安全在庫に関する補足 まず,正規分布の性質に関して説明する.これらの性質がなぜ成り立つかについては統計学の教 科書を参照のこと. 確率変数 Y が平均 µ, 分散 σ 2 の正規分布に従うことを,Y ∼ N (µ, σ 2 ) と書く.分散は (Y − µ)2 √ の期待値である.標準偏差 σ は σ 2 である.分散と標準偏差は記号を見ると,標準偏差がより基 礎的な概念に思えるかもしれないが,先の定義の通り分散が先にあり,標準偏差はその平方根で ある. 確率変数 Yi (i = 1, 2, · · · , n) が各々平均 µi , 分散 σi2 の正規分布に従い,各 Yi が独立であると き1 , n ∑ Yi ∼ N i=1 ( n ∑ n ∑ µi , i=1 ) σi2 i=1 が成り立つ. 第 t 日 (t = 1, 2, · · · , L) の需要 Yt (トン/日) は平均 µt (トン/日),分散 σt2 (トン 2 /日 2 ) に従う とすると,第 t 日の一日分の需要 Yt (トン) は平均 µt (トン),分散 (トン 2 ) に従う.Yt が独立であ るとき, L ∑ Yt ∼ N t=1 ( L ∑ µt , L ∑ t=1 ) σt2 t=1 ∑L = ··· = = σ 2 とすると, t=1 µt = µL (トン), = µ1 = µ2 = · · · = µL = µ, √ √ ∑L ∑L 2 2 2 2 t=1 σt = σ L (トン ) である.したがって, t=1 Yt の標準偏差は σ L = σ L (トン) となる. 印刷教材の P.82 にあるように平均,分散(標準偏差)の値に関わらず,需要は約 0.68 の確率で σ12 2 σL σ22 平均±標準偏差の間の値をとり,約 0.95 の確率で平均± 2 ×標準偏差の間の値をとります.また, 平均,分散(標準偏差)の値に関わらず,需要が平均+ 1.65 ×標準偏差より大きい値をとる確率 は 0.05 となる. したがって,一日の平均需要が µ,標準偏差が σ の正規分布に従うとき,L 日分の需要は,約 0.68 √ √ の確率で µL ± σ L の間の値をとり,約 0.95 の確率で µL + ±2σ L の間の値をとる.また,需要 √ √ が µL + 1.65σ L より大きい値をとる確率は 0.05 となる.言い換えると,在庫が µL + 1.65σ L に達した時点で,発注すれば,L 日後に納品されるまでに在庫が切れる,すなわち欠品する確率は 0.05 になる. 正規分布の性質から,安全在庫はリードタイム L の平方根に比例する.統計学を未履修で,以 上の議論が難しいようであれば,とりあえず公式の意味と適用法だけ覚えておけばよい. 1Y i の値が Yj (i ̸= j) に影響を与えない. 1
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