マイナス金利導入により大手行の貸出は増加するか-「逆ザヤ」

No.2015-035
2016年2月9日
http://www.jri.co.jp
マイナス金利導入により大手行の貸出は増加するか
~ 「逆ザヤ」懸念の一層の強まりが足かせに ~
(1)今般の日銀による「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」導入により期待される効果の一つは
銀行の貸出増加。当座預金の一部の付利をマイナスとし、資金をより利回りの高い別の資産へと
シフトさせることを狙ったもの。以下、大手行を例にとり、足元の貸出市場をリターン(預貸金
利鞘)とリスク(信用コスト)の観点から分析し、その実現可能性を検討。
(2)足元の預貸金利鞘は、預金金利の低下余地が乏しくなる一方、貸出金利の低下が続いていること
から縮小基調(図表1)。大手行の2017年度末の預貸金利鞘は0.7%台半ば程度まで低下する見
通しであるが、これは90年代後半からの信用コスト率の平均値をわずかながら下回っており、極
めて低い水準(図表2)。大手行は、預貸金利鞘が信用コスト率を下回る「逆ザヤ」に陥る可能
性をより意識せざるを得ない状況(*)。
(*)日本総研リサーチ・フォーカス「減少が続く銀行の国内基礎収益」(2016年1月28日公表)を参照
(3)今回のマイナス金利の導入に伴い、貸出金利は一段と低下する見通し。実際、長期金利は本政策
発表時点からすでに20bp低下(図表3)。一方、調達金利である預金金利は引き続きゼロ近辺に
張り付く見通し。そのため今後の預貸金利鞘は足元で予想される水準からさらに縮小し、「逆ザ
ヤ」懸念が一層強まる見込み。
(4)このように、すでに利鞘が極めて低水準なもとでは、銀行の調達金利の下げ幅が限定的ななか、
マイナス金利を導入して貸出金利のさらなる低下で貸出増加を狙ったとしても、貸出先の格付に
よっては信用コストに見合ったスプレッドを確保できなくなることから、大手行はこういった取
引先への新規貸出を一定程度制約する可能性。そのため、次第に大手行の貸出が優良先に限定さ
れていくことも予想される状況。今回のマイナス金利導入は円安・株高を通した景気浮揚、企業
業績改善というルートが想定されることもあるが、その効果発現には成長戦略の取り込みなど政
府の対応も必要であり、今回の緩和策のみでは日銀が期待する貸出増加には結びつかない公算が
大。
(図表1)大手行の預貸金利鞘・貸出金利・預金金利
(%)
1.8
0.35
預貸金利鞘(左目盛)
0.30
貸出約定平均金利(左目盛)
1.6
普通預金金利(右目盛)
1.4
0.25
0.20
0.15
(%)
0.10
1.2
1.0
0.05
0.8
2006
07
08
09
10
11
12
13
14
15
0.00
(年/月)
(資料)日銀を基に日本総研作成
(注)預貸金利鞘=預金利鞘+貸出利鞘
(図表2)大手行の信用コスト率
(%)
0.80
2.0
(図表3)10年物国債利回り
(%)
0.30
(%)
0.25
1.5
0.20
信用コスト率
0.15
0.75
1.0
0.10
0.5
0.05
0.00
0.70
0.0
2000
05
10
(年度)
信用コスト率平均値
預貸金利鞘
(97年以降)
(17年度末見込み)
(資料)全銀協、日銀を基に日本総研作成
(注)信用コスト率=(貸倒引当金繰入額+貸出金償却)÷総貸出
2016/01
16/02
(資料)日銀を基に日本総研作成
【ご照会先】調査部 研究員 吉川聡一郎([email protected] , 03-6833-6949)