アベノミクスと日本企業の新潮流

リサーチ TODAY
2016 年 1 月 12 日
みずほ総研フォーラム、アベノミクスと日本企業の新潮流
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
みずほ総合研究所は昨年11月5日に「みずほ総研フォーラム2015」を開催した。テーマは「アベノミクスと
日本企業~新たな潮流と課題への挑戦~」とした1。同フォーラムでの我々の問題意識は次の通りであり、
我々はアベノミクスと日本企業の今後のあり方に注目した。
■図表:みずほ総研フォーラム2015での論点提起
・アベノミクスの 3 年間をどう評価するのか
・アベノミクス 2.0 の重点課題はなにか
・日本企業を取り巻く環境変化はなにか
・日本企業の競争力強化に向けた課題はなにか
・企業再生や地方経済活性化に向けた課題はなにか
・中国と日本企業はどう向き合うか
(資料)みずほ総合研究所
振り返れば、3年前に第二次安倍内閣が発足した後、「アベノミクス(3本の矢)」の政策による日本経済
の本格回復が期待された。海外からの資金流入も手伝い株価は2倍以上に急上昇し、50%以上の円安も
進行した。この3年間を振り返り、改めて、安倍政権をどう評価すべきか。昨年後半以降、「新3本の矢」の
政策が打ち出され、アベノミクスは2.0の次元となったなか、今後、実際に日本企業に変化が起こるのかが
問われている。
■図表:2012年11月以降の市場動向推移
(円/ドル)
135
(円)
23,500
21,000
日経平均株価
ドル円相場(右目盛)
125
18,500
115
16,000
105
13,500
95
11,000
85
8,500
12/11
75
13/5
13/11
14/5
(資料)Bloomberg
1
14/11
15/5
15/11
(年/月)
リサーチTODAY
2016 年 1 月 12 日
今回のフォーラムにはパネリストとして、内外に幅広い影響力を有する3人にご参加いただいた。日本の
産業界を代表する立場から志賀俊之氏(日産自動車株式会社 取締役副会長・産業革新機構 代表取締
役会長(CEO))、経済財政諮問会議議員であり現在の政策にも深く関与されている伊藤元重氏(東京大
学大学院経済学研究科 経済学部 教授)、地方を中心として実際に企業や金融機関の再生案件に携わ
ってこられた佐藤雅典氏(ジェイ・ウィル・グループ 代表)の3名にディスカッションを行っていただいた。
このうち、志賀氏・伊藤氏はどちらも、過去3年の経済政策により重要な変化が生じ、これまでの制約であ
った「六重苦」から日本が解放されつつあるとし、アベノミクスは新たな局面、フェーズ2に移行したと述べた。
そして、今や成長戦略のバトンは民間企業に渡されたとの基本認識が示された。一方、地方経済への関与
が深い佐藤氏は、地方には良い企業がたくさんあって、まだまだやれることが山ほどあるが、多くの企業が
人材不足の問題を抱えていると述べた。
これまでの3年間ではアベノミクスで「政府が何をやるか」が注目されたが、今後は「民間がどう動くか」に
焦点が移ってきているとの共通認識が3氏にはあった。ただし、そこからの進展には様々な議論があった。
志賀氏は実務家の観点から民間のイノベーションの重要性を指摘した。ドイツでは「インダストリー4.0」が産
官学共同で進められているが、日本のイノベーションは企業ごとになってしまって横串が通っていないとい
う問題点を指摘した。同時に、企業同士や企業と大学などがオープンイノベーションを進めるグローバルス
タンダードの重要性を訴えた。伊藤氏は、アベノミクス下の過去3年間での変化を評価しつつも、企業がデ
フレマインドを払拭できず、他の企業が投資や賃上げを実行しないなかで、自分だけが投資や賃上げを行
うことをためらう「コーディネーション・フェイリア」が起こっていることを問題点とした。そうしたなか、企業が本
当に投資や賃上げを一斉に行うために、政府主導の仕組み作りも、依然必要との問題提起をした。佐藤氏
は、日本の地方の企業のなかに積極的に海外に目を向けて進出をはかる企業が出てきたことを指摘し、そ
うした動きに対する金融機関のサポートの重要性を指摘した。
今回のフォーラムの3人のパネリストのまとめのメッセージは下記の通りである。
■図表:みずほ総研フォーラム2015での論点提起
伊藤氏:「コーディネーションの失敗」
佐藤氏:「地域経済は可能性の塊」
志賀氏:「オープンイノベーション」
(資料)みずほ総合研究所
3人のパネリストの意見はどれも、アベノミクスの成功には日本人の意識改革が必要ということであった。
アベノミクスは過去3年で相応の成果を示したものの、残る課題は本当に民間が動き出すのか、本当にイノ
ベーションの道筋をたどっていくのかだ。ただし、今日、民間にバトンが渡されたものの、コーディネーション
が出来ない中では、政府の役割が問われ、イノベーションを束ねる政府の役目も必要となる。安倍政権は
昨年9月の自民党総裁選であと3年の猶予期間を確保する状況になり、長期政権の見地から、国内改革と
外交関係の構築が行われうるというのが、今回のフォーラムからのインプリケーションといえる。漸く改革を
行うことができうる環境になったのだから、民間も政府も真に実行する決断を行うしかないというのが多くの
識者の共通した認識である。
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『みずほ総研フォーラム 2015 アベノミクスと日本企業~新たな潮流と課題への挑戦~』と題するセミナーを開催した。
フォーラム概要は当社ホームページをご覧いただきたい。http://www.mizuho-ri.co.jp/service/research/forum/index.html
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