国 語

一 現代文・評論 (
解答・配点
点)
出典
つ な ぐ の か 」( 東 京 大 学 出 版 会『 人 文 知
唐 沢 か お り「 心 は い か に 自 己 と 他 者 を
から さわ
4点
↓だから
他者へのふるまい方や関係の持ち方は、 他者の心の中をどう読むか に 依存する
↓
どうしてよいかわからない不安・
↓
他者の心の中がまったくわからない
他者が望んでいることや行動を知ることができる
居心地の悪さにつながる
心の中を読み取る
他者が私にとって何をもたらす存在なのかが理解できる
私が他者にどう応ずるかを決めることができる
他者と共に生きる日常が円滑に回るためには、 他者の「心を読む」こと が必要とされる
心の中に起こる考え・感情・動機・意図などは主観的なものなので、
様々な手掛かりや方略を用いて、他者の心を推論する
− −
41
語
を専門とする。京都大学文学部哲学科卒。
唐沢かおりは一九六〇年京都生まれ。
社会心理学者。社会的認知に関する研究
1 心と言葉の迷宮』所収)
5点
5点
6点
東京大学人文社会系研究科教授。著書に
『幸せな高齢者としての生活』
(編著)
、
『心
と社会を科学する』
(共著)などがある。
~は形式段落を表す。)
2
字)
4点
の要請や場の雰囲気などの「外圧」に影響されているが、推論の際にはそれらの要因が勘案されず、行動からその背後に
ある心的な属性が過剰に評価される傾向がある。それは私たちが、心が人の「本質」で、様々な言動を生み出す源泉であ
り、言動はその人の心の状態に由来すると考えるからである。こうした過剰な心の推論は間違った他者理解を生み出す危
) 社会生活の基盤は、他者の「心を読む」ことである
・
険性もあるが、その人の本質を理解するうえでは合理的な方法であるとも言えると筆者は考えている。
・
以上の内容がどのように述べられているかを、三つの意味段落に分けて見てみよう。(
【一】(
1
=考えや感情、態度、動機、意図などを互いに読み取りあうことから生まれる相互作用の上に成り立っている
私たちと他者とのつながり
2
国
が人の~泉である
心
問四
問五
ウ
●本文解説
問六
とが不可欠だから。(
するためには、言動から即座に相手を理解できるこ
相互に心を理解し、それに応じてふるまうことで
社会生活を送る人間が他者との日常を円滑なものに
34
他者と共に生きる日常が円滑に回るためには、他者の「心を読む」必要があり、私たちは言葉・感情表出・行動など他
者が示す言動を手掛かりにして、その人の気持ちや特性や動機などを把握している。私たちの行動は、実際には他者から
77
6点(各2)
国 語
問一 ⓐ 譲(った)
ⓑ 勘案 ⓒ 妥当
問ニ 問三
30
他者が示した言動をもとに、その人の気持ちや特
性や動機を把握すること。( 字)
D
1
【二】(
〜
) 他者の心を推論するやり方の特徴
5
・
) 過剰な心的属性の推論の意義
7
問一 漢字の書き取りの設問。
ⓐ は「譲(っ た )」。「 自 分 の も の を 他 の 人 に 与 え る 」
「他を自分より先にする」などの意味がある。
ⓑは「勘案 」。「様々な事情や物事を考え合わせること」
という意味。
ⓒは「妥当 」。「適切である」「よく当てはまる」という
意味。
は、心を読むにあたってもっとも直接的な手掛かりと
なるものとして示されており、また直前の「言葉、感情表
出、行動など」を「言動」とまとめたものなので、「その
部分を目立たせて注目させる」効果をねらったものと考え
られる。
は、相手の発した言葉に用いられており、会話文を示
すものである。
は、「と呼ばれている」と続いているので、語句の紹
介である。「引用であることを示す」例と言える。
は、「『親切な行動』をしている人は、本当に『親切な
人』ではないかもしれない」という文脈中にあるので、一
て注目させる」「比喩・皮肉を込めた表現など、筆者が特
「会話文であることを示す」「タイトルであることを示す」
「 」が用いられた表現について、「 」を用いた意図を
とらえて分類する。一般には、「引用であることを示す」
傍線部①「『正しい』」を見てみると、「普通、私たちは
……そのまま『正しい』と信じる」という文脈にあり、本
表現である。
般的な意味の「親切な人」ではなく、特別な意味を込めた
。
「語句を区切ってわかりやすくする」「その部分を目立たせ
− −
42
別な意味を込めた表現であると言える。よって、正解は
当に「正しい」かどうかはわからないという点で筆者が特
いられる。
別な意味を込めた表現であることを示す」などの場合に用
問二 表現意図をとらえる設問。
A
B
C
D
●設問解説
【結論】過剰な心の推論は、間違った他者理解を生み出す危険性もあるが、
率的な他者理解の必要という、社会生活における重要な課題にこたえる点ではむしろ合理的(問五)
効
↓
・その人の「心の状態」〈=意図・態度・悟性・動機など〉でまとめることにより、その人の本質を把握できる
・目の前にいる他者がどのような人かを、表層的な言動ではなく、「言動を生み出す本質としての心」という点から
素早く把握することにつながる
●過剰な心的属性の推論の意義
他者を意味づけている(問四)
心が人の「本質」であり、様々な言動を生み出す源泉であるという枠組みの中で、
=
・他者の言動がその人の心の状態に由来すると考えてしまう
=
・他者の言動を手掛かりに、その人の心の中を読もうとするとき、その言動が外圧や状況要因ゆえのものであって
も、言動に対応する心をその人に付与してしまう
↓
行動からその背後にある心的な属性が過剰に推論されてしまう〈=「対応バイアス」〉
【三】(
他者からの要請や場の雰囲気などの状況の圧力や影響は勘案されにくい
行動の原因が行為者の内的・心的な属性にあると過剰に推論されがち
●推論の傾向
このような推論 を、私たちはほとんど無意識に行って、行為者の特性・態度・意図・動機などを把握する(問三)
↑
・行動にはその人の特性や動機が表れている
・表情を含む身体反応は、その人の感情状態を表現している と考える
・他者が自分の気持ちについて述べた言葉は正しい
他者が示す言動〈=言葉・感情表出・行動など〉が直接的な手掛かり
3
6
D
問三 指示内容の理解を問う設問。
段落冒頭にある指示語「このような」は、直前までの段
落で述べられた内容を指す。 段落の最後に「他者の心を
あり、
・
段落では言葉・感情表出(=表情を含む身体
推論するやり方にはどのような特徴があるのだろうか」と
2
抽象的なので、
・
段落から具体的にまとめること。
5
る内容も示しておこう。「心を読む」「心を推論する」では
以上から、言葉・感情表出・行動などの他者の言動が推
論の根拠になっていることがわかる。推論によって得られ
・行動→その人の意図、特性や動機が表れている
・感情表出→その人の感情状態が表現されている
・言葉→本人の気持ちが表れる
体例を交えて説明している。
反応)・行動をもとに、他者の心を読んでいることを、具
4
4
問四でみたように、本人の意思よりも外的要因が優先され
ている場合もあるので、言動から心を過剰に推論すること
は、間違った他者理解を生み出す危険性もある。それでも、
過剰な心の推論が社会生活における重要な課題にこたえる
ものとなるのはなぜか、ということが問われている。
他者理解の必要が社会生活における重要な課題であるこ
とは、 段落で次のように述べられている。
意図などを互いに読み取りあうことから生まれる相互作
・私たちと他者とのつながりは、考えや感情、態度、動機、
用の上に成り立っている
・ 他 者 と 共 に 生 き る 日 常 が 円 滑 に 回 る た め に は、 他 者 の
「心を読む」ことが必要とされる
社会生活を円滑に営むためには、互いに他者の考えや感
情、態度、動機、意図などを理解する必要があるので、他
者の言動からその心の中を推論することは理にかなってお
り、過剰な傾向にあるとしても、他者の行動から素早く他
者を理解することはむしろ合理的であるとも言えると筆者
解答のポイント
は述べているのである。
ⅰ 「 相互に心を理解し、それに応じてふるまうこと
で社会生活を送る人間が他者との日常を円滑なもの
にする」ということが書けていること。
ⅰのためには「言動から即座に相手を理解できる
ことが不可欠である」ということが書けていること。
ⅱ
した推論によることを終始一貫して述べている。
アは、「人間の他者理解が視覚に依存しがちであること
を示唆している」が不適。人間の他者理解は言動をもとに
問六 本文全体の表現と内容を問う設問。
況要因という「外圧」に左右されている部分も大きいのだ
段落にあるように、実際には私たちの
が、「言動から、心的な属性を推論し、そこに言動の原因
イ は、 指 摘 箇 所 は「 少 な く と も 私 た ち は そ う 考 え て い
る」「少なくとも把握した気になることができる」という
行動は「他者からの要請や場の雰囲気」といった事情や状
を見出す」ことが推論の標準的な方法論なので、そうした
み いだ
「外圧」は判断基準から排除されていることが多い。この
4
4
4
参加者は、それらのエッセイが強制的な圧力を受けて書か
ウは、ジョーンズとハリスの実験は、カストロについて
のエッセイを書いた作者の態度を推測させるもので、実験
いので不適。
するものである。「考えを一旦保留して」いるわけではな
「少なくとも」と補足することで、例外もあることを示唆
も の で、 い ず れ も 直 前 で 断 定 的 に 述 べ た こ と に 対 し て、
た表現が
【提示文】
4
人間 は、 と い う 前 提 の も と で し
か他者を認識しようとしない
段落】
4
4
4
4
4
4
4
れたものだと知らされても、内容通りの態度を作者が持つ
4
影響にあると判断するためには、「意識的に認知的労力を
と判断したというものである。行動の原因が状況の圧力や
4
払う」必要があるということを裏づける具体例となってい
る。よって、ウが正解。
エは、「初めに……筆者の結論を述べた後に」が不適。
本文冒頭では、「心を読む」ことは、社会生活を円滑に運
ぶために必要であることを述べており、導入部分と言える。
筆者の結論は、最終段落で述べられている。
− −
43
他者の言葉が本当に正しいものであるとは限らないし、
問五 傍線部の内容を説明する設問。
に、
「外圧」よりも「心的な属性」を重視するのである。
ることがわかる。それゆえに、言動の原因を推論するとき
「心が人の『本質』であり、様々
ここから、他者認識は、
な言動を生み出す源泉である」という考えを前提にしてい
いるということである
4
他者の言動がその人の心の状態に由来すると考えてしま
うことは、心が人の「本質」であり、様々な言動を生み
【
4
段落にあることに気づこう。
理由を問うている設問である。示された文の表現と類似し
べたものである。
傍線部③は、私たちが推論するとき、過剰なほどに行動
から行為者の心の中を推論してしまう傾向があることを述
問四 傍線部の理由の理解を問う設問。
ⅱ 「 その人の気持ちや特性や動機を把握する」とい
うことが書けていること。
ⅰ 「 他者が示した言動をもとに」ということが書け
ていること。
解答のポイント
る」という表現を用いてもよい。
段 落 の「 行 為 者 の 特 性 や 態 度、 意 図、 動 機 な ど を 把 握 す
3
5
1
3
7
出す源泉であるという枠組みの中で、他者を意味づけて
7
二 現代文・小説 (
解答・配点
問一 ⓐ ウ
ⓑ ア
問ニ ウ
問三
点)
字)
節 子 と 対 等 な 関 係 で あ り た い と 思 い な が ら も、
育った環境が大きく異なることに引け目を感じ、自
分を卑下する思いが生じている。(
問四
4点(各2)
出典
婚しないかもしれない症候群』がベスト
どを経て、一九九〇年に、エッセイ『結
さっぽろ
谷村志穂『いそぶえ』(PHP研究所)
ほ
3点
谷村志穂は一九六二年札幌市生まれ。
北海道大学農学部卒業後、雑誌編集者な
たにむら し
4点
6点
る。
み かん
に『海猫』『余命』『蜜柑と月』などがあ
ここは祖母のフクが小遣いをくれたことに対して、はじめ
よくよしない」「一つのことにこだわらない」という意味。
3点
セラーとなる。一九九一年『アクアリウ
字)
節子ともっと密接に結びつきたいと思いながらも、
節子が自分の思い通りにならないことにいらだちを
(
ムの鯨』で小説家デビュー。ほかの作品
イ
ま
は遠慮がちに「ええの?」と言った孝子が、素直に笑顔で
し
頭を下げた様子を言ったものなので、アが正解。
たか こ
主になるための修行をしている男性との恋に悩みながら、
傍 線 部 ① は、 小 遣 い を く れ た フ ク に「 少 し 遠 慮 し な が
ら」手を伸ばす孝子に、フクが「あわび一個やな」と言っ
海女として海で生きる決意をする姿を描いた小説。本文は
的 に は〝 小 遣 い を や る 代 わ り に、 あ わ び を 一 個 取 っ て こ
孝子が高校生の頃を描いた部分である。
第一場面
い〟ということだが、フクが「わざと下品に」、つまりい
た様子を述べたものである。「あわび一個やな」は、表面
中学三年の頃から少しずつ海女に交じっとて海に潜ってい
る孝子は、明日からの夏休みにはあわび獲りをして家計を
言い出せなかった。放課後、思い切って誘ってみるが、節
登ろうと誘うつもりだったが、勇気が足りず朝の時点では
節子を率直に認め合える相手だと感じる孝子は、鸚鵡石に
孝子は節子と待ち合わせて学校へ向かう。節子は教師の
家の一人娘で、孝子とは育った環境がまるで違っていた。
第二場面
いがっており、見返りを求めるような心情は描かれていな
しさも募る」とあることからも、フクは純粋に孫娘をかわ
ア は、「 機 会 に 乗 じ て …… 恩 に 報 い る よ う 念 を 押 そいう
と
と」が不適。8〜9行目に「一々癪に障るが、同時に愛お
る。よって、正解はウ。
なフクの気遣いに気づき、「屈託なく」受け取ったのであ
冗談であることを示すためであり、孝子が小遣いを受け取
かにもがめつそうに言ったのは、その言葉が本気ではなく
子にはピアノの稽古が入っていた。気落ちした孝子は、夏
い。 む し ろ、 恩 着 せ が ま し く し た く な く て 冗 談 め か し て
まぶ
りやすくするための配慮であると考えられる。孝子もそん
休みに遊びに来たいという節子に、海女をするから無理だ
言っているのである。
おうむ いわ
と言ってしまう。それでも屈託がない節子を、孝子は眩し
イは、まず「大げさに喜んでくれる」が、遠慮している
孝子の様子に合わない。また、フクに関する描写にも「気
恥ずかしくなり」に該当する要素はない。
エは、「孝子の心に負担を与えることがないように」は
正しいが、手伝いを頼むことが目的ではなく、孝子が小遣
いをもらうことを負担に感じないように、口実としてあわ
びを持ち出しているだけなので「手伝いを頼む際にも」が
語句の意味を問う設問は、その語句が本来持っている辞
書的な意味を基本として、文脈に沿ったものを選ぼう。
不適である。
問三 登場人物の心情を読み取る設問。
み
映画を観に家に来てほしいという節子の誘いに、自分も
行っていいのかと、孝子は無意識に聞き返してしまう。
「遠
− −
44
ⓑ「屈託(が)ない」は、「ささいなことを気にしてく
正解はウ。
気なので、「触る」ではなく「障る」と書くことに注意。
で、転じて腹が立つことを言うようになった。「癪」は病
しゃく
ⓐ「癪に障る」は、「気に入らなくて腹が立つ」という
意味。「癪」は胃けいれんなどで急に腹に激痛が走ること
問一 語句の意味の設問。
●設問解説
情に包まれ、どうにも切ない気持ちになる。
く感じ、本当に好きだと思う一方で、どこかひねくれた感
う孝子に、祖母のフクは小遣いを渡してやる。
せつ こ
助けるつもりでいる。今日は友達の節子と遊んでくると言
問二 登場人物の心情の理由を読み取る設問。
『いそぶえ』は、昭和三十年代の三重県志摩地方を舞台
に、幼い頃に海女の母を亡くし、大海女と呼ばれた祖母の
70
抑えられず、節子を素直に受け入れられないでいる。
59
もとで育った孝子が、伝統ある神社の跡取り息子として神
●本文解説
問五
20
傍線部②の前では、孝子と節子が「まるで違った環境」
で育ったことが述べられている。孝子は中学を卒業した女
なのかを、二人の関係性に着目して考える。
慮というのとは少し違う」とあるので、遠慮でなければ何
ⅰ
解答のポイント
を素直に受け入れられないでいるのである。
る。「どこかひねくれた感情」を抱いている孝子は、節子
べたからである。そして、孝子の傍線部③の行動につなが
節子に対する思いとして、「節子ともっと密接に
結びつきたい」などということが書けていること。
子がほとんど海女になる海辺の集落に育ち、祖母と暮らし
ているが、教師の家の一人娘である節子は、畑が広がる町
ⅱ 「 節子が自分の思い通りにならないことにいらだ
ちを抑えられない」ということが書けていること。
で、映画の上映会で近所の人が集まってくるほど大きな家
に両親と裕福に暮らしている。節子は文化的な環境に育ち、
ⅲ
~
行目)、「節子の笑い
孝子は「節子と対等な関係でありたいと思ってい
る」ということが書けていること。
考 え た 理 由 を、「 鸚 鵡 石 で、 節 子 と 名 前 を 呼 び 合 う の に
にしたかったからである。傍線部④は、鸚鵡石に登ろうと
になってしまう前に、節子との結びつきをより密接なもの
わったのは、夏休みになって孝子が節子とは別世界の住人
いう部分は、節子のいる世界との隔絶を意味していると考
ⅰ
している。この点について、「節子を自分の側に引き寄せ
ることにこだわり、……強く望んでいた」と説明したイが
……執着した」からなのだと孝子自身が気づいたことを表
人の「育った環境が違う」ということが書けて
二
いること。
正解。その理由として「生活環境が大きく異なる節子に対
する心理的な距離感をぬぐい去るため」という説明も妥当
である。
「決して節子のせいではない」とあることに注意しなけれ
見 え る が、 前 後 に「 そ の 心 根 が 本 当 に 好 き だ と 思 っ た 」
う誘いを断られたことで節子に対して怒っているようにも
は言えない。
生活の傍らで海女仕事によって家計を助けている」とまで
ウは、「節子だけは親友として自分が独占するのだ」が
言い過ぎ。また、孝子は夏休みだけ潜るのだから、「高校
いとは思っていない。
から、孝子は「海女として海辺で暮らすことから逃れ」た
アは、「生活の格差に傷つき悩む」が言い過ぎ。また、
「潜り始めると……忘れてしまう」ほどに没頭できるのだ
ばならない。「節子のせいではない」のだから、原因は孝
エ は、「 自 分 自 身 の 境 遇 が う ら め し く て た ま ら な か っ
た」が、本文にない内容で不適である。
− −
45
感じたのは、心とは裏腹なことを口にしてしまう自分と比
んな節子を本当に好きだと思う。節子の素直さを眩しいと
ある。だが、節子は「どこまでも屈託がない」。孝子はそ
にしてしまう。自分の感情をコントロールできない状態で
ならないことにいらだった孝子は、心とは裏腹なことを口
節子ともっと仲良くなりたくて鸚鵡石に誘ったのだが、
節子はピアノの練習で行けないと言う。自分の思い通りに
……孝子を時々包む、どこかひねくれた感情
・ ど う に も 切 な い 気 持 ち …… 決 し て 節 子 の せ い で は な い
……その心根が本当に好きだと思った
・どこまでも屈託がない節子が、孝子には少し眩しかった
たのに、孝子は心と裏腹なことを口にする
・ついさっきまで、節子を連れて潜ってみたいと思ってい
れている部分を探そう。
子自身にあるのである。傍線部③前後で、孝子の思いが表
節子を置いて先にどんどん坂を降りていくという傍線部
③の孝子の行為だけを見ると、鸚鵡石に一緒に行こうとい
問四 登場人物の心情を読み取る設問。
ⅲ
ⅱ
ⅱのために、孝子が「節子に引け目を感じ、自分
を卑下している」ということが書けていること。
解答のポイント
をとらえよう。
節子に対して、率直に認め合える相手だと思いながらも、
「潜り始めると、自分は何でも忘れてしまう」「友達の心
を好きだと思う気持ちも、どうでもよくなってしまう」と
問五 登場人物の心情を説明する設問。
ⅱのために、「節子を素直に受け入れられないで
いる」ということが書けていること。
孝子は生きることと密接に結びついた環境に育ったと言え
行目)と思っているが、傍線部②のような自分を卑下
る。 孝 子 は 節 子 を「 率 直 に 認 め 合 え る は じ め て の 相 手 」
(
なと……飲み込んでしまう」(
行目)はその表れである。
69
え ら れ る。 孝 子 が 節 子 と 一 緒 に 鸚 鵡 石 に 登 る こ と に こ だ
71
自分を卑下して引け目を感じてしまうという矛盾した心情
声で、孝子の心も解ける」(
68
ら、節子に引け目を感じているためである。「期待をする
する言葉が無意識に出てしまうのは、育った環境の違いか
58
三 古文 (
解答・配点
点)
問一 ⓐ エ
ⓑ イ
問ニ 尊敬 完了
問四
かったから。(
問五
字)
領を射抜いた矢が短く、海賊には見慣れないも
首
のだったから。( 字)
ウ
問六
かど べ の ふ
しょう
●本文解説
せち
い
た袋を拾いながら笑っていたと続く。
のりゆみ
立ちはだかるとは無謀な奴らよ」と、海賊が落としていっ
が逃げ去った後、府生は不敵な笑みを浮かべて「俺の前に
とり、ゆったりと弓を射るさまの対比がおもしろい。海賊
従者たちが恐怖に駆られて慌てふためくさまと、府生が
儀式用の装束を身に着けた正式ないでたちで、作法にのっ
去ってしまった。
れない矢で射られた海賊は、神の矢だと恐れをなして逃げ
騒がず儀式用の短い矢で海賊の首領の目に射当てた。見慣
へ帰る途中、瀬戸内海で海賊に襲われたが、府生は少しも
いに選ばれて地方に下る。首尾よく多くの力士を集めて京
躍した府生は、「相撲の節」に出場する力士を募集する使
すまい
ほどであった。そのような練習の甲斐あって賭弓競技で活
か
て弓の練習に励み、家に住めなくなって隣家に転がり込む
門 部 府 生 と い う、 内 裏 の 門 を 警 護 す る 役 人 の 武 勇 伝 で
ある。府生は弓射が好きで、夜も家の建材をともし火にし
29
50
府生が、海賊に立ち向かおうとしながらも賭弓の
儀式のように装束を整え始めた行動が理解できな
この家もきっと壊して焼くだろう。
問三
B
30
う
じ
出典
しゅう い
もの
がたり
『宇治拾遺物語』
6点(各3)
4点(各2)
『 宇 治 拾 遺 物 語 』 は、 鎌 倉 時 代 前 期 に
成立した説話集。編者は未詳。一九七話
台にした多様な説話が収められている。
似の説話など、日本・中国・インドを舞
ている。仏教説話、世俗説話、民話と類
からなり、会話文の多い和文体で書かれ
4点
7点
5点
4点
府生が「連れている者=従者」の意。よって、正解はイ。
問二 助動詞の文法的意味についての設問。
「させ」は使役・尊敬の助動詞「さす」の連用形。上
に「~に・~をして」など使役の対象を表す語句がある
ときや、身分の高い人に使われる人物の存在が想定でき
たま
るときは使役の意。また、尊敬の場合は下に尊敬の補助
動詞を伴って「させ給ふ」「させおはします」となるこ
とが多い。ここは「~させ給ふ」の形で、海賊船を見つ
けた「具したる者」が、府生に「いかが(どのように)
……べき」と質問しているところなので、尊敬の意であ
る。
「ね」には、完了の助動詞「ぬ」の命令形、打消の助
動詞「ず」の已然形、ナ行変格活用動詞の命令形活用語
こ
尾、下二段活用動詞「寝(ぬ)」の未然形・連用形があ
形であり、「ね」が言い切りの形で文末にあることから、
る。ここは「ね」の上が「漕ぎもどり」と活用語の連用
完了の助動詞「ぬ」の命令形であると判断しよう。府生
の 射 た 矢 を 見 た 海 賊 が「 神 の 矢 だ っ た の だ 」 と 思 っ て
である。「おのおの」は多人数を指す代名詞。「早く早く、
ある じ
「とくとく(早く早く)」と言いながら逃げたという場面
かえ
方には罰酒が課された。勝ち方の大将が味方の射手を自邸
みんな漕ぎ戻ってしまえ」と呼びかけているのである。
覚えよう! ――「ぬ
」「ね」の識別
完了の助動詞「ぬ」の終止形「ぬ」、命令形「ね」
→連用形に接続。
打消の助動詞「ず」の連体形「ぬ」、已然形「ね」
→未然形に接続。
ナ行変格活用動詞の終止形活用語尾(ぬ)、命令形活
「ね」
用語尾(ね)
い
い
→上に「死」か「ぬ往・去」がある。
下二段活用動詞「寝」の一部(ぬ)、未然形・連用形
る」、②「一緒に行く・つき従う」、③「夫婦となる」意、
→「寝る・眠る」という意味。
− −
46
務の途中で、府生とともに舟に乗っている者のことなので、
「持って行く」意を表す。ここは「相撲の使ひ」という公
他 動 詞 な ら ④「 備 え る 」、 ⑤「 連 れ て 行 く・ 従 え る 」、 ⑥
ⓑ 「具し」はサ行変格活用動詞「具す」の連用形。「具
す」には自動詞と他動詞があり、自動詞の場合は①「備わ
手として召し出されたのである。よって、エが正解。
の意。弓を射るのがうまいと評判になったので、賭弓の射
あり」という時の「聞こえ」は名詞で、「評判・うわさ」
問一 語句の意味を確認する設問。
い
ⓐ 直後に「召し出だされて、賭弓つかうまつる」とあ
ることに着目。「よく射る」は「上手に射る」意、「聞こえ
●設問解説
に招いて祝宴を催すことを「賭弓の還り饗」という。
賭弓」では射手が左右に別れて射技を競い、勝っ
なお「
のり もの
た方に賭物(勝負ごとに賭ける賞品)が与えられ、負けた
A
B
A
傍線部①の「こぼち」は、原形がなくなるほど「壊す・
崩す」意のタ行四段活用動詞「こぼつ(こほつ)」の連用
問三 現代語訳の設問。
ⅱ
ⅰ
解答のポイント
建材を弓の練習のために燃やし尽くした府生が隣家に転が
の場合は「~てしまおう」などと訳す。ここは自分の家の
の意味が推量の場合は「きっと~てしまうだろう」、意志
動詞「ぬ」に推量の助動詞が接続した形である。「むず」
たものである。「矢を抜きて見るに……物なり」と、その
の矢は、府生が放ち、海賊の首領の左目に突き刺さってい
とは、「矢を抜きて見るに……物なり」を受けている。こ
傍線部③は「神の矢だったのだ」という意味。海賊がこ
のように言ったのは、「これ」を見たからである。「これ」
問五 傍線部の理由を把握する設問。
にそぐわないⅱの行動が、従者たちには「理解
ⅰ
できなかった」ということが書けていること。
ⅲ
府生が「賭弓の儀式のように装束を整え始めた」
ということが書けていること。
府生が「海賊に立ち向かおうとした」などという
ことが書けていること。
形。ポイントは「なむず」である。「な/むず」と分ける
か、「なむ/ず」と分けるかで迷ったかもしれないが、「な
む」という語は助詞しかなく、「ず」は活用語の未然形に
接 続 す る の で、 助 詞 に 続 く こ と は な い。 よ っ て、 こ こ は
「 な / む ず 」 と 分 け て 考 え る。「 な / む ず 」 は「 な / む 」
り込んだため、隣家の家主が「この〈=自分の〉家もきっ
前後にある矢の描写に着目しよう。
「ぬ/らむ」「ぬ/べし」などと同じく、強意(完了)の助
と壊して焼くだろう」と考えているところである。「こぼ
た
ち焚く」の主語は府生で三人称であるから、「むず」は推
・いたつき
→塵ほどのもの・わずかばかりのもの
・うちある矢にもあらざりけり
ちり
→本格的に戦闘をする時の矢とは違う
・ちりばかりの物
→先がとがっていない、練習や儀式に用いる矢じり
・うるはしく戦ひなどする時のやうにもあらず
量の意に訳す。
解答のポイント
ⅰ 「 こぼち焚き」を「壊して燃やす」意で訳出でき
ていること。
ⅱ
「 なむず」を「きっと~だろう」「~に違いない」
などと訳出できていること。
→ありふれている矢ではない
その意外さを捉える。理由を問う設問では、まず前に「已
傍線部②は、「これは気が狂いなさるか」という意味。
従者たちがあまりに意外に感じているということである。
見たことがないのは当然で、とても武器とは思えない小さ
の小弓なので矢も小さい。海賊が宮中行事に使う弓矢など
使ったのは、人を傷つけることを目的としていない賭弓用
の長弓で、もちろん先もとがっているはずである。府生が
これらの描写から、府生が放った矢は海賊にとって見慣
れない矢であったことがわかる。海賊が使う弓矢は戦闘用
然形+ば」などの理由を表す表現がないかを探そう。ここ
な矢だったこと、しかもその矢が首領の目を的確に射抜い
問四 傍線部の理由を把握する設問。
では「あるべき定にしければ」(「ければ」=過去の助動詞
容を確認しよう。
たことから、海賊は「神の矢」だと感じて恐れおののいた
ぢやう
「けり」の已然形+「ば」)が見つかる。そこでその前の内
のである。
問六 内容合致の設問。
が、海賊には「見慣れないものだった」という
ⅰ
ことが書けていること。
ⅲ
ⅰについて、「戦闘に不向き」「短い(小さい)」
などということが書けていること。
ⅰ 「 首領を射抜いた矢」ということが書けていること。
ⅱ
解答のポイント
・従者が海賊の舟を見つける。
・府生は「一千万人の海賊がいるとしても、すぐに(自
分がすることを)見よ」と言って、賭弓の装束や冠を
取り出して身に着け、決まりどおりにした。
海賊に襲われそうになっている時に、勇ましいことを言
いながら宮中行事である賭弓の衣装を身に着け始めた府生
の行動は予想外で、何をしようとしているのか従者たちに
たて
は理解できなかったのである。傍線部②の後に「かなはぬ
葉があることからも、府生の行動が、とても海賊に対抗す
アは、「めったにない出世をするであろうと期待して応
援していた」が合致しない。問三で見たように、隣家の主
までも、楯つきなどし給へかし」という「従者ども」の言
るつもりがあるとは思えない行動だったことがわかる。
人は府生が自分の家の建材まで燃やしてしまうのではない
かと気をもんでいたのである。
イは、「全員での降伏を早々に決意した」が合致しない。
「千万人の海賊ありとも、今見よ」は交戦を決意した言葉
である。
− −
47
え)たところ、海賊の首領の者が、黒ずんだ着物を着て、
上げて、少しの間を置いて(弓を)さっと高く上げ(て構
赤い扇を開いて使って、「さっさと漕ぎ寄せて、乗り移っ
ぶ
ウは、「今は四十六歩に寄り来にたるか」「いかに、かく
寄り来にたるか」という府生の言葉に合致する。賭弓で弓
こ
を射かけるのに四十六歩がちょうどよい距離なので、府生
目をやると、この〈=府生が放った〉矢は、目にも留まら
(矢を)放って、弓を倒して(矢の飛んで行った方向に)
慌てることなく、(弓を十分に)引き絞って、ゆったりと
は海賊の舟がその距離まで近づくのを待っていたのである。 て、(積み荷を)奪い取れ。」と言うけれども、この府生は
エは、「次々と矢を放った」が合致しない。府生が矢を
放ったのは 行目の「とろとろと(ゆったりと)放ちて」
ない(速さ)で、首領の海賊がいた場所に飛び込んだ。驚
いたことに(首領の)左の目に(先がとがっていない)儀
式 用 の 矢 じ り の 矢 が 突 き 刺 さ っ た の だ っ た。 海 賊 は、
まった。矢を抜いて見ると、本格的に戦闘などをする時の
「ぎゃっ。」と言って、扇を投げ捨てて、仰向けに倒れてし
( 門 部 府 生 は ) 床 板 や 床 板 を 支 え る 横 木 ま で も す べ て
割って燃やして(自分の家には住めなくなり)、隣の人の
さい〉ものである。これ〈=首領の目に刺さった矢〉をこ
(矢の)ようでもなく、(儀式用の)塵ほどの〈=ほんの小
しょう
家に泊まったので、(隣家の)主人は、この人〈=府生〉
ままではいませんので)、待って(いて)ください。」など
はこのような状態でいる〉けれども(、いつまでも貧しい
ろう。」と思って嫌がるが、「そのようにばかりある〈=今
てしまった。
て、「早く早く、みんな漕ぎ戻ってしまえ。」と言って逃げ
ている矢ではなかったのだ。神の矢だったのだ。」と言っ
の海賊たちは見て(仰天して)、「なんと、これはありふれ
せち
− −
48
て、作法どおりに弓を射るための姿勢を取り、弓を頭上に
いているでしょう。」と言うときに、(府生は)上屋形に出
うわ や かた
(府生が)言うと、(従者たちは)「きっと四十六歩に近づ
このように〈=四十六歩の距離に〉接近してきたか。」と
怖にかられて)、胃から黄色い水を吐き合った。「どうだ、
るまでもない〈=距離をはかるどころではない〉。」と(恐
か。」と言うと、従者たちは「そもそもどうにも申し上げ
(の弓を射かけるのにちょうどよい距離)に接近してきた
して、屋形の上に立って、「もう(海賊の舟は)四十六歩
ぶ
(府生は)格式ばって身支度をして、肩を脱いで(下衣
を出して)、右の方や、背後を(敵がいないかと)見まわ
ぎ合った。
などしてくださいよ。」と、(やきもきして)いらだって騒
さるか。かなわないとしても、手向かう(くらいの)こと
れたとおりにしたので、従者たちは、「これは気が狂いな
きちんと装束をつけて、冠や、懸緒なども、作法で決めら
かけ お
張りの行李から、賭弓の時に着ていた衣服を取り出して、
こう り
ても、すぐに(自分がすることを)見よ。」と言って、革
は、「者ども、うろたえるな。一千万人の海賊がいるとし
なさるのでしょうか。」と言うと、この門部府生が言うに
舟々は、海賊の舟々でございましょう。これはどのように
て い る 者 が 言 う こ と に は、「 あ れ を、 ご 覧 な さ い。 あ の
るところであり、(そこを)通り過ぎて行くころに、連れ
都へ向かったところ、かばね島というところは海賊の集ま
(やがて)優れた力士たちを多く誘い出した〈=招集で
きた〉。また数えきれないほど(地方の名産の)物を得て
行った。
に 諸 国 に 派 遣 さ れ る ) 使 者 と し て( 任 命 さ れ て ) 地 方 に
は(賭弓の勝者となって)相撲の節の(力士を集めるため
すまい
と、見事に射たので、帝が感心してお褒めになり、最後に
みかど
との評判が立って、召し出されて、賭弓を務め申し上げる
のりゆみ
と言って過ごすうちに、(府生は)弓射の技が優れている
ちり
の様子を見ると、
「この家もきっと(府生が)壊して焼くだ
かど べ の ふ
●現代語訳
のっとったものである。
とある一度だけである。それまでの動作は儀式用の作法に
13
四 漢文 (
解答・配点
点)
とも(ニ)
ⓑ つく(ル)
ⓐ
問一
問四 鴻をして伝せしむ。
問五 ( 玄宗皇帝と楊貴妃との悲恋物語への感動を詠ん
だことに加えて、)楊貴妃の美しさが騒乱の契機と
おうしつ ふ
はくらくてん
字)
45
4点(各2)
出典
『長恨歌伝』
はくきょ い
3点
作者は中唐の史学者、陳鴻。白居易が
詠んだ「長恨歌」の解説として書かれた
ちんこう
4点
もの。
か でん
4点
ちょうごん
5点
う作品に送り仮名「ヲ」がついて「為」の目的語となって
いることから、「つくル」と読んで「作る」の意。
3~4行目「意者……者也」が作者の考えを述べた部分、
夫……長恨歌」は白居易が「長恨歌」を書いたいきさつ、
「長恨歌」が生まれたことを述べたもの。1~3行目「質
⑤「をさム」(治める)
④「つくル」(作り出す・文章を書く)
③「(~ト)なル」(~に変わる・~になる)
②「(~ト)なス」(~と見なす・~と考える)
ひ
①「(~ヲ)なス」(~を行う・~をする)
覚えよう! ――「為
」の用法
【動詞として読む場合】
末文の「歌既成、使鴻伝焉」は「長恨歌」が完成して、作
【前置詞として読む場合】
よう き
して残さないと忘れられてしまう。玄宗皇帝と楊貴妃に関
者が物語(『長恨歌伝』)を書いたことを述べたものである。
⑦「たリ」(~である)※断定
【助動詞として読む場合】
おもふに
3~4行目の「意者……者也」では、白居易が「長恨歌」
をつくった動機について、単に二人の悲恋に感動したから
としたいと考えたのだろうという作者の見解を述べている。
問二 解釈の設問。
⑧「る」「らル」(~される)※受身
傍線あ部①を書き下すと、「世に出づるの才の之を潤色す
るに遇ふに非ずんば」となる。「世に出づるの才」は、直
い
問一 語句の読みに関する設問。
訳すると「世に出る才能」だが、この「出」は「出色・出
ト
ⓐ 「与」は頻出の多訓多義語。文脈や送り仮名を踏ま
えて最適の読みを考える必要がある。ここは「ニ」と送り
世」などの熟語の「出」と同じで「優れている・抜きんで
た
仮名があり、「時
」から返読しているので、「時と一緒に・
ている」という意味。「潤色」は「文章などを飾って、美
しく仕上げる」意。よって、傍線部①は「優れている才能
がこれを美しい文章に仕上げる機会にめぐりあうのでなけ
れば」ということになる。「之」は、指示内容は原則的に
直前にあること、この部分が王質夫の発話の冒頭であるこ
とから、傍線部①の直前の「希代之事」を指す。「希代」
王質夫と白居易の三人が話題にしている、玄宗皇帝と楊貴
は「世にもまれな・非常に珍しい」という意味で、作者と
【接続詞・前置詞的な用法の場合】
う
妃のことである。また、傍線部①に続く部分は、「時が経
つにつれて消え失せてしまい、世に伝わらない」という内
容であるから、王質夫は、〝玄宗皇帝と楊貴妃の物語のよ
うな世にまれな出来事は、優れた才能を持つ者が文章にし
【終助詞として読む場合】
ないと、時とともに忘れ去られてしまう〟と言いたいのだ
ということがわかる。よって正解は、「出世之才」を「そ
の時代の優れた者」、「之=希代之事」を「滅多にない出来
− −
49
ⓑ 「為」も頻出の多訓多義語。ここは「長恨歌」とい
⑥「や」「か」「かな」(~か・~だろうか、いや、~な
い・~なあ)※疑問・反語・詠嘆を表す。
⑤「よリハ」(~より)
④「と」(~と)※「A与 B」という形で並列を表す。
③「ともニ」(~と一緒に)
【副詞として読む場合】
②「くみス」(味方する・加担する・助ける)
①「あたフ」(与える・授ける)
覚えよう! ――「与
」の用法
【動詞として読む場合】
む。
時が経つにつれて」という意味で「(時ト)ともニ」と読
●設問解説
⑥「ためニ」(~だから・~のために・~に対して)
ではなく、美女が国を傾けることを警告し、後世への教訓
げんそう
する詩をつくってみないか〟と言ったことがきっかけで、
本文は、作者の友人の王質夫が白居易(白楽天)に〝世
にもまれな出来事は、優れた才能を持つ者が美しい文章に
●本文解説
訓として書かれた(ものだと考えている。)(
なったことを指摘し、これからの世の中に対する教
問ニ イ
問三 ウ
20
いるイである。
事」、「潤色」を「巧みな表現を用いて書く」意に解釈して
注から、「懲 尤物 」は美人であることで男性の心を惑
わせる罪を戒めること、「窒 乱階 」は騒乱の発端をなく
者なり」の部分を解釈すればよい。
感動を詠んだことに加えて」の部分に当たるので、
「亦た~
ヲシテ (セ)
しつ ふ
さけ
●書き下し文
な
ふか
そ
ふさ
こう
しつ ふ
とき
じやう
こと
とも
あつ
かん
しやうらい
でん
まへ
せう ぼつ
もの
あ
らく てん よ
た
はく
成り、鴻をして伝せしむ。
おう
●現代語訳
い
じゆん しよく
よ
こころ
ほつ
き
ため
ちやうごん
ま
か
もの
そ
これ
つく
いうぶつ
はく きょ い
う
き だい
らく てん
うた
こ
おもふに
うた すで
よう き
ひ
者である。試しに私のためにこれ〈=玄宗皇帝と楊貴妃の
げんそう
に伝わらない。(白)楽天は、詩作に長け、感情が豊かな
た
うのでなければ、時が経つにつれて消え失せてしまい、世
た
章を飾って美しく仕上げ(て物語にす)る機会にめぐりあ
出した才能を持つ者がこれ〈=世にもまれな出来事〉を文
(王)質夫は、酒杯を(白)楽天〈=白居易〉の前にか
かげて言った、「そもそも世にまれな出来事は、一代に傑
らく てん
乱 階 を 窒 ぎ、 将 来 に 垂 れ ん と 欲 す る 者 な り。 歌 既 に
らん かい
但だに其の事に感ずるのみならず、亦た尤物を懲らし、
た
ことを。如何。」と。楽天因つて長恨歌を為る。意者、
いかん
詩 に 深 く、 情 に 多 き 者 な り。 試 み に 為 に 之 を 歌 は ん
し
ん ば、 則 ち 時 と 与 に 消 没 し、 世 に 聞 こ え ず。 楽 天 は、
すなは
挙げて曰はく、「夫れ希代の
こと質夫はよ酒をい楽天の前さに
い
これ
あ
あら
事 は、 世 に 出 づ る の 才 の 之 を 潤 色 す る に 遇 ふ に 非 ず
らく て ん
ⅱ 「 これからの世の中に対する教訓とする」という
ことが書けていること。
ⅰ 「 楊貴妃の美しさが騒乱の契機となった」という
ことが書けていること。
解答のポイント
主が色香に溺れて国の乱れのもとになるような
なお、君
けいせい
けいこく
美人を「傾城」「傾国」と言う。
として書いたのだろうと、作者は考えているのである。
乱の発端となったことを描き、戒めとして後世へ伝えよう
「将来に垂れ」ようとした、つまり、楊貴妃の美しさが騒
させることとわかる。白居易は「懲 尤物、窒 乱階 」を
ア・ ウ・ エ は、 い ず れ も「 出 世 之 才 」「 希 代 之 事 」「 潤
色」の解釈が間違っている。
問三 内容説明に関する設問。
王質夫が白居易を評したものである。「詩に
傍線部②は
あつ
深く、情に多き者なり」と書き下せる。傍線部②の前文で
優れた才能を持つ人間(「出世之才」)が書くべきだと言い、
後文で「試みに為に之を歌はんことを」と勧めていること
から、王質夫は白居易を「出世之才」と評している、つま
り詩人として高い評価を寄せているということがわかる。
「詩に深く」は「詩に造詣が深い(深い理解や優れた技量
をもっている)」こと、「情に多き」は、「あつキ」という
読みから、「感情が豊か・豊かな感性を持つ」という意味
だと考えればよい。以上より、正解はウ。
アは、「形式を重んじた詩を詠むことに執着」が批判的
な内容であるうえに、ここでは詩の形式は問題になってい
ないので不適。
イは、「いろいろなことに気が移りやすい」がよい評価
とは言えないので不適。
エは、「自らの思いを詩に重ねた作品をつくり」では詩
の才能を高く評価したものとは言えないので不適。「情に
多き」の解釈も、エ「心優しい」よりウ「豊かな感性を持
つ」の方が適切である。
問四 書き下しの設問。
ム
傍線部③には「使」があり、設問文に示された意味中に
も「書かせた」とあるので、使役形の文である。「鴻」は
作者の名前であるから、使役の基本形「使
A B 」に当
てはめよう。
ム
ヲシ
テ
(セ)
=「AヲシテB(セ)しム」
「使 A B 」
にBさせる)
ム (A
ヲシテ セ
」=鴻に物語を書かせた
「使 鴻 伝 焉
その事件に感動するだけではなく、美人であることで男性
(白)楽天はそこで「長恨歌」をつくった。思うに、ただ
物語〉を詩につくってみてほしい。どうだろうか。」と。
使役の対象(A)が「鴻」、使役の行為(B)が「伝」
である。「伝」は、終止形が「伝す」であると設問文に示
の 心 を 惑 わ せ る 罪 を 戒 め、 騒 乱 の 発 端 を ふ せ ぎ、 後 世 に
してあるので、サ行変格活用動詞。未然形「伝せ」に活用
これ
さ せ、「 鴻 を し て 伝 せ し む 」 と 書 き 下 す。 な お、「 焉 」 を
(教訓を)表し示そうとするものである。詩ができあがっ
伝せしむ」と書き下しても可。
いうぶつ
こ
ふさ
てから、(王質夫と白楽天は)私に物語を書かせた。
「焉に」または「焉を」と読んで、「鴻をして焉に(焉を)
問五 作者の考えの理解を問う設問。
ま
作 者 の 考 え が 述 べ ら れ て い る「 意 者 …た… 者 也 」 か ら、
「意者(思うに)」以下を書き下すと、「但だに其の事に感
垂れんと欲する者なり」となる。「但だに~のみならず」
ずるのみならず、亦た尤物を懲らし、乱階を窒ぎ、将来に
の部分は、提示文の「玄宗皇帝と楊貴妃との悲恋物語への
− −
50
五 古文 (
解答・配点
点)
問一 ⓐ エ
ⓑ ア
問ニ 過去 打消推量
ア
問五
である。
字)
持って災害に備えている為政者が少ないことを嘆いた文章
に数えられた「享保の大飢饉」を取り上げ、長期的展望を
舞われ
享保十七(一七三二)年は、全国規模で凶作にき見
きん
て、十万人近い餓死者を出した。この江戸四大飢饉の一つ
きょうほう
●本文解説
うこと。(
父母のように慈愛に満ち、民衆のことを優先し長
期的な視野を持って政治を行う為政者が少ないとい
問四
かろうじて種もみを収穫して残すものもあり、
問三
B
20
49
4点(各2)
『たはれ草』
出典
ぐさ
4点(各2)
しゅう
れ 草 』 は、 江 戸 時 代 中 期 の 儒 学
『 たあは
め もり ほう
し
者、 雨 森 芳 洲 に よ る 和 文 の 随 筆 集。 雨
つしま
森芳洲は朝鮮語、中国語に通じ、対馬藩
の
3点
4点
5点
り
きっ そう さ
わ
に仕えて李氏朝鮮との外交にあたった。
践好沿革志』などがある。
著 書 に 漢 文 の 随 筆 集『 橘 窓 茶 話 』『 朝 鮮
述べている。正解はア。
問二 助動詞の文法的意味についての設問。
「しか」は、下に已然形に接続する接続助詞「ど」
が続いていることから、「せ・○・き・し・しか・○」と
活用する過去の助動詞「き」の已然形。「凶作の年があっ
あったが、できなかったものもあって、米の値段が急騰し、
州 で 苗 が 全 滅 し、 か ろ う じ て 種 も み を 収 穫 で き た も の も
しているところなので、打消推量の意である。
人」が「何もしないで傍観する以外にないだろう」と推量
消 意 志 の 助 動 詞「 じ 」 の 終 止 形。 こ こ は「 国 を た も て る
「じ」はラ行変格活用動詞「あり」の未然形に接続
し、文末にあって言い切りの形であるから、打消推量・打
たが」と過去の意になる。
多くの餓死者が出た。その影響は全国に広がって、上級武
問一 語句の意味を問う設問。
ろく
ち
こく
のもある」という意味だと見当をつけられる。種もみが取
なへるもあり」との呼応から、「種を取ることができたも
る。「種をとりとどむるもあり」と直後の「種ともにうし
問三 現代語訳の設問。
傍線部①は、青く小さい虫(稲などを枯死させる害虫の
ウンカ)が田畑につき、苗が枯れたことを述べた部分にあ
→主語が一人称(語り手自身)の場合
→主語が自分以外の場合
②打消意志を表し、「~ないつもりだ」「~まい」と訳
す。
覚えよう! ――「じ
」の意味の見分け方
①打消推量を表し、「~ないだろう」「~まい」と訳す。
B
あたひ
「豊年のみつづきて……米の価のいやしきをうらみ」とあ
るのは、米の一部はその時の米価に応じて金銭で支払われ
ていたため、豊作で米価が下がると収入が減るからである。
正解はエ。
ⓑ 「手をつかぬ」は、現代語の「手をつかねる」「手を
こまぬく」と同じで、「傍観するだけで何もしない」とい
う意味。凶作への備えをしていない国では、民が飢えに苦
解答のポイント
ⅰ 「 やうやう」を「やっと」「かろうじて」などと訳
出できていること。
ⅱ
「 種 を と り と ど む る 」 を「 種 も み を 収 穫 し て 残
す」などと訳出できていること。
− −
51
しんでいても救済策がなく、ただ見ているしかないことを
③の意。「とどむ」は「(後に)残す」意。
これは現金などの他に支給される扶持米の量を表したもの。 「やうやう」は、①「しだいに・だんだん」、②「しずし
ずと」、③「やっと・かろうじて」の意があるが、ここは
現として「○○俵○人扶持」「○○石取り」などというが、 れないと来年まく種子がないので、深刻な問題なのである。
ぶ
ⓐ 「 禄 」 は、 武 士 な ど が 受 け る 給 与 の こ と。「 禄 を は
む」は俸給をもらって生活することである。禄高を表す表
●設問解説
えているのである。
先々のことに対する配慮がない為政者が多い証拠だ、と考
を行っていなかったためであり、目先のことばかり考えて、
たのは、ほとんどの国(藩)の為政者が凶作に対する備え
為政者は同じだと筆者は嘆く。ここまでひどい状況になっ
みがわかるのであった。こうした人々と、世の中の愚かな
限の食べる米さえなくなって、初めて豊作の年のありがた
商人たちは恨めしく思っていた。しかし、凶作になり最低
は豊作続きで米の値段が下がり、米で俸給をもらう役人や
かゆ
士までもが粥をすするしかない状態だった。直近の数年間
享保十七年は、長雨が続いたことで冷夏となり、作物を
枯死させるウンカという虫が大量発生した。まず四国・九
A
A
傍線部②の「ありがたき」は、①「めったにない・珍し
い」、②「(めったにないほど)優れている・感心である」、
問四 筆者の心情を問う設問。
ⅱ
ⅰ
解答のポイント
匹ともわからないほどに(増えて)田畑(の作物)に付着
壬子の年〈=享保十七(一七三二)年〉、青く小さい虫
で、普段は灯火の中に飛び入る虫〈=ウンカ〉が、幾万億
きょうほう
の思慮がないのは愚かだと言うのである。「かなし」はこ
ね
こでは「嘆かわしい・残念だ」の意。よってアが正解。
い、かろうじて種もみを収穫して残すものもあり、あるい
みずのえ
●現代語訳
ⅲ 「(
ⅰⅱのような)為政者が少ない」という現状に
対する嘆きが書けていること。
為政者には「長期的視野がなければならない」な
どということが書けていること。
為政者は「民の父母のようでなければならない」
ということが書けていること。
③「 困 難 だ・ 難 し い 」、 ④「 生 活 し に く い 」、 ⑤「 尊 い・
もったいない」などの意がある。ここは、豊作が続くと米
価が低いなどと不満をいう人も、凶作になると「(その時
になって)初めて豊作の年のありがたきことを知る」とい
う文脈なので、⑤の意。このことについて直後で「世のお
ろかなる人の、目前のことのみ思ひて、長久のおもんぱか
り〈=慮り〉なき、みなこれに同じ。かなしといふベし」
イは、「立派な君主の働きによって、困窮から逃れられ
ている」という内容は書かれていないので不適。
もあって、米の値段が高騰して、飢えて死ぬ人が非常に多
と述べていることに着目。目先のことにとらわれて、先々
ウの「尽きることのない向上心を持って物事に取り組む
人々の姿勢」は、筆者の批判を踏まえていないので不適。
〈=全国に〉及び、たいていの人は餓死寸前で、上級武士
まで家来ともども粥をすすって、(その)年を過ごした。
かゆ
い。 そ の 余 波 は 東 山 道・ 東 海 道・ 山 陽 道・ 山 陰 道 ま で に
とう せん どう
は種もみともども失った〈=収穫し損ねてしまった〉もの
したので、四国や九州の苗はすべて枯れてなくなってしま
エの「相互に助け合って生きていこうとする人間のあり
よう」も、筆者の批判を踏まえていない。
めている人〉」について述べた「つねに米穀を……ゆめに
人」の「心」を指す。よって「国をたもてる人〈=国を治
傍線部③「いかなる心にや」は「どのような心であろう
か 」 と い う 意 味。 文 脈 を さ か の ぼ る と、「 国 を た も て る
ばかりを考えて、(将来を見据えた)長く続く思慮のない
理解するのであろう。世の中の愚かである人が、目先の事
しい(凶作の)時になって、初めて豊作の年の尊いことを
物が少ないのをつらいことと思ったが、このようないとわ
ここ何年か豊作の年ばかり続いて、(米で)俸給を受けて
も思ひよらざるがごとし」に着目。
のは、すべてこれ〈=凶作になって初めて豊作のありがた
・「民の父母といへること、ゆめにも思ひよらざる」
=民がついに飢え、すっかり死んでしまうのを見て、何
もしないで傍観する以外にないだろう
・「民の餓ゑに及び……外はあらじ」
に)言っていることは、まったく思いつきもしないような
見て、(それでも)何もしないで傍観する以外にないだろ
〈=しっかりとした備えをしている〉国は十国のうち一国
凶作や非常事態の備えとすべきことであるが、そうである
三歳の時も凶作の年があったが、ここまで(深刻な状況)
作の年があったと伝え聞いていると言っている。私が十二、
みを知ること〉と同じである。嘆かわしいと言わなければ
いる人は米の値段が低いのを恨めしく思い、商人は売れる
・「つねに米穀をたくはへ……なければ」
ならない。昔の人の話を聞くと、九十年前にこのような凶
問五 筆者の主張を問う設問。
米穀を備蓄し、凶作や非常事態の備えとすべきこ
=常に
とであるが、そうである〈=しっかりとした備えをし
主は)民の父母(も同じ)と(さまざまな書物に)
=(君
言っていることは、まったく思いつきもしない
ものである。どのような心なのであろうか。
う
ている〉国は十国のうち一国もない
為政者は民の生活を守るため、凶作や非常事態の備えを
心がけるべきなのに、そのような君主は少なく、民の苦し
う。( 君 主 は ) 民 の 父 母( も 同 じ ) と( さ ま ざ ま な 書 物
もないので、民がついに飢え、すっかり死んでしまうのを
ではなかった。国を治めている人は、常に米穀を備蓄し、
みをどうすることもできないことを筆者が嘆いているとわ
かる。それは、為政者が民の父母のようであらねばならな
いという自覚がないことへの嘆きでもある。解答では、筆
者の考える為政者の理想の姿を示す必要がある。問四で見
た、「長久のおもんぱかりなき」人々に対する嘆きも踏ま
えて、その場限りではなく長期的展望を持って国を治める
べきであるという筆者の主張を押さえてまとめるとよい。
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