金融仲介の基本機能

金融市場論
Financial Markets
2013年度前期・商学科発展科目
⑦金融仲介の基本機能
大学院商学研究科 齋藤一朗
金融仲介の基本機能
審査機能
情報生産機能
監視機能
金融仲介機能
リスク負担機能
資産変換機能
流動性創出機能
情報の非対称性と情報生産
金融仲介機関が最終的な貸し手に代わって本源的証券を購
入しているということは、さもなければ最終的な貸し手が直面し
たであろう情報の非対称性に、金融仲介機関自らが直面してい
ることを意味する。
このようなことが可能なのは、金融仲介機関が、最終的な借り
手の返済能力や返済努力に関する情報を生産する能力に優れ
ているからである。
換言するならば、最終的な借り手の返済能力を審査したり、
債務の履行に向けた返済努力を監視したりすることの費用(情
報生産費用)を、最終的な貸し手よりも節約できるからである。
情報生産の特性
 規模の経済
 借り手の返済能力や返済努力に関する情報というのは、
貸付額が1億円から10億円に増えても、生産すべき情
報が10倍に増えるわけではない。
 範囲の経済
 同じ業種に属する企業には、かなりの程度の情報が共
通するものになる。
 継続の利益
 借り手に関する情報は、ひとたび生産すれば、次回の
取引にもかなりの程度利用することができる。
 専門化の利益
 これらの経済性を享受しようとするならば、ある程度
の能力や経験が不可欠となる。しかし、それらは、情
報生産活動に長年特化することによって、はじめて蓄
積されるものである。
審査機能
情報生産機能
貸出の実行に先立って、借り手の返済能
力に関する情報を収集・分析し、借り手の
信用リスクを測定する機能
監視機能
貸出の実行後、債務の履行に向けた借り
手の返済努力を監視し、債権の保全・回収
を図る機能
不確実性と資産変換
貸し手と借り手の間には、不確実性に起因して、リスクや流動
性に関する選好の不一致が存在する。
それにも関わらず、金融仲介によって最終的な貸し手から最
終的な借り手に資金を移転できるのは、金融仲介機関が最終
的な借り手の発行する本源的証券を、最終的な貸し手の好み
そうな間接証券に「変換」しているからである。
すなわち、保有する資産を多様化することでリスク(信用リス
ク)を分散したり、預金者の将来支出に関する不確実性に起因
するリスク(流動性リスク)をプールし、預金者間のリスク・シェア
リングを組織化することで、相対的にリスクが高く流動性の低い
本源的証券を、相対的にリスクが低く流動性が高い間接証券に
「変換」しているのである。
リスク負担機能
資産変換機能
貸出の実行に当たって、本源的証券が帯
びる信用リスクの一部または全部を負担す
る機能
流動性創出機能
最終的な貸し手に対して、将来支出に関す
る不確実性に起因する間接証券の換金要
求を充足する機能
資産変換(1)~リスク負担
本源的証券
相対的に高いリスク
間接証券
金融仲介機関
相対的に低いリスク
資産ポートフォリオの多様化によるリスク分散
信用リスクに対するバッファーとしての自己資本の存在
資産変換(2)~流動性の創出
本源的証券
相対的に低い流動性
金融仲介機関
間接証券
相対的に高い流動性
多数の預金者から資金を集めることで、預金者の将来支出
の不確実性に起因するリスクをプール
流動性リスクに対するバッファーとしての自己資本の存在
金融仲介機関と証券会社:機能比較
金融仲介機関
逆選択
→情報生産(審査)
貸出審査
モラルハザード
→情報生産(監視)
債権管理
リスク選好の不一致
→リスク負担
ポートフォリオ分散
自己資本の充実
流動性選好の不一致
→流動性の創出
資金プールの形成
自己資本の充実
証券会社
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