MMS と建物所在データを活用した 道路閉塞危険度判定の効率化

(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
一般発表論文 №117
MMS と 建 物 所 在 デ ー タ を 活 用 し た
道路閉塞危険度判定の効率化
アジア航測株式会社
野
瀬
和
仁
論 文 要 旨
近い将来に確実に発生するといわれている「東南海・南海大地震」等の巨大地震では、近畿地方においても甚大
な被害が予想されている。平成 7 年に発生した阪神・淡路大地震では、耐震基準を満たさない昭和 56 年以前の建
物に被害が集中し、その建物倒壊によって道路の閉塞が発生し、通行に支障をきたしたことにより、避難・救出・
火災消火活動が妨げられ、さらなる被害の拡大を招きました。これらの被害を抑えるためには、事前に倒壊建物に
よって閉塞される箇所を予想し対策を講じておくことが重要になる。しかしながら大都市近郊においては、高度経
済成長期に形成された密集市街地が広がっており、その箇所を 1 棟ごとに調査し把握することは時間と費用がかか
る。そこで、災害発生時に道路閉塞の軽減に繋がることを目的に、最新の計測技術と地理情報技術を用いて、簡易
に道路閉塞危険度判定が実施できることを確認した。
キーワード:MMS(車載型レーザー計測システム)の利活用、危険度判定方法、空間計測技術と GIS 技術の融合
として、空間計測技術と GIS 技術を融合させ、現地調査を
ま え が き
我が国は、高度経済成長期において、多くの社会資本が
軽減させ視覚的・効果的に危険度判定ができる手法の検討
整備され国民生活の質的向上がなされ、豊かな生活が確実
を実施した。
に実現されてきた。住宅の量的不足を背景に、住宅ストッ
クが数多く整備され、その結果大都市周辺部分に木造密集
市街地が広く形成された。しかし当時の基準で建築された
建物であるため、現在の耐震基準を満たしておらず、大規
模発生時には、道路閉塞が発生し、人命救出にかかるアプ
幹線道路後背地におけ
ロ―チルートに影響を及ぼすことが懸念されている。
る道路閉塞の発生
都市型災害であった阪神・淡路大震災においても、図1
のように木造密集地で建物倒壊による道路閉塞が発生し、
緊急車両が通行できないために、救出・消火活動が遅れ、
その被害が拡大した。また、30 年内に発生確率 70%で起
こるといわれている南海トラフ巨大地震の被害想定では、
建物被害が約 94~240 万棟と見込まれ、重大な道路ネット
ワーク障害も危惧されている。
道路閉塞の点検指標には、道路幅員、建物の高さ、沿道
の建物の部材・建築時期等が複合的に関わる。緊急輸送路
沿道については、優先して調査されてきたところであるが、
市町村が管理する道路沿道については、そのストック量
(距離)も多いこともさることながら、時間的制約・予算
幹線道路は閉塞せず
的制約から、道路閉塞想定箇所を現地調査のみで、データ
取得することは、非効率的であり、現実的ではない。
図―1 阪神・淡路大震災 道路閉塞状況
以上の背景から、大都市近郊に位置する都市をサンプル
- 76 -
(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
1.評価基準の検討
一般発表論文 №117
2.MMS 点郡データの取得・作成
道路閉塞のしやすさの評価には、地区内の緊急自動車の
平成 24 年 5 月に国土地理院から「移動計測車両による
通行や避難の障害となる、建物倒壊による道路閉塞の危険
測量システムを用いる数値地形図データ作成マニュアル」
性がどの程度あるかという点がある。
が発行され、モービルマッピングシステム(以下、MMS)
耐震改修促進法にもとづき各自治体で定めた耐震改修
の技術が広まり、利用されるようになっている。MMS は、
促進計画では、災害時に多数の人の避難や物資などの輸送
図 3 のような計測車両で道路を時速 50km 程度で走行し、
に重要な機能を果たす道路を、緊急輸送路として位置づけ
照射されるレーザーセンサにより、道路沿道の建物の位
ており、その沿道にある一定規模の建築物は、重点的に耐
置・形状を高密度レーザー三次元点群データとして取得す
震化を促進する必要があると決められている。
ることが可能となる。通常の速度で走行しながらデータを
取得することができるので、道路の通行に影響を与えない
・基準① 全面道路幅員が 12mを超える場合
幅員の 1/2 の高さを超える建築物(図2)
・基準② 全面道路幅員が 12m以下の場合
6mの高さを超える建築物
という利点がある。これらのデータから、「道路と建物の
距離」
「建物の高さ」
「道路幅員」等を、高精度に計測する
ことが可能となる。ここでは、表 1 の仕様の計測車両を用
いて、市域内における市道を走行し、レーザー点群データ
の取得を実施した。
図―2 特定建築物抽出基準
緊急輸送路は、10m以上の幅員が確保されているケース
図―3 MMS 計測車両
が多く、沿道の建物が倒壊したとしても、道路が完全に通
行ができない事象は発生しにくい。しかし背後地の地区内
表―1 計測車両仕様
の細街路沿道、いわゆる生活道路沿道に老朽木造家屋が密
集している場合、地震時に建物倒壊が発生すると完全な道
項目
路閉塞が生じる危険性がある。地区によっては、その閉塞
計測車両
によってその地区内への侵入が困難になる。
仕様
GNSS/IMU、オドメータ、デジタルカメラ、
レーザスキャナを搭載した車両
そこで、生活道路沿道における定量的な評価を実施する
GNSS 解析
ためには図 2 の道路中心線からの角度線基準に加え、追加
電子基準点を基準局とした後処理キネマ
ティック解析
基準の情報を収集した上で検討を実施する条件とした。
画像解像度
5400×2700 ピクセルの全周囲カメラ
画像取得間隔
3m 以下
レーザ点群密度
図化対象路面上で 400 点/㎡以上
レーザ測距精度
1cm 以下(1σ)
レーザ計測範囲
全周囲 50m 以上
レーザ点群の属性
X,Y,Z,反射強度
計測速度
一般車両の走行を妨げない通常走行とし
追加基準-1)沿道建物の建築年・構造・用途
追加基準-2)道路条件の細かい把握とその優先度の検討
以上の基準を用い、密集市街地おける緊急輸送路以外の
道路における危険度判定の検討を行った。
交通規制は実施しない
- 77 -
(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
一般発表論文 №117
以下に、抽出データと抽出例を示す。
ベースを保管している。併せて土地・建物の所在を把握す
・道路境界線からの建物までの距離
るための「地番現況図」「家屋現況図」を整備しているケ
・道路中心線から斜め角度線にかかる建物
ースが多い。この家屋現況図と建物課税データベースに対
・道路幅員
し、GIS 処理を実施することで、該当建物の建物情報を特
定づけることが可能になる。つまり建物の建築年月日・構
造等を調べることが容易になる。市道はより生活に密着し
た道路が多いことから、図 2 の特定建築物抽出の条件に加
え、家屋所在図の GIS 処理によって得られる a)~d)の指標
(表 2)を追加し、優先度をつけた建物危険度判定ができ
建物抽出
るかを検討した。
表―2 建物指標・道路指標
a) 指標-Ⅰ
建築年月日特定
・昭和 56 年以前か昭和 56 年以降か
・年代による老朽度判定
b) 指標-Ⅱ
建物構造
木造・非木造・鉄筋(堅牢)
・その他
図4―点郡データによる計測
c) 指標-Ⅲ
建物区分
防火・準防火地域区分・以外
d) 指標-Ⅳ
街路条件
幅員・歩道・街路連続性
これら指標に対して、細かいカテゴリー区分(表 3、表
4)および比準表(表 6)を設定し、数量化Ⅰ類を使用した
統計分析により、街路条件・建物条件による格差率(図 7)
正確な幅員計測の実施
を設けて、定量的に閉塞可能性率を算出することとした。
なお統計計算においては、シュミレーションシステムによ
り、建物ごと閉塞可能性率を算出した。
図―5 路面オルソによる幅員計測
表―3 指標追加項目例(街路条件:道路幅員)
道路中心線からの角度計測線を自動生成し、その計測線
分類
判定
にかかる建物を、その閉塞候補建物として抽出していった。
Lank A
6m 以上
閉塞可能性 低い
例えば、45 度上方に建築物がかかれば、特定建築物として
抽出することができる。従来の建物の高さ計測には、現地
Lank B
6m 未満
閉塞可能性 やや低い
で計測機器をもちいて測量せざるを得ない部分があった。
Lank C
4m 未満
4m を基準
しかし MMS 計測データを利活用すれば、従来の現地調査
Lank D
3m 未満
閉塞可能性 やや高い
より簡単に、より正確に建築物を抽出することができる。
Lank E
2m 未満
閉塞可能性 高い
また道路幅員については、点群データから路面オルソを生
成させることで、精度の高い道路幅をパソコン上で計測で
表―4 指標追加項目例(建物条件)
きた。
3.建物の詳細把握
市内の家屋の耐震状況を把握し、災害発生時に倒壊等の
危険分類
Lank A
危険なし
Lank B
ほぼ危険なし
Lank C
普通
Lank D
やや危険
Lank E
危険
判断材料
建築年月日
家屋構造
建物区分
可能性がある建物を把握するため、市の税務担当部署が保
有するデータ活用の検討をおこなった。市役所には住民に
固定資産税を賦課する目的で、土地及び建物の課税データ
- 78 -
(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
一般発表論文 №117
表―5 地区ごと閉塞率
建物条件・
MMS 抽出
街路条件追加
街路条件追加
A
B
地区 A
62%
44%
15%
地区 B
70%
39%
13%
抽出レベル
C
図 9 は地区内 A の街
図―6 シュミレーションシステム画面 比準表
路を GIS で視覚化した
MMS
閉塞可
抽
×
=
街路条
建物条
結果である。着色された
×
能性率
出家屋
件格差
件格差
合計∑
A
B
C
(赤・青・黄)
の建物は、
表 5 の抽出レベル A に
て抽出された建物にな
る。ここにレベル B の
図―7 合計格差率計算式
追加条件を付与すると
4.GIS 上での可視化
青色建物が除外され、さ
これらの集約した情報が可視化できるように GIS を用い
らにレベル C の条件を
図-9 道路閉塞建物抽出
追加すると黄色建物が除外され、最終的に赤色建物が危
て倒壊予測建物を視覚的に表現した。幅員が狭く、沿道の
木造建築物が多い地区にて実施した。建物条件格差(B)
険性のある建物として残った。
及び街路条件格差(C)を乗ぜず、MMS 抽出家屋(A)だ
けに焦点をあてると多くの個所でその倒壊の可能性があ
あ と が き
るという結果が確認される。
今回道路閉塞確率の抽出するにあたり、道路要因・建物
要因を考慮した上で、算定するモデルを検討した。道路閉
塞の発生事例が少ないこともあり、定量化がするのが難し
い側面があるが、各団体で保有されている家屋情報ストッ
クと、最新計測技術をもちいれば、
「現地調査なし」で簡
易に閉塞可能性を数値化することが可能であり、評価が実
施できる。もっとも道路閉塞パターンは、地震の揺れか
た・建物の形状等にも左右されることから、道路閉塞率が
本算出数値だけに依存するともいえない。また大災害時に
は、避難場所への到達不能性も考慮する必要がある。その
地区の住民が一次避難する場所は決められているので、ア
プローチに至るネットワーク的な要素を追加することで、
道路閉塞が発生した場合、誘導すべき別避難経路が可視化
図-8 道路閉塞建物抽出
されてくる。これらを「事前情報」として、道路閉塞の危
(青線:検討路線、赤枠:道路閉塞抽出建物)
険度を住民への公開することで、被災時の被害軽減に貢献
さらに、建物条件格差(B)
・街路条件格差(C)を乗じ
できると考える。
た閉塞可能性率の情報を建物属性に与え、GIS で可視化し、
道路閉塞分布を再度点検した。市内を複数地区に分けて、
最後に本論文に協力をいただいた関係者の皆様に厚く
お礼申し上げます。
地区内道路総延長距離に対して、発生しうる閉塞延長距離
の割合を指標とした。例えば地区 A で、MMS からのデー
参考文献
タのみを抽出、つまり道路との位置関係だけの条件では、
1) 改訂 都市防災実務ハンドブック 震災に強い都市
道路閉塞箇所の可能性として 60%以上にも及ぶ。ここに前
づくり・地区まちづくりの手引き (2005 年)
述の街路条件格差を付与、さらには建物条件を付与し再算
2) 国土交通省 耐震改修促進法の概要(2013 年)
定すると、その閉塞割合が 44%、15%と段階的に減少し、
場所を特定できた(表 5)
。
- 79 -