リサーチ TODAY 2015 年 2 月 24 日 金利「水没」、金融機関戦略は LED に集約 常務執行役員 チーフエコノミスト 高田 創 下記の図表はすでにTODAYで何度も用いた「世界の金利の『水没』マップ」と題した図表である1。これ は基本的に国別・年限別の国債利回り、イールドカーブの状況を示す。このように金利が「水没」した状況 において資産運用を行うには、「LED戦略」、すなわち①長く(Long)、②外へ(External)、③濃さ(Deep)の 異なるリスクを狙うことの3分野しか選択肢はない。今日の金融機関の戦略もこのLED戦略に集約される。 すなわち、第一に、まだ生体反応が残る長期、超長期の分野にデュレーションを延長するしかない。こうし た動きは、多くの地域金融機関の債券運用に見られる。第二に、日本の債券市場が「水没」するなら、まだ 市場機能が残る海外の市場を狙うしかない。大手銀行の多くが収益の柱として海外向け融資の拡大、なか でもアジア地域への融資を拡大したのは、海外に比率をかけた結果である。同時に、2014年は有価証券 運用においても、日本国債の利回り低下、すなわち日本の主食である「おコメ」の味が低下したなか、海外 を志向し、米国、ドイツ、フランス、イタリア、スペイン等の債券への関心が高まった。TODAYでも、「ベーグ ル、ドイツパン、フランスパン、パスタ、パエリヤ」との例えで議論してきた。 ■図表:世界の金利の「水没」マップとしたLDE戦略(2015年2月18日) 各国の国債イールドカーブ 2015/2/18 スイス ドイツ スウェーデン フィンランド オランダ オーストリア フランス ベルギー 日本 アイルランド イタリア スペイン ノルウェー 英国 カナダ 米国 ポルトガル 中国 トルコ インド ロシア ギリシャ 1年 -0.92 -0.20 -0.22 -0.16 -0.18 -0.12 -0.12 -0.13 0.02 0.00 0.19 0.19 0.79 0.32 0.46 0.20 0.16 3.16 8.62 8.06 12.01 2年 -0.96 -0.22 -0.30 -0.13 -0.13 -0.13 -0.11 -0.12 0.04 0.07 0.31 0.25 0.77 0.43 0.43 0.60 0.30 3.13 8.08 7.82 12.56 3年 -0.77 -0.19 -0.15 -0.08 -0.09 -0.11 -0.09 -0.06 0.06 0.08 0.44 0.45 0.74 0.74 0.42 1.01 0.73 3.18 7.70 7.77 12.88 17.37 4年 -0.57 -0.16 -0.06 -0.04 -0.05 -0.06 -0.03 0.01 0.10 0.17 0.58 0.60 0.78 1.00 0.59 1.26 1.12 3.26 7.78 7.77 12.80 16.11 0%未満 0%以上0.5%未満 0.5%以上1.0%未満 1.0%超 5年 -0.42 -0.06 0.03 0.01 0.00 -0.01 0.06 0.08 0.14 0.44 0.73 0.83 0.81 1.21 0.77 1.52 1.37 3.31 7.86 7.72 12.72 14.84 6年 -0.31 -0.02 0.14 0.05 0.04 0.05 0.19 0.17 0.14 0.51 0.92 0.97 0.91 1.34 0.93 1.69 1.66 3.35 7.83 7.73 12.52 13.88 7年 -0.16 0.07 0.26 0.12 0.14 0.15 0.31 0.31 0.21 0.72 1.20 1.18 1.02 1.47 1.10 1.87 1.90 3.38 7.81 7.78 12.33 12.91 8年 -0.10 0.17 0.44 0.29 0.26 0.28 0.45 0.44 0.28 0.86 1.35 1.37 1.13 1.64 1.24 1.94 2.05 3.41 7.81 7.78 12.13 11.94 L 長く 9年 10年 11年 12年 13年 14年 15年 20年 30年 40年 0.04 0.08 0.11 0.14 0.21 0.28 0.35 0.49 0.57 0.63 0.28 0.38 0.43 0.48 0.52 0.57 0.62 0.81 1.02 0.50 0.57 0.60 0.64 0.68 0.72 0.75 0.94 0.34 0.43 0.49 0.55 0.61 0.68 0.74 0.83 1.00 0.37 0.45 0.49 0.54 0.58 0.62 0.67 0.84 1.08 0.38 0.48 0.50 0.53 0.55 0.57 0.59 0.76 1.09 0.57 0.69 0.76 0.83 0.90 0.97 1.03 1.21 1.45 0.56 0.67 0.70 0.74 0.77 0.80 0.84 1.17 1.40 0.35 0.41 0.48 0.55 0.62 0.70 0.77 1.24 1.49 1.57 1.00 1.14 1.23 1.31 1.39 1.47 1.56 1.71 2.01 1.45 1.62 1.72 1.82 1.91 2.01 2.10 2.37 2.60 1.47 1.58 1.67 1.75 1.84 1.93 2.01 2.20 2.56 1.24 1.33 1.74 1.85 1.92 1.99 2.06 2.14 2.21 2.40 2.57 2.52 1.35 1.47 1.53 1.58 1.64 1.70 1.75 2.04 2.11 2.01 2.08 2.11 2.14 2.17 2.21 2.24 2.40 2.71 2.19 2.32 2.42 2.53 2.63 2.74 2.84 3.12 3.30 3.41 3.40 3.42 3.45 3.47 3.50 3.52 7.77 7.67 7.78 7.71 7.76 7.64 7.77 7.73 7.78 7.70 7.69 11.93 11.73 11.64 11.55 11.46 11.37 11.28 11.05 10.97 10.00 10.03 10.05 10.08 10.10 10.12 9.31 8.21 E 外へ D 濃さの異なるリスクへ (資料)Bloomberg よりみずほ総合研究所作成 第三の方向性は、「濃さの異なるリスク」となる。アセットマネジメントの世界ではオルタナティブ運用として 従来運用の中心であった債券以外のリスクテイクに関心が高まることになる。昨年日本の公的年金がそのア ロケーションの中心を国内債券から外貨資産や株式運用にシフトしたのは、この動きの象徴的な出来事だ。 1 リサーチTODAY 2015 年 2 月 24 日 金融機関のビジネスモデルにおいてアセットマネジメントに重点が置かれやすいのも、こうした環境下の必然 の結果だろう。ここで、「濃い」というのは、単にリスクの高い「際物(きわもの)」運用を指すではなく、あくまで も少しでも経済活動が生じる分野、生体反応が残った分野をとらえた「オルタナ運用」に向かうことである。ア セットマネジメントでは少しでも経済活動がある分野を取り込むべく、金融の川上に行く「川上戦略」が重要に なる。金融機関は企業と一体になって投資機会を創りにいく必要があり、そこにこそ金融機関の目利き機能 が求められる。それは、金融業が総合商社のようにビジネスを自ら掴みにいく、銀行の「商社化」ともいえる。 次の図表は、日本の長期金利と企業の財務諸表の推移を示す2。企業がバランスシートを活用してどの 程度の収益を確保しているかを示す資産収益率(ROA)は、バブル崩壊後の1990年代以降、低下を続け たが、2000年頃から漸く改善傾向にあり、企業が生み出す収益性は改善してきた。一方、企業のバランス シートの右側、つまり資金供給手段である負債と資本への見返りについては、負債が(支払利息/負債)に、 そして資本が配当率(配当/資本)に示される。図表の4本の曲線は2000年頃までは殆ど同じ動きを示した が、2000年以降動きが大きく乖離した。日本の長期金利の低下とともに負債への見返りは低下したままだ ったが、資本への見返りは急上昇した。2000年代以降、これらの裁定行為を行っていたのは海外投資家と 商社であった。海外投資家は緩和資金でレバレッジを高めて(グローバル・キャリー・トレード)、日本株購 入に向けていた。一方、国内においては総合商社がプライベートエクイティファンドのように自らビジネスを 確保しエクイティのリスクをとるというビジネスモデルで、日本の企業金融の転換をうまくとらえたと考えること ができる ■図表:長期金利と企業の財務諸表推移 18 (%) ROA(税引前利息支払前当期純利益/総資産) エクイティ供給者 に報いる 支払利息/負債 16 配当率 14 10年国債利回り 12 10 企業の 収益性改善 8 6 4 デット供給者 に報いる 2 0 75 77 79 81 83 85 87 89 91 93 95 97 99 01 03 05 07 09 11 13 (年度) (資料)財務省よりみずほ総合研究所作成 このように、LED戦略とは金利の「水没」のなかで、金融機関のビジネスモデルの模索を促している。今 日の金融環境は、中央銀行が意図的に超金融緩和を行って、金利を「水没」させ、金融機能を一部麻痺さ せる部分麻酔状態に等しい。部分麻酔であるがために、一部に変動が生じたのが、過去1カ月の日本の債 券市場の変動であった。ただし、この麻酔によって手術が成功すればするほど、潜在的な金利上昇圧力を 抱えることになる。そうした中では、長期債券は含み損を抱えうるが、その損失カバーのためにもエクイティ 的性格の「濃い」資産もポートフォリオに含めることが必要になる。 1 2 「世界の金利『水没』マップ、金融機関はどう生き残るか」 (みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』 2015 年 1 月 27 日) 「金融市場で商社はなぜ『勝者』になったか」 (みずほ総合研究所 『リサーチ TODAY』 2014 年 11 月 17 日) 当レポートは情報提供のみを目的として作成されたものであり、商品の勧誘を目的としたものではありません。本資料は、当社が信頼できると判断した各種データに基づき 作成されておりますが、その正確性、確実性を保証するものではありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることもあります。 2
© Copyright 2024 ExpyDoc