年限長期化は日銀が意識する2018年への時間確保

リサーチ TODAY
2015 年 12 月 24 日
年限長期化は日銀が意識する2018年への時間確保
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
米国は先週、歴史的な利上げに踏み切った。一方、日銀は「補完」として追加緩和への準備を行った。
筆者はグローバルな金融市場に30年以上従事してきた実務家として、1970年代以降の日米欧の政策金利
の引き上げの連動について「5回のジンクス」の議論を行ってきた。
■図表:「5回のジンクス」70年代以降の日米欧の政策連動
①1970 年代以降、日米欧の中央銀行の政策金利引き上げサイクルは一致
②①の連動サイクルで、日銀は日米欧の中央銀行で常に最後の利上げ
③日銀の利上げの翌年は全て世界同時減速
④同時に、世界的な金融市場の変動が生じ、新興国問題も生じる
⑤①~④の5局面はすべて原油価格の高騰期と符合
(資料)みずほ総合研究所
70年代以降を振り返ると日銀の利上げ局面は5回あり、これにいつも米国の利上げが先行してきた。これ
は、米国が金利を引き上げている過程でないと日本は利上げに転換できないことを意味する。換言すれば、
今回米国で利上げが行われたことは、大きなトレンドでみた転換を意味することが過去の経験則から言える。
ただし米国の利上げ期間は、振り返ってもせいぜい1、2年、長くて3年であった。したがって、日本の出口
への決断には米国の利上げから長くて3年の猶予期間しかないと考えられる。つまり今回の米国利上げに
より日本の出口に向けた猶予期間は長くても2018年頃までと、カラータイマーが点滅したと言える。
先週のTODAYで財政金融政策の「2018年問題」を議論した1。2018年は、政治的には安倍首相の自民
党総裁の任期満了の年であり、黒田日銀総裁の任期満了の年でもある。それゆえ、アベノミクスの後半戦、
「アベノミクス2.0」は2018年までと考えることができる。こうした環境下、日銀がオペレーションを続ける上で
時間的な制約の下にあるなか、12月18日の日銀の追加措置は2018年までの時間的制約をクリアさせる効
果があったことは重要である。すなわち、国債の買入れ平均残存期間を7~10年から7~12年程度に長期
化したことは、国債購入の時限性の制約を2018年程度まで伸ばすことが目的と評価できる。
筆者は、今日の金融環境は過度な金融緩和によって金融市場の機能が低下し、さながら「麻酔」がかけ
られている状態とし、この期間(猶予)のなかで民間セクターの前向きなマインド転換を実現すべく「手術」
が行われている状況としてきた。今日、日銀は長期国債を発行量以上に購入し、市場の国債残高を縮小さ
せているが、これは市場機能を麻痺させる「劇薬」に近い。このような「劇薬」がいつまで続くのかを考える上
で、次ページの図表で国債発行残高に占める日銀の保有量の推移を試算する。この試算は先週の日銀
の決定前、日銀の国債買い入れの年間増加額が80兆円であることを前提に、国債の発行が2015年計画
ベースで続くと仮定した結果である。2020年には残存期間1年超5年以下の国債の100%近くを日銀が買
い占めることになる。
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リサーチTODAY
2015 年 12 月 24 日
■図表:国債発行残高に占める日銀保有割合
100
(%)
84%
90
80
70
70%
60
50
40
残存1年超5年以下
30
残存10年以下
全体
20
(暦年)
10
2014
2015
2016
2017
2018
2019
2020
(注)日銀の国債買入れは年間 80 兆円増額ペースで想定。年限別の買入れ額は 2015 年 1 月実績を踏まえ想定。
国債発行額は 2015 年度計画ベース。
(資料)みずほ総合研究所作成
一方、銀行を中心とした民間金融機関には残存期間5年以下のゾーンを中心に担保ニーズで一定量を
保有する必要があるため、この残存1年超5年以下のゾーンについては2年先、つまり2017年以降日銀は
国債の購入方法の変更を余儀なくされる可能性があった。今回の買入れ期限の延長は、その制約を2018
年以降まで伸ばすことによりこうした時限的制約をクリアする意図があると考えられる。異例な国債購入を
「麻酔」に例えたのは、あくまでもそれが時限的な措置であり、この間に経済や財政の改善が期待されてい
るためである。日銀は今後、2016年1月の展望レポートの中間評価に合わせ、2013年1月に行われた政府
との物価目標の共同声明を改訂し、そこに賃金上昇率を入れて参照値として重視する姿勢を示すことにな
ると展望する。同時に、付利の引き下げ等を含め、2018年も視野に入れた長期戦の体制が含まれることも
展望される。先週の日銀の対応は、株式市場にはわかりにくいメッセージだったが、日銀が追加緩和を視
野に入れた準備をしたと評価している。
■図表:日銀以外の民間投資家の国債保有残高
600 (兆円)
全体
残存10年以下
残存1年超5年以下
500
400
担保需要(上限
ベース):132兆円
300
200
100
0
2014
2015
2016
2017
2018
5年以下のオペが円滑に行
えなくなる可能性
2019
2020
(暦年)
日銀が受入れている担保
残高(5月末):45.8兆円
(注)日銀の国債買入れは年間 80 兆円増額ペースで想定。国債発行額は 2015 年度計画ベース。
(資料) みずほ総合研究所
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「財政・金融政策の『2018 年問題』とはなにか」(みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』 2015 年 12 月 17 日)
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