[みずほインサイト]6月利上げの蓋然性はゼロか?

みずほインサイト
米 州
2015 年 4 月 10 日
6 月利上げの蓋然性はゼロか?
欧米調査部主席研究員
利上げ開始のハードルの低さにご用心
03-3591-1219
小野
亮
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○ 3月FOMCの議事録(4/8)では、利上げ開始の前提である「インフレ持ち直しに対する合理的自信」
に結び付く具体例が示された。一段の雇用改善、原油価格の安定、ドル高の一服である。
○ 会合時点では、利上げ開始の時期について6月、今年終盤、2016年という3つの意見に分かれていた
ことも明らかになったが、足元では原油安もドル高も一服している。
○ 会合後の講演でイエレンFRB議長は利上げ開始の時期よりもその後の利上げペースの重要性を強調
した。市場参加者が思うよりも、利上げ開始のハードルが低いと見られる点に注意が必要だ
1.利上げ開始の新たな材料を明らかにした 3 月 FOMC 議事録
3月17・18日の連邦公開市場委員会(FOMC)に関する議事録が公表された(4/8)。声明文に示され
ていた「インフレ持ち直しに対する合理的自信」が何を意味するのかについて、新たな材料が明らか
になった。
3月のFOMC声明文では、利上げ開始の可否について「インフレ率が中期的に目標の2%に向かって持
ち直していくという合理的自信」をFOMCが持てるかどうかにかかっていることが示されていた。そこ
で新たに生じた問題は、「合理的自信」とは一体何を意味するのか、という問題である。
FOMC後の記者会見を振り返ると、イエレン連邦準備制度理事会(FRB)議長は質問に答える形で、特
定の経済指標の水準が満たされればいいというような機械的あるいは単純な答えはないと述べつつ、4
つの例を挙げていた。一段の雇用改善、足元のインフレ率の下振れが一時的であることの確認、賃金
の伸びの高まり、インフレ期待、中でも金融市場で観察されるインフレ期待の持ち直しである。
議事録でも、合理的自信に結び付くような単純な基準はないとしながら、自信を強める支援材料と
して3つの事例が取り上げられた。一段の雇用改善、原油価格の安定、ドル高の一服である。
興味深いのは原油価格と為替への言及だ。イエレン議長の発言では、あくまでインフレ率の動向に
関心が向けられていたが、議事録ではインフレ率を取り巻く環境の変化に重点が置かれている。筆者
はこうした違いにこそ、「合理的自信」、とりわけ「合理的」という言葉の意味が隠れていると考え
る。すなわち、利上げ開始のハードルは決して高くなく、インフレ率の持ち直しを待たずとも、原油
安とドル高が一服しさえすれば、利上げ開始の環境が整うということになるのではないか。
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2.「利上げをいつ始めるか」よりも「その後」が重要
イエレン議長は3月FOMC後の講演(3/27)で、利上げ開始の判断よりも、利上げ開始後の政策金利の
パスが重要であることを強調している。これもまた、利上げ開始のハードルの低さをうかがわせる発
言である。
イエレン議長によれば、利上げ開始に当たってFOMCは慎重に事を進める意向だが、そうした利上げ
開始の判断を過度に重視すべきではないと言う。金融情勢や経済全体にとって重要なのは今後の金利
政策の全体像であって、利上げ開始のタイミングではないためだ。消費や投資を左右するのは、将来
にわたる金融政策に対する家計や企業の予想である。
では、利上げ開始後の金融政策の全体像とはどのようなものか。イエレン議長は金融政策の運営は
あくまで経済情勢次第であり、一定のペースで利上げが続くことをFOMCがすでに想定しているわけで
はないと述べている。利上げを早めることもあれば、利上げペースを落としたり、停止したり、場合
によっては利下げすらあると言う。過去の回復局面における政策金利のパスは、参考になるどころか、
今後の金利政策を見誤る可能性がある、とまで言っている。
ただそうした上で、最も蓋然性が高い金融政策として、イエレン議長はFOMC参加者の見通し(Summary
of Economic Projections、SEP)を取り上げた。SEPによれば、堅調な景気拡大が続く見通しの下でも
金融政策は漸進的に正常化が進められることになっている。イエレン議長は、平均すると1年間で1%
Ptというゆっくりとした利上げが2017年末まで続くという説明まで行った。
3.利上げ開始の「その後」を決めるのは「はっきりとした兆し」
イエレン議長によれば、正常化を開始した後の利上げは「インフレ率が持ち直していくという、は
っきりとした兆し」があるかどうかに左右される。「はっきりした兆し」と比べると「合理的自信」
という言葉は極めて曖昧であり、こうした差異も利上げ開始のハードルの低さを示唆する。
議事録では、利上げ開始の時期について6月、今年終盤、2016年と意見が分かれた様子が明らかにな
った。2016年利上げを唱える代表格はミネアポリス連銀のコチャラコタ総裁である。
しかし足元では、前述した利上げ開始の支援材料のうち、原油価格の安定もドル高の一服も確認で
きるようになった。また、イエレン議長の立場に近いとされるニューヨーク連銀のダドレー総裁は、4
月分の指標がほとんど出ていない現時点で、「経済指標の下振れは広範にわたるものの、かなりの部
分が一時的要因である」との見方を示している(4/6)。
3月雇用統計の下振れは利上げ開始の時期に対する市場の思惑を大きく変化させた。FOMCも慎重にな
っただろう。しかし、利上げ開始判断の相対的な“軽さ”を考えると、6月利上げの蓋然性がゼロと考
えるのは早計である。
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