歴史公園における利用特性の把握と利用者満足度の要因分析

(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
一般発表論文 №119
歴史公園における利用特性の把握と利用者満足度の要因分析
中央復建コンサルタンツ株式会社
○ 高 橋 宏 史
中央復建コンサルタンツ株式会社
○ 岡 田 哲 也
論 文 要 旨
歴史公園のような大規模公園は、公共の施設として、史跡見学や憩いなどの多様な目的を有する多くの市民に利
用され、さらには、より高い満足度を与えることが重要である。そのためには、適切な維持・管理が必要となり、
評価の重要な視点となる利用者数や利用者満足度について、客観的にレビューされていく必要がある。
本論文では、近畿圏に位置する大規模な歴史公園を対象に、年間利用者数の算出に向けた推計方法の検討を行う
ともに、精度の向上に向けた常時カウント調査の有用性を明らかにした。また、OD調査から入退場地点の関係性、
通過利用の実態を把握した。さらに、利用者満足度調査からは、個別の課題の抽出に努めるとともに、現地調査に
より満足度に影響を与えると考えられる具体の要因を整理した。
キーワード:歴史公園、カウント調査、利用者アンケート調査、利用特性、利用者満足度
ま え が き
本論文では、これらをふまえて、年間利用者数の推計に
係る検討内容と、利用特性や利用者満足度の要因を把握す
本論文で対象とした国営平城宮跡歴史公園は、近畿圏に
るために実施した取り組みや分析結果を報告する。
ある大規模な歴史公園であり、東西約 1km、南北約 1km で
計 132ha 内に、復原施設や資料展示施設(以下:見学施設
とする)が点在している。
この公園は出入口が 12 カ所ある。また、利用者が自由
に出入りできる構造となっていたことから、各出入口で常
時、利用者数をカウントすることが難しかった。そのため、
特定の調査日から得られた全出入口合計の利用者数と、常
に入場者数をカウントしている見学施設の入場者数との
相関性をもとに回帰式を作成し、年間利用者数を推計する
方法がこれまで実施されてきた。ただし、特定の見学施設
の入場者数だけに頼った推計方法では、推計結果が対象と
した見学施設の利用特性に左右されることや、見学施設の
休館日の利用特性、散歩で利用するなどの見学施設に訪れ
ない利用者を考慮できていないことが考えられた。そのた
め、他の見学施設についても対象とすることや、日に関わ
図-1 対象とする歴史公園の概要
らず利用可能で、日常利用者が利用する園内施設も対象と
する推計方法を検討することが考えられた。
一方、対象となる公園については、周辺の施設立地状況
から、史跡見学や憩いではなく、園外の施設間を結ぶ通過
1.年間利用者数の把握
(1)調査の概要
公園全体の 1 日あたりの実際の利用者数を把握するため、
(素通り)利用も想定されたため、これらの利用者の数や
利用特性についても、把握することが考えられた。
人手観測によるカウント調査を表-1のとおり実施した。
また、これまでの利用者満足度調査では、全体評価の把
平日については、園内にある見学施設の休館日(主に月
握が主な目的であった。利用者満足度の向上を目指すにあ
曜日)とその他開館日を区分して、平日 2 日間を調査対象
たっては、調査方法を工夫し、満足度に影響を与える具体
とした。
的な要因の把握することが考えられた。
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表-1 人手観測によるカウント調査の概要
③ 見学施設に頼った推計方法では、散歩で利用するな
調査時期:春、夏、秋、冬
どの見学施設に訪れない利用者の利用状況を反映で
調査日:調査時期ごとに 4 日間(年間 16 日間)
きない。
(土曜日、日曜日、平日 2 日間)
(3)実施した取り組み、工夫
調査時間:7:00~18:00 までの 11 時間
①の課題を改善するため、一つの施設だけでなく、入場
調査箇所:全出入口
者を常にカウントしている全ての見学施設を対象に、調査
調査から得られた結果は図-2のとおりである。1 日あ
結果との相関係数を調べ、回帰式を作成することで、利用
たりの利用者数は約 1,600~5,700 人であり、遠足や修学旅
者推計結果の感度分析を行った。
行と思われる児童や学生が多くみられた春季調査時平日
その結果、2.で得られた 1 日あたりの利用者数と見学
の開館日が最も多い結果となった。季節別にみると、夏は
施設利用者数の相関係数は図-3のとおりとなった。また、
曜日に関わらず、入場者数が最も少ない結果となった。
この結果をもとに、それぞれの施設を対象に回帰式を作成
0
1,000
2,000
3,000
4,000
6,000
4,568
土曜日
春
平日・休館日
平日・開館日
0.9
1,924
1,792
1,649
4,878
秋
平日・開館日
0.7620
0.7
0.6797
0.6515
0.6
4,358
3,096
冬
平日・休館日
0.7611
0.8
2,417
日曜日
冬
0.8710
0.4
2,628
平日・開館日
土曜日
0.8875
0.5
5,021
日曜日
平日・休館日
1.0
1,795
土曜日
秋
用者数は 110~119 万人の範囲に収まると考えられる。
相関係数
夏
日曜日
したがって、園内見学施設から推計すると、公園全体の利
5,711
平日・開館日
夏
(人/日)
し、年間利用者数を推定すると 110~119 万人となった。
2,684
平日・休館日
土曜日
7,000
4,839
日曜日
春
5,000
2,060
図-3 公園利用者数と見学施設利用者数の相関性
2,380
年間利用者数について、これまでは人手観測によるカウ
ント調査で得られた 1 日あたりの利用者数と、常に入場者
年間来訪者推計値
118
(2)年間利用者数の把握に向けた課題
ケース1(全日)
万人
120
図-2 人手観測によるカウント調査結果の推移
数をカウントしている特定 1 か所の見学施設入場者数との
116
114
119
117
115
117
ケース2(曜日別)
決定係数(全日)
119
117
0.9
118
0.8
116
114
115
115
115115
0.7
0.6
0.5
112
110
110
0.4
0.3
108
0.2
106
0.1
104
0.0
相関性をもとに推計を行っていた。そのため、下記の課題
が考えられた。
近似式のベースとなる施設
① 推計結果が特定 1 か所の見学施設の利用特性に左右
図-4 年間利用者数の推計結果(見学施設別)
されるため、公園全体の利用状況と対象とした施設
の利用状況が異なれば、推計結果にブレが生じる可
また、前述した②、③の課題を改善するため、どの曜日
能性がある。
② 見学施設休館日の公園利用者数の推計については、
においても利用状況が把握でき、かつ、日常的な利用者の
人手観測によるカウント調査から得られた開館日の
利用状況が把握できる箇所でも常時カウントを行い、年間
公園利用者数と休館日の公園利用者数の比率をもと
利用者数の推計に役立てることが望ましいと考えた。
に、休館日の日数分を加算する方法を用いていた。
しかしながら、出入口が 12 カ所あり、利用者が自由に
ただ、これらは2.で示したとおり、推計のもとと
出入りできる構造となっていたことから、各出入口で常時、
なる調査日が季節あたり 1 日と少ないため、推計結
利用者数をカウントすることは多大なコストを要するこ
果にブレが生じる可能性がある。
とが考えられ、困難であった。
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そこで、簡便な手法として、赤外線センサー式によるカ
学施設に加えて、休憩施設で常時カウントを行い、その結
ウント機械を数カ所に設置し、常時カウント調査を行うこ
果を推計式に組み込むことで推計精度が向上すると考え
ととした。日常的な利用状況も含めた公園利用者数の日変
られる。
動をカウントする観点からみると、公園出入口に機械を設
置することが考えられる。しかし、利用者の安全性、調査
の確実性の観点をふまえると、公園出入口で最適な場所を
確保することは難しかった。そこで、公園内に 2 カ所ある
休憩所の出入口に機械を設置し、休憩所の日常的な利用状
況も含めた公園利用者数の日変動を把握することとした。
表-2 赤外線センサーによる常時カウント調査の概要
調査時期:平成 26 年 7 月~平成 26 年 12 月
調査時間:休憩所の開放時間(8:00~18:00 ごろ)
調査箇所:園内に 2 カ所ある休憩所の出入口
図-6 休憩所における曜日別の利用者数
0
500
1,000
1,500
土曜日
2,000
1,551
日曜日
1,731
祝日
平日(月曜日)
2,500
(人/日)
2,184
0
=休館日
平日(火曜日)
1,214
平日(水曜日)
1,093
平日(木曜日)
1,296
平日(金曜日)
1,127
全平均
1,378
※ 7/1(火)~12/28(日)までの開館日を対象に集計
※ 園内6つの見学施設の利用者数の延べ人数
図-7 見学施設における曜日別の利用者数
図-5 休憩所におけるカウンターの設置イメージ
2.利用特性の把握
調査の結果、下記のような傾向が得られた。



(1)これまでの状況
各休憩所とも、土曜日や日曜日、祝日で利用者が
公園周辺の施設立地状況をみると、この公園においては、
多くなっている。
史跡見学や憩いだけではなく、園外の施設間を結ぶ通過
平日では、週終りに近い木曜や金曜日で利用者が
(素通り)利用も想定された。しかし、これまでの調査で
多い傾向にある。
は、通過(素通り)利用の実態が十分に把握できていなか
施設の休館日となる月曜日でも、その他の平日と
った。
ほぼ同様の利用者数がある。
これまで、常に利用者数がカウントされてきた見学施設
(2)実施した取り組み
では、祝日で最も多くなる傾向がみられた。また、週後半
主要な出入口の利用者を対象に、入退場地点の関係性や
に利用者数が多くなる傾向はみられず、休憩所でのカウン
利用目的を明らかにするためのOD調査を実施した。
ト結果とは、曜日別の入場者数の傾向に違いが見られた。
また、この調査では、施設の休館日となる月曜日につい
表-3 OD調査の概要
調査時期:秋季
ては、その他の平日とほぼ同様の利用者数があることが明
調査日:4 日間(土曜日、日曜日、平日 2 日間)
らかになった。したがって、見学施設と休憩施設では利用
調査時間:7:00~18:00 までの 11 時間
者数の傾向の違いや、休館日の利用状況をふまえると、見
調査箇所:主要出入口 6 カ所
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(2)実施した取り組み
公園全体の利用者満足度を把握するため、対面式のアン
ケート調査を表-4のとおり実施した。
表-4 利用者満足度調査の概要
調査時期:春、夏、秋、冬
調査日:調査時期ごとに 4 日間(年間 16 日間)
(土曜日、日曜日、平日2日間)
調査時間:9:00~17:00 までの 8 時間
調査対象:人通りの多い 4 カ所
調査から得られた結果は図-10のとおりである。年間
を通じて、
“非常に満足”は 3 割以上となり、
“まあまあ満
足”とあわせると、満足度は 9 割以上であった。
図-8 OD調査票
したがって、公園全体の評価は高く、今後は個別の課題
を見極めていくことが重要となっている。
調査の結果、入場地点と退場地点が同一となる散歩、観
0%
20%
光目的とした利用者の他、下記に示すように入場地点と退
春季
35.0
場地点の異なる流動も複数確認できた。
夏季
35.5
地点7(図-9参照)でも回答者の約 5~7%にとどまって
100%
3.5 0.7
283
1.1
282
5.1 0.3
292
7.8
62.3
冬季
33.7
60.4
3.7 2.2
270
平成26年度
計
34.1
59.8
5.1 1.1
1,127
非常に満足
まあまあ満足
やや不満
非常に不満
図-10 公園に対する満足度の割合
目的と中心となっていることを確認することできた。その
ため、見学施設入場者数との相関性をもとに年間利用者数
れる。
60.8
55.7
80%
32.2
いた。したがって、この公園では、史跡見学や散歩が利用
を推計する方法で一定の精度が確保されていると考えら
60%
秋季
ただし、利用目的を別途確認すると、通勤・通学による
通過のみの利用については、最も割合の高かった地点3や
40%
全体の満足度を見ると、不満(
“非常に不満”と“やや
不満”の合計:以下同じ)の割合は 1 割未満となっている。
しかし、項目別にみると、売店に対する不満が約 4 割、お
年寄りや身体が不自由な方や小さな子ども連れへの配慮
に対する不満が 2 割以上となっていることがわかる。
図-9 OD調査結果から得られた 1 日あたりの流動量※
※ 10/27(月)の調査結果をもとに、推計した値
3.利用者満足度の把握
(1)これまでの状況
全体評価の把握が主な目的であった。利用者満足度の向
上を目指すにあたっては、調査方法を工夫し、満足度に影
響を与える具体的な要因の把握することが考えられた。
図-11 項目別にみた不満の割合
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売店については、園内に設置されている箇所が限られて
おり、不満の多い理由が明確であった。
一方、お年寄りや身体が不自由な方への配慮や小さな子
ども連れへの配慮については、上記の調査結果だけでは、
具体にどんな現状に対して、不満を抱いているか把握でき
ない。そのため、予め調査票の設計を行い、具体的な箇所
についてあわせて質問することとした。
図-14 指摘された箇所(園路にいたみがある例)
図-12 指摘があった箇所
また、どのような整備が必要かを確認した結果、園路や
施設周辺の凹凸や段差の改善を求める意見が回答者の約 5
割となった。これらの指摘をふまえ、現地調査を行った結
図-15 指摘された箇所(園路に凹凸がある例)
果、図-13~図-15)に示すとおり、段差やいたみが
確認された。したがって、お年寄りや身体が不自由な方や
4.まとめ
小さな子ども連れへの配慮において、目立ちやすい段差や
本論文では、近畿圏に位置する大規模な歴史公園を対象
傾斜だけでなく、いたみによる凹凸が満足度に影響してい
に、年間利用者数の推計方法の精度の向上に向けた常時カ
る可能性が考えられる。
ウント調査の有用性を明らかにした。また、OD調査から
入退場地点の関係性、通過利用の実態を把握した。
さらに、利用者満足度調査からは、個別の課題の抽出に
努めるとともに、現地調査により具体の要因を整理にする
ことで、今後の利用者満足度向上に向けた重点ポイントを
明らかにした。
調査日を限定した利用者数の人手観測、アンケートによ
る利用者満足度調査については、公園全体の利用特性や評
価について、概要を掴むことができる。ただし、具体の利
用特性や課題を明確にしていくためには、今回の事例で取
り組んだような取組をさらに展開していくことが考えら
れる。年間利用者数の推計については、休憩所にとどまら
図-13 指摘された箇所(施設周辺に階段がある)
ず、公園出入口への設置を検討することが考えられる。ま
た、OD調査については、曜日や各出入口で利用実態が異
なる可能性もあることから、日数や対象出入口の拡大も有
用であると考えられる。アンケート調査については、課題
の改善効果や利用者の意向変化を的確にモニタリングで
きるよう、継続的な調査の実施が望まれる。
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あ と が き
今回の事例にあたって、発注者である国土交通省近畿地
方整備局国営飛鳥歴史公園事務所ならびに関係機関をは
じめとするご協力いただいた皆様へ心から感謝の気持ち
と御礼を申し上げたく、謝辞にかえさせていただきます。
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