金融市場論 Financial Markets 2013年度前期・商学科発展科目 ⑧証券会社の基本機能 大学院商学研究科 齋藤一朗 証券会社の基本機能(1) 資金の流れ ①ブローカー機能 流通市場 証券の流れ 媒介 売り手 (投資家A) 証券会社 買い手 (投資家B) 証券会社の基本機能(2) 資金の流れ ②ディーラー機能 証券の流れ 流通市場 売却 売り手 (投資家) 証券会社 流通市場 購入 証券会社 買い手 (投資家) 証券会社は、ブローカーないしディーラーとして機能すること で、既発行の本源的証券を売買する場(流通市場)を形成し、 それにより流動性に関する選好の不一致を解消ないし緩和して いる。 流通市場が形成されることで、最終的な貸し手は本源的証券が もつ形式上の満期限とは無関係に、それを購入し、将来、支出 のための資金が必要となれば、いつでも流通市場において売却 することができる。 このことを、満期限の実質的伸縮化という。これにより、証券 会社は本源的証券の購入者を見つけ出すために要する取引費用 を大幅に節減しているのである。 流通市場を形成することで、本源的証券の販売を促進している のだとしたら、証券会社が取り扱う本源的証券は、取引単位の 分割が可能で譲渡可能な形でなければならない。証券会社が、 公社債や株式をもっぱら取り扱うのは、このためである。 証券会社の基本機能(3) 資金の流れ ③アンダーライター機能 証券の流れ 発行市場 引受 発行体 (借り手) 分売 証券会社 投資家 (貸し手) 証券会社が果たしている機能は、これだけではない。アン ダーライターとして機能することで、新規に発行される本 源的証券の質(とりわけ最終的な借り手の返済能力)に関 する情報を、最終的な貸し手に代わって生産している。 これにより、借り手の返済能力に関する情報の非対称性に 起因する問題を部分的に解消し、本来ならば最終的な貸し 手が負担しなければならない情報生産費用(なかでも審査 費用)を節減することができる。 もっとも、本源的証券を最終的に購入するのは貸し手であ るから、生産された情報に対して最終的な責任を負うのは、 証券会社ではなく貸し手の側である。 その意味では、自ら本源的証券を購入し、保有する金融仲 介機関と比べて、証券会社が質の高い情報を生産しようと するインセンティブが働きにくい(但し、顧客の評判を通 じる抑制効果が働くため、証券会社といえども質の低い情 報を生産しにくいことは確かである)。 このように、金融取引に伴う困難のうち、貸し手の将来支 出に関する不確実性に起因する問題は、証券会社の存在に より、ほぼ解消されるが、借り手の返済能力に関する情報 の非対称性に起因する問題については、部分的にしか解消 されない。 また、借り手の返済努力に関する情報の非対称性や、借り 手の将来所得に関する不確実性に起因する問題については、 依然として残される。 直接金融の場合、これらの残された問題への対応は、最終 的な貸し手自身の判断に委ねられる。 例えば、借り手の返済努力に関する情報の非対称性につい ては、最終的な借り手が貸し手の利益を損なうような行動 をとらないように監視するとか、何らかの制限条項を付す ことが必要となる。しかし、それには取引費用が伴う。 また、借り手の将来所得に関する不確実性については、本 源的証券に内在するリスク(信用リスクや価格変動リス ク)を、リターンと引き換えに、自ら負担することになる。 金融仲介機関と証券会社:機能比較 金融仲介機関 証券会社 逆選択 →情報生産(審査) 貸出審査 引受審査 →アンダーライター機能 モラルハザード →情報生産(監視) 債権管理 (投資家の自己責任) リスク選好の不一致 →リスク負担 ポートフォリオ分散 自己資本の充実 (投資家の自己責任) 流動性選好の不一致 →流動性の創出 資金プールの形成 自己資本の充実 流通市場の形成 →ブローカー機能 ディーラー機能
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