チシマワカサギの形態学的特徴と進化的意義

(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部
第48回(平成27年度)研究発表会 論集
プレゼンテーション発表アブストラクト №247
チシマワカサギの形態学的特徴と進化的意義
株式会社オリエンタルコンサルタンツ
1.目的
谷中 俊則
3.結果
ワカサギ Hypomesus nipponensis は,サケ目キュウリウオ
本研究の結果,外部形態においてチシマワカサギは,ワ
科ワカサギ属に分類され,国内において島根県以北の日本
カサギよりも体高,尾柄高は低い値を示し、縦列鱗数,尾
海側,北海道を除く千葉県以北の太平洋側の各地に,国外
椎骨数においては,少ない値を示した.さらに,骨格系に
においては日本海に面するロシアに生息する.本種は,地
おいて,鋤骨後方部は未発達であった.また,チシマワカ
域によって脊椎骨数に変異があることや,遡河回遊型,残
サギおよび山中湖産
留型,陸封型といった生活型多型が存在することなど,地
のワカサギは,他の
域ごとに多様な形態・生態を有するため,種分化研究の好
ワカサギよりも眼径
対象といえる.中でも分布域の最北端に生息するチシマワ
が発達し,基舌骨後
カサギ H. chishimaensis は,ワカサギの地域個体群とされ,
部中央には不規則に
ワカサギと比べ眼径が発達し,体側に黒色素胞が多く,残
歯が存在した.
図 3 チシマワカサギの形態的特徴
留型といった生活型しか確認されていない.このように,
チシマワカサギは,ワカサギ内でもさらに特異な形態,生
4.考察
態を有している.しかし、本種内における形態的多様性と
チシマワカサギの体高,尾柄高が低く尾椎骨数が少ない
その進化的意義に着目した研究はない.そこで,本研究で
といった特徴は,湖環境に適応したコイ科魚類の特徴と類
は歯舞諸島産,樺太産チシマワカサギの形態学的特徴を詳
似している.また,チシマワカサギと山中湖産のワカサギ
細に観察し,ワカサギとの比較を行うことで,本種内にお
で確認された眼径の発達は,北米のキュウリウオの小型群,
ける形態的多様
網走湖のワカサギの小型群,また,山中湖産ワカサギの移
性情報の蓄積及
殖元と考えられる霞ケ浦産ワカサギの小型群など多くの近
びその進化的意
縁種の小型群において確認されており,眼径の発達は小型
義の考察を行っ
個体群の特徴である可能性が示唆された.これらの結果か
図 1 使用標本
た.
ら,チシマワカサギは,眼径の発達で見られるような,小
(上:チシマワカサギ、下:ワカサギ)
2.材料と方法
型化進化の特
徴を基盤とし
材料として,ワシントン大学から借用した歯舞諸島産
ながら,体高,
(n=10),樺太産(n=10)のチシマワカサギを用いた.ま
尾柄高の低下,
た,比較材料として滋賀県余呉湖産のワカサギ(n=18),
尾椎骨数の減
知内川産のワカサギ(n=12)
, 山梨県山中湖産のワカサギ
少といったよ
(n=18),千葉県
り湖環境に適
利根川産のワカサ
応した形態へ
ギ(n=6)を用い
と進化したと
た.そして,各個
考えられる.
図 4 チシマワカサギの進化について
体の外部形態,鰓
5.今後の展開
耙数,腸型,骨格
系を観察対象とし,
チシマワカサギと
今後はワカサギ全体の多様性について研究する必要があ
図 2 使用標本
り,本研究から回遊様式や成長段階ごとの標本収集,さら
ワカサギとの比較
にそれらの食性,寿命,成熟時期,生息環境など生態情報
を行った.
の蓄積が必要である.
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