●[特集]TRCポスターセッション2013 Ⅰ-2:GD-OESによる次世代最先端材料のナノメータスケールの超高速深さ方向元素分析 [特集]TRCポスターセッション2013 Ⅰ-2:GD-OESによる次世代最先端材料の ナノメータスケールの 超高速深さ方向元素分析 表面科学研究部 沼尾 茂悟 1と低いため、試料へのダメージが少なく、かつ、深さ 方向分解能の高い分析が可能である。更に、プラズマを 用いたスパッタの場合、イオンビームと比較して、単位 面積当りのスパッタに寄与する粒子数が非常に多く、か つ、電流密度(スパッタレート)が高いことから、高速 で、試料の深さ方向の濃度分布が得られるという特徴を 持つ(表1)。この様な利点から、GD-OESは、半導体か ら絶縁物や有機物・ポリマーといった幅広い対象物の測 1.はじめに 定が可能になっている。 本稿では、弊社に新規導入したGD-OESについて、最 GD-OES(Glow Discharge Optical Emission Spectrometry) は、Arグロー放電を用いて試料をスパッタリングし、ス パッタされた原子のArプラズマ内における発光を分光測 新の分析事例を紹介する。 表1 GD-OES とD-SIMS の比較 定することで、試料の深さ方向における元素の定性・定 量分析を行う手法である(図1) 。測定元素は、Hを含む 軽元素から重元素まで多岐に渡り、分析可能な濃度範囲 は数10ppm程度から主成分レベルに及ぶ。高速かつ高感 度という優れた特徴を持ち、メッキ膜や塗膜、金属材料 の分野で適用されてきた分析手法である。近年、高周波 パルス電源の開発に伴って、数nmの半導体薄膜から、 100μm程度の厚膜のポリマーまで、非常に幅広い材料の 分析に応用可能な分析手法となっている。 3.透明導電膜(ITO膜)の分析事例 無機酸化膜の分析事例として、PET基板上に成膜した ITO(Indium Tin Oxide)膜の分析事例を紹介する(図2)。 図1 GD-OES の測定原理 2.他の深さ方向分析手法との比較 深さ方向の元素分布を評価する分析手法としては、 D-SIMS(Dynamic Secondary Ion Mass Spectrometry) が有名である。この手法は、スパッタに1次イオンビー 図2 ITO 膜の分析事例 ムを使用し、試料表面から発生する2次イオンの質量を 質量分析計で検出することによって試料の深さ方向の元 図の横軸は深さ(μm)であり、0.25μm程度までが 素分布を得る分析法である。不純物レベルの元素分析に ITO膜、それよりも深部がPET基板である。また、縦軸 特化した分析ではあるが、検出感度が非常に高く、μm は、濃度(atomic%)である。GD-OESでは、分析時に オーダーの空間分解能を有する点が、GD-OESに対する 得られる縦軸のデータは発光強度であるが、濃度が既知 大きな優位性である。一方、GD-OESでスパッタに使用 の標準試料を用いて定量することも可能である。 するプラズマは、D-SIMSのイオンビームと比較して、 ITO膜中のプロファイルからは、主成分元素であるIn, スパッタに寄与するイオンの持つエネルギーが約10分の Sn, Oのプロファイルとともに、不純物元素であるH, C 10・東レリサーチセンター The TRC News No.118(Mar.2014) ●[特集]TRCポスターセッション2013 Ⅰ-2:GD-OESによる次世代最先端材料のナノメータスケールの超高速深さ方向元素分析 のプロファイルも評価することができる。この結果か めて作製したシート状電極の測定も可能である。 ら、GD-OES分析により、Hを含む軽元素から重元素ま 図4に、GD-OESを用いてLIBの正極(LiCoO2)を分 で多岐に渡る元素を分析できること、検出元素の濃度範 析した事例を示す。電極表面からAl集電箔まで、正極 囲が非常に広いことがわかる。HとOなどの大気成分の 中に存在する様々な元素の同時深さ濃度分布測定が可能 検出、主成分元素の定量、ppmオーダーの不純物元素を である。Fのプロファイルからは、バインダーの分布を 分析できる点が、GD-OESの最大の特徴である。 評価することができる。不活性ガス雰囲気でのサンプリ ングや測定にも対応可能である。今後は、充放電率や充 放電回数を変えた電極について、電極成分元素の深さ方 4.ハードディスク媒体の分析事例 向濃度分布や電極最表面の大気成分元素を分析すること 続いて、ナノメーターレベルの積層膜の分析事例とし ると考えている。 で、LIB電極の充放電性能を評価する有用な分析法にな て、ハードディスク媒体に使用されている積層膜の分析 結果を紹介する(図3) 。 ハードディスク媒体は、試料最表面から順に、磁気ヘッ ドとの摩擦による損傷を防止するための保護膜、情報を 書き込むための磁性膜、磁性膜の配向や平坦性を制御す るための下地膜、AlまたはGlass基板で構成されている。 この積層膜は、近年、薄膜化が進み、最表面の保護膜と して使用されているDLC(Diamond Like Carbon)膜の 膜厚は、僅か数nmとなっている。GD-OESでは、この様 な、極薄膜の分析も可能であり、かつ、非常に高い深さ 方向分解能を有していることがわかる。 図4 LIB 正極の分析事例 6.おわりに 本稿で紹介したように、GD-OESは、 (1)種々の元素 で幅広い濃度範囲の測定が可能(2)分析深さに合わせ た深さ方向分解能で測定を行うことが可能な優れた分析 法である。今回紹介した分析例以外にも、ガラスやセラ 図3 ハードディスク媒体の分析事例 ミックスの様な絶縁物、ポリマー、食品包装用フィルム などの有機薄膜の分析も可能である。さらに、コンタク トレンズやプラスチックレンズなどの曲率のある材料な ど、幅広い材料に対して適用できる分析手法でもある。 5.LIB電極の分析事例 今後、特殊な形状の試料のサンプリング方法や、有機 材料の最適な定量方法の確立などに取り組み、分析対象 各種電池材料の分野においても、GD-OESは非常に有 をさらに広げたいと考えている。 用な分析手法である。GD-OESはスパッタ径(2~7mm φ)が大きいため、分析箇所によるデータのバラツキを 懸念することなく平均的な深さ方向の元素分布を調べる ことができる分析手法である。分析深さは他の深さ方 ■沼尾 茂悟(ぬまお しげのり) 表面科学研究部 表面科学第1研究室 趣味:絵画鑑賞 向分析手法と比較して深く(~100μm程度)、例えば、 LIB(Lithium Ion Battery)電極の様な、粉体を押し固 ・11 東レリサーチセンター The TRC News No.118(Mar.2014)
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