間近に迫る就業者数の頭打ちと求められる対応

No.2016-035
2016年11月4日
http://www.jri.co.jp
間近に迫る就業者数の頭打ちと求められる対応
(1)2012年末のアベノミクス始動後、就業者数は着実に拡大(図表1)。景気回復に伴う需要増が主因。
一方、供給側から分析すると、人口減少と、高齢化(労働力率の低い高齢者シェア上昇)が減少に
作用したものの、失業者の減少と、労働力率の上昇による就業率上昇が押し上げ。
(2)就業率の上昇が顕著なのは、男性では団塊世代を含む60歳代(図表2)。背景には、健康年齢の長
期化、年金支給開始年齢の引き上げに伴う収入確保の必要性、これと歩調をあわせた高齢者雇用促
進法制の整備、が指摘可能。また、新規学卒者を含む20歳代も持ち直し。女性では、幅広い年齢層
で就業率が上昇。晩婚化が押し上げに作用したほか、賃金の伸び悩みを背景とした共働き化の進展、
人手不足を背景とした再雇用制度拡充などが背景。
(3)当面、景気が緩やかな回復傾向をたどると予想されるなか、就業率の上昇によって就業者数は増勢
が続く見込み。ちなみに、一定の前提(*)を置いて試算すると、就業者数は2018年度まで前年差
10万人程度の供給拡大が可能(図表3)。
(4)もっとも、景気回復局面が5年目に入るなか、ミスマッチなどによる構造的失業者を除く需要不足
による失業者・潜在失業者の就業者転化は早晩、頭打ちに(図表4)。人口要因のマイナス寄与が
急拡大するなか、2019年度には、供給面の制約から就業者は頭打ちとなる見通し。就業率の上昇
ペースが鈍化すれば、頭打ちは2017年度に前倒しになる可能性も。
(5)以上の分析を踏まえれば、幅広い年齢層の就業意欲を高めることが喫緊の課題。公的な育児・介護
サービスの拡充、氷河期世代に向けたきめ細かな就職支援、等の就業率押し上げ施策をより強化し
ていくことが必要。
(*)試算の前提は以下の通り。人口と年齢別人口構成の見通しは国立社会保障・人口問題研究所の年齢5歳階級別人口予測。各年齢階層
別の労働力率は、男性20~29歳、60歳代、女性20~74歳で各5歳年齢階級別の2013以降の上昇トレンドを延長。その他は横ばい。失
業者数は足元の前年比減少率を用いて延長。
(図表1)15歳以上人口と就業者数の変化
(2011年1月以降)
(万人)
15歳以上人口
150
景気
後退期
100
就業者数
50
0
▲ 50
▲ 100
2011
12
13
(資料)総務省「労働力調査」
14
15
(図表2) 年齢階層別の就業率の変化(2013年1月以降)
(%ポイント)
【男性】
【女性】
5.5
20~29歳 ( 75 / 71 )
5.0
30~39歳 ( 92 / 67 )
4.5
40~49歳 ( 93 / 72 )
4.0
50~59歳 ( 91 / 69 )
3.5
60~69歳 ( 61 / 38 )
70歳~ ( 20 / 9 )
3.0
2.5
2.0
1.5
1.0
0.5
0.0
▲ 0.5
2013 14
15
16 2013 14
15
(資料)総務省「労働力調査」
(注1)凡例の( )内は、2013年の就業率(男性/女性)。
16
(年/月)
(図表3) 就業者数の試算(前年差)
(万人)
120
90
(年/期)
(図表4) 失業者、潜在失業者数の推移
失業者の減少↑・増加↓
各年齢層の中での労働力率の変化
年齢別人口構成の変化による労働力率の変化
人口増加↑・減少↓
試算
就業者の変化
60
(万人)
需要不足失業者(A-B,右目盛)
160
構造的失業者(B,左目盛)
失業者(A,左目盛)
140
潜在失業者(左目盛)
600
500
120
400
100
300
80
200
60
(万人)
40
30
100
20
0
0
▲ 30
0
2002
▲ 60
2011 12
13
14
15
16
17
18
(資料)総務省, 国立社会保障・人口問題研究所を基に
日本総合研究所作成
16
19
20
(年度)
04
06
08
10
12
14
16
(年/期)
(資料)総務省などを基に日本総合研究所作成
(注1)HPフィルターで平滑化。
(注2)構造的失業者はミスマッチ等による失業者。
(注3)潜在失業者は、就業をあきらめ求職活動していない就業希望者。
【ご照会先】調査部 主任研究員 小方尚子([email protected] , 03-6833-0478)