金融取引の諸類型

金融市場論
Financial Markets
2013年度前期・商学科発展科目
⑥金融取引の諸類型
大学院商学研究科 齋藤一朗
 貸し手から借り手への最も単純な資金移動は、両者の間で直接的に
取引を行うことである。
 しかし、情報が完全ではなく、取引を契約どおりに実行させるのに
費用が必要な場合には、資金の借り手は、本来の調達コストに加え
て追加的な費用(エージェンシー・コスト)を負担しなければなら
ない。
 そして、このコストが高くなるほど、資金移動は阻害され、経済活
動は非効率なものとなる。
 以下では、金融仲介機能についての考察を通して、銀行システムと
証券市場システムが如何にエージェンシー・コストを縮小し資金の
効率的な移動を促しているのか、これらふたつのシステムはどのよ
うに異なるのかについて取り上げる。
 まずは、金融取引の諸類型を概観し、金融システムのタイプ分類か
ら議論を始める。
直接金融と間接金融
 資金移転のチャネルに着目すると、金融システムは、直接
金融と間接金融に区分することができる。
 直接金融とは、最終的な借り手(投資超過主体)が発行す
る債務証書(本源的証券)の販売・流通を促進することで
困難を解消ないし緩和しようとするものである。
 典型的には、証券市場システムを通ずる資金の融通がこれ
にあたり、証券会社が金融取引の円滑化に貢献している。
 直接金融では、証券会社が仲立ちとなって、最終的な貸し
手から最終的な借り手に資金が移転されるが、その際、最
終的な借り手が発行する本源的証券は、何ら加工されるこ
となく、そのままの形で最終的な貸し手により保有される。
 もうひとつは間接金融で、いわゆる金融仲介により困難を解消しよ
うとするものである。
 金融仲介とは、最終的な貸し手(貯蓄超過主体)に向けて自ら債務
証書(間接証券)を発行して資金を調達し、その資金を以て最終的
な借り手が発行する債務証書(本源的証券)を購入し、資金を供給
する行為をいう。
 この方法で金融取引の円滑化に貢献している金融機関のことを金融
仲介機関という。
 間接金融においては、金融仲介機関の働きによって、本源的証券が
間接証券に「変換」され、「変換」された間接証券が最終的な貸し
手によって保有されることとなる。
直接金融と間接金融:概念図
金融仲介機関
資金の流れ
証券の流れ
間接証券
本源的証券
本源的証券
借り手
証券市場
貸し手
本源的証券
本源的証券
市場取引と相対取引
 金融システムを類型化するもうひとつの方法は、取引形態
の側面から、市場取引と相対取引に分けてみることである。
 市場取引とは、不特定多数の取引参加者が、規格化された
証券の競り合いによって取引する形態をいい、需給の調整
は価格をシグナルとして行われる。
 株式市場や債券市場はこの典型例である。
 これに対して、相対取引は、取引参加者がお互いに相手を
特定化し、取引条件を個別的に設定する取引形態をいう。
 貸出取引では、銀行等金融仲介機関が個々の借り手の信用
度を評価し、金利や期間などの貸出条件を決定している。
金融システムの諸類型と進化
証券市場中心の金融システム
直接金融
相対取引
市場取引
個人間貸借
企業間信用
株式発行
債券発行
金融仲介機関における
間接金融
貸出取引
預金取引
金融仲介機関における
市場運用
債権流動化
銀行中心の金融システム ~相対型から市場型へ~
金融取引の困難とその解消・緩和
銀行中心の
金融システム
逆選択
モラルハザード
証券市場中心の
金融システム
貸し手と借り手の間の情報ギャップ
(事前的あるいは事後的な情報の非
対称性)をどのように解消ないし緩和
するか
リスク選好の不一致
流動性選好の不一致
貸し手と借り手の間のリスク選好や流
動性選好に関する不一致をどのように
解消ないし・緩和するか
直面する困難は同一でも、解消ないし緩和の方法は、システムによって異なる。