第3章.リスクの配分・管理 (2)資産運用・投資におけるリスク分散

第3章.リスクの配分・管理
(2)資産運用・投資におけるリスク分散
• リスク分散
– 投資先を分散することによってリスクを削減する
こと
• 投資のリスク
– 投資の収益率のブレの大きさ(標準偏差)
• 投資のリターン
– 投資の収益率の期待値(予想平均収益率)
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分散投資のリスク削減効果:投資対象間の相関係数ρ(-1≦ρ ≦1)に依存
相関係数:2つの株式の収益率がどの程度同じような動きをするかを示す係数
野村證券投資情報部編『証券投資の基礎』丸善 p.137
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○投資のリスクとリターン
・これから株式投資を行うという立場から考える。
投資のリスク:投資収益率のブレ(標準偏差)
投資のリターン:投資収益率の期待値(予想平均収益率)
①1つの銘柄(A社株)のみに投資した場合の
株式投資収益率の確率分布
ケース
A社業績良好
A社業績不調
確率p
0.5
0.5
株式投資収益率r
15%
-5%
A社株への投資のリターン=収益率の期待値E(r)
=(ある収益率が生じる確率p×収益率r)の合計
=Σpiri=0.5×15%+ 0.5×(-5%)=5%
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・B社株への株式投資の収益率も同じ確率分布とする
(従ってリターンも同じ5%)。
・両者の収益率分布は相関がゼロ(i.e.独立)であると仮定
②A、B 2社に投資資金を1/2ずつ分散投資する場合
ケース
2社とも業績良好
確率p
0.25
(=0.5×0.5)
1社だけ業績良好 0.5
(=0.5×0.5×2)
2社とも業績不調 0.25
(=0.5×0.5)
株式投資収益率r
15%
(=1/2×15%+1/2×15%)
5%
(=1/2×15%+1/2×(-5%))
-5%
(=1/2×(-5%)+1/2×(-5%))
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○投資②のリターン(収益率の期待値)E(R)
=0.25×15%+ 0.5× 5%+ 0.25×(-5%)
= 3.75% + 2.5%-1.25%
= 5%(投資①のリターンと同じ)
5
・投資のリスク:収益率のブレ・変動
投資を分散することにより、投資収益率の
ブレ・変動が小さくなっている。
確率
株式投資収益率の
確率分布:②
株式投資収益率の
確率分布:①
60%
確率
60%
40%
40%
20%
20%
0%
-5%
15%
収益率
0%
-5%
5%
15%
収益率
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リスクの尺度=収益率の標準偏差σ
=あるケースの起きる確率p×(そのケースでの収益率r-期待収益率E(r))2
のすべてのケースについての合計の平方根
 r  
n
2
p
(
r

E
(
r
))
 i i
i 1
・投資①のリスク(標準偏差)
=
0.5  (15%  5%) 2  0.5  (5%  5%) 2  10%
・投資②のリスク(標準偏差)
 0.25  (15%  5%) 2  0.5  (5%  5%) 2  0.25  (5%  5%) 2
10%

 7.1%
2
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○投資対象がn個の場合のリスクとリターン:
同じ収益率分布、互いに相関がない(独立)、
すべての投資対象の収益率の分布が、A社、B社と同じ場合
(収益率の期待値=5% 、収益率の標準偏差=10% )
n個の投資対象に分散して、同じ金額だけ投資するケース
・リターン(収益率の期待値)=5%
・リスク(標準偏差)=10%/√n
そこで、n→∞の時、リスク→0
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この例(米国)ではなぜ、20%程度以下に下がらないのか?
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どの株式の投資収益率も、経済全体の動きに
左右されるという共通のファクターが作用して
いる(正の相関)。
・
(分散不能リスク、システマテック・リスク)
経済全体の景気の循環、金利の動き
・
(分散可能リスク、非システマテック・リスク)
・
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○投資信託とリスク分散
・投資信託委託会社による投資対象についての情報
収集・分析・選定:情報生産
• 分散投資によるリスク削減
• 第3章2節の参考文献
– 野村證券投資情報部編『証券投資の基礎』丸善.第3、7章
– 井出正介・高橋文郎『ビジネス・ゼミナール:証券投資入
門』日経新聞社.第4、6章
– ボディ、マートン『現代ファイナンス論』ピアソン.第10、12章
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(3)市場価格変動リスクとデリバティブ
• 市場価格変動リスク(マーケットリスク):
– 市場価格(金利、為替、株価)の変動により手持ちの
資産や負債の価値が変化するリスク
• デリバティブ:先物、スワップ、オプション
– 通常の金融取引:
– デリバティブ:リスクを専門的に扱う金融商品、
• ○先物取引:
– 現物(直物)取引:売買契約の成立後直ちに商品
の受け渡しが行なわれる取引
– 先物取引:
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– 先物取引の例:3ヶ月後に1ドル=110円で、1
億ドル受渡しする契約
• 3ヶ月後の直物ドル相場がいくらであれ、それとは
無関係に1ドル=110円で受渡しを行う
• ⇒
• e.g.3ヶ月後に原油輸入代金1億ドルを支
払う必要のある日本の石油会社:選択肢
A) 3ヶ月後に直物で購入 or B)現時点で先物で購入
1ドルが何円になるか
不確実で、リスクがある
1ドル=110円で確定
しており、リスクがない
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○ドルの買コスト
(支払うべき円代金)
ケースA
ケースB
買コスト
110円
3ヶ月後の
直物ドルレート
1ドル=○○円
3ヶ月後の
直物ドルレート
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・3ヶ月後の直物ドルレートの
予想分布と為替変動リスク
確率
分布の広がりが大きい
ほど、リスクは大きい
通常は、確率分布の
標準偏差で測る
90 110円 130
3ヶ月先の
直物ドルレート
石油会社はこうした為替変動リスクに直面している
( 3ヶ月後の時点でドルを調達するケース)
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・先物ドル購入によるリスク・ヘッジ
確率
確実に(確率100%で)、
110円でドルを調達
可能。
不確実性・リスクは
存在しない。
110円
石油会社は、現在の時点で為替変動リスクに
直面していない。
3ヶ月後の
ドル調達レート
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○リスクヘッジと投機
e.g. 日本の石油会社
円の受取り
ガソリン・灯油等の
製品販売代金受取り
石
油
会
社
ドル支払い
原油輸入代金の支払い
・製品販売代金の受取りと原料購入代金の支払いの
通貨が異なるので、為替変動リスクに晒されている。
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• ⇒直面している為替変動リスクを避ける
(リスク・ヘッジ)ために、先物為替(先物ド
ル購入)を利用する。
– 石油会社の例:
3ヶ月後の1億ドルの
支払い義務
+
先物ドル購入( 3ヶ月後に
1億ドルを受け取る権利)
=為替変動リスク・ゼロ
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• 注意:
• cf. 為替リスクに直面していない企業A社による
先物ドル購入:それはリスク・ヘッジではなく、逆
にリスクを付け加えているだけ
(
)。
・投機:現物投機と先物投機
少ない元手で大きな投機ができる
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