地方創生に必要なのは東京 VS 地方でなく、東京の

リサーチ TODAY
2014 年 10 月 7 日
地方創生に必要なのは東京 VS 地方でなく、東京の強化
常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創
みずほ総合研究所は「内外経済の中期見通しと人口・地域の課題」と題した『緊急リポート』を発表した1。
ここでは、下記の図表の、地方創生に必要な8つの政策を提言しており、今後の地域活性化策は、「集
中」・「集積」、そして「民」の力の活用が目指すべきとした。今年9月の安倍改造内閣は地方創生を重視し、
担当相と「まち・ひと・しごと創生本部」を設置した。しかし、人口減少が進むなか、従来の地域政策の延長
では大きな効果を期待しにくい。日本の人口が構造的に減少するなかで大きな発想の転換が必要とみず
ほ総合研究所は考えており、人口分散から人口集積への政策転換、及び都心居住とメガシティという「二
つのコンパクトシティ化」を提唱している2。
■図表:地方創生に必要な8つの地域政策
人口減少に伴う経済・
社会環境の変化
公共投資による産業集積促進効果の弱まり
① 今後の公共投資は量的拡大ではなく、選択と集中に力点を
内外立地競争激化の中での工場誘致の限界
② 誘致のための支出増より、地域資源活用と連携による事業創出
従来型の中心市街地活性化策の手詰まり感
③ 商業機能の集約以上に、住民人口の集中を図る方向へ
地方全体の活力向上には力不足であった既存の特区
④ 新たな国家戦略特区でより大胆な規制緩和・制度改革を
自治体主導の振興策 / 地域のしがらみ
⑤ 企業を軸とする民間の知恵・行動力/よそもの・わかものの視点
全国すべての地域を意識した分散的・均衡的手法
⑥ 人口集積の強みを生かす「二つのコンパクトシティ化」の推進
高齢化が進み担い手の先細りが懸念される農業
⑦ 自治体・農業者・企業の連携による「攻めの農業」で地域おこし
総人口の減少による国内旅行者数減少のリスク
⑧ 外国人旅行者受入増と国内旅行回数・泊数増で交流人口拡大
中長期課題としての道州制
重要になる地域金融の役割
10程度のメガシティ創造、広域的な地方振興を
進めるには、道州制が適合性の高いフレームに
(現在、与党の道州制に向けた取り組みは足踏み状態)
上記のような地域政策の転換を円滑に進めるためには、
企業の創造的事業展開を支える地域金融機能が重要。
地域金融機関のさらなる再編も視野に
(資料)みずほ総合研究所
次ページの図表は、世界のメガシティの人口を示す。今日世界的な都市間競争が進展しており、そのフ
ロントランナーである東京圏がいかに世界の都市機能競争のなかで生き残るかが課題である。昨今、東京
の金融機能の向上が議論されるのはそうした視点に立つものだ。これまでの「均一な発展」を目指した地域
政策の下で軽視されてきたのが、大都市政策であった。府県の対立、府県と政令市との対立が深刻で、東
京圏以外ではこれまでメガシティが育ってこなかった。
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2014 年 10 月 7 日
■図表:世界のメガシティの人口
4500
(万人)
4000
2025年
2010年
3500
3000
2500
2000
1500
1000
500
ニューヨーク
ロサンゼルス
イスタンブール
モスクワ
マニラ
カラチ
ラゴス
メキシコシティー
東京
大阪,神戸
ムンバイ ボ(ンベイ )
コルカタ カ(ルカッタ )
デリー
パリ
カイロ
深圳
上海
広州
北京
サンパウロ
リオデイジャネイロ
ダッカ
ブエノスアイレス
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(資料)国立社会保障・人口問題研究所「人口統計資料集」(2013 年版)よりみずほ総合研究所作成
日本における人口減少対策を巡る議論における大きな誤解の一つに、人口減少の原因を「東京圏対その
他の人口減少都市」という対立構造の議論に落とし込むことがある3。しかし、真に重要なのは、出生率の低
い東京圏に若い女性が移り住むことを危惧することではない。むしろ、高学歴化が進む女性の出生率を上
げるために、「住む場所にかかわりなく、やりがいのある仕事を確保すること」、「仕事と出産、育児が無理なく
両立できる環境を整備すること」の2つの施策を地道に進めていくしかない。大都市に高学歴な女性が集ま
るのは、巨大な人口集積による第3次産業の発展によって、高学歴な女性に魅力的な仕事が生れているか
らだ。一方、「ヒト、モノ、カネ」に限界のある地方都市には彼女達がなかなか集まりにくい現実がある。
今回、みずほ総合研究所では、地域活性化策として企業の力を利用した施策の重要性を議論した。同
時に、前ページの図表にあるように、自治体・農業者・企業の連携による「攻めの農業」での地域おこしの
重要性も指摘した。たとえば、輸出拡大を促すためには、食クラスターの輸出拠点化が重要になる4。
日本ではすでに既存の中心市街地は衰退を続けており、活性化よりも移住促進など「まちのターミナル
ケア」が必要な段階にある。日本全体として人口減少が続く環境下、人口集積によって第3次産業の振興
に期待をかける現実的対応が必要だ。むしろ、その現実を直視したうえで新たな発想で地域政策に臨む
必要があると考えている。
現在、政治的には来年の地方統一選挙を視野に地方創生が重視されている。ただし、今日の日本に必
要なのはむしろ大都市政策であり、そのために国家戦略特区等を活用すれば、生産性が高まることによっ
て、成長戦略にも資するであろう。従来の発想での地方へのばらまきでは成長戦略に逆行してしまう。
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「内外経済の中期見通しと人口・地域の課題」(みずほ総合研究所『緊急リポート』2014 年 10 月 2 日)
岡田豊 「二極化する地域別人口と人口減少都市のあり方」(みずほ総合研究所 『みずほ総研論集』 2014 年Ⅱ号 2014 年 7 月
23 日)
岡田豊「消滅可能性の街にこそ『女性力』活用が必要だ」(みずほ総合研究所 『エコノミスト Eyes』 2014 年 9 月 12 日)
堀千珠「輸出拠点としての食クラスター」(みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2014 年 9 月 9 日)
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