http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2004/040912k.ppt 科学万能論の反省と生態リス クの順応的管理 松田裕之(横浜国立大学・環境情報・リス クマネジメント) 1. 生態学会釧路大会(2004.8) 2. 鬼頭氏「思想」へのコメント 謝辞 蔵田伸雄氏,鬼頭秀一氏,屋良朝彦氏 1 予防原則 precautionary principle 予防的取組み,予防措置 precautionary approach, ---- measures • 環境に対して深刻あるいは不可 逆的な打撃を与えるとき, 科学的に不確実だからという理 由で環境悪化を防ぐ措置を先延 ばしにしてはいけない 1992年リオデジャネイロ宣言第15原則 http://www.unep.org/ 2 http://www.cites.org/eng/cttee/standing/46/46-14A4.pdf 不確実性に対処して、あらゆ るところに予防措置が • RECOGNIZING the importance of the application of the precautionary principle in cases of uncertainty; (ワシントン条約の附属書掲載基準 CITES Criteria of Appendixes I and II, Resolution Conf. 9.24) Comment: リオ宣言に戻れ! 3 科学者のとるべき態度 後 • 1992年地球サミット前 – 科学的証拠なしに社会にものを 言わない; を言うことが歓迎される – 世論に係らず、自らの見解を変 科学論争を多数決で決める。世論 えない を味方につける 科学者の社会的提言につ いての学界基準が未確立. 4 Galileo’s Inquisition http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2004/040826v2.html 2004年8/25-29 第51回日本生態学会大会釧路市 日本生態学会のめざすところ ―― 純粋科学,基礎科学,応用科学のはざまで ★保全生態学は生態学か?自然科学か?科学か? ★保全生態学ならびに自然保護の論拠は科学的に確立 されているか? ★真偽(科学的命題)と善悪(自然保護など価値に関 すること)は区別すべきである ★究極的な目的としての保全を評価する指標は存在し ないか? ★学会が開発などの社会的問題に要望書を出すことは よいことか? ★環境倫理学論争について 5 岡本裕一朗(2002)『異議あり!生 命・環境倫理学』(ナカニシヤ出版) • 既存の環境倫理学(動物愛護)批判は明解 • 岡本「環境倫理学はおわり」松田「一から出 直し」 • 岡本:動物は倫理的主体でなく行為対象 • 松田:保全生態学は人間中心主義・持続可能 性 • 松田:人間中心主義の立場から,環境倫理学 を再構築されることを望む 6 ○松田「クジラを獲らなければ,食べなければ環境にや さしいと言うのは間違いである」(NHKBS討論2004.4.25) 究極的な目的としての保全を評価す る指標は存在しないか? • 平川:多様性をどう定義しても、我々の価値 観に沿うものにはなりえない.だから、「生 物多様性」を計量概念と捉えるのは不適切 • 矢原:前半の常識的な意見を主張するにあた り、計量化という科学の基本的方法に罪をき せてしまっています • 平川:罪はきせてない。保全概念の生物多様 性≠既存の生態学概念として「多様度」.こ の両者を混同してはいけないということ 数字を一人歩きさせたのは,「ゼロリスク論者」である - 所沢ダイオキシン問題 7 1999年の世界各国各地域の生態学的足跡EFPと 生物的収容力(WWF 2002より改変) 人口 世界 高収入国 中収入国 低収入国 5979 906.5 2941 2114 生態学的足跡EFP (gha/人) 生物的 合計 漁場 エネルギー 住居建設 収容力 2.28 0.14 1.12 0.10 1.90 3.55 6.48 0.41 3.86 0.25 1.99 0.13 0.94 0.09 1.89 0.83 0.03 0.25 0.06 0.95 中国 日本 米国 ドイツ 1272 126.8 280.4 82 1.54 4.77 9.70 4.71 (百万人) 0.10 0.76 0.31 0.19 0.69 3.04 5.94 3.08 0.09 0.16 0.37 0.29 1.04 0.71 5.27 1.74 生態学的足跡=農作物 牧草地 森林 漁場 エネル ギー 住居建設などの負荷の総計をとったもの http://www.wwf.or.jp/activity/lpr2002/ 8 リスクはゼロにできない (ロドリックス「危険は予測できるか」化学同人よ り) 行為または曝露 死亡率 行為または曝露 死亡率 モーターサイクリング 2000 ロデオ競技 3 すべての原因(全年齢) 1000 火災 2.8 喫煙による全死亡 300 塩素殺菌水(副生成物) 0.8 喫煙による発癌死 120 ピーナツバター大匙3杯/日 0.8 消火活動 80 炭焼ビーフステーキ85g/日 0.5 ハンググライダー 80 洪水 0.06 石炭採掘 63 落雷 0.05 -5 農作業 36 流星直撃 <10 自動車 24 落ち葉焚き ? *死亡率は対象10万人あたりの年間死亡者数 鬼憂 杞憂 生涯リスクは上記の数字が(松田注:年齢,年代により)大きく変わらないとすれば約70倍したものとなる. 9 リスク回避のコスト 10 最後は人間が判断した環境省RDB L Nrdb 0 1 3 3 3 1 1 2 12 1 13 0 7 1 1 20 1 4 1 27 1 0 3 322 127 635 3 316 347 1651 3 436 0 759 3 316 13571 316 12 3 361 316 Rcal T100 P 判定 NR 判定 元年 R DB NaNQ 0 -1 -1 ★ 0 0.904 14 1 1 1 0.49 111 2 2 V 2 0.42 221 3 2 0.973 23 2 1 V 1 0.669 61 1 1 ★ 1 0.898 50 1 2 V 1 0.34 164 2 2 V 2 0.503 148 3 3 V 3 1 4 1 1 V 1 0.509 170 3 2 2 NaNQ 0 -1 -1 E 0 .1 0.686 100 3 2 V 2 1 4 1 1 1 0.497 118 2 2 V 3 0.449 235 4 3 3 0.621 103 1 2 V 2 0.505 141 2 1 1 1 4 1 1 V 1 0.579 103 3 2 2 0.634 104 1 2 2 -1 2 -1 2 1 1 • あくまで機械的に判定するIUCN-RDB 11 ○2004.4.25NHK BS 討論 「どう守る 海から消える魚」 • 自分にとってクジラが必要ではないから捕鯨 再開にこだわらないと言う意見があった.た いへん残念である.伝統的に沿岸捕鯨を続け てきた人が,絶滅の恐れもないクジラを獲り つづけることを禁じられたことを,なぜかわ いそうだと思わないのだろうか.魚だけでな く,伝統的な漁業も絶滅寸前であり,そちら も守るべきである.自分のことだけ考えてい たら,環境を守ることはできない.相手の立 場のことを考えることは,何より重要なこと である. 12 私の捕鯨論争解決案 • 今回の捕鯨問題での議論で,「ミンク クジラは絶滅危惧種ではない」「管理 がきちんとできるか疑わしい」という ことならば,「日本の環境団体を含め て合意形成を行い,捕鯨を管理すれば よい」 • 愛知万博=討議民主主義の実験(失敗 例?) 13 安全性の追求≠自然志向 • 厳しくも恵み豊かな自然(鷲谷いづみ 2003) • なぜ、ほんのわずかなリスクを避ける ために今まで世話になった野菜や牛肉 の農家を破産の危機に追い込むのか • いちばん大切なのは、自然と人の関わ り,人間同士の信頼関係である<鬼頭 「自然保護を問いなおす」 14 WWFジャパンの対話宣言 新たな一歩を踏み出すとき(2002.4会報) クジラをめぐる問題は、今も混迷を極めています。対立する利 害関係や、心情的なもつれなども加わって、事はいっそう複雑 です。しかし、もうそろそろ、解決に向かう新たな一歩が踏み 出されるべきです。 WWFは、50カ国に及ぶ国際団体であり、クジラに関しても、 国によってさまざまな意見があります。これまで、商業捕鯨を なくしていこうとする意見がより強く反映されてきました。そ れは、乱獲によるクジラ類の激減をくい止める大きな力になり ました。しかし、乱獲の最大の理由であった鯨油の需要がなく なった今、WWFもまた、次の一歩を踏み出すときに来ている といえます。(後略) 15 http://www.wwf.or.jp/marine/kujira/index.htm WWFの6つの行動原則 • 1.「WWFの使命」に従う • 生物多様性保全 持続可能な利用 環境汚染を 減らして資源とエネルギーの浪費を防ぐ • 2.科学的な根拠に基づいて議論・行動する • 3.予防原則を尊重する(次頁) • 4.国際的合意を尊重する IWCとCITES • 5.多様な価値観を尊重する • 6.日本政府に対し、海洋資源の保全に貢献 するよう強く働きかける 16 3.予防原則を尊重する • 影響の予想は、科学的な根拠に基づい て行われるべき • 影響が起きることが、完璧に立証でき ない場合でも、必要な対策は速やかに とられるべき • 過剰な、あるいは過小な予防措置を招 かないよう、内容と程度は、可能な限 り、科学的・技術的知見に基づいて検 討されるべき 17 WWFジャパンの捕鯨問題での意見広 告を「裏切り」と罵倒するGuardian のインターネットニュース Japanese branch outrages WWF with whaling plea Paul Brown, environment correspondent Tuesday April 2, 2002 The Japanese branch of WWF has come out in favour of limited commercial whaling, a decision certain to cause an upheaval in the worldwide conservation group, which has been implacably opposed to whaling since its foundation (後略) 18 http://www.guardian.co.uk/international/story/0,3604,677360,00.html 反捕鯨団体もミンククジラが絶 滅危惧とは思っていない グリーンピース主催 2002.3.20 クジラ問題を語る会 グリーンピース・ジャパン 会議室 松田裕之 はたして、ミンク鯨が本当に絶滅のおそれがある種と 思っている人は、グリーンピースやほかの自然保護団 体の中にどれだけいるだろうか?意外なことに、あま りいないようである。(中略)クジラを捕るのに反対す れば、ほかの生物や自然が果たして守られるだろう か?私はそうは思わない。反捕鯨は科学の問題ではな く、欧米では人気を得やすいのだと、BBCインター ネットニュースでも紹介されている。反捕鯨団体も、 このことをよく知っている。(中略)反捕鯨は、むしろ 日本の環境団体が勢力を伸ばす妨げになっていると思 う。 19 Should any few risk be avoided? (IWC/SC 2001 report, p.93) • Constant rate of exploitation of whales with environmental variability was still “equivalent to an unsustainable ‘mining’” (still positive risk) • Under the RMP, “the time scales were far too long (1045 years)” (>>the age of cosmos) • “the long time-scale was necessary to examine the mechanisms of the interaction between environmental variability and exploitation.” ???? 209 自然保護の根拠:3段階論 • 現在の人類の利益を守る – 有用鳥類保護条約1902、動植物保存条約1933 • 将来の人類の利益を守る – 人間環境宣言1972,環境と開発に関するリオ宣言1992 • 自然の内在的価値を尊ぶ – ベルン条約1982,世界自然憲章1982 今の科学的判断が将来否定されるかもしれない 将来の見直しを明確に意識した科学的知見 21 順応学習とフィードバック制御 Adaptive Learning & Feedback Control 継続調査データ 管理の実施、 資源変動 動態模型 状態 管理の意思決定 勝川俊雄T.Katsukawa:博士論文(2002)より 22 クジラの改訂管理方式 Revised Management Procedure 漁獲圧と生産量 初期管理資 源 持続的利用 保護対象 0 54%K 相対資源量 1 23 道東地区エゾシカ管理計画 http://www.hokkaido-ies.go.jp/HIESintro/Natural/ShizenHP2/SIKA/DTdeerHP.htm 大発生水準(50%)以上 緊急減少措置(2年を限度) 目標水準(25%)以上 漸減措置(雌中心の捕獲) 目標水準(25%)以下 漸増措置(雄中心の捕獲) 許容下限水準(5%)以下 または豪雪の翌年 禁猟措置 24 その後の環境監視 200 175 150 個 125 体 数 100 指 数 75 50 ヘリコプターセンサス ライトセンサスA ライトセンサスB 捕獲数/人・日 目撃数/人・日 農林業被害額 列車事故 262 25 0 1990 1991 1992 1993 1994 1995 1996 1997 1998 2000 北海道 http://www.hokkaido-ies.go.jp/HIESintro/Natural/ShizenHP2/SIKA/DTdeerHP.htm 25 ゼロリスクとリスクコミュニ ケーションの狭間(エゾシカの 例) • エゾシカは何頭いるかよくわからない – 松田(1998ML)30万頭以上ならエゾシカ管理 は失敗する(その可能性は否定できない) – http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/1998/letter98.html#981118 • 1999年鳥獣保護法改正の議論 – 三浦(1999参議院)被害はゼロにならない – 自然保護協会(1999)ゼロにならないなら, 何のために管理するのか. 26 鬼頭秀一氏「倫理学講座:環境」の 主張 • ゼロリスク論は原理的に不可能である • 社会的リンク理論を考慮したリスク管理論の 組み替え,戦略的予防原則が必要 • ゼロリスク論に一定の社会的意義を認める • リスク評価が本質的価値を見逃す • 科学万能論の否定=人間中心主義からの脱却 • 価値観の多元性=科学の不確実性 27 ゼロリスクの否定 • ゼロリスク論を否定した環境倫理学者 – 鬼頭秀一(2004)「リスクの科学と環境倫理」(丸山徳次編 『応用倫理学講義 2環境』岩波書店116-138)への意見 • 実際には人々は必ずしもゼロリスクを 求めているわけではない – 平川秀幸氏http://www.cs.kyotowu.ac.jp/~hirakawa/sts_archive/regulatory/PPSA/hiraka wa20030615.pdf • リスク=エンドポイントの発生確率×深刻さ (ハザード) 28 リスクをどう考えるのか • ゼロリスクは不自然である • 厳しくも恵み豊かな自然 • 自然に対する畏敬の念 • 生きがい=死にがい • 人間の絆=リスクの受け渡し 29 リスク評価の危うさ:外挿 30 北海道のヒグマ保護管理 (Mano, ...,Matsuda et al. unpubl.) • ヒグマは東南アジアで絶 滅危惧種であり、CITESで 国際商取引が禁止されて いる • 北海道ではヒグマはまだ 広くたくさんいる。 • 個体数が増えている証拠 はないが、人を襲う事故 件数は増えている。 函館 札幌 31 http://www.hokkaido-ies.go.jp/HIESintro/Natural/ShizenHP2/Wildlife/mano.htm Risk miscommunication • We argued that ca. 500 brown bears exist in Oshima Peninsula • 500 is a Minimum Viable Population for conservation ecology • by recent estimate, 800 bears must exist there • This does not mean cull of 300 bears. How do we inform this underestimation? • We must be careful to show numbers. 32 日本の国会での論争 • 鈴木宗男議員 • 石原伸晃大臣 ある哺乳類学者の言葉 • どこにそんなばか • 高速道路は無駄な な話がある。車の 公共事業だ。道路 クマよりクルマの方が危険です。 ほうが熊より多い を作っても、走っ 熊に襲われて死ぬ人より、車に轢 にきまっているだ ている車より熊の かれる人の方がずっと多い。 ろう ほうが多いくらい だ 33 熊保護管理の基本理念 • 良い熊は本来、向こうから人を避ける。彼ら の行動圏が高速道路や住宅地のそばを含んで いても、それだけでは危険ではない • 放置された生ごみを食べたりすると、人を避 けなくなる。「餌付けされた熊は駆除せざる を得ない」”A fed bear is a dead bear” (Yellowstone国 立公園の標語). 34 http://www.yellowstone-bearman.com/B_housesafe.html どうやって熊を管理するか • • • • • • • 二つのタイプの熊を考える 良い熊と悪い熊 アイヌ語でキムンカムイとウェンカムイ 良い熊を守り、悪い熊を駆除する 熊の不良化を阻む ゴミは外に出さないこと! 低いリスクは受け入れてほしい 35 Comments • 人も野生生物も、自然界では高い死亡 リスクに直面している。飼育下のほう が低い • ゼロリスクを追求することは、健康リ スクと自然保護を対立させてしまう • 必要なのは不可逆的影響に備えた予防 原則に基づくリスク管理であり、人と 自然の共存を図ることである 36
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