リサーチ TODAY 2015 年 4 月 8 日 中国の病は「日本病」、デフレとバランスシート問題 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 中国では3月15日に全人代(国会に相当)が閉幕した。そこでは成長率目標が「+7.0%前後」とされ、バ ランスシート調整のために経済の減速が許容された。ただし、経済への下押し圧力が強まっていることから、 今年の成長率目標達成は容易でなく、景気てこ入れの強化と改革の深化により目標達成が目指される方 針だ。みずほ総合研究所は3月、中国経済が待ち受ける課題に関するリポートを発表している1。中国が今 日抱える課題がバランスシート調整にあるとすれば、それはバブル崩壊後に日本が抱えた問題、「日本病」 に類似した症状を中国が抱えていることを意味する。具体的には、①過剰債務を中心としたバランスシート 問題、②バランスシート調整に伴うデフレ圧力という症状である。 第一にバランスシート調整の状況を下記の図表から考える。中国政府が2008年11月に4兆元の景気対 策を行い、大量の借り入れや投資が行われた結果、バランスシート調整の原因となる信用拡張が生じた。 社会融資規模(非金融機関・家計による資金調達残高)の対GDP比率は、2007年末の120%から2014年末 は193%に上昇した。同時に生産能力の過剰感は、原料・素材産業を中心に今なお残存する。住宅在庫も 地方都市を中心に高水準である。バランスシートの重みにより信用収縮、在庫調整、設備圧縮の圧力がバ ランスシート両面から生じ、経済の減速が長引くのは「日本病」の典型的な症状だ。 ■図表:中国の投資の伸び率と資金調達残高の対GDP推移 (前年比、%) (%) 40 200 35 175 30 150 25 125 20 100 15 75 10 固定資産投資実質伸び率 (左目盛) 5 社会融資規模対GDP比率 (右目盛) 0 2002 05 08 11 50 25 0 14 (年、年末) (注)1.2010 年以前の固定資産投資実質伸び率は、みずほ総合研究所推計値。 2.社会融資規模は、非金融機関・家計による銀行貸出、委託貸出、信託貸出、銀行引受手形、債券、株式等を 通じた資金調達残高を指す。 (資料)中国国家統計局、中国人民銀行、CEIC Data 1 リサーチTODAY 2015 年 4 月 8 日 第二はデフレの不安である。下記の図表に示されるように、2015年1月の消費者物価指数は前年比+ 0.8%まで低下し、2009年11月以来の低い伸びとなった。翌2月には同+1.4%まで上昇したが、これは旧 正月休暇を背景とする生鮮野菜・果実、旅行関連サービスの一時的な価格上昇によるところが大きい。ま た、工業生産者価格指数(PPI)の伸びも2015年2月には同▲4.8%となり、マイナス幅がさらに拡大しており、 それが今後の消費者物価の下落要因ともなりうる。こうした物価の下落も「日本病」の症状の一つだ。 ■図表:中国の物価指数推移 6 (前年比、%) CPI PPI 4 2 0 -2 -4 -6 2012 13 14 15 (年) (資料)中国国家統計局、CEIC Data 3月の全人代で今年の成長率目標が「前年比+7.0%前後」に引き下げられたことは、中国政府が資本 ストック調整のために経済を減速させつつも、十分な雇用を確保できる水準へと軟着陸させようとしているこ とを意味する。それは、バランスシート調整における経済の減速とデフレ不安を一定程度受け入れることに ある。こうした状況は、日本のバブル崩壊後のバランスシート調整に伴う状況と類似した側面をもつ。一方、 日本の状況との違いは、中国の発展段階が当時の日本より低く成長余力があることだ。その結果、経済主 体のマインドセットが日本のように萎縮したままにはなりにくい。ただし、現象面では「日本病」とされるように、 一旦マインドが落ち込むと元に戻りにくいという教訓があるだけに、財政・金融政策による下支えを強めて 落ち込みを回避しようとしている。中国は2014年11月に利下げを行い、さらに今年3月1日にも利下げを行 っているのは、原油価格の下落や内需の弱さに起因する物価低下によって生じる実質金利上昇を抑制し 資金調達コストを引き下げ、投資の伸びを確保することで物価下落の悪循環を回避したいからだろう。また、 2008年以降の4兆元の景気対策の副作用は、バランスシート問題として地方政府の債務問題2にもつなが っていることも認識する必要がある。 1 2 「『新常態』移行元年の経済運営」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2015 年 3 月 24 日) 「対策進む中国の地方政府債務問題」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2015 年 3 月 31 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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