イエレン議長の議会証言と連邦議会というマイナス金利の壁(PDF/434KB)

みずほインサイト
米 州
2016 年 2 月 12 日
イエレン議長の議会証言と
連邦議会というマイナス金利の壁
欧米調査部主席エコノミスト
小野
亮
03-3591-1219
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○ イエレンFRB議長は2月10・11日に定例の議会証言を行った。景気判断とリスクについて丁寧な解説
を行ったが、1月FOMC声明文から読み取れる範囲に留まり、議事録のプレビューに過ぎない。
○ 質疑応答で注目されたのが、マイナス金利政策である。マイナス金利政策の導入に関しては法的問
題が解決していないとされる。議会という大きな壁が横たわっている、ということだ。
○ 議会証言後も、市場では不安定な動きが続いている。これは、国際経済・金融市場が陥っている事
態の深刻さを如実に表している。
1. 1 月 FOMC 議事録のプレビューに留まった議会証言
イエレン連邦準備制度理事会(FRB)議長は、2月10・11日に定例の議会証言(金融政策報告)を行
った。その中身は、2月17日に公表予定の1月連邦公開市場委員会(FOMC)議事録のプレビューという
位置づけに留まった。FOMC参加者らによるコンセンサス形成の重視と、経済指標待ちという政策方針
を踏まえると、イエレン議長が、既に公表済みの声明文からほとんど読み取れないようなサプライズ
を意図する訳もなく、当然至極の証言内容である。
議会証言において、イエレン議長は、原油安とドル高によって輸出及び掘削部門の経済活動が悪化
している点と、株安等により金融コンディションがタイト化している点に言及した。しかしそれでも
なお、国内では雇用拡大と賃金の伸びの加速が消費拡大を支える点、海外では中銀による金融緩和が
支えとなる点を取り上げ、緩やかな利上げの下で米国経済の拡大が続くという見通しを堅持した。
先行きのリスクについては、イエレン議長は海外の景気動向を取り上げ、特に中国人民元相場の急
落を契機として生じた同国(為替政策と景気動向)を巡る不透明感の増大が、今後も持続した場合の
ダウンサイド・リスクに言及した。イエレン議長によれば、中国を巡る不透明感の増大が、国際金融
市場のボラティリティを高め、世界経済の先行きへの不安に拍車をかけた。こうした成長への不安と、
供給サイドの過剰問題が相まって、原油をはじめとする国際資源価格の下落につながっている。イエ
レン議長は、国際的な資源安が資源輸出国や資源関連企業に対する金融的ストレスの引き金となり得
ると述べ、もしこれらのダウンサイド・リスクが現実のものとなれば、海外経済と米国の輸出が弱ま
り、金融コンディションが一段とタイト化するとの見方を示した。
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もっとも、原油安が予想以上に景気を刺激する可能性も残されていることから、イエレン議長は「国
際経済・金融動向を緊密に監視し、雇用と物価への示唆と見通し上のリスク・バランスを精査する」
という、ほぼ1月声明文通りの文言を繰り返した。
2.マイナス金利導入に議会の壁
議会証言で注目されたのが、マイナス金利政策の導入に関する質疑応答である。その必要性はとも
かく、FOMCがマイナス金利政策を導入するには議会という大きな壁があるとみられる。
FOMCがマイナス金利政策を導入する場合、それは超過準備付利(IOER)のマイナス化を指す。日欧
と同様に階層構造のマイナス金利政策を採用し、預金金融機関の資金繰りに対する影響を最小限に抑
えようとしても、米国では連邦準備法の規定に抵触してしまうおそれがある。公表された内部メモに
よって、FOMCはマイナス金利導入の法的問題をすでに2010年8月時点で認識していたことが分かってい
るが、今回の議会証言によって、法的問題は今なおクリアになっていないことがうかがえる。
連邦準備法では、各準備銀行は、準備を預けている預金金融機関に対して「短期金融市場全般の市
場レートもしくはそれを超えない金利水準での所得(earnings)を支払わなければならない」とされ
ている。金利支払いが発生する民間の一般的な貸借契約と同様、この規定はマイナス金利を想定して
いない。
マイナス金利政策の必要性はともかく、その可否が法律の解釈に委ねられるのか、法改正が必要な
のかは、あまり重要ではない。重要なのは、いずれにせよ、議会関係者の十分な理解が得られるかど
うかにかかっているという点である。法改正の場合は言うまでもないが、仮に解釈の問題だとしても、
議会関係者の十分な理解を得られなければ、マイナス金利政策は「FRBの暴走」として受け止められか
ねない。金融政策にまで口を出そうとする一部議会関係者(共和党保守派)にとって、マイナス金利
政策の導入は千載一遇のチャンスと言え、FRBは極めて慎重に事を進める必要があるとみられる。
3.鎮まらない市場
今回の議会証言を受けても、市場の不安定な動きは止まっていない。これは国際経済・金融市場が
陥っている事態の深刻さを如実に表している。
前述したように、イエレン議長の議会証言は、ダウンサイド・リスクを意識させるものであり、そ
れが株安などリスク資産からの資金逃避を助長した側面があるかも知れない。しかし同時に、緩やか
な利上げ路線を堅持したという点で、議会証言は景気の先行きに対して楽観的であり、金融政策的に
はタカ派的であった。つまり、市場参加者がこうした面に着目したと想定しても、リスク資産逃避の
動きを説明できる。後知恵的ではあるが、イエレン議長には「綱渡り」の綱すらも残っていなかった
ことになる。
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