リサーチ TODAY 2017 年 1 月 11 日 みずほ総研フォーラム2016、日本の自信回復 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 みずほ総合研究所は昨年11月1日にみずほ総研フォーラム2016を開催した。そこでのテーマは「不安定 化する世界と日本の対応~グローバル政治経済の行方と日本の戦略を考える~」であった1。同フォーラム での我々の問題意識は次の通りであり、不安定化を強める世界のなかで政治、経済、外交、通商など幅広 い観点から日本企業が取るべき対応を考えた。 ■図表:みずほ総研フォーラム2016での論点提起 ・世界経済の構造変化と日本経済の行方について ・米国大統領選挙後の政策展望と日本の対応について ・世界環境の変化のなか、日本の戦略について (資料)みずほ総合研究所 今回、世界が置かれた環境を見ると、これまで世界経済をけん引してきたG2ともいえる米国と中国の成 長率が鈍化傾向にあることが分かる。こうした状況下、現段階では危機を免れているものの、世界全体に閉 塞感が生じている。同時に、米国新政権の誕生にどう向き合うかが課題になった。 ■図表:米国のGDP成長率 6 中国のGDP成長率 (%) 5 (%) 16 IMF予測 4 14 IMF予測 12 3 2 10 1 8 0 6 -1 4 -2 2 -3 (年) -4 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 13 15 17 19 21 (年) 0 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 13 15 17 19 21 (資料)IMF よりみずほ総合研究所作成 今回のフォーラムにはパネリストとして、内外に幅広い影響力を有する4人に参加いただいた。日本のマ クロ経済学の権威であり安倍政権のブレーンの中心でもある浜田宏一氏(エール大学経済学部タンテック ス名誉教授、内閣官房参与)、メディアからは内外の政治・外交・金融の状況に精通したロビン・ハーディン 1 リサーチTODAY 2017 年 1 月 11 日 グ氏(フィナンシャルタイムズ東京支局長)、外務省の元次官で日本の外交分野の中心的な立場から野上 義二氏(日本国際問題研究所理事長、みずほ銀行常任顧問)、そして産業革新機構の初代社長として実 際に企業の再生案件に携わり、また金融機関の経営者でもあった能見公一氏(株式会社ジェイ・ウィル・コ ーポレーション 顧問)の方々をお招きし、ディスカッションを行った。 今回のパネルで注目されたのは、今日のアベノミクスの理論的支柱の立場にある浜田氏がマクロ経済学 は歴史的に大きな転換期にあるとし、これまでの考えを改める必要があるとの見方を示したことだ。この見 方は、トランプ新政権にもみられ、財政政策を重視する世界的なマクロ政策の潮流変化に繋がっている。 浜田氏は世界的なマクロ経済学の潮流の「36年サイクル」を提唱した。すなわち、世界大恐慌の後の1936 年にケインズの一般理論が発表され、36年が経過した1972年には金融政策を重視する合理的期待革命 が生じ、そして2008年のリーマン危機を経て「物価水準の財政理論(FTPL)」に基本的なパラダイムが移り つつあるとの指摘である。昨年、ジャクソンホールにおいて行った講演でノーベル経済学者であるプリンス トン大学のシムズ教授は今日の経済政策は大きな転換を迫られているとした。その結果、浜田氏は日本へ の政策提言として次の2点を示した。第1には、FTPLの意味するところは金融政策には財政政策の裏付 けが必要ということで、日銀の金融政策(金融緩和)には、財政政策等のサポートも必要としたこと。これは 従来の見方を修正する必要性を示している。第2は、日銀のインフレ目標(2%)が達成されない限り、政府 は将来の消費税引き上げを凍結すべきこと。これが満たされれば、その後は消費税率を毎年1%ずつ段階 的に引き上げてインフレに対する歯止めとする 今回のフォーラムの4人のパネリストのまとめのメッセージは下記の通りである。 ■図表:みずほ総研フォーラム2016でのパネリスト・メッセージ 浜田氏:「マクロ経済学の力」 ハーディング氏:「Have confidence in Japan」 野上氏:「アメリカは心配していない ヨーロッパが心配だ」 能見氏:「企業経営者も投資家ももっと“リスクテイク”しよう」 (資料)みずほ総合研究所 4人のパネリストからはいずれも、世界的な変化に対し日本人の意識改革が必要とのメッセージが出た。 浜田氏はマクロ経済学の歴史的潮流の変化も踏まえたうえで、マクロ経済学の重要性を改めて指摘した。 グローバルな観点から日本を長年見てきたハーディング氏は「日本は自信を持つべき」とし、アベノミクス 「三本の矢」の構造改革は米国よりもむしろ進んでいると、通説とは異なる見方を示した。すなわち、オバマ 政権がこれまで経済改革に殆ど取り組まなかったのに対し、日本は労働市場改革や羽田空港の国際化等、 予想以上に多くの改革を行ってきたとの指摘は注目すべきものだろう。野上氏は外交の専門家の立場から、 米国新政権に過度な不安を持つべきでないと主張する。一方で欧州の政治的不安定さに留意すべきとし た。能見氏は金融と企業経営に従事した実務家の観点から、日本の企業経営者のリスクテイクの重要性を 指摘した。また、世界の環境が不安定ななか、日本の政治的リスクの低さのメリットを再認識すべきとした。 日本人を覆う悲観を脱し、日本に自信を取り戻すべきとの認識が4氏に共通していた。 1 みずほ総合研究所は、2016 年 11 月 1 日に『みずほ総研フォーラム 2016~不安定化する世界と日本の対応~グローバル政治 経済の行方と日本の戦略を考える~」と題するセミナーを開催した。フォーラム概要は当社ホームページをご覧いただきたい。 http://www.mizuho-ri.co.jp/service/research/forum/index.html 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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