○投資のリスクとリターン ・これから株式投資を行うという立場から考える。 投資のリスク:投資収益率のブレ(標準偏差) 投資のリターン:投資収益率の期待値(予想平均収益率) ①1つの銘柄(A社株)のみに投資した場合の 株式投資収益率の確率分布 ケース A社業績良好 A社業績不調 確率p 0.5 0.5 株式投資収益率r 15% -5% A社株への投資のリターン=収益率の期待値E(r) =(ある収益率が生じる確率p×収益率r)の合計 =Σpiri=0.5×15%+ 0.5×(-5%)=5% 1 ・B社株への株式投資の収益率も同じ確率分布とする (従ってリターンも同じ5%)。 ・両者の収益率分布は相関がゼロ(i.e.独立)であると仮定 ②A、B 2社に投資資金を1/2ずつ分散投資する場合 ケース 2社とも業績良好 確率p 0.25 (=0.5×0.5) 1社だけ業績良好 0.5 (=0.5×0.5×2) 2社とも業績不調 0.25 (=0.5×0.5) 株式投資収益率r 15% (=1/2×15%+1/2×15%) 5% (=1/2×15%+1/2×(-5%)) -5% (=1/2×(-5%)+1/2×(-5%)) 2 ○投資②のリターン(収益率の期待値)E(R) =0.25×15%+ 0.5× 5%+ 0.25×(-5%) = 3.75% + 2.5%-1.25% = 5%(投資①のリターンと同じ) 3 ・投資のリスク:収益率のブレ・変動 投資を分散することにより、投資収益率の ブレ・変動が小さくなっている。 確率 株式投資収益率の 確率分布:② 株式投資収益率の 確率分布:① 60% 確率 60% 40% 40% 20% 20% 0% -5% 15% 収益率 0% -5% 5% 15% 収益率 4 リスクの尺度=収益率の標準偏差σ =あるケースの起きる確率p×(そのケースでの収益率r-期待収益率E(r))2 のすべてのケースについての合計の平方根 r n 2 p ( r E ( r )) i i i 1 ・投資①のリスク(標準偏差) = 0.5 (15% 5%) 2 0.5 (5% 5%) 2 10% ・投資②のリスク(標準偏差) 0.25 (15% 5%) 2 0.5 (5% 5%) 2 0.25 (5% 5%) 2 10% 7.1% 2 5 ○投資対象がn個の場合のリスクとリターン: 同じ収益率分布、互いに相関がない(独立)、 すべての投資対象の収益率の分布が、A社、B社と同じ場合 (収益率の期待値=5% 、収益率の標準偏差=10% ) n個の投資対象に分散して、同じ金額だけ投資するケース ・リターン(収益率の期待値)=5% ・リスク(標準偏差)=10%/√n そこで、n→∞の時、リスク→0 6 この例(米国)ではなぜ、20%程度以下に下がらないのか? 7 どの株式の投資収益率も、経済全体の動きに 左右されるという共通のファクターが作用して いる(正の相関)。 ・ (分散不能リスク、システマテック・リスク) ・ (分散可能リスク、非システマテック・リスク) ・ 8 野村證券投資情報部編『証券投資の基礎』丸善 p.137 9 ○投資信託とリスク分散 ・投資信託委託会社による投資対象についての情報 収集・分析・選定:情報生産 • 分散投資によるリスク削減 • 第3章2節の参考文献 – 野村證券投資情報部編『証券投資の基礎』丸善.第3、7章 – 井出正介・高橋文郎『ビジネス・ゼミナール:証券投資入 門』日経新聞社.第4、6章 – ボディ、マートン『現代ファイナンス論』ピアソン.第10、12章 10 (3)信用リスクと貸出先の分散 • 信用リスク(デフォルト・リスク) : – 貸出相手の経営悪化により貸出金の元利が 回収できなくなるリスク(債権者から見て損失 を被るリスク) • :格付会社による格付の対象 • 株式投資のリスク: – 株式投資の 11 ○貸出先の分散とリスク • 多くの企業に貸出を行っている銀行の立 場(or 多くの企業の社債に投資している投 資家の立場)から考える。 • 多くの企業への貸出(or 多くの企業の社債 への投資)を1つのまとまりと考えれば、そ れはポートフォリオである。 • この貸出ポートフォリオのリスクについて、 どういうリスク概念を使うことが適切か? – デフォルト確率が適切か? 12 • 借手企業の状況(すべての企業について同じ) – ある企業が1年間だけ事業を展開し、1年後に企業 を清算する。事業資金は100億円必要 – 1年後の収入(経費支払い後)予想 • 90%の確率で事業が成功し、収入は150億円 • 10%の確率で事業が失敗し、収入は30億円 – 50億円を株式発行で、50億円を負債(金利20%)で 賄う – 1年後の収入の分配 • 事業成功のケース(確率90%):貸手60億、株主90億 • 事業失敗のケース(確率10% ):貸手30億、株主 0 13 ・1つの企業に貸出する場合の貸手から見た収益率 期待収益率= 収益率の標準偏差σ= 0.9 (20% 14%) 2 0.1 (40% 14%) 2 17.72% ・100の企業に貸出する場合(デフォルト発生は企業間で 独立と仮定)の貸手から見た収益率 期待収益率=14% ・貸出先企業の数が大きくなると、貸出全体の収益率の 分布は正規分布に近づく。 14 σ:標準偏差 野村證券投資情報部編『証券投資の基礎』p.55 15 • 貸出全体の収益率rは、 – – – – 68.3%の確率で (14-1.772)%< r <(14+1.772)% 95.4%の確率で (14-1.772×2)%< r <(14+1.772×2)% 100の企業の中で10企業ほどはデフォルトするが、他の企 業からの金利収入で打ち消すことができ、かなりの確実 性で、貸出全体から14%の収益を上げることができる。 • 貸出ポートフォリオのリスクを示す尺度として、個々 の貸出のデフォルト確率10%より、貸出収益率の標 準偏差σが適切である。 16 ○預金のリスク・安全性: 安全性の裏付け • 銀行による借手の審査・モニタリング:情報生産 • 借手・貸出先の分散: – 銀行にとって貸出先の分散は、デフォルト(不良債権)の集 中的発生、それに伴う銀行の大規模な損失の可能性を小 さくする。 • 銀行の株主資本(自己資本)による損失吸収 – 預金者は銀行の債権者であり、株主の資本を食いつぶし ても支払を受けることができる。 • 預金保険: – 1000万円までの預金については、銀行が破綻しても、元 本・利子の支払いが預金保険制度により保証されている。 17
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