民間リスクマネジメントを支える 公的枠組みについて 一橋大学大学院経済学研究科教授・ 東京大学公共政策大学院客員教授 齊藤誠 イノベーションとリスク・マネジメント 研究開発投資に起因するリスクの膨大さ リスク・マネジメント:企業レベルでリスクを管理 可能な状態にする手続き 保険市場:管理可能な状態にあるリスクを移転 する金融市場 – 企業レベルのリスク・マネジメントが当該リスクに対す る保険可能性の大前提となっている。 リスク・マネジメントに対する 2つのイメージ 金融リスクのマネジメント – 市場リスク – 信用リスク 事業リスクのマネジメント – 事業リスク – 環境リスク・自然災害リスク – リーガルリスク(コンプライアンス) 2つのリスクの異同 共通点 – 企業キャッシュフローを変動させる 異なる点 – 事業リスクの内生的側面 リスク・コントロールの裁量が大きい。 裁量部分がリスク・ファイナンスを妨げる。 法によって規定されるリスク 民間リスク・マネジメントを支える 公的枠組みとは? リスク・マネジメントの手続きの明確化 – 米国SOX法,金融商品取引法による内部統 制の義務付け 複雑な性格を有するリスクの定義 – 法によって規定されるリスク – 環境法制によるリスクの定義,リスク・マネジメ ント手続き,危機対応手順,損害賠償責任の 規定 内部統制とは? 事業リスクの洗い出し 対象リスクの管理手続きのルール化 リスク顕在化に対する危機管理手順のマニュア ル化 – 自然災害に対する事業継続マネジメント(BCM) リスクを管理可能な状態にする手続き より正確には,リスクが管理可能な状態になっているこ とについて説明責任が果たせる管理体制 内部統制のメリット リスクを適切な水準に制御できる。 保険可能性を満たすことができる。 情報非対称性の回避 モラル・ハザードの回避 – 損害保険会社は,「管理可能な状態にないリ スク」に付保しない。 – 保険市場や金融市場では, 「管理可能な状態 にないリスク」を移転できない。 法によって規定される環境リスク 企業の環境負荷行為(経済外部性)を企 業のキャッシュ・フローのコスト要因とする 法的プロセス 米国スーパーファンド法における アスベスト・リスク リスクの定義 – 大気中の含有量 リスク管理手順 – 浄化手続きの厳格化 損害賠償責任 – 過失責任 – 無過失責任 – 連帯責任(特に,銀行の責任) 保険可能性は? – 損害賠償責任の範囲が不安定で,その程度が過度であったこと から,アスベスト保険市場は事実上崩壊してしまった。 土壌汚染対策法における 土壌汚染リスク リスクの定義 – 限定的な有害物質リスト リスク管理の状態 – 事前土壌調査の契機が限られている。 損害賠償責任 – 除去費用について無過失責任 保険可能性と保険市場性は? – 広範な土壌について事前調査が義務付けられておらず,損害賠 償責任が限定的であることから,保険需要が弱かった。 誰が民間リスク・マネジメントの 便益を受けるのか? 従業員? 企業経営者? – 経営者にとってリスク・マネジメントはコスト要因として 認識 投資家,株主? – キャッシュ・フローや企業価値に影響を与える事業リ スク・マネジメントは,投資家,とりわけ株主の最大関 心事である! – その意味で金融リスク・マネジメントと変わることはな い。 民間リスクマネジメントと 公的枠組みの相互関係 リスクを管理可能な状態にする内部統制 の推進 – 適切なリスク・コントロール – 円滑なリスク・ファイナンス(リスク移転市場) 法による適切なリスクの規定 便益者としての投資家・株主 経済社会全体で企業セクターのリスクを シェアリングしていく仕組みとは? 企業内と企業外の緊張と調和 – 内部統制 企業内ステイクホルダーと外部投資家の間の緊張と調和 – 環境リスクの規制枠組み 企業内ステイクホルダー,外部投資家,周辺住民の間の緊 張と調和 既得権益の調整の必要性
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