(25-立) [小論文問題] っても仕方がないのだ。二人の攻防のプロセスが意味あるものになるのがねらいだ。そし て霧の中を抜け出ることができたときには,二人で「いやあ,そういうことだったのか」 次の文章を読んで,あとの各問に答えなさい。 (*印の付いている言葉には,本文のあと に〔注〕がある。 ) と喜び合う。人間らしい喜びを味わえる対話スタイルである。 このような弁証法的対話スタイルは,一つの技である。ある程度練習しないと,感情が もつれることにもなる。この技の経験がまったくない人に向かって,いきなり仕掛けてい くと,相手はむやみに自分が否定されたように感じて不快な思いを抱くだけに終わるから 弁証法というと大げさな用語のようだが,もともとはギリシャ語で「ディアレクティケ」 注意が必要だ。 という語であり,対話のことだ。ただ言葉をやりとりするということではない。問いと答 えを繰り返し,対話を発展させることで,深い知見に至っていく。そのような質の対話の (齋藤 孝「コミュニケーション力」による) ことだ。 私はこの弁証法を仲のいい友達と二人一組でトレーニングしていた時期がある。ふつう に対話をしていると,二人ともすぐに気が合ってしまう。考え方も似ているので, 「そうだ 注 こんとん 混沌 ――― 物事の区別がはっきりせず,混乱しているさま。 概念 ――― 考え,観点。 よね」で話が終わってしまう。そうした共感関係だけでも十分楽しく過ごせるのだが,議 論を応酬し深さを追求したい欲求があったので,あえて二手に分かれて討論をするように した。 相手が言ったことに対して自分はとりあえず反対の立場,あるいは別の立場をとる。相 手を言い負かすことが目的ではない。別の観点を持ち込むことで,事態を多角的に見るよ うにする。二つの立場で話しているうちに,片方が矛盾に陥ることがある。あるいは,二 〔問1〕 下記の語句の中から書きたいテーマを選び,自分で題をつけ,意見を 120字以上160字以内 で書きなさい。 人で議論の森の中で迷子になることもある。そして,そうした *混沌の中から,二つの相 反する立場が矛盾しないような観点が出てくることがある。そんなときは快感だ。 ヘーゲルは,アウフヘーベン(日本語では「止揚」 )という言葉を哲学的な意味で用いた。 制服 部活動 勉強 ゲーム 自由 愛 低い段階を否定することで,より高次の段階に進んでいく運動を指す。アウフヘーベンに は,否定する・高める・保存する,という三つの意味が含まれている。このニュアンスを 利用したわけだ。ヘーゲルの使うような厳密な哲学的意味合いではなく,日常の対話にお 〔問2〕 問1で記述した意見とは別の観点からの意見を 120字以上160字以内 で書きなさい。 いて,私たちはアウフヘーベンを楽しんだのである。 端から見れば,なぜそんなに言い合っているのかがわからないほどに激しく議論を応酬 した。一筋の道が見えてくるのを求めて議論をし続けた。 「まあ,どっちでもいいんじゃな とら い」という解決はとらない。異なるものの見方を,矛盾なく一貫した論理で捉え直す,そ んな高次の *概念(コンセプト)を求め続けていると,二時間ほどして不思議と出てくる のであった。自分の立場に固執しているわけではなく,あえてその立場を守ることで,よ 〔問3〕 問1,問2で記述した二つの意見について,本文における「弁証法的 対話スタイル」にならって,あなたの意見を 260字以上300字以内 で書きなさい。 りしっかりした構築物を作ろうとしていたのである。十代から二十代にかけてあまりにも 暇だったせいか,この弁証法スタイルの対話に毎日何時間もかけていた。 周りを見ていると,このようなスタイルの対話法を意識的に行っている人は意外に少な いのに気がついた。しかし,膨大な時間を費やした経験から言えば,弁証法スタイルの対 話を意識的にトレーニングすることは, コミュニケーション力の向上に非常に有効である。 わかり合うことが大切だ,というレベルでは,より高次の段階への勢いが足りなくなる。 相手の言いたいことと自分の考えは一致していると分かっているときでも,あえて疑問を 投げかけることで,話が展開していく。意地悪に相手をやりこめる必要はない。相手に勝 -1- -2-
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