ダウンサイド・リスク宣言~1月FOMC声明文を読み解く~(PDF/426KB)

みずほインサイト
米 州
2016 年 1 月 28 日
ダウンサイド・リスク宣言
欧米調査部主席エコノミスト
1 月 FOMC 声明文を読み解く
03-3591-1219
小野
亮
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○ 1月26・27日に開催されたFOMCは、金融政策の据え置きを決めた。これを受けて株価は下落した。
声明文で雇用の強さが指摘され、3月利上げの余地が残されたことが一因だろう。
○ しかし声明文のポイントは他にある。景気・物価に対するリスク判断が示されなかった事実である。
荒れ狂う国際金融市場を目にしたFOMCが不安を覚え始めたとみられる。
○ FOMCの監視対象に国際経済・金融市場動向が加わり、景気・雇用への影響を見極める姿勢が示され
た。声明文という限られたツールの中に、今回、事実上のダウンサイド・リスク宣言が読み取れる。
1.3 月利上げの余地残す 1 月 FOMC 声明文
連邦公開市場委員会(FOMC)は、1月26・27日の会合で金融政策の据え置きを決めた。それ自体は
市場予想通りだったが、声明文の発表を受けて株価は下落した。
声明文の冒頭、FOMCは景気の減速を認めつつも、前回の利上げを正当化する最も重要な材料であっ
た雇用情勢について、「一段と改善した」との判断を示した。景気減速の中身として、個人消費と設
備投資の伸びが緩やかになった点と、在庫調整の影響に言及しながら、雇用の伸びは「強い」と指摘。
これが、一部投資家の間で「3月会合での利上げ余地を残した」と解釈され、株安を誘った面があろう。
2.リスクの判断が下せない、というサプライズ
しかし、声明文の注目点は他にある。今回のFOMCは、雇用と物価及び先行きの見通しに関するリス
ク判断を示せなかった、という事実である。
その意味は、2月11日に行われるイエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長の議会証言を始めとす
るFRB高官らの発言、そして2月17日公表の議事録によって明らかになる。しかし筆者は、現時点で「今
回の声明文はダウンサイド・リスク宣言」と捉えている。
こう考えるのは、物価動向に関して、前回会合以降にFRB高官らの関心が高まった、金融市場で観察
されるインフレ期待が「一段と低下している」ことが声明文で指摘されたためだけではない。むしろ、
前述した景気・雇用を含め、物価動向に対する声明文の内容は、予想通りである。つまり、これらは
今後の金融政策を占うための新たな情報とはならないだろう。
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声明文のサプライズはリスク判断に関わるものだ。
従来示されてきた景気・雇用に対するリスク判断が、声明文から消えた。前回は、「内外の動向を
考慮すると、全体的に景気・雇用見通しに対するリスクは(上振れでも下振れでもなく)バランスし
ている」というリスク判断が明確に示されていた。今回のFOMCは、リスク判断ができなかったわけだ。
理由は明白である。年初以降、国際金融市場が著しく不安定化し、昨夏と同じ様相を見せているた
めである。当時は、このために9月会合での利上げ開始が見送られた。
3.監視対象を拡大し、盤石だった雇用の行方を注視
明確なリスク判断を下すにはもう少し、様子見が必要。そうした姿勢が、声明文に新たに盛り込ま
れた、次の文言に集約されている。「委員会は、国際経済・金融動向を緊密に監視し、雇用・物価及
び景気見通しに対する示唆を精査する。」
従来の監視対象は物価に限られていた。FRBに課せられた完全雇用と物価安定という2つの使命(デ
ュアル・マンデート)のうち、雇用はほぼ問題ない状況になってきた。一方、インフレ率は2%の目標
を下回り続けており、前述したようにインフレ期待の一部も低下してきている。低インフレが原油安
とドル高による一時的な動きに留まるのかどうか、監視が必要とされてきた。
しかし、荒れ狂う国際金融市場を目にしたFOMCは、これまで盤石とみてきた雇用動向にも不安を覚
え始めたとみられる。原油安やドル高は、ネットで見れば米国経済にとってプラスというのが定説で
ある。しかし、金融市場が荒れれば、企業は不透明感の高まりから従業員の採用計画を見直しかねな
い。消費者も財布の紐を締めてしまうおそれがある。定説はナイーブ過ぎる。
一方、声明文で「不確実性の高まり」を指摘すれば、自己実現的に景気悪化や金融市場の混乱を招
きかねない。忘れてならないのは、海外動向などについて声明文で分量を割けば、金融政策の足かせ
となりかねないことをFOMCが危惧していることと、声明文の分量には限りがあるという2点だ。
FOMCスタッフがこうした制約を考慮し、慎重に完成させたのが、今回の声明文であろう。そして、2
月初めの雇用統計の注目度も格段に高まったと言える。
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