マーケット・フォーカス

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経済:米国
2017/
2/6
投資情報部
シニアエコノミスト
宮川 憲央
雇用が堅調な一方、賃金は伸び悩み
 1月の非農業部門雇用者数は前月比+22.7万人と堅調なペースで増加、市場予想を上回る
結果となった。1月の失業率は4.8%と2016年12月から上昇したものの、労働参加率が上昇す
るなかでの動きであり、内容としては労働市場の改善を示すものといえる。
 一方、1月の平均時給の伸びは前年同月比+2.5%と12月の同+2.8%から鈍化した。米国の
労働市場は完全雇用の状態に近づいているものの、まだ賃金の上昇をともなわずに雇用を
増やす余地が残っているとみられる。
 労働市場の改善が続き、完全雇用の状態に近づいているため、米国の利上げの方向性に
変化はない。一方、賃金上昇率伸び悩んでいるため、利上げを急ぐ必要はない。また、トラン
プ政権による財政政策の実現性や影響等にはなお不透明な部分が多い。このため、3月の
米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げは見送られるとみており、みずほ証券投資情報
部では次回の利上げは6月と引き続き予想している。
雇用は堅調なペース
で増加
1月の非農業部門雇用者数*は前月比+22.7万人となり、市場予想(ブルームバー
グの集計では同+18.0万人)を上回る結果となった。一方、過去2ヵ月分の雇用者数
は合計3.9万人の下方修正となった(2016年11月分は前月比+20.4万人から同+16.4
万人に下方修正となる一方、12月分は同+15.6万人から同+15.7万人に上方修
正)。この結果、11月~1月までの3ヵ月間の雇用者の増加数は月平均+18.3万人と
なり、基調として雇用は堅調なペースで増加している。
内訳では、雇用者数のうち、財生産部門は前月比+4.5万人、民間サービス部門は
同+19.2万人、政府部門は同▲1.0万人となった。業種別にみると、雇用者数は運
輸・倉庫等では減少となる一方、小売、専門・企業向けサービス、建設、レジャー・
接客、金融・不動産・リース、教育・ヘルスケア、鉱業、製造業等で増加した。また、
民間部門261業種における前月比ベースでのディフュージョン・インデックス([雇用
が増加した業種の割合+前月比横ばいの業種の割合]/2)は58.8%と、12月の61.5%
から低下した。
1月の失業率は4.8%と12月の4.7%から上昇、12月と同水準が見込まれていた市場
予想に比べて悪化した。もっとも、失業率の変化をみると、労働参加率(16歳以上人
口に占める労働力人口の割合)が62.9%と12月の62.7%から上昇し、就業者数(家計
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
最終決定はご自身の判断でお願いいたします。また、本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成したものですが、その正確性、完全
性を保証したものではありません。本資料に示された意見や予測は、資料作成時点での当社の見通しであり今後予告なしに当社の判断で随
時変更することがあります。最終ページに金融商品取引法に係る重要事項を掲載していますのでご覧ください。
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調査ベース)は前月比+45.7万人となっている。1月の失業率の上昇はこれまで何ら
かの理由で職探しを断念していた人々が求職活動を再開した動きによるものであ
り、就業者数は増加しているため、内容としては労働市場の改善を示すものといえ
る。また、広義の失業率(失業者に加え、経済的理由によるパートタイマーや職探し
を断念した人等を加味)は9.4%となった。
*今回の雇用統計では、事業所調査(雇用者数、賃金等)、家計調査(失業率、労働参加率等)とも
に年次改定が行われており、過去の数値が改定されている。家計調査の数値の前月比について
は、改定の影響を調整した数値を用いている
米雇用関連指標
(月次:2005/1~2017/1)
(1,000人)
600
(%)
11
400
10
200
9
0
8
▲ 200
7
▲ 400
6
▲ 600
5
非農業部門雇用者数・前月差(左目盛)
▲ 800
4
失業率(右目盛)
▲ 1,000
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
17
3
(年)
出所:米労働省のデータよりみずほ証券作成
米産業別雇用者数の推移
(万人)
16/11
雇用者数の前月差
16/12
17/01
雇用者数
非農業部門
民間
財生産
鉱業
建設業
製造業
民間サービス
卸売
小売
運輸・倉庫
公益
情報通信
金融・不動産・リース
専門・企業向けサービス
教育・ヘルスケア
レジャー・接客
その他サービス
政府部門
16.4
17.8
3.5
0.7
2.8
0.0
14.3
0.6
▲ 1.3
2.2
0.0
▲ 1.2
1.2
4.6
3.1
4.4
0.7
▲ 1.4
15.7
16.5
1.5
0.2
0.2
1.1
15.0
0.1
3.4
1.9
0.0
▲ 0.4
2.3
3.2
4.5
1.7
▲ 1.7
▲ 0.8
22.7
23.7
4.5
0.4
3.6
0.5
19.2
0.3
4.6
▲ 0.4
▲ 0.1
0.3
3.2
3.9
2.4
3.4
1.6
▲ 1.0
14,555.4
12,327.8
1,982.2
67.2
680.9
1,234.1
10,345.6
589.1
1,594.7
505.0
55.6
276.7
839.7
2,045.1
2,289.0
1,579.0
571.7
2,227.6
出所:米労働省のデータよりみずほ証券作成
この資料は投資判断の参考となる情報提供を目的としたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。銘柄の選択、投資に関する
最終決定はご自身の判断でお願いいたします。また、本資料は信頼できると思われる情報に基づいて作成したものですが、その正確性、完全
性を保証したものではありません。本資料に示された意見や予測は、資料作成時点での当社の見通しであり今後予告なしに当社の判断で随
時変更することがあります。最終ページに金融商品取引法に係る重要事項を掲載していますのでご覧ください。
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米労働参加率の推移
(月次:2005/1~2017/1)
(%)
67
66
65
64
63
62
05
06
07
08
09
10
11
12
13
14
15
16
(年)
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出所:米労働省のデータよりみずほ証券作成
賃金の 伸び は 足踏
み
1月の時間当たり賃金(平均時給)は前月比+0.1%と市場予想(同+0.3%)を下回っ
た。前年同月比では+2.5%となり、12月の同+2.8%から低下した。賃金上昇率は緩や
かに上向いているものの、1月はこうした動きが足踏みした。
賃金上昇率は金融危機以前に比べて低い伸びにとどまっている。主に小売やレ
ジャー・接客等、低賃金の業種や職種において雇用が増加する傾向にあることに加
えて、労働生産性上昇率の低下、グローバル化やIT化等の影響もあり、構造的に
賃金が上昇しづらくなっている面はある。
ただ、労働需給は引き締まってきているため、今後も賃金上昇率は徐々に高まっ
ていくとみている。なお、週平均労働時間は12月と同水準の34.4時間となった。
米失業率と賃金の推移
( 月次:2008/1~2017/1)
(%)
4.5
(%)
3
平均時給・前年同月比(左目盛)
4.0
4
失業率(右逆目盛)
3.5
5
3.0
6
2.5
7
2.0
8
1.5
9
1.0
10
0.5
11
08
09
10
11
12
13
14
15
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(年)
出所:米労働省のデータよりみずほ証券作成
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完全雇用に近づく米
国の労働市場
以上のように、1月の雇用統計は堅調なペースでの雇用の増加が続く等、労働市
場の改善が続いていることを示す結果となった。一方で、労働参加率が上昇し、賃
金上昇率が伸び悩んだことからすると、米国の労働市場は完全雇用*(FOMC参加
者が想定する長期的な失業率の均衡水準は中央値で4.8%)の状態に近づいている
ものの、まだ賃金の上昇をともなわずに雇用を増やす余地が残っているとみられる。
*完全雇用とは、働く意欲と能力をもち,現行の賃金水準で就業を希望するすべての人が雇用され
ている状態をいう
今後について考えると、労働市場が完全雇用の状態に近づいているということは、
労働参加率の持続的な上昇、もしくは潜在成長率を上回る成長が続かない限り、雇
用の増加ペースは低下していく。実際、2016年の雇用者の増加数は月平均+18.7
万人と失業率を安定的に保つペースとしては十分であるものの、2015年の同+22.6
万人からは鈍化した。一方、労働需給のひっ迫にともなって、賃金上昇率は徐々に
高まっていくとみられる。
このため、今後、雇用の増加ペースが低下していくとしても、賃金の伸びが補う形
で所得の増加が続くとみられる。こうした所得の増加が個人消費を中心とする米国
経済の緩やかな成長を支えるとともに、それがさらなる労働市場の改善につながっ
ていくという、米国経済の好循環は今後も続くとみている。
3 月FOMC で は 利上
げを見送る可能性が
高い
今回の雇用統計の結果を受けて、金融市場では3月の米連邦公開市場委員会
(FOMC)での利上げを織り込む動きがやや後退した。フェデラルファンド(FF)金利
先物を用いて、ブルームバーグが算出する3月利上げの確率は雇用統計が発表さ
れた2/3時点で30.0%となっており、前日の32.0%から低下している。
今後の金融政策について考えると、労働市場の改善が続き、完全雇用の状態に
近づいているため、利上げの方向性には変化がない。一方、前述のように、労働需
給は引き締まってきているものの、賃金上昇率が伸び悩んでいるため、利上げを急
ぐ必要はない。また、トランプ政権の財政政策は具体化されておらず、その実現性
や影響には不透明な部分が多く残っている。このため、米連邦準備理事会(FRB)
は3月FOMCでの利上げを見送り、今しばらく経済・物価情勢や財政政策の審議動
向等を見極めていく可能性が高いとみている。みずほ証券投資情報部では次回の
利上げは6月、17年中の利上げは2回にとどまると引き続き予想している。
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2017/2/6
金融商品取引法に係る重要事項
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