管渠の老朽化に起因した道路陥没原因推定と対策検討

(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
一般発表論文 №112
管渠の老朽化に起因した道路陥没原因推定と対策検討
日本工営株式会社 大阪支店 技術第一部
吉田 裕二
日本工営株式会社 大阪支店 技術第一部
大久保有芳
日本工営株式会社 大阪支店 技術第一部
○中川 貴博
論 文 要 旨
日常生活や社会活動に重大な影響を及ぼす、下水道管路の老朽化に起因した道路陥没を未然に防止するため、
A市の汚水幹線を対象に実施した水中ロボットによる管内調査、地中レーダ空洞調査、路面変状調査の方法を紹
介するとともに、それら調査結果の関連性を見出し、道路陥没の危険度(リスク)を予測することによって、今
後の予防保全対策及び維持管理の方向性を示したものである。
キーワード:管路の老朽化、道路陥没、予防保全、水中ロボット、空洞調査
ま え が き
2.汚水幹線の概要
下水道整備の進展にともない、下水道ストックが増大す
対象となる汚水幹線は、昭和 33 年から 36 年頃にかけて
るなかで、管路施設の老朽化等に起因した道路陥没は、平
建設されたものであり、流末の処理場に直結した重要幹線
成 25 年度に約 3,500 件も発生しており、日常生活や社会
である。
活動に重大な影響を及ぼしている。このようなことから、
道路陥没事故を未然に防止するための“予防保全対策”が
(1)施設規模(図-2 参照)
急務となっている。
① 総延長:約 1,300m
本稿では、こうした背景を踏まえ、A市の汚水幹線を対
② 断面寸法(内寸)
:上底 2.7m、下底 2.1m、高さ 1.6m
象に実施した管渠調査業務について紹介する。
程度
③ 土被り(深さ)
:地表面から 3~5m
④ 構造形式:RC 三面張り+蓋掛け渠
図-1 道路陥没件数の推移
1.業務の目的
図-2 汚水幹線の断面図
A市の汚水幹線は、供用から 50 年以上経過しており、
また、沿線では幹線の老朽化に伴う道路陥没が発生してい
(2)道路状況
ることから、現状においても道路陥没リスクを潜在的に有
当幹線が埋設されている道路状況であるが、ほぼ中間地
していると考えられた。そのため、予防保全的な補修対策
点の北側については、道路幅員 15m 程度の片側 2 車線の幹
工の検討・実施に当り、必要となる諸元を把握するための
線道路であり、交通量は非常に多く、また周辺が工場地帯
調査を行い、今後の対策および維持管理の方向性を示すこ
であることから、大型車両の混入率が高い。中間地点から
とが目的であった。
南側については、道路幅員 4~5m 程度の狭い市道であるが、
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幹線道路への抜け道になっていることから比較的交通量
一般発表論文 №112
(2)地中レーダ空洞調査
が多い。このような状況から、道路陥没事故による交通お
よび周辺住民、また社会活動への影響は多大であることが
地中レーダ探査機を用いて、幹線管渠上部の空洞の有無
を地表面から確認した。
予測された。
まず、幹線上を縦断方向にレーダ探査を行なって空洞を
抽出し、更にその空洞箇所を横断方向にレーダ探査を行な
(3)沿線での道路陥没事故状況
って空洞の範囲を推定した。
当幹線の沿線では、昭和 47 年 10 月から平成 23 年 3 月
にかけて、道路陥没事故が 12 回発生していた。
3.事前調査
管内調査を実施するに当り、調査計画をより現実的なも
のにするために事前調査を行い、以下に示す幹線の状況を
確認した。
① 幹線内の濁度
② 幹線内水位・流速・流量
③ マンホール蓋開放の可否
写-1 地中レーダ空洞調査状況
④ 調査資機材搬入の可否
(3)管内調査
水中ロボットを用いて、幹線内の劣化状況および変状を
①~④の調査結果を整理したところ、幹線内の水位が想
定以上に高く、また流速も早かったため、通常の TV カメ
撮影した。水中ロボットをマンホールより幹線内に投入し、
ラ調査に用いる機材では、管内調査が困難であることが判
マンホールからマンホールまでの区間を潜航させ、蓋掛
明した。したがって、水中ロボットを使用し、水中を潜航
(頂版部)および蓋掛と側壁、接合部付近の顕著な変状(開
させて管内の状況を撮影する方法で調査を実施すること
き、段差、ひび割れ、破損)を対象に水中撮影を行った。
にした。
4.調査内容・方法
(1)路面調査
後述する地中レーダ空洞調査結果および水中ロボット
調査による幹線内の劣化状況との関連性を検証すること
を目的として、幹線上道路の地表面クラックおよび変状を
確認した。また、路面変状部を対象に 4 ヵ月後に再調査を
行い、変状量の比較を行った。
写-2 水中ロボット
写-3 水中撮影状況
汚水幹線
5.調査結果における考察
(1)路面調査
クラックおよび路面変状ともに、幹線上の道路に点在し
図-3 路面変状部横断図
ており、全て小規模なものであった。また、時間経過によ
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る変動が確認できたのは 1 箇所のみであったことから、変
(3)管内調査
状の進行は遅いと考えられた。
水中ロボット調査を実施した結果、緊急性が高いと思わ
れる変状として「部材欠損・背面土砂崩落」
、
「ひび割れ」
表-1 変状量比較
番号
当初測量時
(mm)
再測量時
(mm)
変化量
(mm)
を確認した。これらについては、このまま放置した場合、
土砂崩落の発生・拡大に進展する可能性があり、道路陥没
考 察
変1
8
15
+7
変2
40
40
0
変化なし
若干ではあるが変状が進行している可能性あり
変3
41
41
0
〃
変4
30
30
0
〃
変5
74
0
-74
舗装打替えによる回復
変6
23
0
-23
〃
変7
28
28
0
変化なし
変8
22
22
0
〃
変9
13
13
0
〃
変10
4
4
0
〃
変11
9
9
0
〃
を引き起こす恐れがあった。
表-3 幹線内の主な変状
(2)地中レーダ空洞調査
路面変状が道路陥没を引き起こす予兆となり得るため、
地中レーダによる空洞調査を実施した。その結果、縦断方
向の測線に対して、異常信号を 1 箇所確認したため、横断
方向の探査を実施し、空洞の規模を推定した。また、空洞
深さを推定するためドリル削孔を実施した結果、長さ 0.9m、
幅 0.4m、深さ 0.2m の空洞があると推定した。空洞の規模
としては小さいが、深さ方向については、削孔穴から挿入
写-4 部材欠損・背面土砂崩落
した検尺棒(1.5m)が全て空洞下の地中に埋まるほどであ
ったため、深部までゆるみが拡大している可能性があった。
写-5 ひび割れ
6.調査結果の関連性
管内調査において確認した「部材欠損・背面土砂崩落」
図-4 レーダ探査結果
について、路面調査および地中レーダ空洞調査との関連性
表-2 空洞規模
について検証した。
写-6 に変状が発生している位置を示しているが、
「部材
欠損」発生位置の地表面において、変状(沈下)が確認で
きた。これは、
「部材欠損」から幹線内へ土砂が流入し、
上部の土砂がゆるんだことが原因で、地表面の変状(沈下)
を招いていると確信した。
幹線内の変状がすでに地表面にまで影響をおよぼして
いることから、道路陥没のリスクが最も高く、緊急に対策
が必要であると判断した。
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8.対策工の検討
(1)対策工の抽出
路面変状との関連性こそ無かったものの、幹線内には今
後道路陥没の要因になり得るクラックや抜け落ち等の劣
化が全体的に見られた。したがって、道路陥没事故を未然
に防ぐことを目的とした幹線全体の対策を講じる必要が
あった。対策工としては、以下の方法が考えられた。
写-6 変状発生位置
①
布設替えによる対策:現位置もしくは別ルート
②
管更生による対策:複合管もしくは自立管
③
部分取り替えによる対策:床版のみを取り替え
〔平面図〕
(2)各対策工の問題点
1)布設替えによる対策:現位置案
幹線の土被りが約 3~5mと深いため、開削工法による布
設替えは困難であった。したがって、オープンシールド工
法により既設函渠を取り壊しながら布設替えする方法が
考えられた。
〔断面図〕
図-5 変状部概要図
図-6 オープンシールド施工概要図
7.道路陥没の原因推定
地中レーダ空洞調査において確認した空洞と管内調査
2)管更生による対策
当幹線のような既設構造物に耐荷能力が無い場合に用
において確認した部材欠損・背面土砂崩落・ひび割れの原
いられる管更生工法として、製管工法と自立管工法が考え
因を推定した。
られた。
表-4 主な変状と考えられる原因
調 査
変 状
考えられる原因
地中レーダ空洞調査
空洞
■ 幹線の破損
管内調査
部材欠損
背面土砂崩落
ひび割れ
■ 施工不良
■ 硫化水素による腐食
■ 表面保護材の劣化
■ 流水による摩耗・洗掘
■ 交通量の増加等
図-7 製管工法施工概要図
当汚水幹線は、供用開始から 50 年以上経過しており、
上表に示す原因により各変状が発生している可能性があ
ると推定した。
過去に道路陥没が発生した箇所については、幹線の破損
や施工不良、硫化水素による腐食、流水による摩耗・洗掘
が発生・進行し、道路陥没事故に至ったと推定した。さら
に車載重量および交通量の増加など道路交通事情の著し
い変化により、建設当時の設計荷重を超過したことも原因
図-8 自立管工法施工概要図
の一つとして考えられた。
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3)部分取り替えによる対策
劣化が進行した床版のみを部分的に取り替える方法が
考えられた。
図-9 部分取り替え概要図
(3)対策工の選定
対策工①~③について上述した問題点も踏まえて比較
検討を行った結果、施工時の周辺・道路交通への影響およ
び水替えの施工性を考慮し、ミニシールド工法もしくは推
進工法を用いた『布設替えによる対策:別ルート案』を推
奨した。
9.本業務の成果
本業務では、路面調査、地中レーダ空洞調査、水中ロボ
ットによる管内調査を実施したが、これらの調査結果を個
別に見ても、道路陥没のリスクを評価することが困難であ
るが、関連性を検証することで、より説得力のあるリスク
評価が可能となった。
上述した最も道路陥没リスクが高い変状については、す
でに緊急対策が実施されており、リスクを回避することが
できた。
10.あとがき
A市のみならず、全国には道路陥没のリクスにさらされ
た箇所が多数存在する。今後は、本稿で紹介した調査手法
を用いて、予防保全対策がなされることを期待する。また、
リスク評価の精度を向上させるためにも、調査手法、調査
精度のさらなる発展に努めたい。
最後に、本稿を執筆するにあたり、助言、協力等を頂い
た方々に深く感謝の意を表します。
11.参考文献
・国土交通省HP「計画的な改築・維持管理」
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