(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第48回(平成27年度)研究発表会 論集 プレゼンテーション発表アブストラクト №207 鋼・コンクリート二重合成Ⅰ桁橋のクリープに関する研究 協和設計株式会社 田中 真美 2.クリープ現象と解析方法 1. はじめに 近年,合理化や工期短縮,コスト縮減を目指した新形式 コンクリートに一定荷重を持続して作用させた場合,時 の鋼・コンクリート複合橋梁の研究および開発が積極的に 間の経過とともにひずみが進行する.このような現象をク 行われている. リープという.コンクリートは,クリープにより時間の経 その一例として,図-1 に示すとおり,安価で施工性の良 い I 桁橋の中間支点領域に下コンクリート床版を配置し, 全橋長にわたって鋼桁の圧縮域にコンクリート床版が存在 する二重合成 I 桁橋が挙げられる 1). 過とともに変形が生じるため,長期にわたり使用する構造 物の設計において,適切に評価する必要がある. ここで,クリープの定式化を行い,その応力-ひずみ関 係式を誘導すると以下の式で表される 4).なお,紙面の都 合上,記号の説明は割愛する. c ,t t1 t1 Ec (t t1 ) t t1 Ec (1 ) つぎに,クリープによって,上・下コンクリート床版お よび鋼桁の各部材に発生する分担断面力の変化量は,上コ ンクリート床版打設時および後死荷重載荷時と施工ステ 下コンクリート床版 ップを考慮して,力のつり合い条件とひずみ,曲率の適合 条件より算出する. また,連続桁橋におけるクリープの解析は以下のように 図-1 二重合成 I 桁橋の構造概要(中間支点領域) 行う. 本橋梁形式は,下コンクリート床版を設置することで, 1) 変化量算出 将来,限界状態設計法が適用された場合,安全性の照査に おいて,すべての断面を全塑性状態,つまり,コンパクト 静定基本系におけるクリープによる分担断面力の 2) 不静定系におけるクリープによる分担断面力の変 化量算出 断面として設計することが可能となる.さらに,近年,二 重合成構造を積極的に採用しているスペインでは,下コン クリート床版の施工において,型枠兼用のコンクリート板 3.対象橋梁の概要 を適用するとともに,桁全域に渡って下コンクリート床版 まず,対象橋梁の側面,断面を図-2,図-3 ならびに図-4 を設置することで,ねじれ抵抗の向上や緊急点検および維 に示す.ここで,下コンクリート床版を設ける二重合成区 持管理時の通路として活用することができるなどの利点を 間は,後死荷重作用時に負の曲げモーメントが発生する区 有している 2). 間としている.また,通常合成断面,二重合成断面は,そ しかし,中間支点領域は,上・下にコンクリート床版を れぞれ,正曲げ(側径間,中央径間)区間,負曲げモーメン 有するため,コンクリートの重要な性質の 1 つであるクリ ト(中間支点領域)区間の断面を示している。なお,腹板高 ープや乾燥収縮によって生じる変形を鋼桁が拘束すること や部材厚は,その区間の平均値を示している. により,桁に過度な変形が生じたり,コンクリート床版に ひび割れが発生する危険性がある. 216000 96000 60000 60000 そこで,本文では, 3 径間連続二重合成 I 桁橋を対象に, 既往の研究成果 3)も含め,経時挙動の影響評価を行った結 果について報告する. 23000 17000 17000 23000 図-2 側面 (寸法単位:mm) - 163 - (一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第48回(平成27年度)研究発表会 論集 プレゼンテーション発表アブストラクト №207 死荷重が作用したことが要因と考えられる. 表-2 変化応力度一覧表 (単位:N/mm2) 660 21 2860 2570 600 320 43 27 10640 24 上縁 下縁 上縁 鋼桁 下縁 下コンクリート 上縁 床版 下縁 回復クリープを考慮する 作用応力 クリープ 乾燥収縮 合計 -16.5 -1.1 -71.4 -89.0 -15.1 -0.7 -71.4 -87.2 -160.0 -6.6 14.9 -151.7 73.8 58.8 43.7 176.3 1.1 1.9 -1.6 1.4 10.0 -6.4 -1.3 2.4 上縁 下縁 上縁 鋼桁 下縁 下コンクリート 上縁 床版 下縁 回復クリープを考慮しない 作用応力 クリープ 乾燥収縮 合計 -16.5 -1.0 -71.4 -88.9 -15.1 -0.6 -71.4 -87.1 -160.0 -6.3 14.9 -151.4 73.8 56.9 43.7 174.5 1.1 1.7 -1.6 1.2 10.0 -6.0 -1.3 2.7 58 38 床版鉄筋 850 890 a)側径間 b)中央径間 図-3 通常合成断面 (寸法単位:mm) 床版鉄筋 43 320 10640 125 24 880 690 58 2860 鉄筋Φ22 なお,二重合成部の下コンクリート床版には圧縮応力が 残存しているため,ひび割れが発生する危険性はないこと 930 を確認することができた. 図-4 二重合成断面 (寸法単位:mm) 5. まとめ 本研究において,3 径間連続二重合成 I 桁橋を対象に経 つぎに,表-1 に解析条件を示す. 時挙動に関する影響評価を行った.その結果,下コンクリ ート床版において圧縮応力が残存し,使用性の観点におい 表-1 解析条件 遅れ弾性クリープひずみに対するクリープ係数の最終値 ( フロークリープひずみに対するクリープ係数の最終値 ( 遅れ弾性クリープひずみに対するクリープ係数の進行を 表す無次元係数 (k1 ) d , f , フロークリープひずみに対するクリープ係数の進行を 表す無次元係数(k2 ) (t) 最終材齢 :日 (t2) 後死荷重載荷時における材齢 :日 (t1 ) 上コンクリート床版打設時における材齢 :日 ) ) 0.4 1.6 0.02 0.007 10000 200 100 て照査を満足する結果を得ることができた. 6. おわりに 本研究の内容は,著者が,大阪工業大学 工学部都市デザ イン工学科在籍時に卒業研究として実施した研究成果であ る.関係各位に感謝の意を表します. 参考文献 4.数値計算結果と考察 表-2 に,既往の研究 1) 橋の提案,第 5 回 複合構造の活用に関するシンポ の値も含めた結果の一覧を示す.同表の結果は,負曲げ最 大位置(二重合成部)の値であり,正は圧縮応力,負は引張 応力を示している. ジウム講演論文集,pp.29~32,2003 年 11 月. 2) 例えば,二重合成構造を採用した鋼トラス橋の計 画・施工-スペイン Ulla 川に架かる高速鉄道橋-,橋 同表より,下コンクリート床版下縁に関して,クリープ および乾燥収縮によって下コンクリート床版に引張応力 例えば,大山 理,大久保宣人,夏秋義広,栗田章 光:ラーメン形式の鋼・コンクリート二重合成 I 桁 3)より,乾燥収縮に伴う変化応力度 梁と基礎 2014 vol.48,pp62~63,2014 年 11 月. 3) 生川恭平,渡邊 涼,大山 理:(CS3-016) スパン比 が作用し,回復クリープを考慮する場合,76%の作用応力 をパラメータとした二重合成 2 主 I 桁橋の乾燥収 が減少している.さらに,その引張応力の約 8 割は,クリ 縮挙動,土木学会 第 69 回年次学術講演会講演概要 ープが占めていることがわかった.これは,コンクリート 集,pp.31~32,2014 年 9 月. の材齢が若い時期,つまり,クリープ係数の値が大きいコ 4) ンクリートに上コンクリート床版の打設によって,大きな - 164 - (社)土木学会:鋼・コンクリート複合構造の理論と 設計(1) 基礎編:理論編,pp.66~69,2004 年 10 月.
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