輸出増の景気押し上げ期待は過大

No.2014-039
2015年3月20日
http://www.jri.co.jp
輸出増の景気押し上げ期待は過大
~ 再輸出、金など付加価値増に繋がらない輸出の増加 ~
(1)昨年秋以降、わが国の実質輸出は増加基調に(図表1)。アベノミクス始動後の円安が、ようやく輸
出数量の押し上げに寄与し始めたとの見方も。
(2)もっとも、輸出の本格回復については依然慎重にみておく必要。第一に、季節調整で除去しきれない
旧正月要因の影響。前年の旧正月が1月だった場合、翌年の1月の実質輸出は、中国向けのほか、中
国を除くアジア向け輸出において、大幅に増加する傾向(図表2)(*)。昨年秋以降、米国向けとと
もに、輸出をけん引してきた中国を除くアジア向けは、実勢以上に上振れている可能性。
(*)旧正月を祝日として採用する国に向けての輸出は、旧正月に向けての数週間に増加し、旧正月期間に減少する季節性を示す。太
陽暦をベースにした季節調整モデルでは、旧正月の日付の変動を捕捉できず、前年の1月に旧正月があたると、1月に「輸出が
少ない」、2月に「輸出が多い」という季節性が加わるため、こうした季節性を加味した後の季節調整値は、1月に上振れ、2
月に下振れの傾向が出てしまう。
(3)第二に、付加価値に繋がりにくい品目の輸出増加。実質輸出を品目別にみると、昨年秋以降の増加に
おいて、寄与が最も大きいのは主要品目の残差である「その他」(図表3)。「その他」の輸出(名
目)をさらに細かい品目でみると(図表4)、飲食料品などの伸びは限られる一方、再輸出品と金が
大きく押し上げ。これら2品目は国内生産に伴う付加価値を生まないため、GDP統計における輸出
には計上されず。以上を踏まえると、足許の実質輸出の増加は実質GDPの押し上げに一部結びつか
ない可能性も。
(図表1)実質輸出とドル円レート
(図表2)中国除くアジア向け実質輸出(季調値)
(円/ドル)
120
(2010年=100)
115
円安、輸出増
110
110
105
100
100
90
95
80
(旧正月が1月の年の1月=100)
125
2014~15
1993~94
120
98~99
01~02
115
04~05
110
06~07
12~13
105
100
95
90
70
実質輸出
ドル円(月中平均、右目盛)
60
12
13
14
(資料)日本銀行、Bloomberg L.P.
85
80
85
2011
90
15
(年/月)
1
2
3
4
5
6
7
8
9 10 11 12 1
2
(月)
(資料)財務省、日本銀行を基に日本総研作成
(注)リーマン・ショック後の2009~10年は、旧正月要因以外での
変動が大きいため除外。
(図表3)実質輸出(前期比)の品目別寄与度
(図表4)名目その他輸出の内訳(季調値、前期比)
(%)
8
(%)
30
6
25
20
4
15
2
10
0
5
▲2
▲4
▲6
▲8
▲10
その他
金
再輸出品
飲食料品
合計
0
その他
輸送機械
電子デバイス・通信機
民生用電気機械
資本財(除く輸送機械)
生産財(除く電子デバイス)
合計
2011
12
13
14
(資料)財務省、日本銀行を基に日本総研作成。
(注)品目分類、季節調整、実質化は日本総研で実施。
15年Q1は1~2月平均。
15
(年/期)
▲5
▲10
▲15
▲20
▲25
2011
12
13
14
15
(資料)財務省を基に日本総研作成
(年/期)
(注)その他は、概況品品目のうち、食料に適さない原材料、鉱物性
燃料、動物性油脂、原料別製品、雑製品の中で、図表3の主要
品目に分類されない品目の合計。15年1Qは1月値。
【ご照会先】調査部 研究員 菊地秀朗(03-6833-6228、[email protected]