リサーチ TODAY 2015 年 4 月 16 日 JGB 市場は不安定だが基本的に「麻酔」が効いている 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 年初以降、国債市場の不安定な動きが続いている。下記の図表にあるように、1月の金融政策決定会合 後に日銀の追加緩和期待が後退したことを契機に、国債入札の不調が重なったことで国債利回りは大きく 変動した。2月3日の10年国債入札ではテール(落札価格の平均と最低の差)が45銭と2002年以来の水準 になった(テールの拡大は入札の不調を示すバロメーター)。10年国債利回りは、ECBの緩和からの連想 で1月に日銀が金融政策決定会合で付利金利を引き下げるのではないかという期待が海外投資家を中心 に生じ、一時0.2%割れになった。しかし、実際には日銀が原油価格の下落が中長期的に日本経済にはプ ラスと判断し、物価下落に対し直ちに追加緩和を行う必要はないとのスタンスを示し、追加緩和の期待が後 退したことが金利上昇の要因となった。みずほ総合研究所は、国債市場の不安定化に関するリポートを発 表している1。国債市場では市場の流動性の低下が進む中、振れやすい状況が続く。ただし、海外投資家 からの買い越しが続くこと、日銀が発行量を上回る国債購入を続け、基本的に金融市場が「麻酔」をかけら れたような状況にあることから、金利上昇は限られるだろう。 ■図表:10年国債利回りと国債入札 60 (%) (銭) 0.60 10年国債利回り(右目盛) 50 0.50 40 0.40 30 0.30 テール(左目盛) 20 0.20 10 0 11 2014年 12 1 2 3 0.10 4 (月) 2015年 (注)10・20・30 年債国債入札時のテール(平均落札価格と最低落札価格の差) (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 次ページの図表に示されるように、2014年10月の日銀の追加緩和以降、国債市場では売買高の減少が みられる。発行量を上回る大量の国債を日銀が購入しているために、流動性が低下し、入札と発行という 大きな需給要因を挟むタイミングのなかで、一時的な変動が生じる市場のバイオリズムがみられるようにな っている。それは、基本的に通常の市場機能が低下した「麻酔」状況といえる。 1 リサーチTODAY 2015 年 4 月 16 日 ■図表:中長期債売買高の推移 300 (兆円) 250 200 150 100 50 2010 2011 2012 2013 2014 2015 (暦年) (注)買付額+売付額、中長期債。入札や日銀オペ分を除く (資料)日本証券業協会 発行量を超える国債を日銀が購入することで市場からネットで国債が吸い上げられて、需給が締まる状 況に変わりない。ECBの金融緩和により欧州国債金利が軒並みマイナス金利(水没)に低下するなか、相 対的に日本の長期金利は高まった状況にある。その結果、下記の図表にあるように、海外投資家の日本 国債買い越し額は、2014年以降増加する状態を続けている。欧州の金利が「水没」するほどになった背景 には、中央銀行がマイナス金利を設定したことがある。日本では、金融政策のターゲットを量的緩和による 当座預金の水準増加としてマネタリーベース拡大が重視される一方、欧州のような付利の低下にはハード ルが高い。ただし、欧州でマイナス金利という手段があるという新たな次元が示されてしまった以上、日銀 においてもマイナス金利も含めた付利引下げが選択肢の一つとして意識されるようになったのは確かだ。 特に為替対策には付利引下げが有効という認識が生じたことは、まだ日銀が追加緩和の手段を残している ことになる。 ■図表:海外投資家の中長期債買い越し動向 4 (兆円) 3 2 1 0 -1 (暦年) -2 2010 (注)買付額-売付額 (資料)日本証券業協会 1 2011 2012 2013 2014 2015 野口雄裕 「国債市場の不安定化と金融政策」 (みずほ総合研究所 『みずほインサイト』 2015 年 3 月 31 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
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