第8章 マクロ経済学 8.1.6から 8.1.6 マクロ経済学における長期と短期 • マクロ経済学における 長期: 価格体系(物価水準・賃金)が 伸縮的であるような期間 短期: 価格体系(物価水準・賃金)が 硬直的であるような期間 8.1.7 マクロ経済学における長期 • 労働市場(と資本市場)において 完全雇用が実現 →その結果,生産関数Y=F(K,N)は以下のようになる。 Y F (K , N ) F (K , N ) Y where K 総資本ストック , N=総労働供給, Y=完全雇用水準所得 以上の話は,長期における財市場の話。 続いて,長期における貨幣市場の話をしよう。 貨幣市場の話は, 金融市場の話と言いかえてもよい。 正確には,金融市場は, 貨幣市場(現金の市場)と債券市場から成る。 ただし,貨幣市場と債券市場は裏表の関係にあるので, 貨幣市場の話をすれば十分。 • 長期における貨幣市場 長期における貨幣市場の均衡式 PY MV where P : 物価水準, M : 名目マネーサプライ, V : 貨幣の流通速度 マネーサプライ(貨幣供給量)とは・・・ 市中に出回っているお金(貨幣=現金)の量 と考えておけばよい。 上の式を「貨幣数量式」と呼び, 長期の貨幣市場の理論を「貨幣数量説」という。 ※ちなみに,形は似ているが,「気体の状態方程式」とは何の関係もないぞよ。 • 貨幣の流通速度Vとは, 貨幣1単位が一定期間に何回交換されたかを表した値 (例)P=100円,Y=3万,M=5万円のケース このケースでは,経済で取引された金額は, PY=300万円 しかし,経済に存在するお金の量(=マネーサプライ)は, M=5万円 このとき,経済では,この5万円が, 60回交換されたことになる。 すなわち,このとき, V=60 ここで,貨幣の流通速度Vを一定とすると,上述の貨幣数量 式は以下のように変形できる。 M kY P where M 1 : 実質マネーサプライ, k : マーシャルの k k P V ここで,名目マネーサプライMを変化したとき,所得Yにはど のような影響を与えるだろうか? 長期において, 所得Yは,完全雇用水準Y に決まっているから, 名目マネーサプライMの変化は,(実質)所得Yには 影響を与えない。 このことを, 古典派の二分法という。 (※名目所得はPY) 名目マネーサプライMの変化が財市場に与える影響は, 物価水準Pを変化させるのみ。 (結果として,名目所得は変化するが,実質所得Yに相当す る総生産量は変化しない。) 8.1.8 マクロ経済学における短期 NS w w* ND O N N まず,労働市場のグラフを見て みよう。 横軸に労働量N, 縦軸に賃金w をとる。 次に,労働供給曲線NSをとる。 続いて,労働需要曲線NDをとる。 長期では, 賃金が均衡水準w*まで変化して 完全雇用が実現。 NS w しかし,短期では, 賃金は高止まりする。 (賃金の下方硬直性) その結果,労働市場で,労働の 需給ギャップが発生する。 このギャップが, 非自発的失業 w 非自発的失業 w* ND O N N 非自発的失業とは,「どんな安い 賃金でも働きたいのに,働けない でいる労働者が存在している状 態」のこと。 このとき,非自発的失業の発生 のために, 雇用される,すなわち,生産に投 入される労働量は,総労働供給 よりも少なくなる。 (ND< N ) その結果, (実質)所得,すなわち,総生産 量Yは,完全雇用水準所得よりも 少なくなる。 NS w 非自発的失業 w w* ND O ND N N Y F ( K , N ) Y ( F ( K , N )) • 短期における貨幣市場 短期における貨幣市場の均衡式 M L Y , r P where L : 実質貨幣需要 (実質)貨幣需要は, – (実質)所得Yの増加関数: L 0 Y 所得Yが増加すると,「取引」が増える。 →「取引」に使う上で,便利なのは,債券より貨幣 →その結果,貨幣に対する需要が増える。 ⇒「取引的動機」にもとづく貨幣需要の変化 – 利子率rの減少関数: L 0 r 利子率rが上昇すると,「利息」が増える。 →債券に対する需要が増える。 →その結果,貨幣に対する需要は減少する。 ⇒「投機的動機」にもとづく貨幣需要の変化 金融資産(貨幣含む)の実物(モノ・サービス)との交換のしやすさを「流 動性」といいます。所得が増えると取引に使いやすい,すなわち,流動性 が高い「貨幣」を選び,利子率が高くなると,流動性よりも,利息を求め, 「貨幣」に比べて流動性の低い「債券」を選びます。 このように,短期の金融理論では,「流動性」を軸にして金融市場を見ま すので,短期の金融理論は,長期の「貨幣数量説」に対して,「流動性 選好説」と呼ばれます。 しばし,休憩・・・ さあ,残りしっかりやろう! 8.1.9 IS-LM分析 • 短期においては,財市場と貨幣市場が密接にかかわりあう。 →均衡所得と均衡利子率は,財市場と貨幣市場を同時均衡させるところ で決まる。 →均衡所得と均衡利子率は, IS曲線とLM曲線の交点で決まる。 • r IS曲線: 財市場を均衡させる所得Yと利子率rの 組合せの軌跡 Y C (Y T ) I (r ) G LM →右下がりの曲線として表される。 • LM曲線: 貨幣市場を均衡させる所得Yと利子率r の組合せの軌跡 M L Y , r P IS O →右上がりの曲線として表される。 Y • • • r LM 均衡所得Y*はIS曲線とLM曲線の交 点で決まる。 均衡利子率r*も同様 ただし,均衡所得Y*は,非自発的失 業が存在しているもとでの均衡所得 →完全雇用水準所得よりも低い。 市場に任せておくと,均衡所得は不 変 →非自発的失業もそのまま →政府が市場に介入する必要があ る。 →マクロ経済政策発動 r* →金融政策と財政政策 IS O Y* Y Y 金融緩和政策の効果 r LM0 • 金融緩和政策 名目マネーサプライMを増加 • このとき, LM曲線が 下方にシフト • その結果, 均衡所得は増加 均衡利子率は下落 ⇒均衡所得が増加したので, 金融政策は有効 LM1 r0* r1 * IS O Y0* Y1* Y 拡張的財政政策の効果 • 拡張的財政政策 政府支出Gを増加 あるいは 租税Tを減少(減税) • このとき, LM r r1 * r0 IS曲線が 右方にシフト * IS1 IS0 O Y0* Y1* Y • その結果, 均衡所得は増加 均衡利子率は上昇 ⇒均衡所得が増加したので, 財政政策は有効 乗数効果 • 前ページで,拡張財政政策には, 政府支出G増加と,減税(Tの減少)があることを述べた。 – 政府支出Gの増加:直接,総需要Yd=C+I+Gを増加させる。 →均衡所得(=総供給)Y*を増加させる。 – 租税Tの減少:可処分所得Y-Tの増加 →消費C(Y-T)の増加 →総需要Yd=C+I+Gを増加させる。 →均衡所得(=総供給)Y*を増加させる。 ここで,3つの問題について考えてみよう。 ①政府支出Gを1億円増やしたとき,所得はどれくらい増えるか? ②減税を1億円行ったとき,所得はどれくらい増えるか? ③①と②では,どちらの方が所得に与える影響が大きいか? • 拡張的財政政策を行ったとき, 同じ利子率のもとでどれくらい所 得が増えるか? →この大きさが, 「乗数効果」 LM r 乗数効果 r* 0 IS0 O Y*0 IS1 Y • 乗数効果の大きさの導出 ここで,消費関数Cを以下のように設定する。 C C(Y T ) c0 c (Y T ) where c0 : 独立消費, c : 限界消費性向 (0 c 1) このとき,国民所得均衡式は次のようになる。 Y C (Y T ) I (r ) G c0 c (Y T ) I (r ) G これを,変形すると,以下のようにまとめられる。 1 1 c 1 Y I (r ) G T c0 1 c 1 c 1 c 1 c • ここで,他の条件を一定として, – 政府支出Gを増加した(⊿G>0)ときの,乗数効果を⊿Yとすると, 1 Y G 1 c – 減税を行った( ⊿T<0)ときの,乗数効果を⊿Yとすると, Y c T 1 c ここで, 1 を「政府支出乗数」, 1 c c を「租税乗数」(←”-”(マイナス記号)がつかないことに注意) 1 c という。 • c=0.8とする。この条件の下で, ①の問いに答えてみよう。 1 1 Y G 1億円 5億円 1 c 1 0.8 続いて,②の問いに答えてみよう。 c 0.8 Y T (1億円) 4億円 1 c 1 0.8 上の結果より,政府支出Gの増加額と,減税額が等しいとき, 政府支出増加のほうが減税よりも 乗数効果が大きい ことがわかる。 これは,一般的にも,政府支出乗数と租税乗数を比較することで証明で きる。 1 c 証明: 1 c 1 c (証明終) 以上です。 おつかれさまでした。 試験でのご健闘を祈ります。 なお,このパワーポイント資料は, 持込不可 です。 (ただし,ノートに手書きで写したものは持込可です。)
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