「コンピューターシミュレーション」と「こだわり職人」 コンピューターシミュレーション 総合ビジネスリスクマネジメントの相対的な考察 マネージング・ダイレクター 商品開発 角谷 優 早稲田大学日本橋キャンパス 開校一周年記念シンポジウム メインテーマのまとめ ビジネスリスクを理論的に数値化し、経営に役立てる アプローチは、いろいろの要因が重なって、1960年代から 認知度が急速に高まった。しかし現在では情報過多により、 このアプローチの実効性があまり伸びなくなってきている。 「データ職人」は、このアプローチの閉塞感を打ち破る能力を そなえた重要な経営資源であり、戦略的な育成が望まれる。 2 169 メインテーマ ビジネスリスクの分析:戦略的トレンドのキーワード 1. バックグラウンド:ビジネススクール、通信、半導体技術の進展とビジ ネスリスクの数値化 2. 情報過多(インフォメーション・オーバーロード)の発生 3. アイスバーグ・リスクと短期ダイナミック・リスク 4. 戦略的マインドを持った「データ職人」 3 メインテーマ 1. バックグラウンド:ビジネススクール、通信、半導体技術の進展とビジ ネスリスクの数値化 2. 情報過多(インフォメーション・オーバーロード)の発生 3. アイスバーグ・リスクと短期ダイナミック・リスク 4. 戦略的マインドを持った「データ職人」 異なった要因が、一度に重なり、大きな 「形」 を作った 4 170 ところで…(1) どうしてリスク・マネジメントが必要なのか 企業価値の最大化、というけれど… 投資家と企業と市場リスク(システマチック・リスク) – Modigliani-Miller理論における、資本政策と加重平均資本コスト の関係は、リスク・マネージメント戦略にもあてはまる? – 負債コストと債権格付け:低い格付けは、「悪い格付け」とは違う? 情報の非対称性が、企業による(市場リスク)低減をより効率的にする – 「キャッシュフローの安定化は企業価値の最大化につながる」 – ポートフォリオ評価と企業評価の狭間 – 厳密なリスクマネージメントのコスト評価は微妙で困難 5 ビジネススクール、通信、半導体技術の進展とビジネスリスクの数値化 (1) 米国ビジネススクールにおける、社会学と経済学のミックスの変化 MBA定量分析とそれに基づく意思決定プロセスは、1960年代から顕著化 企業が「サイエンティフィック・マネージメント」を受け入れ – 1970年度からの市場リスクの台頭 – 収益性の管理、バランスシートの効率化と財務部門の強化、 – 機関投資家の拡大に対する投資家対策 大学/大学院ビジネススクールのビジネスモデルの変化 – 経営者候補ではなく、マネジメントトレイニー 6 171 ビジネススクール、通信、半導体技術の進展とビジネスリスクの数値化 (2) 米国ビジネススクールにおける、社会学と経済学のミックスの変化 MBA定量分析とそれに基づく意思決定プロセスは、1960年代から顕著化 企業が「サイエンティフィック・マネージメント」を受け入れ – 1970年度からの市場リスクの台頭 – 収益性の管理、バランスシートの効率化と財務部門の強化、 – 機関投資家の拡大に対する投資家対策 大学/大学院ビジネススクールのビジネスモデルの変化 – 経営者候補ではなく、マネジメントトレイニー ビジネススクールの経営理論の展開が「マズローの欲求段階」、「オフ ィスを緑色」 重視から 「正味現在価値」、「BASIC」等も強化 – マネジメント・トレイニーが使える実践的意思決定ツール – パンチカードからタイムシェア、VisiCalc とパソコン – What If シミュレーション 7 ビジネススクール、通信、半導体技術の進展とビジネスリスクの数値化 (3) 企業のデータ処理、分析能力と情報伝達スピードの対コスト性能が上昇 80年代中期からデータに基づいた分析手法が実践的になる 通信 – 「電話/テレックス/ファックスモデル」からの脱却 – 情報の電子化で分析のスピードアップ コンピューター – コンピューターのメモリー容量 – コンピューターのデータ・スループット(情報量処理能力) 70年代のSMI 172 8 メインテーマ 1. バックグラウンド:ビジネススクール、通信、半導体技術の進展とビジ ネスリスクの数値化 2. 情報過多(インフォメーション・オーバーロード)の発生 3. アイスバーグ・リスクと短期ダイナミック・リスク 4. 戦略的マインドを持った「データ職人」 膨大なデータでだれが(誰のために)何をしたいのか 9 情報過多(インフォメーション・オーバーロード)の発生 (1) 企業経営や戦略的リスクに関する各種情報量の肥大化 把握していないと不安、しかし本当に必要不可欠なのか? ムーディーズ社の例 Product Attributes” 1970: 1 1985: 3 1992: 18 1995: 36 1997: 65 2001: 84 2004: 113 173 10 情報過多(インフォメーション・オーバーロード)の発生 (2) リスクマネージメント・テクノロジーの「進歩」 高等数学やモデルを使ったアプローチと企業経営のはざま 進化のスピードは加速を続ける – 金融工学からの引用、転化 – RAROC、ポートフォリオ、コンセントレーション、ロス・ギブン・デフォル ト、最適収益性、社内分社化における、市場評価方法 でも企業は人 (投資家も人) – イノベーターのジレンマ – 総合リスクマネージメントと企業評価…EVA/バランスト・スコアカード – ベンチマーキングと社内査定 11 ところで…(2) どうしてリスク・マネジメントの定義が難しいのか 5W1H + 各種経営指標 + マーケットによる企業評価 = ギャラクシー・オブ・リスク 債権格付けのように単純化できない 投資家やアナリストの評価ポイントは定点ではない – リスク・リターンポイント、又は リスク・リターンレンジ? – 企業価値の最大化貢献度の高い精度での計測は不可能 12 174 メインテーマ 1. バックグラウンド:ビジネススクール、通信、半導体技術の進展とビジ ネスリスクの数値化 2. 情報過多(インフォメーション・オーバーロード)の発生 3. アイスバーグ・リスクと短期ダイナミック・リスク 4. 戦略的マインドを持った「データ職人」 「普遍的な信用リスクモデルアプローチ では、新バブルの発生を防ぎきれない?*」 *それでもモデル定量分析が必要 13 アイスバーグ(氷山)リスクと短期ダイナミックリスク (1) リスク定義 (上段が短期ダイナミックリスク、下段アイスバーグ・リスク) 過去の経験(データ)と現在事象との関連性 Probability Probability (-) 0 (+) (-) 0 「パラダイム・シフト」 (+) 短期的対長期的分散トレンド Probability (-) 175 0 (+) 14 アイスバーグ(氷山)リスクと短期ダイナミックリスク (2) アイスバーグやダイナミック・リスクへのタイムリーな認識、対処は理論的に可能… 問題は心理的な社内外の理解の壁をいかに乗り越えられるか 企業のアイスバーグリスクの認識、対応には強固なデータ分析力と、トッ プの判断が必要 – 行くも地獄、帰るも地獄 – 「孤高の人」に耐えられるか 短期ダイナミック・リスクは過去のトレンドが参考になる – エレガントなモデルは存在しにくい – 頻繁な軌道修正は社内外に受け入れられるか 15 それでもモデル定量分析が必要 ところで…(3−1) ムーディーズ社の例:短期ダイナミック・リスク(その1、格付けの安定性) Rating Level-Specific Trend Analysis Issuers in Different Rating Levels Face Different Rating Downgrade Patterns. During the Past Credit Cycle, “Single B Wave” Peaked a Year Before “Ba Wave” Example Downgrades as a % of the specific rating level During the 3 months before Jun of 2001, 20% of the issuers rated Single B as of March the same year had been downgraded 25% 20% 15% 10% 5% 0% Sep-03 Jun-03 B1-B3 The graph describes the percentage of future 3-month trailing downgrades within specific rating category (Aaa, Aa, A, Baa….) 176 Mar-03 Dec-02 Ba1-Ba3 Sep-02 Jun-02 Mar-02 Baa1-Baa3 Dec-01 Sep-01 Jun-01 A1-A3 Mar-01 Dec-00 Sep-00 Jun-00 Mar-00 Dec-99 Sep-99 Jun-99 Mar-99 Aa1-Aa3 16 ところで…(3−2) ムーディーズ社の例:短期ダイナミック・リスク(その2、市場の業界判断) BYI Gap HY 2 1 0 Jan-04 Jul-03 Jan-03 Jul-02 Jan-02 Jul-01 Jan-01 Jul-00 Jan-00 Jul-99 Jan-99 -1 -2 -3 -4 Cyclical Services Information Technology Resources Cyclical Consumer Goods General Industries Non-Cyclical Services Basic Industries Financials Non-Cyclical Consumer Goods Utilities 17 ところで…(4) ムーディーズ社の例:アイスバーグ・リスク (債権投資家とデリバティブ・トレーダーの信用リスク認識差) High Yield MIR Only BYI and CDS Overlap 0.40 0.30 0.20 0.10 11/22/2004 11/8/2004 10/25/2004 10/11/2004 9/27/2004 9/13/2004 8/30/2004 8/16/2004 8/2/2004 7/19/2004 7/5/2004 6/21/2004 6/7/2004 5/24/2004 5/10/2004 4/26/2004 4/12/2004 3/29/2004 3/15/2004 3/1/2004 2/16/2004 2/2/2004 1/19/2004 1/5/2004 12/22/2003 12/8/2003 11/24/2003 11/10/2003 10/27/2003 10/13/2003 9/29/2003 9/15/2003 9/1/2003 -0.10 8/18/2003 0.00 -0.20 -0.30 -0.40 -0.50 -0.60 BYI Gap 177 CDS Gap 18 メインテーマ 1. バックグラウンド:ビジネススクール、通信、半導体技術の進展とビジ ネスリスクの数値化 2. 情報過多(インフォメーション・オーバーロード)の発生 3. アイスバーグ・リスクと短期ダイナミック・リスク 4. 戦略的マインドを持った「データ職人」 データ職人がパラダイムの「揺らぎ」を認識し、企業を救う 19 データ職人 (1) 戦略的ビジネスリスク分析上のボトルネックを解消… 高い総合分析力が企業環境の微妙な揺らぎを誰よりも先にキャッチする 膨大なデータからトレンドを「自分で工夫」することで正しく読み取る – 情報過多からの脱却 将来の危機についていつも考慮し、現存の分析手法に現れる揺らぎを認識 – 現存のリスク分析モデル、プロセスを利用し、かつ新しい観点からリスク の可能性を追及 – アイスバーグ・リスク、短期ダイナミックス・リスクも認識できる 20 178 データ職人 (2) あなたの隣のデータ職人… データ職人は、必ずしも「クアント」ではない、データ職人の特徴 1. 過去のビジネストレンドに関する知識があるがトレンドそのものに対する執着 心は無い 2. 会社のダイナミックスに熟知している 自身の仕事、自社ファンダメンタル、業界トレンド、社内意思決定プロセス 3. 中級、またはそれ以上のデータ分析ソフトを使いこなせる。 ただし実際に自分で使うかは別 4. 何事にも戦略的な観点を持っている 5. 企業金融の基本を理解している 21 データ職人 (3) データ職人の襲来… 潜在的な「データ職人」ビジネスマン・ウーマンは日本でも 多数存在するが、既存の組織の仕組みやビジネスモデルの の中で彼ら、彼女らを発掘し、能力を開花させることは少し 困難かも知れない。 究極の戦略的ビジネスリスクマネージメントとは、 データ職人の育成、開発にあるのではないか。 22 179 データ職人 (4) データ職人の誕生… ¾ 自然発生 ¾ 独学 ¾ 学校 ¾ 選抜トレーニング ムーディーズ社の場合 (ローテーション、データ開示) 日本でも行われているファーストトラック・プロセスとデータ職人 正しい認識?(宣伝) 23 「コンピューターシミュレーション」と「こだわり職人」 コンピューターシミュレーション おことわり この報告書は、早稲田大学日本橋キャンパス開校一周年記念シンポジウムの基調講演として、現在ムーディ ーズ社、インベスターズ・サービス部門のマネージング・ダイレクターの角谷 優が、早稲田大学大学院ファイ ナンス研究所の教育、研究活動に賛同し、シンポジウムの為に独自に作成いたしました。 したがって、この報告書は角谷の全責任において作成され、ムーディーズ・インベスターズ・サービス格付け部 門からの本報告書作成に関しての意見、アドバイス、分析方法に関する情報、その他一切の情報供給を受け ておりません。また、報告書内のいかなるコメントも、格付けの動向やシンポジウム参加者の皆様の投資行動 にアドバイスを示唆するものではありません。 早稲田大学日本橋キャンパス 開校一周年記念シンポジウム 180
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