2012年度センター試験の漢文について

す
わ
はら
けん
諏
訪
原
研
(河 合 塾 )
問4の文中の空欄補充問題も二年連続の出題です。解釈、書
設問では、問1の語意問題は二〇〇九年度から四年連続、
二〇一二年度センター試験の漢文について
概要
!
そん そう かん
そ とう ば
き下し文、理由説明、本文の主旨説明等の問題も例年通りの
さ ろく
出題で、これといった新傾向の設問はありませんでした。
せい よ
『西畬瑣録』からの出題で、同じ宋代の文人政治家蘇東坡の
今 年 の セ ン タ ー 試 験 の 漢 文 は、 宋 代 の 文 人 孫 宗 鑑 の 随 筆
問7の主旨と表現に関する問題を除けば、全体として紛ら
わしい選択肢はほとんどなく、文脈を素直にたどっていけば
設問の解説
!
】傍線部⑴「未幾」
・⑵「交」の意味の問題。
設問数は例年より一問増えて、センター試験が始まって以来
のない語だったせいか、正答率は %と、半分にもとどいて
「交」(読みは「こもごも」、意味は「かわるがわる」)は馴染み
48
─ 29 ─
ユーモラスな逸話を記したものでした。
リード文に、当時の蘇東坡の置かれていた状況と逸話の場
自然と正解が得られる良問でした。難易度としては、昨年に
【問
比べて「やや易」といったところでしょう。
面の説明があるので、内容は捉え易いはずなのですが、例年
堅苦しい論理的な文章が出題されているので、漢文とはそう
いうものだと思い込んでいる受験生にとっては、本文の軽妙
洒脱な最後のオチがわからず、主旨の把握に苦慮したのでは
ないでしょうか。
く」
)は 頻 出 語 句 な の で 正 答 し て ほ し い と こ ろ で す が、 河 合
% で し た。
初めて七問になりました。今後、この七問という設問数が定
い ま せ ん。 誤 答 と し て「 立 て 続 け に 」 を 選 ん だ 受 験 生 が 多
後も二〇〇字以上の文章が出題されてくるものと思われます。 塾 の 受 験 生 追 跡 調 査 の デ ー タ で は、 正 答 率 は
着するのかどうか、その動向が注目されます。
56
四四字増えました。昨年初めて二〇〇字を超えましたが、今
本 文 の 総 字 数 は 二 一 五 字 で、 昨 年 よ り 七 字、 一 昨 年 よ り 「 未 幾 」( 読 み は「 い ま だ い く ば く な ら ず 」、 意 味 は「 ま も な
1
(注1)
げん ぽうノ
コサ (注4)
レテ ちタリテ とう
ニ⑴
ニ
レ
(注2)
つなガレぎよ
しノ
テ (注5)
ニ
たく
セラルくわう
レ
二
一
ノ
ニ
二
ダ
リ
(注6)
めい くわん
はヅル
(注7)
一
サル
レテ
ニ
(注3)
しうニ げん いうノ
ヲ
東 坡 元 豊
間 繫 御 史 獄、
謫 二黄 州 。一元 祐
レ
二
レ
一
レ
フニ
ヲ
タ
リト
ハク
ノ
ル
ニ
リ
ナル かト
リ
シク
シテ ヲ
ヒニ
シテ
ル
レ
一
レドモ
ハク
(注8) スルニ
ハク
ヲ
シ
ノ
テ
タ
それがし
ニ
レ
ヨリ
ス
キテ
ニ
ス
二
リ
リ
レ
(注9)
レバ しヒ
つキテ
ヲ
ヲ
ス
レ
タ
ヲ
ノ
一
ナリ
ニ
イニ
シト
リ なじリテ
D
ル
ヲ
シト
シ
テ
レ
ニ
ヲ
カスト
ル
ハク (注 (
ス
ラ あがなフ
レ
タ
ヲ
やや
タルト
レ
シク
シテ
ニ
。良 久、一
ハク
レ
ヲ
ノ
一
(注 (くわう みだ
さう
トシテ リニ
。久 之、獄 吏 引 一 人 至。曰、『 此 人 ヲ
C
ノ
ノ
くる
シム ダシ
コト クシテ ハク
一
ニハ
ニ
シ
レ
ダ
ルノ
ミト
一
二
かったようですが、これは、「交」の本来の意味を考慮せず、
】傍線部Aの返り点の付け方と書き下し文の問題。
文脈だけに頼った結果でしょう。
【問
】傍線部Bの解釈問題。
】空欄補充と理由説明問題。
しかレドモ
には蛇と牛が死罪を免れたことを意味する「得 レ免」
が入ります。ⅱの判決理由の説明問題では、無罪を主張して
空欄
分が裁判官に認められ、人間の言い分は退けられたことから、
ⅰの空欄補充の問題では、死刑を求刑された蛇と牛の言い
【問
よく出来ていました。
が決め手になります。正答率は %で、漢文の全問中、最も
以〜」(〜できる)
、
「自 贖」(自分自身で罪を償う)等の解釈
みづかラ あがなフ
しかに─ ではあるが、しかし〜)の構文や、
「功」(功績)
、
「可
ら続いている出題形式です。本問では「 誠 ─、 然 〜」(た
まことニ
かった上での高度な解釈力を見ようとするもので、一昨年か
問題文にはすでに訓点が付いていますが、これは読みがわ
【問
正答率は %と、ほぼ七割近い出来でした。
る」と読む受身の構文であることに気づけば簡単に解けます。
取っ付きにくいですが、
「為─所〜」が「─の〜する所と為
ず と 正 解 で き ま す。 白 文 で、 し か も 長 め の 文 な の で、 少 々
しく対応しているので、書き下し文の正誤を判断すればおの
五つの選択肢ともすべて返り点の付け方と書き下し文は正
2
[問題文]
メ
レ
初、起 知 登 州 、
未 幾、以 礼 部 員 外 郎 召。道
たまたま
A
ハク
B
中・偶・遇 二当・時・獄・官 、一甚・有 二愧・色 。一東・坡・戯 レ之
へテ
曰、「・
有 蛇 螫 殺 人、為 冥 官
所 追 議、
法 当 死。
レ
すすミ
タ
ニ
とフニ
一一
そんそうかん せいよ さ ろく
69
蛇 前 訴・曰、﹃
・
誠・有 罪
、
然・亦・有 功
、
可 以
・自・贖。
』
レ
レ
二
一
ハク
ナリト
冥 官 曰、『何 功 也。』
蛇 曰、『某 有 黄、
可 治 病、
所
いカス ニ
ひキテ
活 已 数 人 矣。』吏 考 験、固 不 レ誣 遂
レ
一
モ
タ
牽 一 牛 至。獄 吏 曰、『此 牛 触 殺 人。亦 当 死。』
二
ハク
シク
シテ
牛 曰、『我 亦 有 レ黄、可 二以 治 一病
、亦 活 二数 人 一矣。』
レ
スモ
良 久、
亦 一
クル
トキ かつテ
フ
生 常
殺 人、
幸 免
死
。
今 当 還
命。』
其 人 倉 皇
妄
一
レ
一
レ
レ
一 レ
レ
一
ルコト
言 二亦 有 一黄
。・
冥 官 大 怒、詰 レ之 曰、『蛇 黄・牛 黄 レ
⑵
一
(孫宗鑑『西畬瑣録』による)
─ 30 ─
X
((
皆 入 レ薬、天 下 所 二共 知。一・
汝 為 レ人、何 黄 之 有。』
((
左 右 交 訊、其 人 窘 甚 曰、『某 別 無 黄。但 有
いささ (注 (
カノ ざん くわう
レ
些 慚 惶。
』
一
85
X
3
4
x
((
のは誤解で」の部分は本文に照らして誤りですから、正解は
いる④と⑤を比較検討します。⑤の「人を殺してきたという
率は %ですから、まずまずの出来と言ってよいでしょう。
ユーモアがまったく理解できていないことになります。正答
④になります。正答率はⅰが %、ⅱが %でした。
】傍線部Cの理由説明問題。
67
明暗を分けた問題
!
63
後の役人の言葉から、その人がいい加減なことを言って自分
と、問6の反語の読みの問題の二つで、いずれも漢文の基礎
た
ては②の「何ぞ黄の之れ有らん」が
%ありました。なお、
して随筆の出題でした。しかし、理由説明の設問が二問あっ
なおざりになっているかの証左にほかなりません。誤答とし ここ数年、論説文の出題が続いていましたが、今年は一転
来年度以降の出題予想と対策
!
果をみればよくわかると思います。
いった基本的な知識も決して疎かにできないことは、この結
養成することは言うまでもないことですが、句形や重要語と
知識に関わる設問でした。今年の問題では、これらの基礎知
ラン
の罪を免れようとしたことにあるとわかります。正答率は実
】傍線部Dの書き下し文の問題。
レ
識の有無が明暗を分けたと言えるでしょう。漢文の読解力を
【問
カ
%と、全問中最低でした。これは基本句形の習得がいかに
句 形 の 知 識 が 威 力 を 発 揮 す る 好 例 と 言 え ま す が、 正 答 率 は
いう反語特有の形であることに着目すれば簡単に解けます。
傍線部は前後二文から成り、後の文が「何 ─ 之 有 」と
ノ
に %で、全問中、二番目によく出来ていました。
冥界の役人が怒った理由は、傍線部の直前の一文、及び直 正答率が半分にとどかなかったのは、問1の「交」の意味
【問
75
本来なら平仮名で記すべきでしょうが、他の選択肢との兼ね
も、 出 題 文 が ど う い っ た ジ ャ ン ル の 文 章 で あ れ、 筆 者 ( 話
「黄」に引っ掛けた駄洒落であることに気づくかどうかが鍵
めさせ、自家製の「漢文便覧」を作らせるのも一計でしょう。
る句法、重要語等を生徒自身にすべてピックアップしてまと
期す必要があります。具体的には、授業で扱う教材に出てく
句法、再読文字、重要語などの基礎知識の習得には万全を
者)の論理を読み取る読解力が要求されるでしょう。
】本文の主旨と表現上の特色に関する問題。
です。気づかなかった人は、本文の特色であるアイロニーや
文 末 の 悪 人 の 発 言 中 に あ る「 慚 惶 」 の「 惶 」 が、 同 音 の
【問
合いで漢字表記されているものと思われます。
正解の前文「汝は人為り」の「為り」は助動詞の用法なので、 たように、やはり論理的な思考力を問うてきています。今後
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