紙と厨芥を基質としたメタン発酵に関する研究

(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
プレゼンテーション発表アブストラクト №250
紙と厨芥を基質としたメタン発酵に関する研究
株式会社エース
1.はじめに
廃棄物系バイオマスの中で食品廃棄物の再利用率
川西美帆
汚泥を遠心分離(3000rpm、5min)にかけ脱離液を取
り除き汚泥の返送を行った。
が最も低く、その中でも外食産業はほとんど再利用さ
れていない。発生量が安定せず、分別の手間や必要量
実験 2
の確保が難しいことが原因である。そこで必要処理量
実験 1 で順養した汚泥を使用するにあたりガス化
の確保、リサイクル率の増加をはかるものとして紙ご
する物質を取り除くため、中温は 500ml 引き抜いた
みに注目した。メタン発酵は、生ごみ等からメタンガ
もの、高温はそれぞれ 250ml ずつ引き抜き混ぜた汚
スを得る処理法であり、発生したガスはエネルギーと
泥を 3 日間基質を投入せず運転した。その後、感熱
して使用できるため、地球温暖化対策や化石燃料の枯
紙・トイレットペーパを各 TS10%に調節したもの
渇という問題を解決する方法として注目されている。
を HRT25 日となるように投入し、ガスの発生量を 1
従来のメタン発酵技術では、紙は発酵の阻害になる
時間ごとに測定した。ガス回収方法には水上置換法
と考えられているためそれらは分別、除去されている。
を用い、硫酸で pH2 に調節した飽和食塩水で置換し
しかし生ごみを対象としたメタン発酵を行う場合、発
た。
酵途中に発生するアンモニアや、分解しやすい生ごみ
を一度に大量に投入することで起こる急激な酸化が
3.実験結果と考察
HRT25 日で順養を行った際の投入基質 1g あたり
問題となっている。そこで紙を混ぜることによって阻
害をなくし効率を上げる研究が進められている。また、
のガス発生量を図 1 に示す。厨芥のみを基質とした
メタン発酵の対象となりうる有機物には水や油に濡
場合高温、中温でガス発生量の差は見られなかった。
れた紙、防水紙などリサイクルできない紙が含まれる
厨芥と紙(トイレットペーパ)を混ぜて投入した場合
可能性が高い。これらを共にメタン発酵することが出
は、中温のみガス量が減少した。紙を投入した後、
来れば、分別の手間を省きより多くのガスを得ること
76 日間はガス量が著しく低下することなく運転を
が出来る。
行うことができた。
2.実験方法
メタン発酵装置を安定させ、紙に慣らすことを目的
として実験 1 を行い、再利用できない紙がどのように
分解されるかを調べるため、ガス生成速度の経時変化
を実験 2 により測定した。実験 1 では水に溶けやすい
トイレットペーパを用い、実験 2 ではトイレットペー
パとリサイクルされていない紙である感熱紙を用い
図-1 投入基質 1g あたりのガス発生量
た。
次に実験 2 で行った基質ごとのガス生成量の経時
実験 1
変化を図 2、図 3 に示す。図 2 より高温の場合は基
まず高温メタン発酵、中温メタン発の適正な負荷
質投入から 30 時間経過後∼60 時間経過後、図 3 よ
量を保つために TS10%の模擬厨芥を用い、順養を
り中温の場合は 45 時間経過後∼100 時間経過後に
行った。中温は 10Lの反応槽を 1 つ運転し、高温は
ガスが生成されている。このことより、セルロース
10Lの反応槽を 2 つ運転した。次に HRT25 日とな
がこの時間帯に発生しているのではないかと考え
った所で模擬厨芥と紙(トイレットペーパ)を
られる。その後高温は 62 時間経過後、中温は 120
TS10%となるように 7:1 の割合で調整したものを
時間経過後にガスの生成が停止した。高温では紙
用い順養を行った。基質を投入する際、引き抜いた
(トイレットペーパ)の分解の方が感熱紙より早く、
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第48回(平成27年度)研究発表会 論集
プレゼンテーション発表アブストラクト №250
中温では感熱紙の方が分解が速い等、中温、高温に
よる差は見られたが、それぞれの温度での紙と感熱
紙は同じような傾向を示した。
図-2 高温での基質ごとのガス発生量
図-3 中温での基質ごとのガス発生量
実験 1 より紙(トイレットペーパ)を混ぜて投入しても 76
日間は問題なく運転することができた。しかし実験 2 より
中温と高温では紙類を基質とした際、中温の方がメタン生
成までにかかる時間が 10 時間程度長くかかることが分か
った。このことから中温と高温ではメタン生成速度に差が
あり、その差が実験 1 におけるガス量の差につながったの
ではないかと考えられる。
廃棄物系バイオマスを対象としたメタン発酵を行うにあ
たり、必要量の確保や分別の手間が問題の 1 つとしてあげ
られる。この問題を解決するため、紙の比率を上げても安
定した運転を行うことが出来るかの検討や、感熱紙以外の
紙の分解特性を把握し、一定量を投入し続けることが出来
るような条件の検討を行っていく必要がある。
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