法学からみた 地域戦略の意義

http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2013/130720KHS.pdf
生物多様性と法政策
 光陵高校校外講座
 松田裕之(横浜国立大学)
 2013.7.20
2013.5.9 米国ウッズホール公開行事
http://www.whoi.edu/main/morss/fukushima
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1
生物多様性条約
Convention on Biological Diversity

1992年地球サミットで採択

気候変動枠組み条約、森林原則宣言
翌1993年発効(米国は参加せず=第3原則)

CBDの3原則
生物多様性の保全
2. その構成要素の持続可能な利用
3. 遺伝資源を利用する利益の公正な配分

生物多様性国家戦略の策定
1.
2
吉田正人氏
松田加筆
2011資料
自然保護思想の変化
自然保護から生物多様性へ
レイチェル・カーソン(1907-1964)
アルド・レオポルド(1887-1948)
1992~
1980~
Edward O. Wilson(1929-)
2005~
生態系サービス ?
生物多様性
持続可能な開発
19c ~
自然保護
保存(P型)
保全(C型)
復元回復(R型)
生物多様性
Biological diversity, Biodiversity
 生態系の多様性(景観)砂漠も大切
 種の多様性 危惧種も普通種も大切
 レッドデータブック
 生きている地球指数(living planet index)
 遺伝子の多様性 地域変異、個体変異
 進化の源泉
4
生物多様性アジア戦略プロジェクト(及川敬貴先生)
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5
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2001/amami-iken.html
自然の価値
「奄美自然の権利訴訟原告弁護団の主張」
 基底性
公共性
連続性
 固有性
有限性
無常性
23:35
全体として不可欠
共有財産
切り売りできない
唯一無二
いつか絶滅する運命
放置しても変化する
6
鬼頭秀一「自然保護を問い直す」
(筑摩書房)のリンク論より
 切れてはいけない!
 生態系は繋がっている
 人間社会も繋がっている
 生物の多様性を守れ!
 人間の文化、価値観の多様性を守れ
 友達をたいせつに!
23:35
7
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2001/amami-iken.html
自然保護の根拠:3段階論
(奄美自然の権利訴訟原告弁護団)
 現在の人類の利益を守る
 有用鳥類保護条約1902、動植物保存条約1933
 将来の人類の利益を守る
 人間環境宣言1972,環境と開発に関するリオ宣言1992
 自然の内在的価値を尊ぶ
 ベルン条約1982,世界自然憲章1982
生態系サービスの持続可能性
23:35
8
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2001/amami-iken.html
奄美「自然の権利」訴訟
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http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2001/amami-iken.html
奄美裁判控訴審松田の意見
 自然が人類にもたらす公共的利益は、現行の法体系によっ
てどこまで守ることができるのだろうか。本裁判は、その
こと自身が議論されている
 原告らの原告適格を否定したものの、「原告らの提起した
『自然の権利』」という観念が、「個人的利益の救済を念
頭に置いた従来の現行法の枠組みのままで今後もよいのか
どうかという極めて困難で、かつ、避けては通れない問題
を我々に提起したということができる」と述べた。
 原判決の判決理由の中に、裁判官が現行法の範囲で自然保
護の法的根拠を求めようと真摯に努めた苦悩の跡を読み取
ることができる。原判決は、行政と国民が生物多様性の保
全に努める責務があることを明らかにした。その上で、環
境問題の公共性と個人的利益の救済を想定した法体系の矛
盾を認めた。本控訴審は、この矛盾をどう解決するかに答10
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2001/amami-iken.html
奄美大島住用村ゴルフ場予定地周辺地域に生育する
植物RDB種(鹿児島県環境技術協会1994より)。
生育地域数(「地域」は、国土地理院の25000分の1地図1枚分、約10km四方)、
個体数は植物RDBにより生育が確認された地域だけの集計で、過小推定。位置
の欄の「内・隣・*・外」は、それぞれ計画地内、その縁辺、海と計画地に挟ま
れた調査報告書56頁の図の矢印の地域、2km以上離れた周辺調査地で生育が確認
されたことを表す。生育地数と個体数が「不明」とは、個体数が既知と報告された
地域が全く無かったことを表す。
種名
科名
RDB 生育地域数 個体数
位置
Ia
1
オキナワマツバボタン スベリヒユ科
数個体
*
Ia
7
ツキヌキオトギリ
数十
外
オトギリソウ
科
Ib
11
オオタニワタリ
数百
外
チャセンシダ
科
Ib
11
アツイタ
数百
外
ツルキジノオ
科
Ib
アマミアオネカズラ
ウラボシ科
不明
不明
外
Ib
マルバハタケムシロ
キキョウ科
不明
不明
内・隣
Ib
イソノギク
キク科
不明
不明
*・外
Ib
9
カクチョウラン
ラン科
数百
内・外・隣
II
103
マツバラン
マツバラン科
数万
外
II
6
ケラマツツジ
ツツジ科
数千
内・外 11
所轄大臣
環境大臣
有識者 県・市町村
事業者
検討会
Scoping, Screening
公告・縦覧・説明会
意見書提出
国
方法書
意見書提出
調
査
公告・縦覧・説明会
民
環
境
団
体
意見書提出
準備書
意見書提出
公告・縦覧
意見書提出
追跡調査
評価書
事後調査
公表
計
画
変
更
事後調査
報告書
微
修
正
保
全
措
置
補
正
愛知万博=EIAの失敗例
計画変更とアセス手続き
環境影響評価法施行令第9条
 新たな関係市町村が加わる計画変更
は、方法書からやり直す
 愛知万博EIAは法施行前の例外=通産省
通達により、影響低減が評価書で明ら
かにできればやり直しに及ばず)
 2000年5月登録へ評価書を急ぐ
 結局はパリの博覧会国際事務局が認めず、全部やり
直すことになった
愛知万博跡地利用計画の問題
 通産省と万博協会は、愛知県と建設省の新住
宅市街地化事業+名古屋瀬戸道路の是非を問
うことも、計画変更を要請することもできな
い( ≠BIEの強い不満)
 新住事業で造成した土地を展示館などに利用
する(万博評価書では評価対象外)
 松田:「いずれ、県が万博をやめたがり、環
境団体がやらせたがる(跡地利用をやめさせ
る)ようになるだろう」(⇒実現)
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2013/130625FTM.pdf
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2013/130625FTM.pdf
辺野古米軍飛行場環境影響評価
15
1.はじめに(経緯)
 防衛本省(田中直紀大臣)は、環境影響評価書に対
する知事意見を勘案して行われる評価書の補正作業
について、科学的・専門的観点からの助言を得て、
事業者である沖縄防衛局において適正かつ迅速に実
施するため、普天間飛行場代替施設建設事業に係る
環境影響評価に関する有識者研究会(以下「研究
会」という。)を開催することとした。
 平成24年4月27日の第1回会合以降、これまで
に5回の会合を開催するとともに現地視察を行なっ
た。
 評価書の補正に係る基本的な方針等について、これ
までの研究会の議論を整理したものである。
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2013/130625FTM.pdf
16
2(1)評価方法について①
①評価における課題
 評価書全般を通して、現地調査については、細部にわた
り非常によく実施されているが、その評価については、
「影響が小さい」、「影響がほとんどない」等の抽象的
な表現が多く、また、その根拠が明確となっていない部
分もあるなど、見直しが必要である。
 例えば、サンゴ類・・・2mg/L 未満の濁りが拡散すると
の予測に対して水産用水基準値(2mg/L)を基に「影響
は小さい」との評価するが、その値がサンゴ類にとって
本当に影響が小さいかの判断は非常に難しい。
 事業を実施すれば、生物等の環境に対して何らかの影響
を与えるのは間違いなく、むしろ、安易に影響が無いと
評価するのは間違いである。・・・人間の活動は、その
全ての面において生物多様性に対して何らかの影響を及
ぼしている。
17
2(1)評価方法について②③
② 評価に当たっての基本的な考え方
 評価に当たっては、個々の項目毎に検討が必要となるも
のの、科学的根拠を示した上で、影響の程度をできる限
り定量化するなど具体的かつ詳細に示すことが重要であ
る。
 さらに、評価においては、事業の実施により生じる環境
リスクと事業の必要性や意義との比較論も重要と考える。
③評価基準について:
 既に科学的知見に基づきその根拠が明確になっているも
のと、未だ科学的知見が追いついていない分野もあるこ
とから、研究会の今後の討議の中で、これらの知見のレ
ベルを明確にしていくこととしたい。
18
19
20
普天間米軍基地移設問題とは
 日本と沖縄の関係
 日本の中の先住民、植民地問題?
日本米国中国台
 海洋民族としての沖縄の未来
湾の結び目にあ
 米国と日本の関係
る沖縄
 もうひとつの植民地問題(日米地位協定)
 防共基地ではなくなったのか?
なぜ改善で
きないか?
 環境影響評価の問題
 比較対象がない(基地なし、代替基地、浮体構造物)
 戦略的環境評価をしていない(環境と経済軍事の天秤)
 軍事施設なのに有事の影響を評価していない
 補正段階での有識者検討会召集
21
代替案との比較
 なぜ離島(eg馬毛島)ではいけないか
 飛行場は演習場と隣接する
 高級将校は家族とキャンプに暮らす
 そもそも便益との比較(戦略評価)をしていない
 なぜ浮体構造物ではいけないか
 テロ・爆撃で爆破されやすい?
 そもそも工事の妨害の難易度さえ検討外
 浮体構造物は将来移設可能なのに
22
環境影響評価(EIA)手続きの問題
 最大の問題が埋立土砂の供給源とすれば、その影響
評価も必要(辺野古だけの問題ではない) これは補
正段階では対応できない
 EIAは合意形成の手段。その不手際は、結局は合意
形成そのものを遅らせる(愛知万博の教訓=新たな
当事者は議論を蒸返す)
 補正段階で召集された有識者検討会
 補正が前提で召集(やり直しの可否は議論せず)
 評価書の記述に責任を負っていない
23
海洋産業研究会資料2010.6.11より
普天間代替ヘリポート提案(浮体案)リーフ外案
年
工期9
セミサブ式なら、移設ならびに完
全撤去が可能!(ただし、より沖
合い)
メガフロート工法
(ポンツーン型);防波
堤必要
環境影響評価自体で事業は止められない
 (基本的事項=環境省告示)評価は、調査及び予測
の結果を踏まえ、対象事業の実施により選定項目に
係る環境要素に及ぶおそれのある影響が、事業者に
より実行可能な範囲内で回避され、又は低減されて
いるものであるか否かについての事業者の見解を明
らかにすることにより行うものとする。この場合に
おいて、国又は地方公共団体によって、選定項目に
係る環境要素に関する環境の保全の観点からの基準
又は目標が示されている場合は、これらとの整合性
が図られているか否かについても検討するものとす
る。
 手続きやり直しの規定はあるが、事業中止の記述はない
 世論とともに、事業を見直す契機になる
25
及川先生からの助言
 変な話、手続きさえすれば、環境に影響があっても事業
ができる。→アセスが「杜撰だ」と指摘している判例は
山ほどありますが、アセス法上の違法を認めた判例には
お目にかかったことがありません。この点はアメリカで
も同じです。
 公有水面埋立法の第4条2項だけでなく、アセスメント
法の第
33条にも、環境保措置の条件を付けて免許する等の記
述があり、やはり「影響あり」のままでは、事業はでき
ないかも知れません。→アセス法33条「横断条項」は日
本のEIA法の目玉です。というのも、この規定によれ
ば、免許権者(知事)は、当該事業の根拠法(公水法)
の規定にかかわらず、アセス法に基づく審査結果に基づ
いて、免許をしないことができる。とてもパワフルな規 26
琉球新報社説
2012.9.27
 学者の良識と倫理観を疑
う
 他紙(9.26)は・・・
 研究会提言 辺野古アセス
見直し必要(琉球朝日)
沖縄タイムズなども同様
 9.27以後、関連報道なし
27
有識者検討委員として一言
 「手続きのやり直し」は議論していない
 それで委員を受けたのは「良識を疑う」ことか?
 反対だけでは何も生まれない。思想対立ではなく、ど
んな技術的な課題があるかを明らかにするのが専門家
の使命である
 「時間稼ぎ」は有効か?
 普天間のままでよいはずはない。白黒つけて、先に進
むべきではないか
 「やり直し」は時間稼ぎではない。しかし、調査だけ
のやり直しは時間稼ぎにしかならない
 問題は調査ではなく、予測と評価と保全措置
28
最終報告
 研究会は、評価書の補正に関して科学的・専門的観
点から討議を行い、防衛大臣に助言することを目的
とし、自然環境及び生活環境の分野の有識者9名で
構成されたものであり、事業自体の適否、環境影響
評価の補正手続き自体の適否について意見を述べる
ために設けられたものではない。
29
4つのカテゴリー
 評価書の補正については、これら県知事意見を勘案して
検討されるが、それぞれの意見内容に応じて、以下のと
おりに分類
1.
評価書の内容をより丁寧に説明することで対応するもの
2.
追加的な調査、解析、知見等を増やして対応するもの
3.
環境保全措置を新たに(更に)行うことで対応するもの
4. 事後調査又は環境監視調査を続けて、その結果に応じた
措置を講じるもの
30
Environmental Impact Assessment for
Henoko US Militaly Base plan (Dec. 11)
A huge dugong-watching system
“The impacts are not eliminated”
25%
Extinction risk
PVA of Japanese Dugong
20%
15%
10%
5%
0%
0
50
100
Years after the present
今後の見通し(防衛省)
2013.1.26現在
 県知事は埋立許可を名護市の合意がない限り出さない
 辺野古埋立にぐずぐずしていると、米軍は普天間の施設
を改装し、固定化する。それはまずいだろうと県知事を
説得。
 田中元大臣は単に業者を信用しなかっただけ?
 森本前大臣は本気で知事を説得する気だったらしい。そ
のため、早く埋立て申請を出したかったが、選挙前に出
すと民主党に不利なので止められたらしい。
 自民党はすぐには埋立て申請を出さないが、おそらくも
うすぐ出す。1年待てば名護市長選があるが、県知事はそ
れを待たずに諾否を決める。
 補正を急いだのは普天間固定化を避けるため。県知事が
拒否すれば、裁判で長引く前に、米軍は普天間固定化を
32
今後の見通し(私見)
 補正書には「環境影響はある」、最終報告書には「基地や
補正手続きの是非は我々は判断していない」と書いている
ので、県知事が埋め立てを拒否する理由はいくらでもある
 補正書を出すのを我々が何年も遅らせれば、米軍は普天間
の改装に踏み切ったのでしょう。それは、県知事に判断さ
せないことを意味する
 防衛省としては、結局は知事を説得する以外にないので、
我々が「科学的に」しっかり書くことは、むしろ歓迎とい
う態度でした。
 県と県知事が決めるべきでしょう。
 たとえ知事が埋立許可を出しても、実力闘争もあり、すん
なりと辺野古はできないかもしれません。しかし、許可が
下りれば、普天間固定化はできないかもしれません。
 ジュゴンの調査に防衛省は、すでに10億円位予算をかけてい
るそうです。環境省にはできない調査でした。事業が実施 33