(一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第47回(平成26年度)研究発表会 論集 一般発表論文 №329 地元住民による再生可能エネルギー(小水力発電)事業の取組み (株)ニュージェック 野 々 村 真 輔 論 文 要 旨 本稿は、地元住民らが自ら発電事業者となり、再生可能エネルギー固定価格買い取り制度を利用して、売電事業 を行う取組みについて紹介するものである。土湯温泉町は、福島市街地から車で約 30 分の吾妻連峰の山間に位置 する温泉街である。温泉街の中央には 2 年連続水質日本一に輝いた清流である荒川(阿武隈川左支川)が流れ、年 間約 60 万人が訪れる福島市の重要な観光地である。しかしながら、東日本大震災に伴う福島第一原発事故の風評 被害を受け、観光客が激減し、16 軒あった旅館やホテルの内、6 軒が廃業または長期休業に追い込まれた。こうし た事態を踏まえ、震災復興まちづくりを模索して地元住民が立ち上がり、新たな組織として「土湯温泉町復興再生 協議会」を発足させ、復興計画を策定した。計画の骨子は再生可能エネルギー導入によるエコタウンと新たな地域 の魅力づくりで、土湯温泉町にある地形・砂防堰堤・水資源を活かした「小水力発電」であった。 キーワード:震災復興まちづくり、再生可能エネルギー(小水力発電)、地元住民による発電事業 ま え が き た砂防堰堤のひとつである。その検討結果から、最も有望 (1) 東鴉川第 3 砂防堰堤 な地点であったのが、この東鴉川第 3 砂防堰堤である。検 荒川(阿武隈川左支川)は、豊かな大地を育む一方、豪 討結果の裏付けもあり、本事業では、磐梯朝日国立公園内 雨の度に大量の土砂を流し、古くから「暴れ川」と呼ばれ、 に位置し、豊富な流量と砂防堰堤の落差を有する東鴉川を これまで多くの被害をもたらしてきた日本でも有数の急 発電事業の地点に選定した(図-2)。 流河川である。そのため、この荒川流域には、国土交通省 直轄による治水・砂防事業として、24 もの堰堤が作られて いる。その中でも東鴉川第 3 砂防堰堤は、堤高が 15 メー トルと、荒川流域の歴史的砂防施設の中では、2 番目の高 さを誇る砂防堰堤である。本堰堤は、玉石コンクリート造 で、昭和 27 年に竣工し、平成 20 年に登録有形文化財に認 定された(図-1)。 図-2 発電計画図 1.事業の資金調達と案件形成 こうして事業のアウトラインと案件発掘ができたもの の、発電事業者である地元住民に潤沢な財源があるわけで 図-1 下流側から見た東鴉川第 3 砂防堰堤 はない。そのため、事業の検討を行うための資金が必要と なった。そこで事業の各段階で国や県の補助金調査を行い、 (2)発電計画 この東鴉川第 3 砂防堰堤は、平成 21 年度に国土交通省 が荒川流域に点在する砂防堰堤を対象にその落差を活か その補助金事業に応募・採択されることで資金を調達した。 (1) 基本設計と震災復興まちづくりとして発電事業の可 能性調査/平成 24 年度 震災復興官民連携支援事業 して小水力発電の可能性検討(平成 21 年度荒川流域小水 土湯温泉町の復興計画としての再生可能エネルギー導 力発電検討/東北地方整備局福島河川国道事務所)を行っ 入によるエコタウンと新たな地域の魅力づくりを具体化 - 1 - (一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第47回(平成26年度)研究発表会 論集 一般発表論文 №329 2.関連法規の許認可申請 するため、国土交通省の補助金「震災復興官民連携支援事 地元住民(民間)が行う事業については、公共事業(社 業」に応募し、その採択を受けて、「小水力発電による土 湯温泉町スマートコミュニティー事業調査」を官(福島市) 会資本整備や公益確保等)ではないため、たとえ震災復興 と民(土湯温泉町復興再生協議会)が連携して実施した。 まちづくりの一環であるとしても、営利目的として位置づ けられ、関連する法規の制約や内容に準拠する必要がある。 本事業の中で、小水力発電設備の基本設計検討、発電事 業スキームの構築(図-3)とともに、小水力発電の電力活 そこで、本事業において関連する法規を抽出し、許認可申 用を想定した「観光賑わい事業(EV 車、WiFi 設備の導入)」 請の窓口の特定、事前協議、許認可申請書作成の代行を実 や「安心安全事業(融雪、無電柱化)」の施設展開に向け 施した。 た可能性調査も実施した。 (1) 関連する法規(許認可)等 本事業に関する関連法規と申請内容、合意形成等は以下 国土交通省 福島市 まちづくり協議 の通りである。 土湯温泉町 SPC 設立 各許 認可 申請 許可 発電事業者 特別目的会社 ・固定価格買い取り制度/設備認定・接続協議 まちづくり 資金 収入 ・電気事業法/保安規程・電気主任技術者選任 ・福島市条令/法定外公共物使用(流水占用)許可申請 電力 会社 ・砂防法/福島県砂防指定地等管理条例 ・自然公園法/第 2 種特別地域 売電 ・森林法/保安林内土地の形質変更許可申請 コンサルタント メーカー 設計検討 事業補完 電気設備 送配電 ・文化財保護法/登録有形文化財 ゼネコン ・温泉法/土地掘削届 土木工事 仮設検討 ・土地所有者/合意形成 ・内水面漁協/合意形成 図-3 発電事業スキーム (2) 維持流量の確保/自然公園法、内水面漁協 発電取水に伴う東鴉川の流量減に伴い、東鴉川に生息し (2) 福島県地域主導型小水力発電導入支援事業補助金 ているイワナについて、正常流量の検討を行い、年間を通 小水力発電の開発においては、設計検討の段階で、工事 じてイワナの生育・産卵を阻害しないための維持流量の算 費算出のための地形測量や発電電力量算定のための流量 定を行った。算定に当たっては、国土交通省の管理する流 測定等の調査結果を利用して採算性を検討する。これらは 量観測所のデータを利用し、現地にて流量観測を 7 回実施 基本設計の段階で実施することが一般的で、その後、事業 したデータとの相関から分析を行った結果、冬期 12~3 月 化が成立するとの判断が下されると、工事発注するための において 2 ㍑/秒の維持流量が必要とされた。その放流方 詳細設計に取り掛かる。いずれにせよ、建設までに調査設 法は、水槽沈砂池の壁面に小孔を設けて必要な維持流量を 計費用が必要になることから、福島県では、その調査設計 放流することとした。 費用に対して補助する補助金制度を創設した。本事業では、 (3) 環境配慮(景観・騒音)/自然公園法 詳細設計に対して、この補助金を活用した。 水車発電機の発電運転に伴う振動・騒音の軽減や国立公 (3)平成 25 年度 福島県市民交流型再生可能エネルギー導 園内での景観に配慮して、発電所は半地下式構造とした。 入促進事業費補助金[福島県市民交流型再生可能エネルギ (4) 構造物の小規模化/森林法 ー導入促進事業] 当該地点は、保安林に指定されている区域であり、建設 福島県は、再生可能エネルギー開発の先駆けの地を目指 には保安林解除を行う必要があった。また、保安林解除に しており、市民が再生可能エネルギー設備の導入を実感し は 3 年程度の時間を要するため、県の担当課へ相談した結 学習できる施設の導入に対するニーズが高まっているこ 果、一定の開発規模以下であれば、林内作業許可で建設が とを受けて、福島県内における再生可能エネルギー発電設 できる可能性があると回答を得た。その条件は、「建物面 備等の導入事業に要する費用に対して補助を行う補助金 積が 50 ㎡未満」、「開発総面積が 500 ㎡未満」、「水路 制度が創設された。本事業では、小水力発電施設を見学で 等の線的な構造物の幅が 1m未満」であることであった。 きる施設を併設し、新たな観光スポットの創出として、既 そのため、この条件を満たすように設計の見直しを行い、 存の観光施設との連携も視野にいれた計画を立案し、この 水圧管路の固定台のスリム化等、構造物の最小化に努めた。 補助金に応募し、採択された。 (5) 砂防堰堤の削孔/文化財保護法 登録有形文化財である東鴉川第 3 砂防堰堤は、文化財保 - 2 - (一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第47回(平成26年度)研究発表会 論集 一般発表論文 №329 護法の適用を受けるが、改変面積が堰堤下流面面積の 1/4 した。また、ゼネコン・メーカーの協力を得て、工事可能 以下の形質変更であれば届出も不要ということであった 時期や仮設備等のリース期間、水車の製作期間についてヒ ので、水圧管と余水管を堰堤に通すための削孔のみとした。 アリングを行い、正確な事業工程を作成することができた。 また、既設の堰堤に構造的影響が出ないように、削孔部は、 4.債務保証契約 充填コンクリートと水圧管路の間に弾力性のあるゴム板 小水力発電は、河川の水を取水して発電することから、 を施し、可とう性を持たせる構造とした。 当然河川の出水や土砂流出等の自然災害によるリスクが (6) 土地境界の整理 当該地は、公図が正確に整備されていない場所であった。 考えられる。場合によっては、発電事業の停止も考えられ また、河川区域についても、明確に定められていなかった ることから、発電事業者は、これらのリスクに対応するた ため、土地境界や河川区域を土地所有者や河川管理者の立 め、金融機関から発電事業者への事業資金の融資に対し、 会のもとで確定していく必要が生じ、それらの整理に多く 第三者(保証人)が支払いを保障する債務保証契約を結ぶ の時間を費やす結果となった。 場合がある。この場合、設計検討段階において、事業者と ともに想定されるリスクに対し、どこまで対応するかを協 3.融資条件への対応 議しておく必要がある。 金融機関から融資を受けるためには、一般的に事業の採 (1) 地元住民でも管理可能な施設構造の検討 算性が良いことが融資条件であり、本事業も例外ではない。 河川出水時の流出土砂に対して、発電施設(特に取水施 そのため、建設コストの縮減や発電電力量の増加など、設 設)の維持管理対策については、工事で使用する小型バッ 計検討においても採算性を高めるための対応が求められ クホウを取水地点近傍に常備し、それを流出土砂対策(排 た。また、融資時期等の見通しも立てる必要があることか 砂、河床整正等)に使用する。また取水口については、上 ら、正確な事業工程を作成する必要があった。 部をバックホウが通行できる形状とし、水路部分は上部か (1) 建設コストの縮減 らバックホウで流入土砂を容易に取り出せられるような 当該砂防指定地を整備・熟知している国土交通省の技術 形状とした。 指導を受けて、設計検討を行い、導入施設の小規模化や現 (2) 露出構造物の耐久性 地資材の流用等により、土木工事費を当初計画から約 24% 露出する水圧管路の材質について、河川の狭窄部である コスト縮減することができた。 ことから、材料運搬や施工の優位性や、紫外線による劣化 (2) 高効率水車の選定 や降雪等による錆等の影響を考慮し、軽量で耐久性のある 低流量域の効率を高く保つために、水車を二分割にした 材質を選定する必要がある。そこで、既存の砂防堰堤にお 構造のクロスフロー水車を選定した。この二分割構造によ いて適用事例のある高耐圧ポリエチレン管を選定した。 り、高流量域では、両方の水車が回転し、低流量域では、 (3) 落ち葉、土砂等の対策 いずれか片方が回転し、どちらの流量域でも、高効率運転 当該地は、クリ-コナラ群集を中心にスギ・ヒノキ・サ を行うことができる(図-4)。その結果、発電可能な日数 ワラ植林が分布しており、秋から冬にかけて取水口から多 を多くすることができ、年間の発電電力量を約 14%増加さ くの落ち葉が混入すると想定される。しかしながら、発電 せることができた。 運転開始後、発電にどの程度の影響が出るかは設計段階で は見通せないため、モニタリングを実施しながら、必要に 応じて沈砂池水槽に除塵機を後付けできる構造とした。 両方の水車が回転する流量範囲 0.27-0.45 ㎥/s 片方(大)の水車が回転する流量範囲 0.14-0.30 ㎥/s 片方(小)の水車が回転する流量範囲 0.07-0.15 ㎥/s さらに当該地は、砂防指定地内であることから、発電施 設に堆積した土砂を排砂できる施設設計を行った。具体的 には、取水口は、バックホウの利用、取水口から水槽沈砂 池までの区間については、人力による管理(水路は人が作 業できるφ1,500mm の管径としている)、水槽沈砂池は、 排砂管により流入土砂の排出を行う。 図-4 流況図上での発電可能範囲 5.発電諸元 本事業の発電および施設諸元、平面図、断面図を示す(表 (3) 事業工程の検討 事業工程の作成については、建設工期だけでなく、工事 -1、図-5)。 着工までの許認可に要する工程を含めて事業工程を作成 - 3 - (一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第47回(平成26年度)研究発表会 論集 一般発表論文 №329 図-5 上図:計画平面、下図:計画断面 表-1 発電および施設諸元 項 目 や各発電施設の役割を解説した標識を設置することで、取 数 値 水口から放水口までの一連の体験学習プログラムを用意 単 位 することを計画している。 最大出力 P 140 kW 最大使用水量 Q 0.45 ㎥/s 有効落差 H 44.4 湯温泉町の震災復興まちづくりや温泉観光との連携の確 集水面積 6.10 EL. m 2 km 取水位 517.50 EL. m 現に寄与できるものと考えている。 放水位 467.00 EL. m 損失落差 6.10 m 最高合成効率 71.5 % 河川維持流量 0.002 構造・仕様 取水口 チロリアン式 水圧管路 コルゲート管 φ1,500mm(埋設) 高耐圧ポリエチレン管 φ600mm(露出) 発電所建屋 半地下式 水車 クロスフロー水車 発電機 三相誘導発電機 放水路 立や福島県が目指す再生可能エネルギー先駆けの地の実 ㎥/s 発電施設名称 取水路 このような体験学習プログラムを取り入れることで、土 図-6 発電所内部の完成イメージ コルゲート管 7.事業体制の複雑化 φ1,500mm(埋設) 検討内容や事業の進め方に洩れがないか事業者ととも に定期的に事業の補完作業を行った。特に水力発電事業は、 6.震災復興まちづくりへの寄与 設計、測量、許認可手続き、土木施工、電気設備、送配電 発電運転開始後において、再生可能エネルギーの施設見 学フィールドの活用や、エネルギー環境教育の題材として、 市民が再生可能エネルギー設備を体感、学習できる施設の 導入を考えている。具体的には、発電所に隣接して、放水 路に流れている水深を計測し、計測時の発電力を算定する ような科学と教育をミックスした学習プログラムを備え た施設を整備する(表-6 の A)。また、保安規定上、自由 に発電所内を見学することができないことから、発電所内 の様子を見ることができる見学窓を発電所の壁面に設置 する(図-6 の B)。また、発電施設の随所に発電のしくみ 等、事業体制が複雑になりやすい。さらに地元住民による 発電事業となると、金融機関や補助金の交付機関も関係し てくるため、事業の補完作業が極めて重要になってくる。 このような事態を解消するために、メーカーであれば、例 えば水車発電機の据え付けだけでなく、その他電気設備や 補機も一貫して工事を請け負う等の対応が望まれる。また 土木設備では、設計・施工においては、コンサルタントと ゼネコンの責任分界の取り決め(覚書の作成等)もあらか じめ関係者で協議しておく必要がある。 - 4 - (一社)建設コンサルタンツ協会 近畿支部 第47回(平成26年度)研究発表会 論集 8.あとがき 一般発表論文 №329 表-2 地元住民による発電事業の課題事項と対応策の一 最後に地元住民による本発電事業で課題となった事項 覧 とその対応策について、前述した内容を一覧表に整理した 章 (表-2)。 事業の初期は、資金調達や関連法規について課題が多か 1 ったものの、地元住民が地元のためにまちづくりをする事 業であることからも、温泉観光や再生可能エネルギーの体 験学習等、そこからの波及効果・相乗効果は計り知れない ものがある。そこに地元住民が自ら発注者(本稿では発電 事業者)となって取り組むことに大きな意義・価値がある りである(図-7)。 図-7 全体イメージパース - 5 - 事業の資金調達と案件 対応策(コンサルタント) 補助金調査、活用 形成 関連法規の申請 許認可申請代行 3 融資条件への対応 採算性向上検討 4 債務保証契約 リスク想定と対策 震災復興まちづくりへ 体験学習プログラムの立案 7 大震災からの復興と温泉街に活気が戻ることを願うばか 業の課題事項 2 6 と考えている。未だ事業の半ばではあるが、一日でも早い 地元住民による発電事 の寄与 事業体制の複雑化 事業の補完作業
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