証券経済論講義 第1章.金融仲介 第2章.情報生産 第3章.リスクの配分・管理 1.株式会社制度と事業リスクの分担 2.資産運用・投資のリスク分散 3.信用リスクと貸出先の分散 4.市場価格変動リスクとデリバティブ 1 ○株式投資のリスクとリターン:補足説明 ・過去のデータ からの計算 井手・高橋『ビジネス・ゼミナ-ル:証券投資入門』日経p.118 2 – ①. – ②.①は相関係数が0の時のみ成り立つか? • No! 相関係数がどうであろうと、①が成立(相関 係数とは無関係) 3 ・市場リスクと個別リスク • 考え方の順序 – ①投資対象銘柄の分散によって削減できるリスク(分散 可能リスク)だけでなく、どんなに分散しても残るリスク (分散不能リスク)が存在する。 – ②そのリスクの内容のすべてを正確に特定化すること はできないが、前者を個別リスク、後者を市場リスクと 呼ぼう。 • 個別リスクの例 – 個々の企業の新製品開発の成功・失敗、事故 • 市場リスクの例 – 経済全体の景気の循環、金利の動き • 市場リスクの大きさは、国・時代によって異なる。 – 日本とアメリカでは大体20%程度 4 日本の1980~99年の実績値 井手・高橋『ビジネス・ゼミナ-ル:証券投資入門』日経p.141 5 • 株式投資に伴う市場リスクを減らすことは できないのか? – 株式投資先をいくら分散させても、市場リスク は減らない – 株式以外(例えば債券)にも投資すれば、リス クを削減できる – 国内株だけでなく、海外株にも投資すれば、リ スクを削減できる(但し、新たに為替リスクを 負う) – どれだけリスクを削減できるかは、相関係数 に依存する 6 ・今後の期待リターンを以下のように仮定 ・標準偏差と相関係数は、今後も変化せず、過去と同じと仮定 様々なポートフォリオについて、リスクとリターンを計算する。 7 • 最適ポートフォリオ: – 期待リターンが同じであるポートフォリオの中 で標準偏差が最小のもの。標準偏差が同じで あるポートフォリオの中で期待リターンが最大 のもの。 • 国内株とポートフォリオ4とを比較 – 国内株:リターン7%、リスク19.97% – ポートフォリオ4:リターン6.81%、リスク8.95% – 海外の株式・債券にも分散投資することにより、 リターンをほとんど低めず、リスクを削減する ことができる。 8 (3)信用リスクと貸出先の分散 • 信用リスク(デフォルト・リスク) : – 貸出相手の経営悪化により貸出金の元利が 回収できなくなるリスク(債権者から見て損失 を被るリスク) – で測る: 格付会社による格付の対象 • 株式投資のリスク: – 株式投資 9 ○貸出先の分散とリスク • 多くの企業に貸出を行っている銀行の立 場(or 多くの企業の社債に投資している投 資家の立場)から考える。 • 多くの企業への貸出(or 多くの企業の社債 への投資)を1つのまとまりと考えれば、そ れはポートフォリオである。 • この貸出ポートフォリオのリスクについて、 どういうリスク概念を使うことが適切か? – デフォルト確率が適切か? 10 • 借手企業の状況(すべての企業について同じ) : • 前の講義「株式の価値評価と債券の評価」の数値例 のケース①の状況だと考える: – ある企業が1年間だけ事業を展開し、1年後に企業を清算 する。事業資金は100億円必要 – 1年後の収入(経費支払い後)予想 • 90%の確率で事業が成功し、収入は150億円 • 10%の確率で事業が失敗し、収入は30億円 – 50億円を株式発行で、50億円を負債(金利20%)で賄う – 1年後の収入の分配 • 事業成功のケース(確率90%):貸手60億、株主90億 • 事業失敗のケース(確率10% ):貸手30億、株主 0 11 ・1つの企業に貸出する場合の貸手から見た収益率 期待収益率=0.9×20%+0.1×(-40%) =14% 収益率の標準偏差σ= 0.9 (20% 14%) 2 0.1 (40% 14%) 2 17.72% ・100の企業に貸出する場合(デフォルト発生は企業間で 独立と仮定)の貸手から見た収益率 期待収益率=14% 収益率の標準偏差σ=17.72%/√100 =1.772% ・貸出先企業の数が大きくなると、貸出全体の収益率の 分布は正規分布に近づく。 12 σ:標準偏差 野村證券投資情報部編『証券投資の基礎』p.55 13 • 貸出全体の収益率rは、 – – – – 68.3%の確率で (14-1.772)%< r <(14+1.772)% 95.4%の確率で (14-1.772×2)%< r <(14+1.772×2)% 100の企業の中で10企業ほどはデフォルトするが、他の企 業からの金利収入で打ち消すことができ、かなりの確実 性で、貸出全体から14%の収益を上げることができる。 • 標準偏差σは、14%の収益確保がどの程度確実かを 示す(貸出ポートフォリオのリスクを示す) 14 ○預金のリスク・安全性: 安全性の裏付け • 銀行による借手の審査・モニタリング:情報生産 • 借手・貸出先の分散: – 銀行にとって貸出先の分散は、デフォルト(不良債 権)の集中的発生、それに伴う銀行の大規模な損失 の可能性を小さくする。 • 銀行の株主資本(自己資本)による損失吸収 – 預金者は銀行の債権者であり、株主より優先的に 収入を受け取ることができる。 15 (4)市場価格変動リスクと デリバティブ • 市場価格変動リスク(マーケットリスク): • デリバティブ:先物、スワップ、オプション – リスクを専門的に扱う金融商品、資金移転を目的とし ない • 現物取引と先物取引: – 現物(直物)取引:売買契約の成立後直ちに商品 の受け渡しが行なわれる取引 – 先物取引: 16 – e.g.3ヶ月後に1ドル=110円で、1億ドル受渡 しする契約 – 3ヶ月後の直物ドル相場がいくらであれ、それ とは無関係に1ドル=110円で受渡しを行う • ⇒ • e.g.3ヶ月後に原油輸入代金1億ドルを支 払う必要のある日本の石油会社:選択肢 A) 3ヶ月後に直物で購入 or B)現時点で先物で購入 1ドルが何円になるか 不確実で、リスクがある 1ドル=110円で確定 しており、リスクがない 17 ○ドルの買コスト (支払うべき円代金) ケースA ケースB 買コスト 110円 3ヶ月後の 直物ドルレート 1ドル=○○円 3ヶ月後の 直物ドルレート 18 ・3ヶ月後の直物ドルレートの 予想分布と為替変動リスク 確率 分布の広がりが大きい ほど、リスクは大きい 通常は、確率分布の 標準偏差で測る 分布の広がり 90 110円 130 3ヶ月先の 直物ドルレート 石油会社はこうした為替変動リスクに直面している ( 3ヶ月後にドルを調達するケース) 19 ・先物ドル購入によるリスク・ヘッジ 確率 確実に(確率100%で)、 110円でドルを調達 可能。 不確実性・リスクは 存在しない。 分布の広がり ゼロ 110円 石油会社は、現在の時点で為替変動リスクに 直面していない。 3ヶ月後の ドル調達レート 20
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