質量分析装置を用いた miRNAの測定データ紹介

●E-4:質量分析装置を用いたmiRNAの測定データ紹介
[特集]第11回医薬ポスターセッション
Autoflex speed)を用いて測定方法の開発を行った。
E-4:質量分析装置を用いた
miRNAの測定データ紹介
医薬営業部兼生物科学研究部 廣川 順一
1.はじめに
miRNA(マイクロRNA)は、遺伝子の発現を調節す
る機能を有する長さ20~25残基のRNAであり、タンパク
質をコードしないncRNAの一種である。分子量は5000~
8000 Daで、一般的な検出方法を図1に示す。
図3 測定対象の配列
3.それぞれの装置の特徴について
図1 miRNAの一般的な検出方法
2種類の質量分析装置の特徴を図4に示す。これらの装
置を使用し、高感度に精度よく測定するためにはそれぞ
これまでの研究から、miRNAはがん細胞において発現
れ化合物にあった測定条件の最適化が必要となる。
量が特異的に変化することがわかり、がんの特異的バイ
API5000ではカラムや移動相の選定といったLC条件
オマーカーとしての有用性が期待されている。図2に乳
の検討から、プリカーサーイオンQ1、及びプロダクトイ
がんに関連するmiRNAを示す。赤字で示すmiRNAはが
オンQ3の選択といったMS条件の最適化が必要となる。
んで発現量が増加、青字で示すmiRNAは減少することが
一方、Autoflex speedでは最適なマトリックスを選定
わかっている。
する必要がある。
これらのmiRNAの高精度・高感度な測定法が開発でき
れば、超早期な乳がん診断が可能となる。
図2 がんに関連するmiRNA
miRNAの一般的な測定手法は図₁に示した通りである
が、ここでは、2種類の質量分析装置を用いた新たな測
定方法を紹介する。
2.測定対象物質の配列
図4 2種類の質量分析装置
測定対象物質の配列を図3に示す。測定対象として
let-7とmiR-92a-2-5pを選択した。
4.API5000によるlet-7分析結果
let-7aは22残 基 のmiRNAで 分 子 量 は7181.2で あ る。
let-7aには、配列の僅かに異なるlet-7 familyが複数存在
具体的なプリカーサーイオン選択の事例を紹介する。
する。今回は、その中から1~2塩基配列が異なる、let-
miRNAは高分子化合物のため、MS検出できない可能
7b、7c、7dを用いて、API5000 LC-MS/MSシステム(以
性があるが、多価イオンを検出すれば、検出可能であ
下API5000)を用いた定量測定法の開発を行った。
る。図4に示した様にAPI5000の質量範囲は1250までと
一方、miR-92a-2-5pは、22残基のmiRNAで分子量は
なっているため、1250以下が選択対象のイオンとなる。
7180 Daである(図3 ⑤)
。配列の長さの異なるmiRNA
miRNAのモデル化合物であるlet-7aのプリカーサーイオ
を7種 用 意 し、Autoflex speed MALDI-TOF/MS( 以 下
ンの検出結果を図5に示す。let-7aは分子量が7181.2だ
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東レリサーチセンター The TRC News No.120(Feb. 2015)
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が、多価イオンのうち、11価のイオン強度を頂点として、
それぞれ結晶のできかたには差が見られた。
6価から22価まで検出された。今回、最も感度が良かっ
検討した結果、添加剤としてクエン酸を用い、HPA
た11価、
m/z 651.8をプリカーサーイオンQ1に設定した。
とTCの1:1が最適なマトリックであることがわかっ
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た。結晶のでき がイオン化には非常に影響するため、
Autoflex speedの最適化においてはこの選定が一番重要
なポイントとなる。
ここで開発した方法を用いて、miR-92a-2-5pを含む7
種の混合溶液を測定した結果を図8に示す。
10 fmol/mLの濃度の溶液を測定した結果、7つのピー
クをそれぞれ分離して検出することができた。
一方、クエン酸を添加しない場合はナトリウムやカリ
ウムの付加体が検出された。
図5 プリカーサーイオン選択の事例
API5000によるlet-7ファミリーの測定結果を図6に示
す。上からlet-7a、7b、7c、7dのクロマトグラムを示した。
let-7aの検量線で1.4 fmolから140 fmolまでの直線性が得
られた。
図8 Autoflex speedによる7種の混合溶液の測定結果
6.まとめ
今回2種の異なる装置及びmiRNAを用いて測定を行っ
図6 API5000によるlet-7ファミリーの測定結果
た。
API5000でlet-7ファミリーの測定を行った結果、1.4~
140 fmolの間で良好な直線性が得られた。
5.Autoflex speedによるmiR-92a-2-5p分析結果
また、Autoflex speedを用いたmiR-92-a-2-5pを含む7
マトリックスの構造式とその結晶構造を図7に示す。
HPA:TC=1:1を用いることにより10 fmolの検出感度を達
種の混合溶液の測定を行った結果、マトリックスとして
成すること、さらに1塩基ずつ異なる合成miRNA混合溶
液の分離検出に成功した。
図7 マトリックスの構造式とその結晶化の様子
■廣川 順一(ひろかわ じゅんいち)
医薬営業部兼生物科学研究部 主任部員
3種のマトリックスとしてHPA、SA、DHBを選択し、
添加剤としてはクエン酸アンモニウム(TC)を用いた。
38・東レリサーチセンター The TRC News No.120(Feb. 2015)
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