2017年までの内外経済中期見通し - みずほ総合研究所

 経済見通し
2017年までの内外経済中期見通し
─ けん引役不在の世界経済、
日本は内需拡大が課題 ─
欧米に金融危機後の調整圧力が残ることに加え、輸出主導で成長してきた中国をはじ
めとするアジア経済も成長モデルの転換を迫られる中、けん引役を失った世界経済は
低めの成長が続くであろう。輸出に大きな期待を抱けない状況下で進行する高齢化へ
の対応を迫られる日本は、予測期間中の平均成長率が 1%程度にとどまる見通しであ
る。復興需要は2012年度がピークとみられ、
その後の内需拡大が重要な課題となる。
けん引役不在の世界経済
米国に残る住宅・家計・財政の調整圧力
振り返ってみれば、2000 年代は米国・中国という
二つの大国が世界経済を引っ張った 10 年間だった
と言えるだろう。しかし、2008年のリーマン・ショッ
クを契機に米国経済の勢いは失われ、
「リーマン後」
の世界経済をけん引するかにみえた中国経済にも
このところ陰りがみられる。2017 年までを展望して
も、こうした「けん引役不在」の状況は継続するであ
ろう。世界の実質GDP成長率は2012・13年に2%台に
減速した後、2014 ∼ 17 年も 3%台前半にとどまる見
通しである(図表1)。
米国経済はいまだ金融危機の調整途上にあり、予
測期間を通じて成長率は 3%を下回る見通しであ
る。最近になって住宅市場には底入れの兆候が出て
きているが、ローン延滞などによる差し押さえ物件
数はまだ高水準にあり、住宅市場の持ち直しペース
は緩やかなものとなろう。含み損を抱える住宅ロー
ンは足元でも1,000万件を超えており、バランスシー
ト調整圧力が個人消費の伸びを抑制する状況は中期
的に続くとみられる。さらに、金融危機下で大きく悪
化した財政状況を改善するため、米政府が歳出削減・
増税に取り組まざるをえないことも予測期間中の成
長を下押しすることが予想される。
低成長が続く中、雇用の回復も緩慢となり、失業率
●図表1 2017年までの世界経済見通し
(単位:前年比、%)
暦年
2009年
(実績)
世界実質GDP成長率
▲0.6
日米欧アジア計
0.2
日米ユーロ圏
▲3.9
米国
▲3.1
ユーロ圏
▲4.3
日本
▲5.5
アジア
6.0
NIES
▲0.7
ASEAN5
1.7
中国
9.2
インド
6.4
日本(年度)
▲2.1
WTI原油価格(ドル/バレル)
62
為替(円/ドル)
94
為替(ドル/ユーロ)
1.39
為替(人民元/ドル)
6.831
2010年
(実績)
5.1
5.4
2.6
2.4
1.9
4.5
9.3
8.4
7.0
10.4
8.9
3.3
80
88
1.33
6.769
2011年
(実績)
3.8
3.9
1.3
1.8
1.5
▲0.8
7.5
4.0
4.4
9.3
7.5
▲0.0
95
80
1.39
6.463
2012年
(予測)
2.8
3.2
1.2
2.0
▲0.4
2.2
6.2
1.9
5.7
7.8
5.4
1.7
96
80
1.25
6.334
2013年
(予測)
2.6
3.0
0.8
1.3
0.2
0.9
6.1
1.8
4.2
8.1
5.2
1.3
86
80
1.16
6.264
2014年
(予測)
3.0
3.5
1.3
1.9
0.8
0.3
6.6
4.4
5.5
7.8
5.8
▲0.4
86
83
1.11
6.201
2015年
(予測)
3.3
3.6
1.7
2.4
1.0
1.1
6.4
3.8
5.3
7.4
6.2
1.3
89
85
1.11
6.201
2016年
(予測)
3.3
3.6
1.7
2.2
1.4
0.6
6.4
3.2
5.2
7.6
6.3
0.8
95
90
1.11
6.139
2017年
(予測)
3.4
3.8
1.9
2.3
1.5
1.3
6.5
3.0
5.2
7.8
6.4
1.3
97
94
1.11
6.017
(注)1.世界、日米欧アジア計、日米ユーロ圏、アジアの成長率はIMFによる2011年GDPシェア
(PPP)
により計算。
2.日本は2014年4月
(+3%)と2015年10月(+2%)の消費税率引き上げを前提。
(資料)IMF、
Haver Analytics、
CEIC、みずほ総合研究所
3
経済見通し
が雇用改善のメルクマールとされる 7%を下回るの
は予測期間の後半(2016 ∼ 17 年)になる見通しであ
る。金融政策の歴史的な超緩和スタンスは長期化し、
利上げを伴う「出口」への転換時期は早くても 2016
年以降となりそうだ。
望めない欧州債務問題の急進展
ユーロ圏については、多くの国で金融危機後に財
政状況が悪化し、一部の国が欧州連合(EU)や国際通
貨基金(IMF)に金融支援を要請するに至った。すで
にギリシャ・ポルトガル・アイルランド・キプロス・ス
ペインの 5 カ国が金融支援を要請したが、事態の収
束にはまだ時間がかかるであろう。金融危機後に財
政状況が悪化したのはほぼすべての先進国に共通の
現象だが、ユーロ圏の場合には特有の制度問題が金
融市場の不安を高め、解決を難しくしている。欧州安
定メカニズム(ESM)が2012年10月に発足し、欧州中
央銀行(ECB)が国債買い入れプログラム(OMT)の
詳細を決めるなどの対応が進んでいるが、こうした
対策も迅速に講じられてきたとは言いがたい。それ
はドイツ・フィンランドなどの支援国側に、自国の負
担で債務危機に陥った国を救済することへの慎重論
があり、足並みがそろわないためである。
今後数年を展望した時、ユーロ圏各国は程度の差
こそあれ財政健全化を進めていく必要に迫られてい
る。特に金融支援を受けた国々は、継続的な支援を受
けるために大幅な財政引き締めを余儀なくされるだ
ろう。
支援国側の世論に配慮しながらの債務問題への
対応は漸進的なものにならざるをえず、
ユーロ圏全体
としても低成長が続くとともに、
債務問題に対する金
融市場の不安が周期的に強まる展開が繰り返される
ことになりそうだ。
中長期的に財政規律を強化してい
く方向性は加盟国間で共有されているものの、通貨・
金融政策のみが統合されて財政政策・税制が各国ごと
に異なるという構造的問題を解決する道筋はついて
いない。
ユーロ共同債発行や銀行監督一元化といった
施策が検討されているが、
実現に向けてのハードルは
高く、
欧州債務問題への不安が予測期間中に完全に払
拭されることは期待できそうもない。
与える。グローバルな経常収支バランスをみると、
リーマン・ショック前は米国が巨額の経常赤字を計
上する一方、中国をはじめとするアジア諸国などが
黒字を謳歌する図式となっていた(図表 2)。しかし、
金融危機後は米国の経常赤字が縮小し、これまでの
ような輸出主導の成長モデルは転換を迫られてい
る。特に、輸出ウエートが高く、人口高齢化の影響も
出始める NIES 諸国(韓国・香港・台湾・シンガポー
ル)は低成長を余儀なくされるであろう。
「リーマン後」への適応を迫られているのは、中
国といえども例外ではない。中国経済はリーマン・
ショック直前の数年間にわたって 2 ケタ成長を続け
ていた。人件費など生産コストの低さは海外からの
投資を呼び込み、日本企業を含む多くの外国企業が
生産拠点を中国に置いた。中国製品の世界市場での
プレゼンスは急速に高まり、輸出拡大がさらなる国
内投資の増加と所得水準の向上をもたらす好循環が
生まれていた。世界的な金融危機下で成長率は一時
的に低下したが、いち早く総額 4 兆元の景気対策を
実行に移したことで景気は急回復し、2010 年には 2
ケタ成長を回復することに成功した。
だが、その代償
は小さくなかった。景気過熱・バブルの兆候がインフ
レ率や不動産価格の上昇となって現れてきたため、
その後の財政・金融政策は引き締め気味の運営を余
儀なくされ、2012 年前半の成長率は 8%程度まで低
下した。インフレ率は最近落ち着いているが、リーマ
ン・ショック直後の経済政策がインフレを招いたこ
とへの反省もあり、今後も政策運営は慎重になされ
るだろう。金融危機前のような欧米向け輸出拡大が
●図表2 グローバル経常収支バランス
(名目GDP比、%)
2.5
2.0
米国
中国
インド
ユーロ圏
NIES
その他
日本
ASEAN
世界全体
予測
1.5
1.0
0.5
0.0
▲0.5
▲1.0
輸出主導で成長してきたアジア経済にも試練
▲1.5
▲2.0
GDP規模で世界経済の約4割を占める欧米経済の
低成長が続くことは、アジア経済にも相応の影響を
4
2000 01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15 16 17
(年)
(資料)
IMF、みずほ総合研究所
期待できないことに加えて、そもそも最近の人件費
上昇などにより、輸出・生産拠点としてみた場合のコ
スト面での中国の優位性は低下している。これまで
のような輸出・投資を原動力とした高成長経済から、
個人消費の拡大を背景とした安定成長経済への転
換期に当たる中国の成長率は予測期間を通じて 7 ∼
8%にとどまり、金融危機前ほどのけん引力を発揮
することはないであろう。
上げ(2014年4月に5→8%、2015年10月に8→10%)
は駆け込み需要と反動を通じて成長率を上下させる
が、予測期間中の平均的な成長率は購買力の低下に
よって1%程度まで低下する見通しである(図表3)。
個人消費・住宅投資以外の需要項目について、設備
投資は引き続きキャッシュフローを下回る低水準な
がら緩やかな回復が見込まれる。一方、公共投資につ
いては復興需要のピークが 2012 年度となり、その後
は緩やかに減少するとみられる。社会保障費など緩
やかに拡大する政府消費と合わせた 2013 年度以降
の公的需要は、成長率にほぼニュートラルになるで
あろう。以上のような見通しを前提とすると、2017
年度時点でも GDP ギャップ(みずほ総合研究所推
計)のマイナスは解消せず、物価(コアCPI)は消費税
率引き上げの影響を除けばゼロ近傍で推移する見通
しである。明確なデフレ脱却は 2018 年度以降に後ず
れするであろう。
復興需要に押し上げられる 2012 年度の実質 GDP
成長率は1.7%と予測しているが、国内外ともに明確
なけん引役が見当たらない中、2013 年度以降の成長
率はそれを下回る見通しである。輸出に期待できず
復興需要も剥落する状況下で、日本経済にとって内
需振興の重要性はこれまで以上に高まってくるであ
ろう。政府には日本再生戦略(2012 年 7 月閣議決定)
で掲げた施策を着実に実行に移していくことが求め
られる。
日本が問われる復興需要後の内需拡大
以上のようなグローバル経済環境は、日本にとっ
ても輸出に頼ることができないことを意味する。予
測期間中の輸出は、新興国向けを中心とした緩やか
な拡大にとどまろう。東日本大震災後のエネルギー
輸入増などにより赤字化している貿易収支は 2014
年以降、黒字を回復するとみられる。しかし、輸出が
伸び悩む中で貿易黒字の水準は金融危機前を大きく
下回る1∼2兆円程度にとどまる見通しである。
外需による成長率押し上げが限られる中、内需拡
大が期待されるところであるが、人口高齢化の影響
が需要・供給の両面に出始めることが想定される。需
要面では、現役世帯に比べて消費水準が低い(所得が
少ないため消費性向は高い)高齢世帯の増加が個人
消費の伸びを抑える可能性があるほか、世帯数の減
少に伴い住宅需要も緩やかに減少に向かうとみられ
る。供給面では生産年齢人口減が労働投入量の減少
要因となるため、みずほ総合研究所では消費税率引
き上げがなかった場合の平均的な成長ペースを 1%
台前半にとどまると見積もっている。消費税率引き
みずほ総合研究所 経済調査部
シニアエコノミスト 山本康雄
[email protected]
●図表3 2017年度までの日本経済見通し
(単位:前年比、%)
2009年度
実質GDP
▲2.1
内 需
▲2.1
民 需
▲4.0
個人消費
1.2
住宅投資
▲21.0
設備投資
▲12.0
公 需
4.2
政府消費
2.7
公共投資
11.5
外 需(寄与度)
0.2
輸 出
▲9.8
輸 入
▲10.7
名目GDP
▲3.2
GDPデフレーター
▲1.2
内需デフレーター
▲2.3
GDPギャップ(%)
▲5.2
2010
3.3
2.6
3.1
1.6
2.6
3.9
0.8
2.5
▲6.0
0.8
17.4
12.3
1.2
▲2.1
▲1.4
▲2.3
2011
▲0.0
1.0
0.6
1.2
3.8
1.1
2.1
1.9
2.9
▲1.0
▲1.4
5.6
▲2.0
▲1.9
▲0.7
▲2.1
2012
1.7
2.0
1.8
1.4
2.5
3.0
2.7
1.9
6.4
▲0.4
2.5
4.7
1.2
▲0.4
▲0.6
▲1.8
2013
1.3
1.3
1.3
1.3
6.0
1.5
1.2
1.5
▲0.5
0.1
2.0
1.5
1.3
▲0.0
▲0.6
▲1.0
2014
▲0.4
▲0.6
▲1.0
▲1.5
▲13.4
2.0
0.6
1.8
▲4.7
0.2
3.1
1.8
0.4
0.8
0.5
▲2.0
2015
1.3
1.2
1.3
1.0
▲0.6
2.8
0.7
1.4
▲2.7
0.1
3.2
2.3
1.0
▲0.3
▲0.2
▲1.3
2016
0.8
0.7
0.7
0.5
▲5.9
2.6
0.7
1.4
▲2.7
0.1
3.3
2.8
0.5
▲0.4
▲0.1
▲1.2
2017
1.3
1.1
1.3
0.9
0.7
3.3
0.5
1.1
▲2.6
0.1
3.7
2.8
0.5
▲0.8
▲0.5
▲0.8
(資料)みずほ総合研究所
5