地域の知を普遍化する双方向トランスレーター・専門

「こまった! カワウ わかった?! カワウ
—カワウと人の過去・現在・未来—」
琵琶湖でのカワウの被害と対策
-野生動物管理の視点から-
松田裕之(横浜国立大学)
滋賀県カワウ被害対策検討委員会
*この発表は松田個人の意見です。
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2011/111113CSM.pptxにあるこのスライドと
http://risk.kan.ynu.ac.jp/matsuda/2015/EP150707.MP3をダウンロードし、スライド
1
ショー開始とほぼ同時に音声を再生してください。画面と音声が同時に再生されるでしょ
う(約50分間)。
今日の話題
• カワウ減少の一因は
ダイオキシン類
• カワウ問題とシカ問題の共通点と相違点
• 竹生島から追い払う?
• 駆除は効果があるか?
• 人と野生鳥獣との「新たな」関係
2
共通認識
• カワウはかつて絶滅危惧だった
– その主な原因は農薬等の環境汚染か
• カワウは現在は回復しつつある
– 農薬規制と鳥類保護などにより回復
• 竹生島には古くからカワウがいた
– 1950-70年代には竹生島のコロニー消滅
• 竹生島の林はカワウ増えすぎで損なわれた
• カワウは魚を大量に食べる(季節、個体によ
り魚種は様々)
3
カワウ減少の一因はダイオキシン類
横浜国大21世紀COEの成果
益永茂樹・中西準子
4
M. Murata et al. / Chemosphere 53 (2003) 337–345
横浜国大21世紀COE最終報告書より
ダイオキシン類は卵のふ化率、
カワウの自然増加率を下げる
濃度があがると
自然増加率が下がる
カワウ近縁種の詳細
な個体群データと卵
の毒性試験による生
態リスク評価
東京湾には過去の農薬起源の膨大
なダイオキシン類が蓄積している
(現在の流入は主に燃焼起源)
5
M. Murata et al. / Chemosphere 53 (2003) 337–345
ダイオキシン濃度とカワウの消長
• 農薬規制がカワウの回復をもたらした?
• 農薬がなければもっと早く回復しただろう。
6
論点(三酔人ABC経綸問答)
• カワウは放置すればまだ増えるのか?
○個体群環境収容力は営巣地でなく餌量で決まる
Aアユ食害は実は少ない、これ以上は増えない
B琵琶湖の豊富な魚を食べ、ますます増える
C放流アユは食べやすい
• A竹生島から追い払え
○個体数は減らないが、竹生島の森は回復する
○他所に営巣コロニーを作る(すぐ隣の葛籠尾崎)
B個体数が減らず、漁業被害は減らない
• B竹生島で迎え撃て
B空気銃でプロが撃てばあまり逃げない(Sharp Shooting)
B総個体数減少=拠点コロニー捕獲+新規コロニー阻止が上策
• C放流アユの育て方も工夫が必要ではないか
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カワウ問題とシカ問題
共通点
• 経済被害と生態系被害
• かつては絶滅危惧、今は
「増えすぎ」
• 個体数と被害が連動
(⇔クマ、トド)
• 個体数指数の継続調査
• 自然増加率が高い
• 大量捕獲への根強い
反対があった
• 狩猟者が減少・高齢化
相違点(シカは・・・)
• 食肉の有効利用(北海
道、長野など)
• 農漁業被害額が「明記」
• 減少要因は乱獲
• 個体群が局所的(ただし
大台ケ原は狭すぎる)
• 空気銃で捕獲できない
• コロニーを作らない
(ハレムを作る)
• 雌雄を分けて撃てる 8
http://www.env.go.jp/nature/choju/plan/plan3.html
鳥獣保護管理の課題
(特定鳥獣保護管理マニュアル2000共通編より)
1. 明確な目標がないため、過剰駆除の懸念
科学的調査・知見に基づく(適正生息数、生息環境等)設定
2. 対策が駆除に頼りがち
生息環境保全・整備、被害防除との総合的実施
3. 対策の効果の十分な検証が行われない。
効果の検証(モニタリング)、次期計画への反映(フィードバック)
4. 策定手続に関係者の意見が反映しにくい。
計画の策定手続の透明化<審議会・公聴会手続>
5. 広域的な視点からの取組が行われにくい
国の適切な関与を法定化・隣接県との調整規定
9
竹生島から追い払う?
• 他所で生態系被害が起きる?
• 漁業被害は減らない?
– 特定計画マニュアル・カワウ編の主張:「個体数が
増加した地域での攪乱(生息環境の破壊;ねぐ
ら・コロニーへの銃器や花火の使用,放水,樹木
の伐採,それらの作業を含めた人の侵入など)に
よってさらにカワウの拡散(特に冬期の季節移動)
が促進され,移動先で定着する個体が増えて,全
国的に分布が広がるようになったことも一因として
考えられる.」
10
http://www.env.go.jp/nature/choju/plan/plan3-2f/chpt2.pdf
生態学の基本理論
(カワウにも、魚にも当てはまる)
• 普通は獲れば減る(環境収容力は減らない)
• 普通は補償効果があり、0<減少数<捕獲数
>
>
– 密度効果、適応・進化
• 「獲ると増える」か「獲った以上に減る」のは
– 頻度依存淘汰(性淘汰など)が働く場合 ??
– 逃げること自体の負担が大きい場合 ??
• 分布が広がるとしても、最適地から追い出され
れば繁殖率は減るだろう(葛籠尾崎<竹生島)
– ?かえって増える < ○獲りにくくなる
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不確実な自然は管理できない?
• 激減か増えすぎ(少しの差で…)
• 獲りながら捕獲圧を調整すればよい
500
400
個
体 300
数
(
千 200
頭
) 100
毎年2万頭ずつ捕獲
初め12万頭なら絶滅
16万頭なら激増
(自然増加率年15%)
0
1993
1998
2003
年
2008
200
個
体
数 100
(
千
頭
)
生息数が減った時点
で大量捕獲をやめれ
ば、どちらの場合で
も管理できる(フィー
ドバック)
0
1993 1998 2003 2008 2013 2018
年
順応的管理(Adaptive management)は不確実性に強い
12
駆除は「効果」があるか?
• 追い払い逆効果
– 爆音と銃声>空気銃・消音銃
<
• 個体数減少 自然増より多くとる必要
– 生息数×自然増加率<捕獲数<生息数-必要数
– 不確実性を考慮。
• 被害対策 生物が安心して摂餌繁殖できない
– Trait-mediated Indirect Effect理論
– 実証研究を知らない(地上営巣)
効果の検証方法を準備する(モニタリング)
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カワウ生息数と駆除数
効果が検証されず、
2008年にいったん中止
14
14
滋賀県水産課2008漁業被害対策打合会
なぜ、全国のシカ管理は失敗しているか
• シカは「安全な場所」に逃げる(禁猟区)。
– 人間側には様々な法規制(銃刀法、鳥獣法、愛
護法、食品衛生法、自衛隊法・・・)
•
•
•
•
•
•
捕獲専門家集団の不在
目標を定めない/捕獲の上限値と誤解
効果を検証しない/結果でなく取組みを評価
不確実性を考慮しない/楽観的個体数推定
予算が続かない/有効利用が進まない
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管理できると思うこと自体が間違い?
北海道エゾシカ個体数指数の変遷
捕って減らさ
ないと、絶対
数は不確実
個
体
数
(
万
頭
)
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
年の推定
(Yamamuraら2007、検討会資料2010より改変) 毎
値はばらつく
一般化線形混合モデルから個体群動態を
考慮したベイズ推計へ(順応的管理の発展)
雌捕獲数の実績(黒)と減
少に必要な数(赤)
1993
1996
1999
年
2002
点線は信頼幅:GLMMは95%CI、ベイズ推計は68%CI
2005
180
160
140
120
100
80
60
40
20
0
個
体
数
指
数
2008
16
北海道エゾシカ保護管理検討会
(2011.7.16)議事録
• 松田:今、マスコミからも、最悪の事態を想定
しないで何が管理だと言われているのです
が、そういう意味では、(個体数推定の)上限
値でも必ず(東部も西部も) 減らしてみせます
とは残念ながら言えない状況にあります。た
だ、東に関しては、この上限値をもってして
も、総力を上げれば減らすことができるので
はないか。我々は、最悪の場合にもすべてを
完璧に管理できるという方法はないからとい
うことで、すべてをあきらめるというふうにもで
きないのです。そうしますと、東部に集中する
ということが一つの選択肢になります。
http://www.pref.shiga.jp/g/suisan/shiganosuisan/T4.pdf
滋賀県のカワウ=毎年2.6万羽の捕獲が必要
2009年以後は
当時の予想
効果のある目標設定
不確実性の検討
Nt+1 = [1+r(1-Nt /K)]Nt -Ct
K=50000, r=1.68
K=60000, r=1.21
K=80000, r=0.89
K=50000, r=1.68
K=60000, r=1.21
K=80000, r=0.89
初年度は3万羽、次年度からは生息数
の約7割の駆除+約50%の繁殖抑制
初年度は2.5万羽、次年度からは生息数
の約6割の駆除+約50%の繁殖抑制
将来予測の不確実性=「環境収容力Kと内的自然増加率r」の組み合わせによる
滋賀県水産課2008漁業被害対策打合会(数値計算を一部改変)
18
18
カワウ漁業被害防止対策打合せ会
○打合せ会の目的
①カワウの個体数を有意に減少させるための駆除数の検討←H21年度以降の駆除目標の設定
②その目標を達成するための具体的駆除方法の検討←具体的駆除方法の提示と議論(課題抽出)
③具体的駆除方法を確立するための実証事業の検討←平成20年度駆除事業のコンセンサス形成
○平成19年度会議の流れ
提案
西森
水産課
助言
横国大 松田裕之教授
琵博
亀田佳代子
イーグレット 須藤明子
①必要駆除数の確認
県提案
意見
②具体的にどうするか
(H21~)
猟友会
漁業者
(エリ)・(延縄)・(置針)
県提案
③それまでに、何を明確にさ
せておくべきか(H20事業)
事業主体
県漁連
イーグレット
説明
H20予算案
事務局
オブザーバー
県関係機関
19
検討結果とりまとめ
カワウ漁業被害防止対策会議(仮称)
○平成20年度会議の流れ
実証事業の具体的打合せ
(4月)
5月政策提案
国の動向把握
実施
総括・評価
H21のプラン作り
(8月)
H21年度事業
予算化
○平成21年度会議の流れ
PDCAサイクルにより検討する。
20
滋賀県カワウ個体数の変遷
80
70
駆除数
60
個
体
数
(
千
羽
)
県内個体数
50
40
30
20
10
0
春季 秋季 春季 秋季 春季 秋季 春季 秋季 春季 秋季 春季 秋季 春季 秋季 春季
H16
H17
H18
H19
H20
H21
H22
H23
21
鈴木基弘君作成(M2)
21
「とりあえず成功」の秘訣
• 空気銃と専門家集団の導入
– 竹生島から追い出さないSharp Shooting
– 滋賀県カワウ対策はシカ管理でも注目の先例
• 目標捕獲数割当ての設定と徹底
– 目標数は捕獲数の下限(≠漁獲枠の奪い合い)
• 事前訓練と臨機応変の部隊行動
– 趣味の狩猟、個人行動からの脱却(≒シカ戦争)
– 狩猟はFair Chaseだが、それでは減らせない
– 葛篭尾崎の新コロニーへの対応
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人と野生鳥獣との「新たな」関係
• 自然は人知を超えた存在≠物言わぬ弱者
• 被食に無防備ではないアユの種苗育成
– 被食回避の人為淘汰
• 糞のリン肥料としての再利用
– リンはいずれ不足する?
リン資源枯渇の予測
・破線はリン利用量が年間 3 %ずつ増
加した場合
・実線は地域別の事情を加味した場合
黒田章夫ほか
http://www.jseb.jp/jeb/04-02/04-02-087.PDF
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「ほどほど」の思想
• 「モノには程というものがある」-宝厳寺
• 乱獲か禁猟かではなく、ほどほどに獲る
• なぜ、放置してはいけないか?
– 人間が困らないように管理する(被害対策)
– 増えた一因は人の影響(世界遺産知床、屋久島
のシカ問題≒竹生島の森林問題)
• 竹生島でカワウと共存する
• 糞もなんとか利用したい。肉も「食べられる」
24
リンの物質循環
25
松八重一代ほかhttp://shakai-gijutsu.org/vol5/5_106.pdf
2008年
植生回復(竹生島)①
2010年
竹生島の北西斜面(2008年も2010年も
26
5月上旬撮影)© 須藤明子
植生回復(竹生島)②
2007年
竹生島の東斜面(2007年も2010年も5 月上旬撮影)
2010年
27
© 須藤明子
私の結論
•
•
•
•
カワウが減った主因の環境化学物質はほぼ解決
漁業被害と生態系影響の両方の解決を
(当面は)竹生島から追いださずに捕獲
目標以上に獲り、効果を検証して計画を見直す
– 初期の成功=これからが肝心
• 人と野生鳥獣とのほどほどの関係
– 人間活動の縮小に合わせた法体系
– カワウも自然の恵みの一つ
– 滋賀県を「野生生物管理の星」に
– 自衛隊よ、野生鳥獣を撃て!
28