、非定型的で星雲状の世界を切り分ける作業そのものなのです。ある観念があらかじめ存 在し、それに名前がつくのではなく、名前がつくことで、ある観念が私たちの思考の中に存在す るようになるのです。 注1 創世記・・・旧約聖書第一の書。世界創造の物語を記述する。 (内田樹「寝ながら学べる構造主義」による。一部省略有り。 ) 問1.傍線部ⓐ~ⓔの片仮名は漢字に改め、漢字には読み仮名をつけよ。 問2.傍線部①「『カタログ』としての言語観」とは『創世記』に語られている言語観のどうい う点を「カタログ」にたとえたのか。最も適当なものを次から一つ選び、符号で答えよ。 ア 人間が興味をひかれるような言葉を選んで、ものに名前をつけている点。 イ 実際に見なくてもどんなものかわかるように、ものに名前をつけている点。 ウ 一つひとつのものの存在を前提として、それに名前をつけて並べるという点。 エ 名前を持たないものは取り上げられないので存在しないものと見なされる点。 問3.傍線部①「『カタログ』としての言語観」について筆者は肯定、否定、どちらの立場をと っているか、答えよ。 問4.傍線部②「□ □然性」の□ □にあてはまる一字を答えよ。 問5. 「羊」と「デヴィルフィッシュ」の話を出して筆者が述べたかったことの内容として最も 適当なものを次から一つ選び、符号で答えよ。 ア 名前があってはじめて「もの」と認識する。 イ 「もの」に名前がつく背景には文化がある。 ウ 同じ「もの」でも文化圏が違えば呼び名が違ってくる。 エ 語義は重なっていても、意味の幅が異なる語がある。 問6. A ~ D に当てはまる語を、{ 差異・価値・語義 }からそれぞれ選び、答えよ。 問7.傍線部③「星座」を見ることのたとえによって何を説明しているのか。Eに十二字、Fに二 十字で本文中の言葉を抜き出す形で答えよ。 言語活動とは言葉によって( E )に( F )こと。 問8.ノーベル平和賞受賞者のケニアの環境活動家ワンガリ・マータイさんが「モッタイナイ」 という日本語を世界に広めたように、私たちの社会ではある言葉を世の中に広める活動が 国語3 起こることがある。このような活動は、本文によると、どういうことを期待してのことな のか。本文の語を用いて四十字以内で説明せよ。 【2】 次の文章を読んで、後の問いに答えよ。 次の文章を読んで、後の問いに答えよ。 信雄と喜一は、信雄の父の晋平に小遣いをもらって 信雄と喜一は、信雄の父の晋平に小遣いをもらって祭りに出かけた。 、信雄の父の晋平に小遣いをもらって祭りに出かけた。 し も た や 大通りを曲がり、仕舞屋が軒を連ねる筋に入ると、陽の沈むのを待ちあぐねた子供たちが、道 にうずくまってもう花火に火をつけている。酒臭いはっぴ姿の男が、同じ柄のはっぴを着た幼子 をかたに乗せて、ぶらりぶらりと神社に向かっている。そのあとを喜一と並んで歩きながら、に わかに大きくうねりだした祭り囃子に耳を傾けていると、信雄はなにやら急に心細くなってきた。 「僕、お金持って遊びに行くのん、初めてや」 ときどき立ち停まると、喜一はそのたびに掌を開いて、晋平からもらったⓐコウカの数を確か めた。①信雄は自分の金をそっくり喜一の掌に移した。 「僕のんと合わしたら、何でも買えるで」 「そやなあ、あれ買えるかもしれへんなあ」 信雄も喜一も、火薬を詰めて飛ばすロケットのおもちゃが欲しかったのである。恵比須神社の ⓑ縁日でも売っていたから、きっと今夜も売っているはずであった。 天満宮のような巨大なまつりではなかったが、それでも商店街のはずれからⓒ境内への道ま ご ざ で露店がひしめきあっている。人通りも多くなり、スルメを焼く匂いと、露店の茣蓙の上で白 い光を発しているカーバイドの悪臭が、暗くなり始めた道にたちこめて、信雄も喜一もだんだ ん祭り気分にうかれていった。 喜一はコウカをポケットにしまい、信雄の手を握った。 「はぐれたらあかんで」 人混みを縫いながら、二人は露店を一軒一軒見て歩いた。 水飴屋の前に立ったとき、 「一杯だけ買うて、半分ずつ飲めへんか?」 と喜一が誘った。ロケットを買ってからにしようという信雄の言葉でしぶしぶその場を離れ たが、こんどは焼きイカ屋の前でも同じことをせびった。飲み物や食べ物を売る店の前に来る と、喜一は必ず信雄の肘を引っぱって誘うのだった。 「きっちゃん、ロケット欲しいことないんか?」 ②喜一の手を振りほどくと、信雄は怒ったように言った。 「ロケットも欲しいけど、僕、いろんなもん食べてみたいわ」 口をとがらせて、喜一は脛の虫刺されのあとを強く掻きむしった。 いつのまにか空はすっかり暗くなり、商店街に吊るされたちょうちんにも裸電球にも灯が入 って、急激に増してきた人の群れがその下で押し合いへし合いしている。 すねたふりをして一歩も動こうとしない喜一を尻目に、信雄は境内に向かって歩き出した。 歩き始めると、人波に押されて立ち停まることもできなくなってしまった。喜一の顔が遠ざか り見えなくなった。 信雄は慌てて引き返そうとした。③色とりどりの浴衣や団扇や、汗や化粧の匂いが大きな流 れとなって信雄を押し返す。やっとの思いで元の場所に戻って来たが、喜一の姿はなかった。 信雄はぴょんぴょん跳びあがってまわりを見渡した。いつのまにすれちがったのか、人波に もまれている喜一の顔が、神社の入口のところで見えⓓカクれしていた。 「きっちゃん、きっちゃん」 信雄の声は子供たちのⓔ喚声や祭り囃子に消されてしまった。喜一は小走りで先へ先へと進 んでいく。相当④狼狽して信雄を捜しているふうであった。 信雄は大人たちの膝元をかきわけ、必死で走った。何人かの足を踏み、ときどき怒声を浴び て突き飛ばされたりした。境内の手前にある風鈴屋の前でやっと喜一に追いついた。赤や青の 短冊が一斉に震え始め、それと一緒に⑤何やら胸の底に突き立ってくるような冷たい風鈴の音 に包み込まれた。 信雄は喜一の肩を摑んだ。喜一は泣いていた。泣きながら何かわめいた。 「えっ、なに?どないしたん?」 よく聞きとれなかったので、信雄は喜一の口元に耳を寄せた。 国語4 「お金、あらへん。お金、落とした」 おびただ 風鈴屋の屋台からこぼれ散る 夥 しい短冊の影が、喜一の歪んだ顔に映っていた。 (宮本輝「泥の河」より) 問1.傍線部ⓐ~ⓔの片仮名は漢字に改め、漢字には読み仮名をつけよ。 問2.傍線部①「信雄は自分の金をそっくり喜一の掌に移した。」とあるが、この時の信雄の気 持ちとして最も適当なものを次から一つ選び、符号で答えよ。 ア 祭りの異常な興奮が身近に感じられてきて不安感がつのり、買い物をのんきに楽しむよ うな心境ではなくなったから。 イ 小遣いを無邪気に喜ぶ喜一の姿を見ていると、自分のことのようにうれしくなって、喜 一をもっと喜ばせてやりたい思いにかられたから。 ウ 二人の金を合わせればロケットのおもちゃを買えると考え、その際自分が二人分の金を 持てば喜一が機嫌を損ねるだろうと考えたから。 エ 二人の金を合わせればロケットのおもちゃを買えると考え、また小遣いに喜んでいる喜 一をさらに喜ばせたいと思ったから。 問3.傍線部②「喜一の手を振りほどくと」とあるが、信雄がこのような行動をとった理由とし て最も適当なものを次から一つ選び、符号で答えよ。 ア ロケットを買う目的達成のためにわき目もふらない信雄に対して、喜一は祭りの興奮に すっかり身を任せ混乱をも楽しんでいる様子でわざと食べ物や飲み物を欲しがる。信雄に は喜一の行動がふざけているようにしか見えず怒りがこみあげたから。 イ ロケットを買おうという目的が揺らがない信雄に対して、喜一の方のロケットへの熱意 は信雄ほどではないようで、食べ物や飲み物に誘惑される。祭りを楽しむ思いは同じなの に行動にずれが生じていらだちを抑えられなくなったから。 ウ 二人分の小遣いを合わせて喜一に持たせるほど信雄は喜一を喜ばせることに一生懸命 なのに、喜一の方は祭りの興奮にすっかり酔いしれて感謝の思いもなさそうである。喜一 との友情を信じられなくなり、二人でいることに嫌悪感を覚えたから。 エ 信雄の方は祭りの高揚感も手伝っていつもより強い二人の絆を心地よく感じながら買 い物をしていたのに、喜一の方は平常通りで自分のことしか考えていない応答しかない。 友だちを思う熱い思いが空まわりするような虚しさをふと覚えたから。 問4.傍線部③「色とりどりの浴衣や団扇や、汗や化粧の匂い」は何の比喩か。漢字二字で抜き 出して答えよ。 問5.傍線部④「狼狽して」の意味として最も適当なものを次から一つ選び、符号で答えよ。 ア 恨みに思って イ 声をあげて泣いて ウ あちらこちらさまよって エ うろたえて 問6.傍線部⑤「何やら胸の底に突き立ってくるような冷たい風鈴の音」は何のイメージか。最 も適当なものを次から一つ選び、符号で答えよ。 ア 華やかな祭りの笑いさざめき イ 冷えていく二人の友情 ウ 沸き起こるような不安感 エ 抑えきれない怒り 【3】 傍線部の 傍線部の漢字の読みを答えよ。 漢字の読みを答えよ。 ①寸暇を惜しむ。 ④心の糧。 ②十年来の知己。 ⑤仏教の戒め。 【4】 □に漢字を入れて対義語を完成させよ。 □に漢字を入れて対義語を完成させよ。 ①絶対 ⇔ □対 ②急性 ⇔ □性 ③逆境 ⇔ □境 ③悲しみに浸る。 ④加害 ⇔ □害 ⑤真実 ⇔ 虚□ □ 解答 【1】 問1 ⓐ厳密 ⓑ包括 ⓒい ⓓ奇怪 ⓔ重複 (②×5=10) 問2 ウ (④) 問3 否定 (④) 問4 必 (④) 問5 ア (④) 問6 A 語義 B 価値 C 価値 D 差異 (③×4=12) 問7 E 切れ目の入っていない世界 (④) F 人為的に切れ目を入れて、まとまりをつける (④) 問8 言葉を広めることによってその言葉の観念が人々の思考の中に存在するようになること。 ※言葉が先にあって観念が思考の中に生じるということが書いてあること(④) 計50点 50点 【2】 問1 ⓐ硬貨 問2 エ 問3 イ 問4 人波 問5 エ 問6 ウ ⓑえんにち ⓒけいだい ⓓ隠 ⓔかんせい (②×5=10) (④) (④) (④) (④) (④) 計30点 【3】 ①すんか ②ちき ③ひた ④かて ⑤いまし ②×5=計 計10 点 【4】①相対 ②慢性 ③順境 ④被害 ⑤虚偽 ②×5=計 計10点
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