平均-分散アプローチ

資本市場論
平均-分散アプローチ
(1) 最適ポートフォリオの決定
三隅隆司
1
はじめに
ポートフォリオ選択理論の平均 – 分散アプローチ
すべての金融資産は,期待収益率(リターン)と収益率の標準偏差(あるい
は分散;リスクをあらわす)によって,その特徴が表現される.
- 金融資産の収益率の分布は,正規分布にしたがっていると想定.
資産をさまざまに組み合わせる(ポートフォリオを組成する)ことによって,さまざ
まなリターンとリスクの組み合わせを実現することができる.(投資機会集合)
投資家は,保有ポートフォリオの期末収益の期待効用を最大にするべく.資
産選択の方法を決定する.
ポートフォリオ選択理論は,投資機会集合(資産の組み合わせ)の中から,投
資家にとって最も期待効用の高いものを選択するという問題の解を与える理
論である.
(注 意)
平均 と分散のみによって分析が行われうるための(十分)条件は,以下の通り.
(i) 投資収益率は,正規分布(より正確には楕円分布族)にしたがう確率変数
である.
(ii) 投資家の効用関数は,期末冨の2次関数として表される.
2
投資収益率
投資収益率:
価格P0 で購入した金融資産を1年間保有.
保有している間に,D だけ配当として受け取る.
1年後の売却価格はP1 である.
このとき,その資産保有から得られる収益率は?
D  ( P1  P0 )
r
P0
- 株価については,権利落ち修正済みのものを利用すること.
- P1 は,配当落ち株価 と呼ばれる.
- P1 +D を配当落ち修正株価という.データベースによって
は,配当落ち修正株価を利用可能なものもある.
3
資産の保有比率 (1)
あるポートフォリオに含まれる資産 i の比率(保有比率)x i
資産 i の市場価値
xi 
ポートフォリオの市場 価値
n 資産からなるポートフォリオ.
第 i 資産の価格を pi ,保有量を qi 単位とするときの資産 i の保有比率
xi 

pi qi
n
k 1
p qk
k
資産の保有比率をすべての資産について足しあわせたものは1.

n
k 1
xk  1
4
資産の保有比率 (2)
(例) あなたのポートフォリオ(株式):
トヨタ(東証1部,4/16終値 3,695円) 500株
任天堂(大証1部,4/16終値 31,050円) 1,000株
楽天(ジャスダック,4/21終値 67,700円) 50株
日本銀行(ジャスダック,4/16 終値 65,200円) 100株
第一生命保険 (東証1部,4/16 終値 156,000円) 10株
各々の株式の保有比率は?
銘柄
証券コード
市場
トヨタ
7203
東証1部
100
3,695
500
1,847,500
3.63%
任天堂
7974
大証1部
100
31,050
1,000
31,050,000
61.03%
楽天
4755
JASDAQ
1
67,700
100
6,770,000
13.31%
日本銀行
8301
JASDAQ
100
65,200
100
6,520,000
12.82%
第一生命保険
8750
東証1部
1
469,000
10
4,690,000
9.22%
50,877,500
100.00%
合計
単元株数
価格(円)
保有株数(株) 市場価値(円)
保有比率
5
資産の保有比率 (3)
資産の保有比率に対して要求される条件は,全資産にわたる和
が1となるということだけ.
- 各々の資産の保有比率は,1を超えることも負となることも可能.
- 保有比率が負である場合,その資産を「空売りしている(sell short)」とい
われる.
- 株式や債券などの資産を他人から借り入れて市場で売却することを空売
りという.
- ある資産を空売りしている場合,その資産のポジション(持ち高)は「売り
持ち(short position)」であるという.
- 保有比率が正であるような資産のポジションは,「買い持ち(long
position)」であるという.
6
ポートフォリオの収益率
ポートフォリオの収益率は,以下の2とおりの方法によって求められる.
(1)ポートフォリオの期末の価額を期首の価額で割ったものから1をひく.
(2) 個々の資産の収益率にたいして,その資産の保有比率をウェイトとし
た加重平均として求める.
- この両者は,同じ結果をもたらす.
~
rp 


~
pi1vi
n
i 1
n

p10vi
n
i 1
i 1
~
n
pi1
pi 0 vi
 i 1 pi 0 vi
pi 0
pi 0 vi
i 1

1 

n
pi 0 vi
pi 0 vi
i 1
~
p11  p10

p10
 x1~
r1  x2 ~
r2      xn ~
rn 
xi : 第i 資産の 保有比率
~
pi1 : 第i 資産の期末価格
~
r : 第 i 資産の収益率
i

n
pn 0 vi

n
i 1
pi 0 vi
~
pn1  pn 0
pn 0
n
r
x~
i 1
i i
pi 0 : 第i 資産の期首価格
vi
: 第i 資産の保有単位数
7
ポートフォリオの期待値と分散 (1)
ri ~ N ( i , i2 )
第 i 資産の収益率の分布: ~
- 期待値μi,分散σi2 の正規分布にしたがっているとする.
第 i 資産の保有比率が xi ( i =1,…, n) であるようなn種類の資
産からなるポートフォリオ p を考える.
ポートフォリオ p の収益率 (rp )は,次式で与えられる.
~
rp  x1~
r1  x2 ~
r2    xn ~
r2 

n
~
x
r
i 1 i i
ポートフォリオ p の収益率も正規分布にしたがい,その期待値と分散は以下の
とおり.

E (~
rp )  E (
n
~
x
r)
i 1 i i

~

x
E
ri   xi i
i 1 i
n
8
ポートフォリオの期待値と分散 (2)
第 i 資産の収益率と第 i 資産の収益率との共分散をσij,相関係数をρij とする.
Var(~
rp ) 
 
n
n
i 1
x
x


i
j
ij
j 1
 
n
n
i 1
x
x



i
j
ij
i
j
j 1

   E 

 E  
x x ~
r  E (~
r ) ~
r  E (~
r ) 
 
x x E ~
r  E (~
r ) ~
r  E (~
r )
 
x x Cov( ~
r ,~
r )
 
x x 
Var( ~
rp )  E ~
rp  E ~
rp
n
n
i 1
j 1
n
n
i 1
j 1
n
n
i 1
j 1
n
n
i 1
j 1
2
~
~
x ri  E ( ri ) 
i 1 i
n
2
i
i
j
i
j
i
j
j
i
i
i
i
i
j
j
j
j
j
ij
9
投資機会曲線 (1)
ポートフォリオの期待収益率と標準偏差の関係:
以下では,簡単のため,2資産(A, B)からなるポートフォリオを考える.


~
E R p   p  x A  A  xB  B
(1)
~
2
2
Var( R p )   p  x A
 A2  x B2  B2
 2 x A x B  AB A B
x A  xB  1
(2)
(3)
10
投資機会曲線 (2)
資産Aと資産Bの収益率が完全に正の相関(ρAB= +1)の関係にある場合:
(2)より
 p  x A A  xB B 
(1), (3) より
 p  B
xA 
,
 A  B
A   p
xB 
 A  B
以上より
 B A   A B
 A  B
p 

p
 A  B
 A  B
11
投資機会曲線 (3)
p
A
A
B
B
 B A   A B
 A  B
0
x A  1, x B  0
0  x A , xB  1
B
A
σp
x A  0, xB  1
12
投資機会曲線 (1)
ポートフォリオの期待収益率と標準偏差の関係:
以下では,簡単のため,2資産(A, B)からなるポートフォリオを考える.


~
E R p   p  x A  A  xB  B
(1)
~
2
2
Var( R p )   p  x A
 A2  x B2  B2
 2 x A x B  AB A B
x A  xB  1
(2)
(3)
13
投資機会曲線 (4)
資産Aと資産Bの収益率が完全に負の相関(ρAB = -1) の関係にある場合:
μp
A
A
 B A   A B
 A B
x A  1, xB  0
0  x A , xB  1
B
0
B
B
x A  0, x B  1
A
σp
14
投資機会曲線 (5)
μp
 AB  1
0   AB  1
 AB  0
 1   AB  0
0
 AB  1
σp
15
投資機会曲線 (6)
保有証券の数が,n(≧3)の場合の投資機会集合:
期待収益率
0
収益率の標準偏差
16
効率的フロンティア
4資産(A, B, C および D)への投資を考える.
期待収益率
効率的フロンティア
左図の色を塗られた部分(境界を含む)
が,この4資産を組み合わせることによっ
て実現可能な(期待収益率)と(収益率の
標準偏差)の組み合わせであるとする.
●
資産 A
● 資産
B
実現可能な期待収益率と収益率の
標準偏差の組み合わせの集合を投
資機会集合という.
●
● 資産
最小分散ポー
トフォリオ
C
● 資産
- 境界 : 最小分散フロンティア
D
投資機会集合
0
収益率の
標準偏差
危険回避的な投資家が,それより選好す
るポートフォリオが投資機会集合の中に
存在しないポートフォリオの集合を
効率的フロンティア(有効フロンティ
ア; efficient frontier) という.
4資産(A, B, CおよびD)について:
- 危険回避的な投資家の選好
順序は?
- 危険回避投資家が選択しない
資産は?
17
2基金分離 (Two-Fund Separation) (1)
2基金分離(Two-Fund Separation)
期待収益率
最小分散フロンティア上のすべての
ポートフォリオは,同フロンティア上の
任意の2つのポートフォリオの一次結
合としてあらわすことができる.
A
B
●
●
左図において,A, B, C, D および V の5つのポー
トフォリオは最小分散ポートフォリオ上にある.
V●
2基金分離は,AおよびBの2つのポート
フォリオが与えられると,その一次結合と
して,C, D, Vを含む最小分散ポートフォ
リオ上のすべてのポートフォリオを作成
することができる,ということを示している.
C
●
0
D
●
収益率の
標準偏差
さらに,基礎となる2つのポートフォリオ
は,AとBに限られることはなく,AとC, C
とD,BとV など,最小分散ポートフォリ
オ上のどの2つでもよい.
任意の最小分散ポートフォリオは,
2つの投資信託基金のみで複製す
ることができる.
18
2基金分離 (Two-Fund Separation) (2)
(例
題)
5つの資産から構成されるポートフォリオを考える.この5資産を組み合わせることによっ
て得られる最小分散フロンティア上の2資産は,
x1 = 0.2, x2 = 0.3, x3 = 0.1, x4 = 0.1, x5 = 0.3
x1 = 0.2, x2 = 0.2, x3 = 0.2, x4 = 0.2, x5 = 0.2
によって与えられるとする.
このとき,最小分散フロンティア上にあるポートフォリオにおける各資産の保有比率を
求めよ.
2基金分離によって,最小分散フロンティア上の任意の資産は,同フロンティア上の任意
の2資産の一次結合によって与えられる.
問題において与えられた2つの資産は,いずれも最小分散フロンティア上にあるから,
ポートフォリオ(0.2, 0.3, 0.1, 0.1, 0.3)の比率を w とするとき,次式が成立する.
x1 = 0.2w + 0.2 (1 - w)
x2 = 0.3w + 0.2 (1 - w)
x3 = 0.1w + 0.2 (1 - w)
x4 = 0.1w + 0.2 (1 - w)
x5 = 0.3w + 0.2 (1 - w)
たとえば,w=0.5 によって与えられるポートフォリオ(0.2, 0.25, 0.15, 0.15, 0.35)は最小
分散フロンティア上にある.
例) 上記の例題において,資産3の保有比率が -0.1 であるような最小分散フロンティア上
のポートフォリオにおける各資産の保有比率を求めよ.
19
最適危険資産ポートフォリオの決定
効率的フロンティア (有効フロンティア)
Efficient Frontier
無差別曲線
期待収益率
投資機会軌跡
●
最適危険資産ポートフォリオ
0
標準偏差
20
安全資産の導入と分離定理 (1)
安全資産 :
収益率が一定(確実に予測可能)という意味で危険が全くない資産.
- 安全資産の収益率の分散はゼロ.
→ 安全資産は,平均 – 標準偏差平面においては,縦軸上に位置する.
- 安全資産の収益率と危険資産の収益率との共分散(相関関係)はゼロ.
→ 安全資産の収益率の分散がゼロであることを考えあわせると,安全
資産と危険資産とのポートフォリオのリスクは,危険資産の保有比
率のみによって,それと正比例の関係を有するものとして与えられる.
21
安全資産の導入と分離定理 (2)
無危険資産と 1 危険資産からなるポートフォリオの投資機会曲線
安 全 資 産の収益率: r f (一定)
rA ~ N (  A , A2 )
危険資産Aの収益率: ~
安全資産をx1,危険資産をx2 ( = 1 – x1) 保有するポートフォリオ p を考える.
~
rp  x1r f  x2 ~
rA
ポートフォリオ p の収益率の期待値および標準偏差:
 p  x1r f  x2  A
 p   x2 A
22
安全資産の導入と分離定理 (3)
ポートフォリオ p の収益率の期待値および標準偏差の式より,x1,x2 を消去する
ことにより,投資機会曲線が求められる.
危険資産のポジションが買い
持ち(x2 > 0)である場合:
 A  rf
 p  rf 
p
A
危険資産のポジションが売り
持ち(x2 < 0)である場合:
 A  rf
 p  rf 
p
A
x1  0, x2  1
期待収益 μ
μA
A●
0  x1 , x2  1
rf
0
σA
標準偏差σ
x1  1, x2  0
23
安全資産の導入と分離定理 (4)
効率的フロンティア (有効フロンティア)
Efficient Frontier
接点ポートフォリオ
期待収益率
●
●
A2
●
rf
A1
●
●
A0
0
標準偏差
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安全資産の導入と分離定理 (5)
期待収益率
資本市場線
~
E( R p )  rf 
最適ポートフォリオ
T
x
~
E ( RT )  rf
T
p
E
●
接点ポートフォリオ
0
標準偏差
25
安全資産の導入と分離定理 (6)
接点ポートフォリオ:
安全資産を導入した場合の効率的フロンティアと,危険資産のみ
からなる効率的フロンティアの接点.
- 危険資産の最適な組み合わせ(ポートフォリオ)を表す.
安全資産と(複数の)危険資産が存在する経済における最適資産選択:
- 効率的フロンティア(資本資本線)と無差別曲線とが接するところで,安全
資産と接点ポートフォリオの保有比率が決まる.
- 個々の危険資産の保有比率は,資本市場線と危険資産のみからなる効
率的フロンティアとの接点(接点ポートフォリオ)によって決定される.
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安全資産の導入と分離定理 (7)
最適な資産選択決定において:
- 個々の危険資産の構成がどのようになるのかは,投資家の
選好(無差別曲線の形状)とは無関係.
- 投資家の選好は,安全資産と接点ポートフォリオ の保有比
率を決定することにのみ関連.
「安全資産の保有比率の決定と,個々の危険資産の保有比率
の決定とが分離されて行われる」ことを「分離定理(separation
theorem)」と呼ぶ.
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