広域避難シミュレーションを用いた地域防災計画の検討

(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
プレゼンテーション発表アブストラクト №231
広域避難シミュレーションを用いた地域防災計画の検討
-不安心理を考慮した避難行動モデルの評価-
中央復建コンサルタンツ株式会社
1. 序章
栗田 陽介
2.2 危険回避行動モデルの定義
本研究では現実に近い分析と評価を可能とすべく、 2 つ
1.1 研究背景と目的
国や内閣官房の発令する災害対策基本法あるいは市町自
の事象を MA モデルの行動数理に当てはめることとした。
治体のとりまとめる地域防災計画では、具体的な広域避難
経路再探索行動…避難行動中の遠距離視覚情報として得
計画の詳細策定には至っていないのが現状である。本研究
られた危険箇所と道路閉塞状態を把握し、回避する行動
では滋賀県大津市中心市街地を対象として、歩行者シミュ
避難所再選択行動…先んじて避難完了した避難者による
レーションプラットフォームを用いた広域避難シミュレー
避難所の収容人数超過を把握し、他なる避難所への道程の
ションを行うことで広域避難計画の検討を行うことを目的
教示を受け再避難する行動
とする。その際、災害避難時において避難する移動個体が
2.3 対象地域内の道路閉塞に関する臨地調査
直近の環境から受ける不安心理を行動特性のひとつとして
1995 年の阪神・淡路大震災では多くの建物が崩壊し、そ
持ち、自律的に指定避難所を探し、避難を完了するという
れらの瓦礫が道路を覆い、道路閉塞が多数発生した。道路
一連の防災行動を発現する「危険回避行動モデル」を構築
閉塞は避難時にも大きな障害となり、目的地までの最短経
し、滋賀県大津市地域防災計画の検討を行う。
路であっても多くの避難者が通行に不安を感じ、異なる経
1.2 本研究の意義
路を選択すると考えられる。本研究では、対象敷地内にお
本研究の学術的意義は以下の 3 点である。A) 混乱を極め
いて実地調査を行い、a) 障害物による閉塞が高い確率で起
る災害避難時の非定常な行動を視覚的かつ事前に把握する
きると考えられる幅員 4.0[m]以下の道路、b) 崩落危険性
ことで、地域防災計画策定の際におけるエキスパートジャ
があるアーケードの架かる道路、c) 階段を含む道路の計
ッジあるいは避難誘導計画のリハーサルを容易にすること
33 本を危険回避対象道路として指定することとした(図 3)。
が出来る点。B) 災害避難時の危険回避行動を反映するこ
3. 危険回避行動モデルの構築
3.1 危険回避行動のプロセスと概念モデル
とで災害避難時の影響を把握し、広域避難計画策定時に考
慮すべき重要な要素と成り得るか検討できる点。C) 滋賀
県大津市中心市街地における災害避難時の地理的特徴を見
出し、地域防災計画と広域避難シミュレーションの相関的
本研究では複雑な不安心理行動を以下のプロセスによっ
て離散化し、概念モデルの作成を行う。
◯経路再探索行動のプロセス
避難者は最寄りの目的地への到達を目指し避難を開始す
な分析を行うことが可能な点である。
る。避難経路上に閉塞避難経路を認識した場合、閉塞避難
2. 危険回避行動モデルの構築に向けて
経路に侵入する手前で 30[s]間の停止(経路再探索行動)を
2.1 対象敷地について
対象地域は百町を代表する高密度な木造市街地や行政・
行い、閉塞避難経路を回避、目的地へ最短経路となる新た
経済の中枢機能を有する場所であり、居住者・就労者・一
な道路を選択する。以降、目的地へ到着するまで同様の行
時滞在者が混在する場所である (図 1)。
動を繰り返す。
図 1 対象地域における地区区分
図 2 対象地域における避難圏域
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図 3 指定した危険回避対象道路
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第48回(平成27年度)研究発表会 論集
プレゼンテーション発表アブストラクト №231
参考文献
◯避難所再選択行動のプロセス
避難者が最寄りの避難所へ到着した際、収容人数超過を
認識した場合、その場で 30[s]間停止(避難所再選択行動)し、
1)
2)
3)
次に最寄りの避難所への到達を目指す。以降、目的地へ到
4)
着するまで同様の行動を繰り返す。
木村 謙,佐野 友紀,林田 和人,竹市 尚広,峯岸 良和,吉田 克之,渡辺 仁史:マルチエージェ
ントモデルによる群集歩行性状の表現-歩行者シミュレーションシステム SimTread の構築-,
日本建
築学会計画系論文集(636),pp.371-377,2009.2
木村 謙,関根 宏,佐野 友紀,竹市 尚広,吉田 克之,渡辺 仁史:歩行者シミュレーションシス
テム SimWalk,日本建築学会学術講演梗概集 E-1,pp.915-916,2003.7
吉田 克之,木村 謙,峯岸 良和,佐野 友紀:避難時間を尺度にした津波避難計画の策定,2012 年
度日本建築学会大会(東海)防火部門パネルディスカッション資料,pp.33-36,2012.9
渡辺 公次郎,近藤 光男:津波防災まちづくり計画支援のための津波避難シミュレーションモデル
の開発,日本建築学会計画系論文集(637),pp.627-634,2009.3
3.2 危険回避行動のモデル化
本研究で用いる歩行者行動シミュレーションは全て汎用
CAAD 環境において試行を行った。またシミュレーション
演算用の離散空間ジオデータおよび不安心理を考慮した避
図 6-ハ-④
難行動モデルの構築は SimTread プラグイン・プログラム
をベースにし、全エージェントの逐次個体位置をテキスト
ログとして蓄積できるよう配慮した。その際、経路再探索
行動を歩行速度 0.2[m/sec]を 6.0[m]の継続発動、同様に避
難所再選択行動は、歩行速度 0.5[m/sec]を 15.0[m]継続発
図 6-ハ-②
図 4 移動個体の経路再探索行動
動するよう数理モデルとして実装した。後者はすなわち同
位置において 30.0[sec]の立ち止まり行動を行うことにな
る(図 4,5,6)
図 6-ハ-⑥
4. 広域避難(一斉避難)シミュレーションの試行
シミュレーション試行に向け a)各避難者を自治会・町内
会で取り決めた一次的な集合場所を経由するか否か、b)指
定避難所での避難状態が一時的か長期的かの別、c)地域防
災計画で定める指定避難所数、d)主として民間の場所提供
図 6-ハ-⑥
図 6-ハ-④
による指定外避難所数、e)道路閉塞の設定の有無の 5 つの
与条件をそれぞれ変え、表 1 に示す 5 つのケースについて
図 5 本研究の MA モデルによる避難所再選択行動
試行し、各ケースにおいて、避難距離、避難未完了者数、
避難所再選択行動回数を算出し、逐次避難動画とともに検
証を行う。
5. 本研究の成果
本研究により、今まで考慮されなかった「経路再探索行
動」や「避難所再選択行動」といった不安心理行動を取り
入れたモデルを構築したことで、より現実的な広域避難シ
ミュレーション試行が可能となった。一時避難場所から避
難所、避難所から避難所といった段階避難行動を取り入れ
たシミュレーションを実施し、避難計画の評価・分析を行
った点についても本研究の成果であると言える。
表 1 各シミュレーションで想定する諸条件
避難形態
収容避難者
[人]
一時避難者
[人]
避難所数
[箇所]
避難場所数
[箇所]
道路閉塞の
設定
ケース 1
ケース 2
ケース 3
ケース 4
ケース 5
避難所
収容人数の
検証
避難所
再選択行動
の検証
経路再探索
行動の考慮
避難場所の
追加
避難場所の
追加・経路
再探索行動
の考慮
直接
段階
段階
段階
段階
5,851
1,697
1,697
1,697
1,697
―
4,154
4,154
4,154
4,154
6
6
6
6
6
―
3
3
21
21
―
―
有り
―
有り
図 6 心理に起因する避難行動の概念モデル
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